特色ある教育に取り組む“注目の学校”を紹介するこの企画。本記事では、東京都杉並区にある私立中高一貫の共学校「國學院大學久我山中学高等学校」を紹介します。
1944年に創設された同校は、共学校に分類されていますが、実際は「男女別学」の体制を取っています。ふだんは男女別々に学び、生徒会活動や学校行事、一部の部活動は一緒に取り組むことで、男女の特性を活かして伸ばしながら必要に応じて協力する姿勢を身につけていくのです。
そんな同校は、伝統的に理数教育に力を入れており、理科への興味関心を引き出す課外活動や、苦手を克服し数学的思考力を伸ばす工夫など、独自のカリキュラムが多数用意されています。また、クラブ活動を通して真摯に努力を重ねながら、文武両道で目標に向かって邁進する力を育てます。
今回は、國學院大學久我山中学高等学校の教育目標や取り組みについて、同校の教頭であり、広報部長も務める三戸先生にお話を伺いました。
この記事の目次
社会を生き抜く力を育む。國學院大學久我山中学高等学校の教育目標
▲高校男子の武道大会の様子
まずはじめに、御校の教育目標などについてお聞かせください。
國學院大學久我山中学高等学校は、終戦間際の1944年、戦後の日本の復興を担う若者の育成が急務であるという信念のもと創設されました。
開校以来、建学の精神として大切に掲げてきたのは「学園三箴(がくえんさんしん)」です。「忠君孝親」「明朗剛健」「研学練能」の3つの総称なのですが、現在はこれらをわかりやすく噛み砕いた言葉に変え、実践目標として生徒たちに伝えています。
その実践目標は、どんな言葉なのでしょうか。
「規律を守り誇りと勇気を持って責任を果たそう」「たがいに感謝の心をいだき明るいきずなを作ろう」そして、「たゆまざる努力に自らを鍛えたくましく生きよう」の3つです。
1つ目の「規律を守り誇りと勇気を持って責任を果たそう」は、正しい生活習慣を身につけ、任されたことをやり遂げようということ。さまざまな人と関わり、信頼関係を築くためには、挨拶や返事、時間厳守、TPOに応じた言動、身だしなみなどの基本が非常に大切になります。そのうえで、やるべきことに対し最後まで責任を持つ姿勢を身につけて社会に出ていってほしいという意味です。
2つ目の「たがいに感謝の心をいだき明るいきずなを作ろう」は、周囲の人に感謝の気持ちを持とうということ。ご両親や学校の先生、社会に対して感謝の気持ちを持ち、いろんな気遣いをできる人になってほしい。そういった気持ちが将来的には社会貢献につながっていくと考えています。
3つ目の「たゆまざる努力に自らを鍛えたくましく生きよう」は、諦めず真摯に努力を続けようということ。世の中、必ずしも自分の思った通りにいかないことが多いと思うのですが、たとえ失敗しても何度でも立ち上がって目標に向かって努力を重ねてほしいという想いを込めています。
どれも、生徒たちが社会に出た後を見据えたメッセージのようにも感じました。
そうですね。現代は多様化が進み、先が見えなくなってきていますが、生徒たちはそんな不安な社会を生き抜いていかなければなりません。雨が降っても風が吹いても揺るがないしっかりとした木になり、葉を茂らせ実を結ぶには、何より根っこが大切です。
生徒たちには、本校で6年間かけて社会でたくましく活躍するための根を張り巡らせる準備をしてもらいたい。そんなふうに考えています。
▲8回にわたって行われる能楽教室。自らを律し、心静かに取り組んでいる
環境を整え多くの実験を実施。國學院大學久我山中学高等学校の理数教育
國學院大學久我山中学高等学校は、理数教育に力を入れていると伺いましたがいかがでしょうか?
そうなんです。本校は國學院大學の附属校ですが、この大学は文学部や経済学部など文系の学部しかありません。もちろん理系の生徒でも希望すれば國學院大學を受験することはできますが、高校で理系学部への進学を選択したら自動的に他大学を受験することになります。ですから、私をはじめ理系の教員は、すべての生徒に希望の進路を叶えてほしいということで、昔から理系教育に力を入れてきたという背景があります。
以前は國學院大學へ進学するために入学してくる生徒が多かったのですが、近年ではさまざまな目標をもった生徒が集まるようになり、実績としても全国の文系・理系大学に進む卒業生が多くなってきました。
理系に力を入れているということですが、環境面でも整備されているのでしょうか?
はい。特徴的なのは、理科専用の実験棟である「理科会館」です。1階が化学、2階が物理、3階が生物、4階が地学と、階ごとに科目専用の実験室や教室があり、屋上には大きな天体望遠鏡を備えた天体観測ドームが設置されています。
この建物を使って、中学校では3年間で約70もの実験や観察を行っています。
▲理科専用の実験棟「理科会館」
70とはすごい数ですね!天体観測ドームはどんなシーンで利用するのでしょうか?
地学の授業でも使いますし、大きな天体イベントがある日には地学部の生徒を中心にみんなで観望会をすることもあります。たとえば、数年前の皆既月食の日には、下校時間を少しずらして天体観測を行いました。私も生徒と一緒に参加したのですが、月食のようすがきれいに見え、とても感動しましたね。
生徒たちもみんなはしゃいで、口々に「すごい!」「こんなふうに見えるんだ!」と歓声を上げていました。天体のようすを目の当たりにすることで、将来宇宙関係の仕事に就きたいと考える生徒もいるだろうと思いますし、そうではなくてもこのひとときは青春の1ページとして心に残っていくんだろうなと感じた時間でした。
科学への興味を引き出す「久我山サイエンスラボ」
▲「理科巡検」で訪れた富士風穴
ほかにも、理数教育関係で特徴的な取り組みがあれば教えてください。
「久我山サイエンスラボ」というものがあります。ここ1〜2年で理科の教員が中心になって立ち上げた取り組みで、生徒たちの理科的な興味関心を引き出すことを目指して、課外活動をしっかりと運営していこうという目的のもと企画されました。
具体的には、どのような取り組みなのでしょうか?
基本的には希望者が対象で、外部の方にお願いして行う講座と教員がメインとなって行う講座の2つの種類があります。たとえば「理科巡検」と称して、富士山で植生を調べたり、JAXAにお邪魔したり、南極の昭和基地の方とオンラインでお話しさせていただいたりと、あらゆる形で科学的な興味を掻き立てるよう工夫しています。
▲「理科巡検」で訪れた富士宮・白糸の滝
また、教員が行う授業も、理科教員と家庭科の教員がコラボして行うなど、とてもおもしろいんです。
たとえば、放課後にイカの解剖をした後に海鮮焼きそばにして食べるとか、某ファストフード店でいろんな部位のフライドチキンを購入し、骨を組み立てて元の鳥の形になるか検証して、最後にはスープにするとか。実験自体もすごく楽しいですし、作る料理がまたおいしいんです。こういった生徒の記憶に強く残るような取り組みをたくさん用意しています。
とても楽しそうですね!普段の授業やサイエンスラボでの取り組み全体を通して、生徒はどのように成長していると感じますか?
入学当初は訳もわからず言われた通りに実験しているだけといった感じなのですが、学年が上がるごとに学ぶ意義をだんだん掴めるようになる印象です。
まずしっかりと授業を受けて基本的な知識を頭に入れた後、自分で仮説を立てて実験をする。ところが、得られたデータを分析したら、自分が思ったのとは違う結果になることも多々あって、それが新たな疑問につながっていく…。
低学年のころは単に結果に一喜一憂するばかりなのですが、中学校3年間で少しずつ一連のサイクルを回しながら次のステップに進めるようになるんです。
この成長は、高校での学びにどうつながっていきますか?
自分の手で経験したことは、何ものにも代えがたいものだと思うんですね。記憶に残りますし、定着しやすくなります。特に高校では「やらされている」感覚ではなかなか力になりませんから、自分で興味を持って「これはどうなんだろう?」「こうしたらどうなる?」と好奇心旺盛にがんばる力につながっていきます。
科学の世界では、疑問を持ち、それを解消するために自ら取り組む姿勢が何より大切なので、その心構えを養う上で良い影響を与えているのではないかと思います。
丁寧なサポートで数学に必要な力を伸ばし、志望校に合格!
これまで理科を中心に伺ってきましたが、数学検定などの実施にも力を入れておられると伺いました。
そうですね。最難関国立大学の現役合格を目指す特別進学コースの「STクラス」では、数学検定が必修ですし、一般・CCクラスも含めた全クラスで計算力診断テストが必修です。論理的思考力を数学検定で育て、物事を効率よく処理する力を計算力診断テストで養うことで、数学に必要な力をバランスよく伸ばしています。
計算力診断テストは100点満点中80点が合格ラインで、クリアするまで何度も再試験があります。最初は授業中に実施し、不合格者が少なくなると放課後や試験休みに学校に来てもらって再試験を行います。嫌がる生徒も中にはいますが、揺るぎない計算力は大学でも必要になってくるものと考えているので、真摯に根気よく取り組めるようサポートしています。
三戸先生は数学の教員ということですが、生徒たちの姿で印象的なエピソードはありますか?
生徒の成長にはいつも驚かされてばかりなのですが、特に印象に残っているのは、入学時から6年間担任したSTクラスのある女子生徒です。その生徒は数学の成績が振るわず、保護者の方とも面談して「一般クラスに移ったほうがいいかもしれませんね」と相談していたほどでした。
あるときから、その生徒の苦手分野克服のために専用のプリントを渡すようになりました。家で問題を解いてきてもらって、添削してまた新しいプリントをつけて返すという風に、毎日毎日やり取りしたんです。すると、高校卒業時にはすっかり数学を克服して、みごとお茶の水女子大学に合格したんです。
すばらしいですね!
卒業式のときに、その生徒が「先生に添削してもらった数学のプリント、全部取ってあります!」と伝えに来てくれて、感動してしまいました。「こんなに頑張ったんだから大丈夫だ」と、自信を持って受験に取り組むことができたようです。
赤点を取っていたような生徒が、毎日自分の目標に向かって努力を継続することでこんなにも成長するのかと、私自身も勉強になったできごとでした。
御校の先生方の手厚いサポートぶりが伝わってきます。
私たちが考える学校や教員の使命は、生徒が希望する進路をきちんと選択できるような力を得るための支援を行うことだと思っています。本人の口から希望を聞いた瞬間から、それを実現するためのサポートをしっかり行おうというのは、本校の教員の共通の想いです。
勉強と両立して好成績を出す國學院大學久我山中学高等学校のクラブ活動
▲校舎横のグラウンド
御校は、クラブ活動への向き合い方にも少しこだわりがあるようですね。
そうなんです。久我山には、野球部やラグビー部など、近年、全国大会出場経験のあるクラブがいくつかあるのですが、練習時間がとても短いんです。
普段の練習は18時半までで、授業中に寝てしまっては意味がないということで朝練も禁止ですし、休日に校内で許される練習時間は3時間以内と、かなり制約が多いです。他校の先生にこの話をしたら、「信じられない」と言われてしまいました(笑)。
そこまで厳しく制限するのはなぜなのでしょう。
やはり部活だけではなく、何より勉強を頑張ってもらいたいと考えているからです。勉強で遅れを取っている生徒は次の日のクラブ練習に出ることができません。たとえ全国大会出場中でも、成績が悪ければ帰ってもらう。それくらいの覚悟で挑んでもらっています。
そのかいあってか、本校では文武両道の心構えでクラブ活動に取り組んでいる生徒がとても多いです。決してクラブだけに専念できる環境ではない中、勉強も頑張りつつ、本人たちは本気で全国大会出場を目指して努力しています。
冒頭にお伝えした「たゆまざる努力に自らを鍛えたくましく生きよう」という教育目標にも通じるのですが、常に目標に向かって真摯に努力する姿勢は、クラブ活動に向き合う中でも培われ、将来の糧になっていると感じています。
▲中学バスケットボール部の練習風景
もともと勉強をしっかり頑張ろうというまじめな雰囲気があるということでしょうか?
先輩の姿を見て自然とそういう考えになっていく印象です。スポーツの全国大会は冬場に行われることが多く、それが終わったらすぐに受験です。クラブに打ち込み、すぐに切り替えて大学受験に挑む先輩の姿を間近で見て、普段からどう努力すべきかしっかりと考えるようになるんです。
卒業生も大きな存在ですね。たまに学校に来てもらって大学合格体験談などを話してもらうのですが、在校生は驚くほど真剣に話を聞くんです。私たちがアドバイスするよりも、より立場の近い先輩に「クラブ活動だけじゃなくて、学校の勉強を欠かさないように」「予習復習をしっかりすれば大学受験も大丈夫だから頑張れ」と言ってもらうほうが響くんですよね。先輩の姿は、生徒たちにとってこれ以上ないお手本なのだと思います。
学年が上がれば自分も後輩たちのお手本になるときが来ると思いますが、どんなふうに成長していくのでしょうか?
常日頃から生徒に伝えているのは、「年が上=先輩」ではない、ということです。先輩とは、「きちんとやるべきことをやって、しっかり前に立ってそれを伝えることができる人」のことなんだよ、と。生徒たちは自分なりにそれを理解して、毎日努力を重ねることで上級生としての自覚を持った姿を見せてくれるようになっていくと感じています。
國學院大學久我山中学高等学校の特徴的な取り組み
独自のカリキュラムが目白押しの國學院大學久我山中学高等学校。ここからは、同校の特徴的な取り組みを2つご紹介します。
国際社会に貢献できる人材を育成する「CCクラス」
▲CCクラス「グローバルスタディーズ」授業の様子
ほかにも着目すべきカリキュラムがあれば、ぜひお聞かせください。
女子生徒を対象とした「CCクラス」では、国際社会に貢献できる人材の育成を目指して、国際交流に力を入れています。このコースで最も特徴的な取り組みは、多様性に気づき世界の人と協同する気持ちを育てる「グローバル・スタディーズ」という授業です。
具体的にはどんなことをするのでしょうか?
たとえば、日本で暮らす留学生をお招きして海外のことを学んだり、海外大使の方やJICA職員と交流したりします。また、アウトプットの場として、留学生向けに地元や日本文化を紹介したり、好きな国を一つ決め、その国について様々な面から調べ発表することもします。また、これはグローバルスタディーズとは別になりますが、希望者を募って英字新聞「Kugayama Times」の記事を企画・執筆したりもしています。
この「Kugayama Times」は編集者の指導を受けながら記事の企画・取材・英語での執筆・新聞風のレイアウトまで行うとても本格的なものです。過去には、「英字新聞甲子園」で準優勝を受賞したこともあるんですよ。
生徒が学校のルールを考えることも。生徒主体の学校運営
学校のルールを生徒自身が考えたりもするそうですね。
そうなんです。数年前には、「スマートフォンを学校に持ち込むには、どういう形だったら久我山にふさわしいか?」を生徒会中心に考えてもらいました。そのとき考案されたルールは「スマートフォン持ち込み5ヶ条」として校内のスマートフォン管理に使われているんです。生徒会の生徒たちは啓蒙活動のために動画まで作る力の入れようで、私もすごいなと感心しながら見守っています。
自分たちが考えたルールだからこそ、守ろうという気持ちになるのでしょうね。
そうだと思います。ひと昔前の久我山はトップダウンでただ校則を守らせるだけでしたが、今は生徒自身に考えさせ、自分で成長のきっかけを掴んでもらうようになりました。最初にお伝えした学校の理念や教育方針は変わらないのですが、それを体現するための手法が大きく変わってきていると思います。
國學院大學久我山中学高等学校からのメッセージ
▲インタビュー取材に応じてくださった教頭の三戸先生
最後に、記事をご覧のお子さんと保護者の方に向けてメッセージをお願いします。
本校に対するイメージを学外の方に聞くと、「厳しい学校」と言われることがあります。確かに、社会に出る前に挨拶や身だしなみなど当たり前のことができるようになってほしいという気持ちから、少しうるさく注意することはあるかもしれません。ですが、校則の内容自体はいたって普通ですし、生徒たちも自分の意思でルールを守ろうと頑張っているんです。
理数教育や各コースのカリキュラム、クラブ活動など、学校生活すべてを通して、多様化する社会を生き抜くための力がつく学校です。私たち自身も、どこに出しても恥ずかしくない生徒が育っていると自負しています。
もし興味を持っていただきましたら何でもお電話ください。1家族に1人、教員がついて学内を案内させていただき、個別のご相談にも応じます。ぜひ生徒の姿を実際にご覧いただいて、本校を進路のひとつに加えていただけたらうれしく思います。皆様のご来校をお待ちしております。
教育理念を大切に守り、それがすべてのカリキュラムの根底に流れているようすが印象的でした。また、生徒たちが学校生活にまじめに取り組み、努力を重ねている姿が伝わってきて、とてもすばらしいと感じました。本日はありがとうございました!
國學院大學久我山中学高等学校の進学実績
國學院大學の附属校でありながら、全国の大学に合格実績がある同校。毎年、難関国立大学や有名私立大学に多数の合格者を輩出しています。
2024年度は、東京大学、東京工業大学、一橋大学などの国公立大学に60名の生徒が合格しました。また、早稲田大学、慶應義塾大学、上智大学、東京理科大学(早慶上理)に277名、学習院大学、明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学(GMARCH)に548名、國學院大學に69名の生徒が進路を決めています。
■近年の大学合格実績(國學院大學久我山中学高等学校公式サイト)
https://www.kugayama-h.ed.jp/education/jisseki/
國學院大學久我山中学高等学校の保護者・在校生の口コミ
最後に、國學院大學久我山中学高等学校に通う生徒の保護者や在校生から寄せられた感想の一部をご紹介します。
勉強にもクラブ活動にもまじめに取り組む生徒が多く、サポート体制も手厚いという声が多数上がっていました。また、自主性を重んじているため、伸び伸び過ごせるという声もありました。
國學院大學久我山中学高等学校へのお問い合わせ
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