この記事では、子どもが楽しく通える日本舞踊教室として、日本舞踊の五大流派の一つである「西川流」を紹介します。
東京都新宿区に本部を置く西川流は、300年以上の歴史を持つ伝統ある日本舞踊の流派です。宗家家元は代々「西川扇藏」を名乗り、歌舞伎の名作「勧進帳」などの振付もしました。日本舞踊の五大流派の中でも最も古い流派で、正統な古典芸能を継承しています。
なお、日本舞踊には演歌などに合わせた踊りもありますが、西川流では古典音楽である長唄などの三味線音楽に合わせた舞踊のみを行っています。
そのように聞くと少し気後れしてしまいそうですが、西川流では初心者や40〜50代から年配の方、そして就学前のお子さんまで入門しているんです。今回は、西川流宗家の十一世西川扇藏さんにお子さん向けの稽古の特徴についてお伺いしました。
この記事の目次
日本舞踊西川流の子ども向けのお稽古とは
▲舞台「義朝朝長」で舞踊を見せる十一世西川扇藏さんと長女の佳さん
伝統ある西川流ですが、大人のみならずお子さんたちも体験・入門することができます。日本舞踊の基本はもちろん、伝統的な日本文化や礼儀作法も自然と身につきます。
ここからは、西川扇藏さんに子ども向けの稽古の特徴についてお話しいただきました。
幅広い年齢層が通う。まずは年代別の「子ども教室」が気軽でおすすめ
はじめに、西川流に通われている生徒さんの年齢層を教えていただけますか?
西川流に通う方には、3歳のお子さんから学生さん、50歳代~80歳代の方もいらっしゃいます。女性が多いですが、もちろん男性の方もいます。
日本舞踊の稽古は本来マンツーマンで行われるものですが、それではハードルが高いという方のために、月に2回「子ども教室」を設けています。年代別に未就学児、小学校低学年、高学年などに分け、1グループ4~5名程度のグループレッスンを実施しています。
また、家元である私が直接指導するマンツーマンの稽古も実施していて、月に4回程度、1回あたり20~30分で行っています。グループで習うときと比較して、より細かいところまで目が行き届く点が異なりますね。
お子さんが入門するきっかけや目的は何でしょうか。
お子さんに日本の文化を体験させたい、着物を着る機会を持たせたいという親御さんが多いですね。「子ども教室」なら気軽に参加できるので、入門する方が多いようです。
また、マンツーマンの稽古に通うお子さんは、親御さんが「しっかりとしたものを身につけさせたい」という強い意識を持っている場合が多いですね。未就学児や小学校低学年のお子さんには、伝統芸能や着物を着ることへの思い入れというものはまだ少ないため、やはり親御さんの意向が大きいと思います。
例えば海外赴任など親御さんの都合で海外の学校に通うことになるお子さんが、行った先の学校で日本舞踊を披露したいという要望などがある場合、どのように対応していますか。
確かに、そうしたニーズは一定数ありますね。その場合は個人レッスンのマンツーマンの稽古で対応しています。
また海外在住の方へは、オンライン形式で稽古もしています。一曲を踊れるようになるまで、個人差はありますが一般的に3ヶ月ほど(10数回のレッスン)かかります。
日本舞踊を習うことで、正しい姿勢や礼儀、体幹が鍛えられる
日本舞踊を習うことで、どんなことが身につくのでしょうか。
日本舞踊の稽古では多くのことが身につくと考えています。
まず、日本舞踊は「礼に始まり礼に終わる」という言葉が象徴するように、正座してお辞儀をすることで、先生や芸能に対する敬意を示し、日常と切り離された特別な時間を過ごすことで、子どもたちは「けじめのある態度」を身につけます。
また、三味線音楽に合わせて身体を動かすことで、日本独特のリズム感が養われます。さらに、頭の先から指先まで神経を行き届かせる所作を通じて、美しい姿勢や礼儀作法が自然に身につきます。
伝統文化を学ぶことで、精神面で大きな成長が見られそうですね。その他の点はいかがですか?
体幹が鍛えられる点も日本舞踊の特徴ですね。
日本舞踊で特に難しいのは「静止すること」です。ヒップホップなど現代のダンスは動きが中心ですが、日本舞踊では中腰で止まるなどの静止することが多く、これが今の子どもたちには難しいと感じる部分のようです。日常生活においても中腰で静止する機会が少ないため、慣れるまでに時間がかかります。
また、日本舞踊では腰を入れて動く、つまり中腰の状態でグッとおへその下に力を入れることが重要で、これはスキーやゴルフなど多くのスポーツとも共通していると思います。サッカーでも体幹が重要だと言われていますよね。
日本舞踊では筋トレはしませんが、踊りの中で自然に体幹が鍛えられる点は、成長期の子どもにとっては良いことではないでしょうか。
体幹も鍛えられるというのは少し意外でした。本当に多くのことが身につけられるのですね。
はい。ただ、日本舞踊はすぐに習得できるものではなく、繰り返し練習を重ねることで身につくものであり、ある程度の年月が必要です。
およそ3年から5年が目安なのですが、どうしても個人差は大きいです。ただ、器用な人は早く習得できる一方、不器用な人は時間がかかりますが一度身につけたものを忘れにくい傾向があります。
コツコツと弛まぬ努力をすることが、日本舞踊では特に大切にされています。そうした意味では忍耐力や継続力も身につくかもしれませんね。
時代に合わせ、和やかな雰囲気で稽古が行われる
「子ども教室」の稽古中の雰囲気はいかがでしょうか。
チーフの先生は50歳代ですが、30歳前後の女性の先生もいて、基本的に和やかな雰囲気で和気あいあいとやっています。
伝統芸能というと稽古が厳しいイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、そんなことはありません。私が子どもの頃は、親から多少厳しく教えられることもありましたが、時代に合わせていますので安心していただければと思います。
子どもの成長を目の当たりにできる年に1回の発表会
▲舞台「靭猿」と「越後獅子」
日頃の成果をお披露目する機会はありますか。
西川流では年に1回「浴衣会」と呼ばれる発表会を開いています。これはうちの稽古場で浴衣や稽古着を着て行うもので、日頃の稽古の成果を発表する場となっています。この会は実費程度の費用(1万円~2万円)で開催されます。
一方、現在は改築中の国立劇場で行われていた「西川会」という大規模なおさらい会もあり、こちらは生演奏で本格的な衣裳を使用するため、費用がかかります。ですが、これは希望者だけが参加します。
日本舞踊というと、「大々的にお披露目するのでお金がかかる」というイメージをお持ちの方もいらっしゃると思います。しかし、西川流では発表の場は個人の考えや予算に応じて選ぶことができるので安心してください。
日本舞踊西川流からのメッセージ
▲西川流宗家の十一世西川扇藏さん(撮影:篠山紀信)
最後に、この記事を読んでいる方に、メッセージをお願いします。
先ほどのお話とも重なりますが、日本舞踊に対して「ハードルが高い」「お金がかかる」といったイメージを持っている方に対して、実際には比較的リーズナブルに一定のレベルまで身につけることができるとお伝えしたいです。
最初に必要なのは浴衣、足袋、帯、そして女子の場合はステテコ(レギンスのようなもの。踊りの中で足を左右に開く動作があるため)で、特に高価なものでなくて大丈夫です。最初は簡単なもので始め、必要に応じてランクアップのアドバイスもできます。
あとは、西川流の個人レッスンでは家元である私自身がお子様方にも教えています。手前味噌ではありますが、五大流派で家元自身が子どもたちに教える例はあまりないと思います。
堅苦しいものではないですが、本格的に稽古をしていきますので、興味を持った方はぜひご検討いただければと思います。
手軽に入手できる浴衣で始められるというのは親御さんにとっても嬉しいですし、家元に稽古をつけてもらえる機会があるというのも魅力ですね。本日はありがとうございました!
日本舞踊西川流の体験申し込み方法
西川流では、30分程度の体験教室を行っています。また、経験者にはオンラインでの稽古も行っており、遠方で教室に通えない方も稽古が受けられます。
詳しくは下記公式サイトからお問い合わせください。
■入門のご案内(日本舞踊西川流公式サイト)
https://nishikawaryu.jp/beginner/
日本舞踊西川流の基本情報
▲人気の高い演目「藤娘」
運営 | 一般財団法人 西川流 |
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住所 | 東京都新宿区市谷台町8番12号 |
問い合わせ先 | https://nishikawaryu.jp/contact/ |
公式サイト | https://nishikawaryu.jp/ |
※詳しくは公式ページでご確認ください