この記事では、東京都葛飾区が1982(昭和57)年に開設した社会教育施設「ポニースクールかつしか」を紹介します。
同施設は子どもたちのための教育を目的として乗馬レッスンを受けられることが特徴のひとつです。葛飾区内在住もしくは在学の小・中学生であれば、基本的に誰でも入会できます。(入会金・会費はなし)障害児も対象にした乗馬教室は全国的にも珍しい存在で、健常児・障害児を合わせておよそ300名ほどが通っているそうです。
今回は、そんな「ポニースクールかつしか」の魅力や特徴について、運営を担う公益財団法人ハーモニィセンターから施設長の中島さん、軽乗(けいじょう)担当の風岡さん、そしてPA(パートナーアニマル)担当の細野さんにインタビューをさせていただきました。
この記事の目次
40年超の実績!公営の施設「ポニースクールかつしか」の特徴
「ポニースクールかつしか」では、40年以上にわたって、葛飾区内在住・在学の幼児~中学生までを対象に、ポニー(小型種の馬)の世話や乗馬、各種体操ほかのスポーツを通じて、幅広い人格形成を図ってきました。
家庭・学校以外で豊かな人間性を養える貴重な場を子どもたちに無償提供しており、親子二代で利用されているケースも見られるとのことです。まず、そんな施設の概要について伺いました。
馬や仲間との交流を通じて人間性や基礎体力を養う社会教育施設
最初に、スクールのコンセプト・運営理念などについて、ご紹介いただけるでしょうか。
はい、「ポニースクールかつしか」は、葛飾区制施行50周年の記念事業の一環として、1982(昭和57)年に開園した公営の社会教育施設です。
施設名から、ポニーの乗馬スクールと思われがちですが、実際には乗馬だけでなく、各種の体操や馬について学ぶ座学なども体験できる、地域の子どもたち向けの総合教育施設となっています。
ポニーの世話や乗馬、学校では出会えない幅広い年齢層の子たち、そして我々職員との交流を通して、他者を思いやれる優しい心や自身を律する強い心、基礎体力などを育んでもらいたいと考えて運営してきました。
現在、引馬教室・個人教室・団体教室(学校単位)の3本柱となるプログラムがあり、個人教室には、約300名の子どもたちが登録しています。中心となる個人教室は、軽乗チーム・部班(ぶはん)チーム、そしてPA(パートナーアニマル=障害児乗馬教室)チームの3本立てです。
なお、引馬乗馬とは、騎乗者はポニーの背中に跨り、インストラクターがポニーにつないだ引き綱を引いて、ゆっくりとポニーを歩かせるものです。
どのような子どもたちが通っているのでしょうか。
葛飾区内に在住もしくは通学している幼児~中学生までの健常児・障害児が対象(※)なので、基本的には小学生~中学生までが中心です。ただ、引き馬コースについては3歳くらいの幼児から参加できます。
(※)障害児については、満20歳まで通うことが可能
アクロバティックな「軽乗」と集団競技の「部班」の2チーム
▲軽乗チームでレッスンを受ける様子。こちらは「膝乗り」という技
個人教室のレッスンの内容について、おおよそのところを教えてください。
まず、小学校1~3年生の子どもたちが参加する軽乗チームがあります。当スクールでは、子どもたちが最も多く所属しているチームです。
ドイツ発祥の軽乗は、日本ではあまり馴染みがないスポーツですが、ボルティング(vaulting)とも呼ばれ、欧米諸国では盛んに競技が実施されてきました。本格的な乗馬を始める前の子どもたちに、馬に乗る楽しさを伝えるきっかけとなるものです。
真ん中で立っているインストラクターが、調馬索(ちょうばさく=ロープ)を取り付けた馬を円状に走らせます。その走っている馬の上で、アクロバティックな演技を行います。慣れてくると、手を離してポニーの背に飛行機が飛ぶようなスタイルで膝立ちになり、ポーズを決めたりもしますよ。
次に、小学校4年生以上の子どもたちが参加する部班チームです。ポニーに跨った子ども達が、複数で隊列を組んで練習を行います。
▲部班チームでのレッスンの様子。高学年になると、騎乗姿もサマになってくる
皆さんがイメージする「乗馬」のスタイルで、複数頭の馬が隊列を組み、馬場の中央に立つインストラクターが出す号令に従いながら、馬を動かしていきます。歩く、走る、円を描くなど様々な動き方を行っていきます。号令に従いつつ、前の馬との距離を一定に保つことは、最初は相当難しいと思います。また他の馬とぶつからぬよう、他の子どもの邪魔をしないよう、常時周囲の状況に注意を向けることが求められます。
全国でも貴重!障害児一人ひとりに寄り添うPAチームも運営中
▲騎乗して街中を散歩する子ども。PAチームは完全予約制となっている
ポニースクールかつしかでは、障害のある子どもたちのチームもあるそうですね。
はい。PA(パートナーアニマル)チームと言いまして、何らかの障害のある子どもたちを対象としています。前2チームとは違い、学年ごとのチーム分けはしていません。内容的に、主に軽乗と単独騎乗を行っています。
障害児を対象とした乗馬教室は、公立の施設としては全国的に見ても珍しいのではないでしょうか。乗馬練習だけでなく、馬小屋掃除、馬へのブラシ掛け、乗馬練習後のお散歩乗馬、ニンジンやりを行います。乗馬教室終了後は、参加者の担当スタッフが乗馬教室中の様子を、記録用紙に記入します。次回はその記録用紙を基に、参加者各自の状態に合わせた練習が出来るように対応しています。
初めての乗馬でも安心。ポニースクールかつしかの指導方法とは
▲軽乗チームでは、木馬を使ったトレーニングも行っている
小学校低学年で、初めて軽乗を体験する子どもたちにとっては、恐怖心も感じるでしょうし、難易度が高いのではないでしょうか。チーム運営・指導について、おおよそのやり方を教えていただけますか。
騎乗を初めて経験する子どもたちにとっては、小型種のポニーとは言え恐怖心を覚えるものですし、馬に乗る心理的なハードルは低くありません。
そこで、軽乗チームでは、一人ひとりのスキルレベルに合わせてグループ分けをし、グループごとにインストラクターが付いて、無理なく段階的にレベルアップできるように配慮してきました。最初は、木馬を使ったレッスンから始めます。
実際の騎乗は一人ずつ行い、インストラクターが傍でしっかり見守りながら指導しているんですよ。何よりも、馬と楽しめることに重点を置いています。
部班チームになりますと、小学校4年生以上ですから、馬の世話や騎乗の準備など、子どもたち自身である程度の対応が可能です。それでも、危険は伴いますので、担当のインストラクターは、細心の注意を払って指導しています。
▲部班チームで馬の手入れをしているところ。騎乗準備も自分たちで実施する
そして、PAチームでは一日6名まで参加出来ます(要予約)。6名の子どもたちを、2~3名のスタッフで対応します。基本的にはスタッフが参加者全員を見ながら進めていきます。ただし乗馬練習の際は交替で乗ってもらい、マンツーマンで進めていきます。
いずれにせよ、新たにできるようになったことは、一つひとつキチンと褒めてあげるようにしているんです。子どもたちのモチベーションを上げて、キープするための工夫をしていますよ。
安全面も考慮してしっかり指導し、子どもたちと向き合う
日ごろの子どもたちへの指導で、「ポニースクールかつしか」として大切にされていることはありますか。
小ぶりなポニーとはいえ、乗馬では生きている動物と触れ合うわけです。油断して一歩間違えば、自身や周りの子どもたちの怪我などにもつながりかねません。
そこで、真剣に取り組むべき場面で子どもたちがふざけているような場合には、担当インストラクターはきっちりと叱るようにしています。子どもたちとしっかり向き合って、いい意味で、お客さま扱いにはしないんですよ。
そして、どの子もオンリーワンの大切な存在で、誰もが一番になれる可能性を持っていることを知ってほしいと考えています。乗馬が上手い・下手という一つの物差しだけで、子どもを判断しないようにしているんです。
例えば、乗馬があまり上手でなかったとしても、短距離走が速かったり、体操で身体が柔軟だったりする子もいます。スクール終了後に、皆で野球やサッカーをすることもよくありますが、そこで大活躍する子もいるんですよ。
チームごとに雰囲気が異なる。年齢に応じた成長も見られる
各チームの雰囲気は、おおよそどのような感じなのですか。
軽乗チームは小学校低学年の子どもたちが中心のため、元気いっぱいの明るい雰囲気に満ちています。とにかく、担当インストラクター・ポニーと一緒に楽しい時間を過ごしている印象が強いです。「スクールの後も遊んで帰ろう!」というような、疲れ知らずの元気な子どもたちがたくさんいますよ。
部班チームになると、小学校高学年以上なので、やや落ち着いた雰囲気です。ポニーの世話や準備を子どもたち自ら手掛けるようになって、騎乗も一人で行うようになりますから、いい意味での緊張感もあります。子どもたち一人ひとりがシッカリしてきて、向上心も強くなる印象ですね。
そして、PAチームでは、ゆったり、ほのぼのとした雰囲気を感じ取れるかと思います。少人数の予約制で運営しており、子どもたち一人ひとりの障害・特性に合わせた、リラックスできる指導を心掛けてきました。
楽しく成長できる場所「ポニースクールかつしか」
▲毎年恒例のクリスマスホースショーは、手作り感がいっぱい!子どもたちにお菓子がプレセントされることも
ポニースクールかつしかに通う動機・目的は、どのようなものが多いのでしょうか。
皆さんそれぞれで、十人十色といった感じです。純粋にポニーが好きで、乗馬を楽しませたい・楽しみたい、という親御さんや子どもたちも一定数います。もちろん、身体を動かす習慣付けをしたい、基礎体力を養いたいとの思いを持たれる親御さんも多いですね。
子どもたちからは、自分が通う小学校・中学校の外にも友だちを作りたい、という思いも強く感じます。私たちスタッフに会って、お話しするのを楽しみにしてくれている子どもたちもいるんですよ。
ちなみに、「ポニースクールかつしか」は2024年で開園42周年を迎え、親子二世代で通われるご家庭も増えてきました。
かつて親御さん自身が通ってよかったから、子どもにも同じ機会を与えてあげたいという思いを持たれるケースもあるようです。いずれにせよ、通っていて楽しいから続けられるという点は皆さんに共通していると感じています。
基礎体力だけでなく、思いやりの心や強い心も身に付くスクール
▲左から施設長の中島さん、軽乗担当の風岡さん、PA(パートナーアニマル)担当の細野さん
スクールに通うことで、子どもたちにはどのような変化・成長が見られるのでしょうか。
一般的な乗馬クラブとは違って、社会教育施設ですから、ポニーに乗って癒やされて終わりではなく、子どもたちの総合的な人格形成や身体能力向上のお手伝いをしていると自負しているんです。
例えば、周囲を思いやる心や自身を律する強い心を養ったり、体力面で向上したりなど、変化が顕著に感じられます。挨拶やお礼の言葉もキチンと出せるようになる子が多いですよ。
乗馬は、優雅なイメージを持たれやすいスポーツですが、実際には全身を使う有酸素運動でして、消費カロリーも大きく、体幹が大いに鍛えられます。長く通えば通うほど、子どもたちの体幹もシッカリとしてくるんですよ。
軽乗クラスでは、子どもたちも馬に飛び乗りますので、ジャンプ力・バランス感覚なども磨かれます。また、跳び箱やバランスボールなども使ってトレーニングしており、学校での体育の授業よりも先に進んでいる内容が多いことから、学校の先生に褒められることも多いのだそうです。
基礎トレーニングとして、子どもたちはジョギングなども日々こなしていまして、持久力や忍耐力も身に付いてきます。各校でリレー選手などになっている子は、「ポニースクールかつしか」に通っていることが多いとも言われているようです。
このような感じで、子どもたちの自信・モチベーションが育まれ、将来的に新たなことにチャレンジする際の大きな原動力になってくれるのではないでしょうか。
今回初めて「ポニースクールかつしか」さんにお邪魔して、想像以上に子どもたちが明るく、活気に溢れていることが印象的でした。公営の総合教育施設とは言え、入会金・会費が無料であることも驚きです。
いろいろなお話を聞かせていただきまして、本日はありがとうございました。
「ポニースクールかつしか」の料金・申し込み方法
料金 | 【入会金】 無料 【月会費】 無料 |
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申し込み方法 | 【引馬乗馬教室】 スクールに直接訪問のこと(予約不要) ※時間帯は、10:00~11:30および13:30~14:30 【個人教室(軽乗チーム・部班チーム)】 事前に体験教室に参加した後、登録が必要 ※電話:03-3627-0745(予約・問い合わせ) 【個人教室(PAチーム)】 事前に面接をした後、登録が必要 ※電話:03-3627-0745(予約・問い合わせ) |
「ポニースクールかつしか」の利用者の声
「ポニースクールかつしか」に、実際に通う子どもたちの親御さんからの口コミを一部抜粋してご紹介しましょう。
区内の子どもたち向けの社会教育施設だけあって、人間性が豊かになったり、物ごとに対して積極的に取り組むようになったりと、乗馬技術の向上以外の点でも喜ばれている様子が伝わってきました。
また、インストラクターさんと子どもたち、親御さんの間に、確かな信頼関係が築かれている様子も感じられました。
「ポニースクールかつしか」の基本情報
運営 | 公益財団法人 ハーモニィセンター |
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住所 | 東京都葛飾区水元1-19 水元スポーツセンター公園内 |
生徒の対象者 | 東京都葛飾区内在住、もしくは在学であること |
公式サイト | https://harmonycenter.or.jp/mizumoto/ポニースクールかつしか~予約状況~/ |