ぽてん読者の皆さまに、今注目の学校を紹介するこの企画。今回は兵庫県西宮市の私立中高一貫共学校「関西学院(かんせいがくいん)中学部・高等部」を紹介します。
学校法人関西学院では初等部から大学院までの一貫教育を基本としており、関西学院中学部・高等部でもほとんどが関西学院大学に進学します。そのため受験勉強のための勉強ではなく、キリスト教に基づくユニークな人間教育を展開しているのが特徴です。
また、「英語の関学」としても知られるように伝統的に英語教育に力を入れており、中学部から国際交流などを通じて実践的な英語力を培っています。
今回は同校のスクールモットーに込められた思いや、心・体を育む人間教育、グローバル教育の特徴などについて、中学部長の宮川裕隆先生にお話を伺いました。
この記事の目次
関西学院中学部・高等部のスクールモットー“Mastery for Service”とは?
▲インタビューにご対応いただいた中学部長の宮川先生
まず初めに、御校が掲げている“Mastery for Service”について、どのような思いが込められているのかを教えてください。
本校のスクールモットー“Mastery for Service”は、「奉仕のための練達」と訳されます。いろいろな力を身につけていくと、どうしても自分のために使ってしまいたくなるものです。しかし、そうではなくキリスト教主義に基づいて「世のため人のために尽くすことに活かしていこう」という想いが込められています。
誰かを助けるには、まずそのための力をつけることが必要です。その「力」には知識や教養だけでなく、思いを行動に移す心の強さ、そしてたくましい体も含まれます。それらを育むために実践しているのが、本校の建学の精神でもある「キリスト教主義による人間教育」です。
中学部では特に、苦手なことも含めてさまざまなことに挑戦し、心と体を鍛えていく教育活動に重点を置いています。その心と体の土台の上に、知識や考える力を培っていけたらと考えています。
教育の根幹「キリスト教主義教育」で心を磨く
▲伝統ある礼拝堂には卒業生全員の名前が銅板で刻まれている
関西学院中学部・高等部では「心と体」を鍛えていく教育方針だと伺いましたが、まず心を磨いていくための取り組みについて教えていただけますか?
本校では中高6年間を通じて、キリスト教主義教育を実施しているので、それがベースとなっています。中高ともに設けている独自の「聖書科」の授業では、宗教主事の教員によって聖書の教えを楽しく、ときには真剣に学んでいます。
また、中学部で3年間実施している毎朝の全校礼拝は、本校の教育の根幹をなしているといえるでしょう。この礼拝では毎朝教員の講和を聞いたり、讃美歌を歌ったりしていて、生徒にキリスト教の教えを伝えていく上でとても大切な時間になっています。
もう1点お伝えしたいのは、本校のキリスト教主義教育は聖書の教えを学ぶだけでなく、命や平和、人権など幅広いテーマをキリスト教の教えから考える機会でもあるということです。医療従事者の方に余命宣告を受けた患者の方のエピソードを伺う、LGBTQ活動家の方に性の多様性についてお話しいただくなど、外部の方をお招きして講演会を行うこともありますよ。
こうした宗教教育を中高6年間通じて実施することで、生徒の皆さんにはどのような変化がありますか?
在校時よりもむしろ、卒業後に改めてキリスト教の教えが浸透していると実感する生徒が多いようです。
毎朝の礼拝で自分と向き合い、そして聖書科の授業や講演会を通じてキリスト教の教えからさまざまな事象への考えを深めることは、学校を卒業した後にもつながる人間としての土台を培っているといえるのではないでしょうか。
体を鍛える「駆け足」や「キャンプ」などの伝統的な行事
▲1889年に創設した関西学院には、「全校駆け足」「青島キャンプ」などの伝統行事も数多い
次に、体を鍛えるという点で、御校では具体的にどのような取り組みを実施されていますか?
中学部の伝統行事に「全校駆け足」という、週4日、6時限後に全校生徒と教員が一緒に駆け足をする取り組みがあります。もちろん走ることが苦手な生徒もいますし、雨天中止のアナウンスが流れると歓声が上がることもあるのですが(笑)、自分のペースで良いので毎日継続して走ることで、心身ともに鍛えていくことを目的としています。
また本校ではキャンプに力を入れているのも特徴です。もともと新制中学部の初代中学部長の矢内先生はイギリスのパブリックスクールのような全寮制の環境の中で生徒の人間的成長を促していきたいという思いを持っていたのですが、その実現が難しいために、代わりにキャンプの中で全寮制の長所を取り入れようということで始まりました。
中学部では入学式の翌々日から2泊3日の「オリエンテーションキャンプ」を行い、そこで本校の思いや教育方針を伝えています。またそのキャンプでは「メチャビー」という、ラグビーの“メチャクチャ版”の競技に取り組んでもらっているんですよ。男女問わず泥だらけでメチャビーに挑むことで、仲間のために頑張ることや、自分が仲間に支えられているということを身を持って体感する機会にもなっています。
また中学2年生を対象に毎年夏に実施している「青島キャンプ」はずっと続いている本校の伝統行事です。4泊5日という長い時間生徒同士で協力してさまざまなことに取り組み、人のために動くという“Mastery for Service”の精神や、人と一緒に生きる共生の心を育んでいくことを目的としています。
キャンプに参加した生徒さんからはどのような感想があがっていますか?
行く前は不安の声もありますし、メチャビーもやる前は汚れることを嫌がる生徒も少なくありません。しかし実際に体験した後は「すごく楽しかった」「メチャビーは大変だけれど、新しい友達ができてうれしかった」という声を多く聞きますね。
本校にはキャンプ以外にも多くの体験機会があるため、保護者の方から驚かれることもあります。しかしとにかくいろいろなことに挑戦してみるからこそ、生徒たちは自分に何ができるのかを見出していけるのだというのが本校の考えです。やった結果できないことは仕方ない、しかし挑戦せずにできないと決めるのはやめようという思いで取り組んでもらっています。
“英語の関学”!実践的な英語力と異文化理解の心を重視
▲ネイティブの教員が教える英語など、授業のようすを紹介。みんな真剣に取り組んでいる
関西学院中学部・高等部は「英語の関学」としても知られていますよね。御校で取り組まれている英語教育について教えていただけますか?
本校の英語教育で重要視しているのは、相手に自分の思いを伝える実践的な英語力を育むことです。これからの時代、AI翻訳など技術も進化しているため、言語を習得すること自体にそこまで大きな意味はないかもしれません。
しかし、グローバル社会に貢献していく上で、ただ英語を話せるだけではなく相手の気持ちを汲み取り、こちらの意図も正しく伝えるコミュニケーション能力は不可欠です。そのために本校のグローバル教育では英語力だけでなく、論理的思考力やディベート力、異文化理解の心を育む点を大切にしています。
具体的には、中学1年生では日本文化などを英語で紹介するというところから始めます。2年生では身近な話題をテーマにした英語でのディベートを行い、3年生ではSDGsなどをテーマに英語での調べ学習、発表を行います。これらの学習を通じて、しっかりと自分の意見や考えを持ち、それを英語で伝えていくという力を身につけていきます。
▲英語で作成された成果発表が、学年ごとに並んでいる
具体的な取り組みについてぜひお聞かせいただけるでしょうか。
この実践的な英語力を支えるために実施しているのが、毎週行う英文レポートの作成と英文の「多読」です。また日本人教員とネイティブ教員によるティーム・ティーチングを導入し、ネイティブの発音や表現を学んでいます。
それに加え、本校の中学部では海外の学生との交流機会も多く設けています。コミュニケーションを取る中で英語力を試しつつ、相互理解の心を育むのが目的です。国内外のさまざまなプログラムで多くの人との出会いがあることで、生徒たちにとって視野を広げるきっかけにもなっています。
英語力を身につけることも大切なのですが、グローバル社会に貢献するためにはそれ以上にコミュニケーション能力を含む人としての在り方が求められますよね。本校の教えの根幹にあるキリスト教の教えと“Mastery for Service”の精神とも重なるのですが、相手のために尽くし、どうしたら幸せになれるのかを考える姿勢は、世界に関わらず人間共通の美点といえるでしょう。
相手の価値観や文化を受け入れ、自分自身の考えも臆せず表現する姿勢を持って、世界中の誰とでも協働できる人になってほしいと思っています。
関西学院中学部・高等部ならではの魅力に迫る
ここからは、関西の伝統校ならではの校風、すべての教科に通じる文章力を身につけるための「読書科」、また特徴的なクラブ活動など、今までご紹介したトピック以外の同校の魅力についてお聞きしました。
合同同窓会には1,000人が集結!「小中高大」一貫だからこその絆の深さ
関西学院中学部・高等部の校風について、宮川先生はどう捉えていらっしゃいますか?
本校は、中学校ではさまざまなことにチャレンジし、高校では自分のやりたいことを突き詰められる環境があります。そこで自信をつけていけるため、良い意味で社会に出ていったときに物怖じしない生徒が多いと感じます。
小学部から大学までの一貫教育を実施しているからこその特徴はありますか?
中学と高校はもちろん、大学との距離も近いことで、縦の関係性の中で学べるというのは大きいと思います。例えば先ほどお話しした中1・中2のキャンプは、中学3年生のキャンプリーダーという役割の生徒が引率しているのですが、そこに高校生や大学生も加わっています。
下級生にとっては先輩の頼もしい姿を見て自分もそうなりたいと憧れを抱く機会になっていますし、高校生や大学生にとっても中学生を必死に引率することで成長を得られる機会になっています。自身も中1・中2で経験したキャンプに、成長してまた別の立場から関わることで得られる気づきも多いのではないでしょうか。
また、卒業生同士、卒業生と教員の関係が密接なのも、関西学院中学部・高等部ならではの特徴です。5年に1回の合同同窓会を実施しているのですが、そこには大学を卒業して間もない20代から80代〜90代まで、1,000人近くのOB・OGが集結しています。キャンプの引率もそうですが、卒業後も学校とつながりをもって協力してくれる生徒が多いですよ。
すごいですね!母校愛が強い方が多いからこそなのでしょうか?
もちろんそれもあると思いますが、本校の“Mastery for Service”の精神が根付いているからこそではないかと思います。社会に出て働いている卒業生と話をすると「自分の仕事が人の役に立っていたら嬉しい」という声をよく聞くんです。生徒が大人になっても、本校が大事にしている想いがつながっているのだと感じて、とても嬉しいですね。
考える力・探究の力を育む、60年以上続く「読書科」の教育プログラム
▲読書科の授業のようす
その他に、御校で実施している特徴的なプログラムがあれば教えてください。
本校の中学部では週1回から2回、「読書科」の授業を行っています。これは60年以上続く伝統的な授業で、現在でいうところの探究型学習の先駆け的な内容となっています。
読書習慣を育むことを基本としつつ、本を読むだけで終わらず、課題設定から調査、発表までを行うのが特徴です。中学3年間を通じて図書館の活用方法や探究学習の手法を体系的に学び、最終的に中学3年生のときに1万文字を超える卒業レポートを作成していく、というのが一連の流れです。
▲関西学院中学部・高等部の図書館
具体的にどういったテーマを調べていくのですか?
読書科の授業は行事と連携して行っています。校外学習の内容に絡めてグループで調べ学習を行い、マインドマップやブレインストーミングも取り入れながらグループ内の意見を取りまとめ、ポスターや壁新聞などを制作していくというのが読書科の主な授業内容です。
中学2年生の3学期から3年生にかけては、読書科の学びの集大成として「修学旅行」をテーマに取り組みます。修学旅行先の九州から2つの県を選び、担当教員とも相談しながら自分で課題設定をし、それまでに培った調べ学習の手法やまとめ方を踏まえて卒業レポートにまとめ、プレゼンテーションを行います。
1万文字の卒業レポートというのはかなりの文字数ですよね。大学での卒業論文にもつながるスキルが身につけられそうです。
その通りです。中学生の段階でなかなかここまで丁寧にレポートや論文の書き方を学べる機会はないと思いますので、この経験は大学生の卒業論文のときにも活きてくると思います。
また、この読書科の授業で学んだことが社会人になって活きているという声もよく聞きます。自分自身で考え、調べ、人前で意見を提示するというのは、まさに会社での企画書作成やプレゼンテーションと同じ過程ですよね。また複数人でのアイディア出しの経験も社会人として必要なスキルとなっているようです。
日本一にもなった「タッチフットボール部」や理科部など、クラブ活動も盛ん
関西学院中学部・高等部は部活動も活発とのことですが、特徴的な活動をしているクラブはありますか?
関西学院大学はアメリカンフットボールの強豪校として有名ですので、高校でもアメリカンフットボール部が精力的に活動しています。
中学校ではタックルなどがない「タッチフットボール部」が盛んで、日本一に輝いた実績もあります。大学でアメリカンフットボール部に所属する学生が中学部に教えに来てくれることもあり、中学部の生徒は憧れの目で見ていますし、モチベーションにもつながっているようです。
高校・大学とのつながりを活かしてより高い競技レベルに触れられるからこそ、部活動の実績も上がっていっているのでしょうか。
タッチフットボール部に限らず、本校のクラブ活動は基本的に「勝つことだけがすべて」という方針ではなく、競技を通してどのような人間になっていきたいのかという、人としての在り方を学ぶ機会と捉えています。
中学生も、高校生や大学生の姿を通して競技のスキルだけでなく人として、チームとしての在り方を学んでいる部分が大きいと思います。その結果として多くの勝利につながっているのではないでしょうか。
▲ロボット製作などエンジニアリングにも力を入れる同校。理科部の生徒がコンテストで受賞した作品も展示されている
文化部では、特徴的なクラブはあるでしょうか。
美術部や吹奏楽部など活発に活動しているクラブが多いですが、その中でも理科部は面白いのではないかと思います。
2024年に開催された「創造アイデアロボットコンテスト」の全国大会では、理科部の活動および技術科の授業で製作したロボットが近畿ブロック代表として出場するなど結果を残しているんです。
もともと本校は3Dプリンターなどの設備が揃っていますし、授業でプログラミングやAIについて学ぶなど、ハード・ソフト問わずエンジニアリングにも力を入れています。スポーツだけではなく、いろいろな分野で自分の関心・知識を深めていく機会があると思いますね。
関西学院中学部・高等部からのメッセージ
最後に、関西学院中学部・高等部に興味を持った読者の方に向けてメッセージをお願いします。
本校では中学部・高等部から大学まで、もっというと小学部から大学まで、最大で16年間を過ごしていくことになります。1つの学校だけで長い時間を過ごすからこそ、いろいろな人との出会いや経験ができるよう、本当にたくさんの機会を用意しています。その中で一生物の友達をつくれるのが、本校ならではの魅力です。
そしてまず何でもチャレンジしてみようという気持ちを育むのが本校の方針です。失敗して傷つくこともあるかもしれませんが、だからこそ傷ついても立ち上がる心の強さや勇気を育んでいけると思います。
本校では生徒だけでなく、教員も一緒になってチャレンジしています。キャンプも駆け足も、教員は見ているだけでなく一緒に取り組み、生徒たちからさまざまなことを学んでいます。そういう私たちの姿勢、学校の思いに魅力を感じる方は、ぜひ一度本校に足を運んでいただけると嬉しいです。
宮川先生、本日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました!
関西学院中学部・高等部の進学実績
関西学院では一貫教育を前提としているため、高等部のほとんどの生徒が関西学院大学に進学しています。関西学院大学は2021年度に新設された理学部、工学部、生命環境学部、建築学部を含む多数の学部を持つ総合大学であり、毎年文系・理系ともに幅広い進学が実現しています。
また他大学への進学も毎年一定数みられます。神戸大学、慶應義塾大学など難関大学に合格者を輩出しているのが特徴です。
■関西学院中学部・高等部の進学実績(公式サイト)
https://sh.kwansei.ac.jp/about/academic-path
関西学院中学部・高等部の卒業生・保護者・在校生の口コミ
ここでは、関西学院中学部・高等部に寄せられた生徒、保護者からの口コミを一部抜粋して紹介します。
キャンプや駆け足、聖書科の授業など、関西学院中学部・高等部ならではの特色ある教育活動への評価の声が多くあがっていました。生徒による挨拶が活発だったことが受験の決め手になったという声もありました。
その他に目立ったのが、施設面の充実をあげる声です。特に豊富な蔵書を誇る図書館や3DプリンターなどのICT設備、雨天でもランニングができる広々とした体育館、人工芝のグラウンドは生徒からも保護者からもとても好評でした。
▲充実の校内施設・設備に加え、甲山森林公園が近い緑あふれる環境が特徴的
関西学院中学部・高等部へのお問い合わせ
運営 | 学校法人関西学院 |
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電話番号 | 中学部:0798-51-0988 高等部:0798-51-0975 |
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