独自の教育を実践する注目の学校を紹介する本企画。今回は、神奈川県横浜市にある共学校「横浜高等学校」を紹介します。
同校は、アメリカ、カナダ、オーストラリア、フィリピン、台湾など世界各地の大学と提携し、海外の大学への進学機会を提供しているのが特徴です。また、校内には留学や海外大学への進学相談を受け付ける「グローバルアドミッションセンター」を設置し、生徒たちをサポートしています。
今回は、そんな横浜高等学校の教育方針や取り組みについて、教頭・入試広報部長を務める館山先生、探究学習推進部長の廣井先生、グローバル人財育成部 アドミッションオフィサーの佐藤先生にお話を伺いました。
この記事の目次
生徒一人ひとりを大切に想う、横浜高等学校の教育方針
▲取材に対応いただいた館山教頭先生
最初に、横浜高等学校の建学の精神や校訓など教育方針についてお聞かせください。
本校は、1942(昭和17)年に黒土四郎先生が創立しました。建学の精神は、三条五訓の校訓に込められています。
三条とは「信頼を受くる人となれ」「責任を重んぜよ」「秩序を守れ」です。男子校として開校しているので、男子の錬成育成にあたり柱となる三条と、それを実現するための五訓として「誠意」「総力」「努力」「創造」「忍耐」を定めています。
開校以来、長らく男子校でしたが、時代の流れに合わせて2020年に共学化しました。その際に、この校訓に新しい理念=ミッションを付け加えました。それが「思いやりあふれる青少年の育成」と「社会で活躍できるグローバル人財の育成」です。
「グローバル」という言葉が世間に広まっていましたので、本校も後れを取らないようにさまざまなプログラムを組みました。その中で、本校では重要なキーワードとして「人材」ではなく「人財」の文字を使っています。人は宝だという考え方です。
学校として、生徒一人ひとりを大切にし、彼らが社会で恥じない行動ができるグローバルな視野をもつ人間に育成するというビジョンをもっています。このため、本校ではグローバル教育の推進に力を入れています。
仕事体験を組み込んだ、横浜高等学校の多彩なグローバルプログラム
▲グローバル人財育成部 アドミッションオフィサーの佐藤先生
グローバル教育における横浜高等学校の特徴的な取り組みについてお聞かせください。
本校ではさまざまな独自のプログラムを用意しています。まず、高校の夏休みに行くニュージーランド短期海外研修プログラムです。これは語学というよりも、文化間交流に重きを置いており、午前中は現地の高校に通いながら、午後はインターンシップを行います。いろいろな街中のお店や工房で、英語でコミュニケーションをとりながら、実際に仕事をする就労体験を取り入れたプログラムとなっています。
短期海外研修プログラムで就労体験はあまり聞いたことがないのですが、どういったお仕事を体験されるのでしょうか?
例えば、観光案内所です。パンフレットを並べたり、掃除をしたり、お客さんの対応・案内をします。お土産屋さんもあります。お店の方の指示通りに商品をレイアウトしたり、営業活動に同行したりします。また、お土産屋さんに卸すぬいぐるみやキーホルダーを作ったり、作ったものをお土産屋さんに卸しに行ったりする仕事もあります。
そのほか、動物保護所で働くケースもあります。ニュージーランドには野良馬や野良羊がいますが、なぜ野良になってしまったのか、現地の方々と一緒に話をしながら、その動物愛護の観点からどうするべきかを考えます。
日本でもできることではあるのですが、海外で実践することによって生徒たちの心にも響きやすいということで、このプログラムを取り入れています。
加えて、高校2年生の3学期には3ヶ月間のターム留学を実施しています。本校には、ニュージーランドに提携校が6校ありますので、その提携先の高校へ通学し、そこでの成績、出席日数等を本校の成績とみなし、帰国後は3年生に進級することができます。
▲ニュージーランドでのターム留学
短期海外研修の狙いは、どういったところにあるのでしょうか?
同じ目標に向かって取り組む際に、違ったやり方や考え方があることに生徒たちは気づきます。そして、それが短期海外研修の目的でもあります。
同じことを同じやり方で行うなら、高いお金を払って海外に行く必要はありません。あえて異なる文化や考え方に触れるために海外へ行くのです。例えば、日本ではこういう考え方や取り組み方が多いのに対して、ニュージーランドでは違った考え方や作業工程があることを体験できます。
そのため、生徒たちの心のハードルを下げるために「異文化体験」とは言わず、「文化間交流」と呼んでいます。「異文化」という言葉は違いを強調しすぎてしまい、拒否反応を引き起こすことがあります。しかし、「文化間交流」という言葉を使うことで、最初から違いを前提とし、その違いにどう向き合うかを考えさせることができます。
生徒たちには、自分たちの文化や考え方と他国の文化や考え方の橋渡しをすることが重要だと伝えています。そのため「文化間交流」として生徒たちに案内しています。
「グローバルアドミッションセンター」で留学をサポート
▲留学相談室「グローバルアドミッションセンター」を校内に設置
短期やターム留学以外にも、長期の留学制度もあるのでしょうか?
はい。在学中には、各個人のレベルによって1年間の留学も可能です。海外の高校に進学、編入し、1年間学んで帰国した場合、現地での成績や出席日数などを進級の要件として扱うため、留年することなく進級、あるいは卒業できます。年に2~3人がこの制度を使って留学しています。
さらに本校では、海外の大学に進学するルートをもっております。これは2020年の共学化に向けた取り組みとして、2017年から準備を進めていたものです。
2018年以降、海外の大学との提携が進み、現在ではアメリカ、カナダ、オーストラリア、フィリピン、そして2021年に提携した台湾などの国々で合計10大学と提携を実現しています。本校独自での成績基準をクリアした場合、現地の大学への進学が可能になっております。
ただ、海外進学の制度を整えたところで、コロナ禍の影響で渡航ができない期間があり、残念ながら共学1期生は、その制度を使って大学進学には至りませんでした。しかし、それ以降の去年(2023年)、今年(2024年)3月の卒業生では各10名前後の生徒が海外の大学に進学しています。
留学や海外大学への進学に関して、生徒の皆さんにどんなサポートをしていますか?
校内に「グローバルアドミッションセンター」を設置し、個別の留学相談に対応しています。
相談内容は、高校時代にどこかへ留学したいといった漠然としたものから、卒業後に海外の大学に進学したいという相談までさまざまです。何を学びたいのか、どういう国でどんなことをやりたいのか、各国の大学制度の違いに応じて費用的なことも違いますので、そういったことも含めて情報提供しながら相談にのります。
費用のことが絡んできたときは最終的に保護者の方も一緒に来ていただくことになります。年間に30件~40件ぐらいの相談があります。先ほど海外の大学へ進学する生徒は10名前後だと言いましたが、本校独自の語学の基準に達しておらずに断念した生徒もいます。また、近年では現地のインフレに加えて円安の問題もあり、当初の予算を大きく上回り、断念したご家庭もあります。
本校では、やりたいことが海外にあるのなら円安でも諦めず、どういうルートを使えばコストを押さえられるかも含めて情報提供しています。最近ではアジア圏経由で欧米圏へ進学をするという取り組みもあり、例えば、オーストラリアの場合には、オーストラリアの大学が持っているマレーシアキャンパス、ベトナムキャンパスを経由するなど、現地スタッフと本校の両者で検討しています。
在学中の留学や卒業後の大学進学について、本校では、生徒一人ひとりの夢や希望、事情を考慮しながら、多彩な選択肢を提供することができます。
▲留学生との交流
主体的に学ぶ力を身につける横浜高等学校の探究学習|2024年度よりスタート
▲探究学習推進部長の廣井先生
探究学習における、横浜高等学校の特徴的な取り組みについて教えてください。
2024年度、本校には「探究学習推進部」が発足しました。今は具体的な取り組みについて地盤を固めている段階ということをご承知いただければと思います。
三条五訓に基づいた教育活動を通じて、生徒が主体的に学校生活が送れるようにさまざまな取り組みを行っている私たちは、修学旅行やグローバル教育、部活動、生徒会、そして学校の施設も生徒が自由に活用できるような工夫をしています。これらの環境を活用して、生徒が自由で主体的に学び、学ぶ楽しさや自分の興味を広げていくことを目指しています。
今後は、各教科を横断する取り組みを強化していく予定です。例えば、国語、数学、理科、英語、社会の主要5教科と情報科目を通じて、生徒が自ら学ぶ力を養うことを目指します。
具体的には、国語は言語能力を、情報では情報リテラシーや情報収集、情報を精査する能力を、英語ではグローバルな視点を、数学では論理的思考力を、理科では根拠に基づいた考え方を身につけさせます。そして、社会科では、実際の社会と照らし合わせながら課題を発見・設定し、その解決方法を模索する力を育みます。
各教科で培った探究力を総合的に深め、自分で問題を解決するための主体的な学びの力を身につけてほしいと考えています。そのために、さまざまな構想を練っています。
社会科などでテーマを基に話し合う、将来を考えた「探究発表」
▲授業で探究学習を実践している様子
具体的に、どのように探究学習を進めていくのかという一例をお教えいただけますか?
プランとしては、最終的に社会の実態に根差した「探究発表」をゴールにできればと考えています。特に社会の授業が一番肝になりますので、それを軸にしながら、各教科で必要な力を割り振って、どのように実践できるかを考えています。
その一環として、公民科の新科目である「公共」の授業の中で、生徒自身が設定したテーマに対して考え、資料を用いて発表してもらうことを試験的に行いました。テーマをいくつか紹介しますと、「法によって治安が守られるのか」や「倒産しそうな企業を立て直す必要はあるのかどうか」、「安楽死を認めること、これは選択をした本人以外にも影響を与えるかどうか」などがありました。
それらのテーマに対していろいろな意見が出て、それを生徒同士で議論しあったと思うのですが、最終的にどういった形にするのでしょうか?
自分の設定テーマをより深い理解に結び付けて、社会における自分の関わり方を見つめ直すきっかけになりました。全校生徒2,000人以上で行うと、同じような問いを立てる生徒も多く出てくると思います。同じ問いを立てた生徒が集まって、共通の解決方法を模索できる機会をつくることもできれば、この規模ならではの有意義な活動になると思っています。
探究学習を通じて、生徒たちにはどのように成長してほしいですか?
探究的な学びを通じて、社会で活躍できるグローバルな人財になってほしいと考えています。社会に出てから、指示を待つのではなく、学生のうちから自ら学ぶ姿勢をしっかりともってもらいたいのです。これにより、社会に出たときに、意義をもって働く姿勢が身につきます。そして、それが生きる姿勢にもつながっていくと思っています。
横浜高等学校からのメッセージ
最後に、横浜高等学校へ入学することでどのような学びや経験を得られるのか、御校に興味をもった生徒や保護者の方に向けてメッセージをお願いします。
高校生は大人への入り口に立っています。多くの生徒は、高校生活では、部活動や学校行事を中心に楽しみながら学びを深めることを望んでいます。高校は、多様な生徒が集まる場であり、自分の居場所を見つけ、主体的に学び、将来のライフデザインやキャリアデザインを描くための重要なステップです。
本校での高校生活を通じて、社会で活躍するために必要なスキルや知識を身につけることができます。自分の未来を見つけ、主体的に学び、卒業後の人生をデザインするための場所として本校を捉えていただければうれしいと考えております。
もし興味をもっていただけたのであれば、ぜひ一度駅から近い本校に足を運び、学校の雰囲気を感じてみてください。
本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
横浜高等学校の進路実績
▲ラーニングルームでの自習風景
横浜高等学校では、ほとんどすべての生徒が進学しており、2023(令和5)年度の大学合格状況としては、海外大学には10名が合格、国公立大学へは、東北大学、お茶の水女子大学、東京農工大学、秋田大学、山形大学、山梨大学、神奈川県立保健福祉大学、横浜市立大学、高崎経済大学など21名が合格しました。
私立大学は、早慶上理12名、GMARCH37名、成成明学獨國武25名(うち既卒生1名)、日東駒専111名、そのほかの私立大学には681名が合格しています。
■進学実績(横浜高等学校公式サイト)
https://www.yokohama-jsh.ac.jp/career/guidance/
横浜高等学校の在校生・卒業生の声
▲広い敷地には緑も多くゆったりと過ごせる。施設が充実していることも同校の特徴
ここからは、横浜高等学校の在校生や卒業生の声を紹介します。
※在校生・卒業生の声は学校公式サイトから引用しています。
横浜高等学校へのお問い合わせ
運営 | 横浜高等学校 |
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住所 | 神奈川県横浜市金沢区能見台通46-1 |
電話番号 | 045-781-3396 |
公式サイト | https://www.yokohama-jsh.ac.jp/ |
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