この記事では、特色ある教育に取り組む“注目の学校”として、神奈川県逗子市にある「逗子開成中学校・高等学校」をご紹介します。
逗子開成中学校・高等学校は、高校からの募集を行わない完全中高一貫の私立男子校です。在校生や卒業生から“面倒見の良い学校”と定評があり難関大学への現役合格を多数輩出する一方、楽しくも厳しい海での教育を通して、生徒の自立と成長を促します。
今回、ぽてんでは逗子開成中学校・高等学校の広報部長を務める秦 健二先生にインタビュー取材を行い、同校の教育方針や学習カリキュラムの特色などを詳しく教えていただきました!
この記事の目次
“開物成務”の精神で、型にはめず生徒の魅力を開く「逗子開成中学校・高等学校」
まず、逗子開成中学校・高等学校の教育目標について教えてください。
本校の教育目標は「雲より高い志と海より広い知性を養い、夢という大空へと羽ばたく」であり、この理念は校名の由来でもある“開物成務(かいぶつせいむ)”に基づいています。開物成務とは中国の古典『易経』から派生した言葉で、「物を開き、務めを成す」、つまりは「人間性を開拓・啓発し、社会に貢献する」といった意味を持ちます。
学校長がことあるごとに私たち教員に向けて言っているのが、「生徒みんな良いものを持っているので、ぜひそれを型にはめずに伸ばしてあげてほしい」ということです。この“開物”の考えにならい、学校が用意したものを一方的に詰め込むのではなく、生徒が持つ魅力を引き出して開花させられる教育をしています。
また、“成務”についても日々生徒と接する上でとても大切にしています。例えば生徒に指導をする際、「何のためにその指導をするのか」という目的を必ず伝えます。そうすることで、生徒にも届きやすく、理解してもらえます。
生徒の中にある良い面を開き、「卒業したあとに務めを成せる人間になるために話している」というゴールをしっかり伝えて指導する、このように、“開物成務”はただの固いお題目ではなく、実務レベルで学校全体に浸透しています。
生徒を大きく成長させる、逗子開成中学校・高等学校の海洋教育
逗子開成中学校・高等学校では、逗子海岸に面する立地環境を活かした「海洋教育プログラム」を行っています。海の上だからこそ経験できる、“自分一人でやり遂げなければならない”という経験は、生徒を大きく成長させます。
ここでは、同校の生徒が大きく成長できる要因の一つである、海洋教育の具体的な内容についてお話を伺いました。
全く泳げなかった子が全員泳ぎ切る、1.5km泳ぐ遠泳実習で“やればできる”を体験
▲遠泳実習で泳ぐ生徒たち。見守りのボートも多く、安全に配慮した中で実習が行われます。
御校の特色のひとつである「海洋教育」について、具体的な内容をご紹介ください。
本校では逗子の海を利用した教育を行っており、すべての生徒が「遠泳実習」と「ヨット製作・帆走」を体験するカリキュラムを組んでおります。遠泳実習は中学3年生が対象で、逗子湾内の1.5kmを浮き輪なしで自分一人の力で泳ぐプログラムです。
1.5kmというと、かなりの体力が必要ですよね。ある程度泳げる子でもなかなか難しいのではないかと思います。「うちの子にはできないかも」というお声は多いのではないでしょうか?
恐らく普通の人100人を集めて「1.5km泳げますか」と聞いたら、できるという人は一人いるかどうかだと思います(笑)。入学前から「不安で仕方ない」というお声はよくいただきますし、入学時点で全く泳げないという生徒が毎年100人以上おりますが、中学1年次・2年次で練習を重ね、中学3年次の本番では全員がしっかりと泳ぎ切ります。
中学1年次・2年次で練習を重ねるということですが、どのように指導されているのでしょうか?
中学1年次には通常の体育の授業で練習をするほか、それとは別に特別授業も行います。特別授業では中1から高3までの体育教員12人がプールに集まり指導します。泳げない生徒にはほぼマンツーマンに近い形で、生徒2~3人に教員1人がついて個別に教えています。
また、授業だけで難しい場合には、夏休みに水泳の補習も行います。水泳の補習があるのは珍しいと思いますが、「タダでスイミングスクール通えるなんて最高だね」なんて言いながら、生徒も頑張ってくれています。
こういったきめ細かな指導が、全く泳げなかった生徒でも1.5km泳ぎ切れるようになる秘訣ですね。
▲逗子開成中学校・高等学校のプールは屋外では珍しい温水プール。快適に泳げる環境が整っています
遠泳実習を終えた生徒の皆さんの感想はいかがですか?
遠泳実習後に感想文を書いてもらっているのですが、全く泳げなくて当日まで不安を抱えていた生徒から「“人間やれば何でもできる”っていうのは本当だということを今日実感しました」という言葉をもらいました。
水泳が得意な生徒にはとにかく楽しく、苦手な生徒は成功体験によって自信を高められる、とても有意義なイベントだと感じています。
▲ゴールの瞬間、生徒の表情は達成感に満ちあふれています
自分たちが乗るヨットを仲間と一緒に作る「ヨット製作」で責任感が身に付く
▲グループでひとつのヨットを制作するため、チームワークも試されます
ヨット製作や帆走についても教えてください。
ヨット製作は中学1年次の10月から3月にかけて実施している学習で、グループに分かれて共同でヨットを作ります。仮想空間でもプラモデルでもなく、本物の“海で乗れるヨット”を作るので、モノ作り好きの子にはうってつけのイベントです。グループ全員で協力して“自分たちが乗るヨット”を作りますが、ネジ一つ緩んでいても沈没してしまうため気を抜けず、とても緊張感があり、また責任感も身につきます。
そしてヨットが完成したら「進水式」を行います。進水式では船体にシャンパンをかけ、実際に海へ出るのですが、仲間と協力して作り上げたヨットが海に出る瞬間は、とても充実感があります。
▲「うまく進むかな?」とドキドキ・ワクワクのヨット実習
帆走実習について、詳しく教えてください。
「とにかくシンプルに楽しい」という声が多い帆走実習ですが、楽しい中にも難しさがあります。海へ出るまでにはヨットの仕組みやロープワーク、海上での安全確保の方法などを教えますが、自然が相手なのでなかなか教科書通りにはいきません。風が全く吹かずになかなか進まないこともあれば、逆に風が強くなってコントロールが難しい時もあります。
この帆走実習で本校が大切にしているのは、“すぐにコツを教えない”ということです。教員がコツを教えれば習得は早いですし、実習もスムーズで一人15分ほどあれば海へ出て戻ってくることができますが、自分でコツを掴むまでとことん付き合います。生徒によっては1時間くらいかけてようやく陸へ戻ってくるなんてこともあります。
この間、体育担当・海洋担当の教員が救助艇に乗って安全を見守りつつ、生徒を応援しています。
▲ヨットに乗り込んだ生徒たちは、真剣な表情で帆走実習に臨みます。
実習を受けた生徒の反応はいかがですか?
最初はうまくコントロールできなかった生徒も、中学3年になると、レースもできるほど上手になります。残念ながら高校にヨットの学習はないので、生徒たちからは「なんで終わりなんですか」「もっとやりたい!」などとよく言われます(笑)。そういう声を聞くたびに、本当に良い実習だなと思いますね。
海への知識を深め、探究の面白さを体感できる「海洋人間学」
「海洋人間学」の授業があることも御校ならではの特徴ですね。
そうなんです。目の前にある海を活用して心と体だけでなく頭脳も鍛える目的で、2015年から「海洋人間学」の科目が設けられました。海をテーマにした探究活動を行うプログラムとなっており、中学1年次ではグループで研究を重ねてそれぞれ発表します。
また、中学2年次にも別のテーマで同様の探究活動や発表を行い、中学3年次には“理想の水族館”を作ります。さらに東京大学やJAMSTEC(※)などの専門家の方々による「海洋学特別講義」を実施していることも大きな特徴です。
(※)JAMSTEC:海洋研究開発機構。国立研究開発法人で、海洋に関する総合的な研究開発機関。
生徒を飽きさせない、逗子開成中学校・高等学校の理数・情報教育
続いては、各教科のなかで逗子開成中学校・高等学校が特に力をいれている「理数教育」や「情報教育」についてお話を伺っていきます。
数学好きな生徒の好奇心を刺激!苦手な生徒には学び残しのないよう手厚いサポートを実施
▲数学の授業では、生徒同士が楽しく教えあう姿も見られます。
御校は理数教育に強いと伺いました。まず、数学の授業における魅力を教えてください。
生徒に「授業で何が好き?」と聞くと、「数学!」と答える生徒が多いですね。数学に興味関心の強い生徒がたくさん入学してくれるので、教員たちは生徒を飽きさせないように工夫しています。ハイレベルな問題に挑戦する楽しさに繋げたいので、生徒が自然に“よりハイレベルな数学”に興味関心をもてるようにしています。
また、授業内・授業外問わず、生徒と教員が数学談義に花を咲かせている光景を見かけることも多いです。先日も、学校ではまだ習っていない内容について「教えてください!」と数学教員に声をかけた生徒がいたのですが、その教員は職員室前のホワイトボードで1時間くらい講義を繰り広げていました。
数学が苦手な生徒はいないのでしょうか?
なかには数学が苦手な生徒もおりますが、中学1・2年次に週1回ある「特習数学」という演習の授業を通してサポートしています。具体的には1クラスを半分に分けてそれぞれに教員がつき、時間内に一定量の問題を解ききれない場合は放課後に再チャレンジするプログラムです。
生徒がクリアできるまで教員が付き添うので、どの生徒も取りこぼしなく数学を習得できていますよ。
理科の授業は実験がメイン。実際に経験して学ぶから記憶に定着しやすい
理科の授業に御校ならではの特色はありますか?
本校には実験好きな子が多く入学されるので、その意欲や熱意に応えられるように実験を多く取り入れた授業をしています。
最も多く実験をしている中学2年次にはほぼすべての授業で実験を行っているほか、他の学年においても半分以上の授業が実験学習です。実験メインの授業でも大事なことがしっかり学べるよう、理科担当の教員が毎年オリジナル教材を作成しています。
また、高校でもできるだけ実験を取り入れたい意図から、理科は100分制の授業を行っています。大学入試に直結するような高度な理論を座学で学ぶことも大切ですが、どうしても実験をさせてあげたいという思いがあり、100分授業にしています。
実験がメインの授業について、生徒の皆さんの反応はいかがですか?
高3の生徒に「大学受験を控えた今、実験が多いとあまり効率良くないかな?」と聞いたことがあるのですが、「何言ってるんですか、問題集にある実験を全て経験したから頭への入り方が違うんですよ!」と話していました。実験をすることで視聴覚的に印象に残りやすいようです。
体験型の情報教育:Pythonを使ったアプリ開発でITスキルを習得
御校では情報教育も活発に行われているそうですね。どのような内容なのか教えてください。
本校は、情報教育でも「まずは体験」を重視しています。プログラム言語の「Python」でアプリケーションを作っているのですが、どのようなアプリケーションでも良いので“完成させること”を大事にしています。
生徒の皆さんは、実際にどのようなアプリケーションを制作されていますか?
さまざまですが、私が面白いと感じたのは、身長・体重などの情報を入力するとおすすめのレシピが1週間分表示されるアプリです。また、英語の単語学習ができるアプリなど、みんな創意工夫をしてオリジナリティあふれるアプリを制作しています。
このような授業は5年ほど前から実施しているのですが、実は「情報1」が共通テストの必履修科目になったことで、情報科の教員が共通テストの内容に合わせるかどうか検討しました。結果、やはり「実際にプログラミングを経験をするからこそ座学でも理解が深まる」という考えで、これまで通りの体験型のカリキュラムで行うことになりました。
実際、生徒にはITスキルはしっかりと身についているようで、先日生徒総会があったのですが、生徒の希望でオンライン開催になりました。当日はプロジェクターを用いたオンライン生徒総会を行い、Zoomとチャットを駆使して意見交換を行いました。
通常時は約1,600人が体育館に集結して生徒総会を行うのですが、それよりも活発に意見が飛び交っていて、生徒たちのITスキルの向上を体感できましたね。
さまざまな映画と講座で、生徒の視野を広げる情操教育
逗子開成中学校・高等学校では情操教育も重視しているとうかがいました。具体的にどのような学習プログラムが組まれているのでしょうか?
本校では豊かな心や好奇心の育成を目的として、さまざまな情操教育を取り入れております。中でも特徴的なのが、本校の理事長を務められ、スタジオジブリの初代社長でもある徳間康快先生によって校内につくられた「徳間記念ホール」での映画観賞会です。
鑑賞する映画は担当教員が吟味しているのですが、生徒同士では見に行かない、でも硬すぎず教育色の濃すぎないものにしています。たとえば最近だと2022年にアカデミー賞を受賞した『コーダ あいのうた』を鑑賞しました。真剣なシーンもあれば笑いあり涙ありの映画で、笑えるシーンではいかにも男子校らしく豪快に笑い、真剣なシーンでは食い入るように見入り、また涙を誘うシーンでは鼻をすする音が聞こえていました。
年に何回くらい開催されているのでしょうか?
中学1年~高校1年までは年2回、高校2・3年は年1回行っています。授業を潰してまで映画鑑賞する必要があるのか、と考えたことがあるのですが、やはり映画というのはさまざまな角度からさまざまな価値観に触れられる絶好のチャンスなんです。例えば差別問題についても教員から伝えると説教くさくなりますが、映画だとそうはなりません。
本校はどのようなことにおいても「生徒に感じさせる」ということを大事にしているので、映画を観たあとは感想文を書いてもらいます。学年が上がるにつれ、非常に大人びた批評家さながらの文章になるので、生徒の情操教育には非常に役立っていると感じますね。
情操教育の一環として、「土曜講座」というものがあるそうですね。これはどのような講座でしょうか?
土曜講座は教科の授業とは異なり、趣味を増やしたり、視野を広げたりすることを目的とした講座です。講師は本校教員ですが、保護者や外部の専門家の方々にもご協力いただきながら多種多様な講座を開講しています。
▲土曜講座の様子。青銅鏡を作る本格的な体験。
▲土曜講座の様子。この日は保育士体験を行なった。
逗子開成中学校・高等学校の学校生活:生徒の様子と部活動
続いて、逗子開成中学校・高等学校における生徒の雰囲気や部活動についてお話を伺いました。
生徒の特徴:控えめで礼儀正しく、真面目にコツコツ
御校の生徒さんはどのような雰囲気ですか?
本校は遠泳やヨットといった体力を要する学習プログラムも多いため、「運動ができて陽気な生徒が多そう」と思われることもありますが、そういった生徒はどちらかというと少数派です。多くの生徒は控えめで礼儀正しく、真面目にコツコツ頑張る感じの性格ですね。
ただ、本校にはお腹から大きな声を出して気合を入れるような”THE 男子”といった雰囲気の行事も多いのですが、大人しい雰囲気の生徒たちはこのような行事での体験を経て自分の中に眠っていたワイルドな面を発見し、全力で楽しんでくれています。
▲生徒たちの大歓声が終始こだまする「体育祭」
逗子開成らしい「ヨット部」も。インターハイ出場や全国コンテスト入賞あり
クラブ活動も活発で、文武両道を目指していらっしゃるそうですね。
はい。本校には運動部・文化部合わせて33種類のクラブがあり、勉強との両立がしやすい運営を心がけています。
特に中高どちらにもある「ヨット部」が人気です。高校にはインターハイに20年連続で出場するようなアスリートレベルの選手が揃っていますよ。
ちなみに、本校には海洋的な研究を行う「うみけん」という有志生徒サークルがあることも大きな特徴です。外部の科学イベントで発表も行っており、全国コンテストで入賞したこともあるほど活発に活動しています。
逗子開成中学校・高等学校からのメッセージ
最後に、逗子開成中学校・高等学校に興味をお持ちの方へメッセージをお願いします。
本校には生徒一人ひとりの個性を引き出し、心・体・頭脳を鍛える学習カリキュラムが揃っています。まずはぜひ学校説明会や行事等にお越しいただき、生徒たちの生き生きとした雰囲気から逗子開成ならではの魅力に触れていただけたら嬉しいです。
独自の教育体制で工夫を凝らした学習指導を行っている御校では、中高の6年間で一回りも二回りも大きく成長できそうですね。本日はありがとうございました!
逗子開成中学校・高等学校の進学実績
逗子開成中学校・高等学校の大学進学率は非常に高く、国公立大学や難関私立大学等へ例年多くの合格者を輩出しています。ここでは、2024年度における進学実績の一部をご紹介します。
国公立大学:114名合格(現役87名)
- 東京大学:4名(現役3名)
- 東京工業大学:4名(現役3名)
- 一橋大学:9名(現役7名)
- 京都大学:6名(現役5名)
- 北海道大学:14名(現役11名)
- 東北大学:4名(現役4名) など
私立大学:972名合格(現役750名)
- 早稲田大学:88名(現役76名)
- 慶應義塾大学:51名(現役40名)
- 上智大学:42名(現役25名)
- 東京理科大学:66名(現役53名)
- 明治大学:118名(現役95名) など
上記のような輝かしい実績の背景には、教育熱心な先生方による日々の手厚い学習サポートがあります。また、生徒が解いた過去問をすぐに添削して翌日に返却してくれる先生もいるなど、志望校対策も親身に行ってもらえる学校です。
なかには、塾に通わずに東大への合格を勝ち取った事例もあります。そういった点からも、逗子開成中学校・高等学校における学習カリキュラムの充実度や先生方の面倒見の良さがうかがえます。
逗子開成中学校・高等学校の卒業生・在校生の口コミ
逗子開成中学校・高等学校の卒業生・在校生からは、逗子湾に面した環境を活かした教育指導をはじめ、熱心な指導体制や活発な部活動に対して高い評価が集まっています。保護者からも、「先生の面倒見が良いので安心」「教育環境が魅力的」といったポジティブな口コミがたくさん挙がっていました。
逗子開成中学校・高等学校へのお問い合わせ
運営 | 逗子開成中学校・高等学校 |
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住所 | 神奈川県逗子市新宿2丁目5番1号 |
電話番号 | 046-871-2062 |
問い合わせ先 | お問い合わせフォーム |
公式ページ | https://www.zushi-kaisei.ac.jp/ |