近江兄弟社中学校の豊かな知性を育む「命を大切にする教育」と「探究学習」|併設型中高一貫校

特色ある教育プログラムを実践し、次世代を担う人材を育成する学校を特集するこの企画。今回は滋賀県近江八幡市にある「近江兄弟社中学校」を紹介します。

近江兄弟社中学校は、学校法人ヴォーリズ学園が運営する私立共学の併設型中高一貫校です。1922年にヴォーリズ夫妻によって設立された同校は、キリスト教主義の教育に基づく人間力の育成に取り組んでいます。聖書の教えである「隣人愛を持ち、奉仕の精神を持って行動できる」人材の育成を目標として、いのちを大切にする教育を実施しています。

また3年前より「英語教育」「ICT教育」「探究学習」の3本柱を軸に教育改革を推進し、特に探究学習に力を入れ、「近江八幡から関西へ、関西から日本へ、そして地域に貢献」をコンセプトに取り組んでいます。

今回は同校の中高入試・連携部長を務める植田健先生に、建学の精神や「いのちを大切にする教育」などの教育プログラムの特徴を伺いました。

近江兄弟社中学校が大切にする建学の精神と学園訓

学校法人ヴォーリズ学園近江兄弟社中学校の植田健先生

▲近江兄弟社中学校で中高入試・連携部長を務める植田健先生

編集部

はじめに、近江兄弟社中学校の建学の精神についてお聞かせいただけますでしょうか。

植田先生

「イエス・キリストを模範とする人間教育」を建学の精神とする当校は、キリスト教主義の教育を行う併設型の中高一貫校です。建築家として知られるウィリアム・メレル・ヴォーリズ氏と、その妻・一柳満喜子氏によって1922年に創立された学校法人ヴォーリズ学園に所属しており、今から102年前に幼稚園からスタートしました。

ヴォーリズ学園の創設者ウィリアム・メレル・ヴォーリズとその妻・一柳満喜子

▲ヴォーリズ学園の創設者ヴォーリズ夫妻

ヴォーリズ学園の設立のきっかけは、ヴォーリズ氏が英語教師として来日した際に、華族の令嬢だった満喜子さんと出会ったことです。

若くしてアメリカで幼児教育を学んで帰国した満喜子さんは、クリスチャンであるヴォーリズ氏のキリスト教信仰や教育に対する考えに共感し、やがて結婚、1920年に未就学児を対象とした学童保育「清友園」を始めました。

編集部

夫妻の思いや精神は、近江兄弟社中学校の教育にどのように活かされているのでしょうか。

植田先生

「自己統制力のある自由人の教育」、「独立自主、創造力に富む人の教育」、「愛と信仰をもった知性豊かな国際人の教育」という我が校の教育目標に、「ヴォーリズ・スピリット」が引き継がれています。

また、学園訓として聖書にある「地の塩・世の光」という言葉を大切にしています。塩と光は生きていく上でなくてはならないものです。例えば塩は、自らを溶かして味付けしたり、肉の腐敗を防いだりします。光を灯すろうそくは、自らを燃やしながら暗闇を照らし、周囲に温もりをもたらします。このように、自分のことは少し我慢をしてでも、キリストの教えである隣人愛を持ち、奉仕の精神を持って行動できる人材育成を目標としています。

近江兄弟社中学校の「いのちを大切にする教育」

学校法人ヴォーリズ学園近江兄弟社中学校の礼拝の様子

編集部

御校ではいのちを大切にする教育を実践されているそうですが、どのようなものなのでしょうか?

植田先生

「地の塩・世の光」という学園訓が意味するように、自分の命も他者の命も大切にする人財を育てることが当校のキリスト教主義教育です。

キリスト教主義の教育や宗教心は、日本人にとって近寄りがたいイメージを持たれがちですが、当校の「いのちを大切にする教育」を通して子どもたちが自分自身のいのちを大切にできること、他者のいのちを大切にできること、この世にいのちを与えられた全てのものを大切にできること、それらを目指して日々の教育活動を行っています。

編集部

「いのちを大切にする教育」は、御校の建学の精神からつながっているのですね。具体的な取り組みについてお聞かせください。

植田先生

まず、当校では道徳にあたる聖書の授業を中学から高校まで週1時間ずつと、朝の礼拝を毎日行ってます。礼拝は曜日ごとに異なっており、月曜日と金曜日のクラス礼拝では、宗教委員が中心となって生徒が自主的に運営します。讃美歌を歌う際の伴奏も生徒が行います。

また、英語教育を教育の三本柱とする当校では礼拝も全て英語で行われます。

学校法人ヴォーリズ学園近江兄弟社中学校・高等学校の聖書

植田先生

水曜日は、550人ほど収容できる本校の礼拝堂で全体礼拝を行います。この礼拝は最も厳かな形式となっており、TPOの指導も厳しく行っています。

火曜日と木曜日は中高合同による放送礼拝があります。放送礼拝では教員が5分程度、月のテーマに即した話をします。生徒たちは聞くだけではなく、「礼拝のこころえ」という冊子に要旨をまとめたり、感想を書いたりします。

このように、年間80回、中学3年で240回、高校に進学した場合は480回の放送礼拝を行っています。これは、キリスト教主義の教育を行う学校のなかでも珍しい実践と思われます。

自主性や思考をまとめる力が身につき、感性や心を磨くことがきできる

学校法人ヴォーリズ学園近江兄弟社中学校・高等学校の「礼拝のこころえ」

編集部

毎日の礼拝は、御校の教育活動にどのような影響をもたらしていると思われますか?

植田先生

「いのちを大切にする教育」は毎日の礼拝を通し、着実に生徒に浸透していると感じます。また、さまざまな形式の礼拝を行うことで自然と場に合わせた行動を取れるようになります。礼拝は感性や心を磨くことにおいて、一番の肝になっていると思われます。

例えば、クラス礼拝を見ていつも私が感心するのは、生徒が輪番制で好きな聖書の聖句をあげ、自分の思いを1〜2分程度スピーチすることです。聖書を自分なりに解釈し、しっかり話ができるというのは、他の教育活動にも良い影響を及ぼしていると感じます。

また教員がそれぞれの得意な分野や、生徒の心を惹きつける話をする放送礼拝を通じて、生徒たちは多様な価値観や話題、社会的なテーマに触れることができます。自身が感じたこと、思ったことを「礼拝のこころえ」に書くことで、文章にまとめる力も自然と身につけることができます。

編集部

近江兄弟社中学校では、卒業時も生徒が聖書の内容をレポートにまとめて提出されるそうですね。

植田先生

聖書論文を3年生の12月に提出します。クラス礼拝で好きな聖書の聖句を見つけ、細かな内容をまとめているので、聖書論文ではそれらを大きな文章にまとめる作業になります。優秀な論文に関しては、当校のホームページに掲載しています。

聖書論文とはいえ、聖書の内容に限定されるものではなく、学校生活の中で学んだことを自由に意見ができる内容となっています。

奉仕の心を育むボランティア活動

編集部

「いのちのを大切にする教育」の一環として、御校ではボランティア活動に取り組まれているとのことですが、具体的な活動についてお聞かせください。

植田先生

大きなものではクリスマス礼拝が挙げられます。クリスマスシーズンに、日頃からお世話になっている事業所や近くのショッピングセンター、ヴォーリズ学園グループの老人介護施設に出向き、讃美歌を歌うボランティア活動をしています。おかげさまで毎年多くの方にお喜びいただいております。

生徒はボランティア活動を通して自分たちの思いを表現することで、地域への感謝の気持ちを表すことができます。また、自然と自分がしてほしいと思うことを、人に対してもやろうという、奉仕の心が育まれます。

日本の学校教育はどちらかというと「迷惑になるかもしれないことはやらない」という考えが中心の教育活動です。それに対し、キリスト教主義の教育は、「してほしいと思っているだろう」ということを、積極的に実践しましょうという考えがあります。当校ではこの考えを奉仕活動として実践しています。

「人のために役立つ仕事がしたい」と福祉・医療の道に進む卒業生が多数

学校法人ヴォーリズ学園近江兄弟社中学校の体育祭の様子

編集部

「いのちを大切にする教育」の教えによる、生徒の変化を感じることはありますか?

植田先生

生徒の進路に大きく影響を及ぼしていると感じます。人を笑顔にしたり、困っている人を助けてあげたりするような福祉や医療の道に進む生徒が多いと感じます。最近ではヴォーリズ学園グループの保育園・こども園や病院・老人介護施設に就職する卒業生が増えています。このような進路傾向にも、周囲の人のためになる仕事に就きたいという思いが表れていると感じます。

当校は中学校から高校に進む段階で、4割から半分の生徒が外部の高校に進学します。私自身、高校で教員を20年ほど経験した後、3年前に中学へ異動してきたのですが、外部進学をした卒業生からも中学校時代に経験した隣人愛の精神が、人のために役立つ仕事がしたいという、後の進路に大きく影響しているという声が届いています。

当校の「いのちを大切にする教育」は、偏差値のように定量的に測れるものではありません。しかし、生徒たちは聖書の教えに基づく教育を受けてきたからこそ、優しい言葉がけや行動ができていると思われます。

その成果がどこに表れるかは測りづらいのですが、優しさを持って人に対応する当校の生徒の姿を見た地域の方々に「兄弟社生らしいな」と言われることが、「いのちを大切にする教育」の成果だと思っています。

「探究学習」「英語教育」「ICT教育」を軸に教育改革を推進

学校法人ヴォーリズ学園近江兄弟社中学校の探究学習の様子

近江兄弟社中学校では、3年前より「英語教育」、「ICT教育」「探究学習」の3本柱を軸に、教育改革が進められています。そのなかでも特に注力されている「探究学習」をメインに話を伺いました。

近江兄弟社中学校の進路指導へのリンクも視野に入れた「探究学習」

学校法人ヴォーリズ学園近江兄弟社中学校の探究学習の様子

編集部

近江兄弟社中学校では、探究型授業にも力を入れているとのことですが、こちらはどのような内容なのでしょうか。

植田先生

当校の探究学習は、「近江八幡から関西へ、関西から日本へ、そして地域に貢献」をコンセプトに取り組んでいます。

具体的には課外授業の一環である研修旅行で、各学年ごとに探究テーマを作ります。1年生は京都に出向き、探究をスタートしやすい歴史や地理などから近江八幡との比較をします。2年生に上がると、関西から日本へさらに探究のエリアを広げていきます。また、平和学習を兼ね、沖縄への研修旅行を実施しています。

3年生には進路を自分たちで考える機会を与えます。特に外部へ進学する生徒にとっては、近江兄弟社での学びを中学3年生で完結することになるので、これまで培った探究の視野を自分の人生にフォーカスし、社会にどのように貢献していくかというテーマに事前学習、事後学習、進路学習をリンクさせ、向き合います。

探究学習はスタートから3年目ということもありまだまだ改善の余地はありますが、当校の探究学習の意図を理解して動いてくれる生徒がたくさんいるので、コンセプトを日々改善しながら進めている段階です。

学校法人ヴォーリズ学園近江兄弟社中学校の探究学習の様子

▲探究学習のなかでグループで企業訪問を行っている様子

編集部

学年によって、内容だけでなく探究学習への取り組み方が異なるのでしょうか?

植田先生

1年生はグループでの発表を最終目標に取り組みます。クラスを6〜7つにグループ分けをし、探究の活動を通して人の意見を聞いたりまとめたりする力を身につけ、自分のグループの探究テーマを深めます。

2年生ではそれを個人に落とし込み、個人で探究します。1年次は1つのグループに対し1〜2名の教員が入りそれぞれのグループをフォローするのに対し、2年生は教員全体で個々をフォローする体制です。3年も引き続き個人での探究になります。

地元民や観光客へのインタビュー・アンケートから探究学習をスタート

学校法人ヴォーリズ学園近江兄弟社中学校の探究学習の様子

編集部

各学年の探究学習への具体的な取り組みについて教えてください。

植田先生

1年生はグループで、地元の方や近江八幡に訪れた観光客へのインタビュー・アンケートを中心に活動します。個人テーマに移行する2年生は、近江八幡駅など人が集まるスポットに許可をいただき、個人でインタビューやアンケートを実施します。英語を得意とする生徒のなかには、外国の方に臆することなく話しかける生徒もいます。

母体であるヴォーリズ学園は創立から100年以上の歴史ある学園なので、卒業生が事業をしているケースも多く、近江八幡で活動している後輩たちを見かけると手を差し伸べてくださることもあります。

インタビューの他には蔵書が豊富な中高共有の図書館で調べたり、ICT教育の一環で全生徒に配布しているiPadを使って調べたりもします。また、4時間目から完全に探究だけを行う年1回の探究ウィークの時間は、フィールドワークに出かけます。

学校法人ヴォーリズ学園近江兄弟社中学校の図書館、iPadを活用した探究学習の様子

▲中高共有の図書館や、全生徒に配布されたiPadで調べ学習をすることも多い

編集部

自主的かつ、積極性が求められる探究学習ですが、テーマが偏ってしまうこともあるのではないでしょうか。

植田先生

探究学習に取り組み始めてから2年ほど経過した時、研究テーマが偏ってしまったことがありました。前年に食をテーマに取り組んだグループの探究学習が非常に生徒に好評で、それをお手本に食をテーマに選ぶグループが多かったことがその理由です。

探究テーマに関してはわれわれ教員もただの調べ学習で終わってしまうレベルにならないよう、尽力する方針です。

探究学習をきっかけに、生徒は進路や将来に真摯に向き合うようになる

学校法人ヴォーリズ学園近江兄弟社中学校の探究学習の様子

編集部

御校での探究学習を通し、生徒の成長を実感したエピソードなどがあればお聞かせください。

植田先生

1年生は3月にグループで作ったポスターを並べて掲示し、ポスターセッションをします。グループ全員に役割分担をして最終目標である発表に取り組むので、プレゼンテーションの知識や技術は大変上がったように感じます。

2年生はクラスごとにコンペを行い、選ばれた代表者によるプレゼンテーションコンテストを実施します。やはり代表者へのリスペクトが強く、どうやって調べたかなど、質問している生徒の様子からは探究学習への前向きな姿勢が伺えます。

また1年生の京都研修では、JTBの協力のもと「京都B&Sプログラム(※)」に参加したり、2年生は沖縄国際大学と交流したりなど、大学生と交流することで進路や将来を考えるきっかけになっているように感じます。

(※)京都の現役大学生たちが修学旅行等で京都を訪れた中高校生に対し「飾らない京都の魅力」「学びと未来への気づき」を発信、想像する教育プログラム

進路を考える際、以前は自分の成績と偏差値で決める生徒が多かったですが、探究学習に取り組むようになってからは、「この高校に行くにはどうすればいいですか?」といった質問が増えた印象です。学び方を変えると、進路に対する意識や考え方にも変化があることを実感しています。

近江兄弟社中学の積極性を養う英語教育

編集部

近江兄弟社中学校の教育改革の3本柱の1つ、「英語教育」における特徴的な取り組みについてご紹介いただけますでしょうか。

植田先生

7月に行われるEnglish Festivalと月に1回のEnglish Weekがあります。English Festivalでは1年生が英語のスキット、2年生がレシテーション、3年生は質疑応答も含めたプレゼンテーションを行います。English Weekでは職員室に入室してきた生徒、それに応対する教員も全て英語で話します。

もちろん全員が完璧にできるわけではなく、社会の教員である私も問答シートを見ながら生徒と一緒に英語を学んでいます。このような環境では生徒、教員共に英語を使わざるを得ないので、自ずと積極性が育まれます。結果、自分の考えや意見をはっきりと言える人間に成長していくのだと思われます。

近江兄弟社中学校からのメッセージ

学校法人ヴォーリズ学園近江兄弟社中学校の校舎

編集部

最後に、近江兄弟社中学校に興味を持った読者の方に向けてメッセージをお願いします。

植田先生

本校は、地域に根ざした私立学校です。古くからの伝統を守りながら最新の教育内容や設備を取り入れることで基礎的な学力を徹底して身に付けることができます。

その強固な土台の上に自ら学ぶ探究型の学力向上に取り組むと同時に、学力指標だけでは表現しづらい真の教育である人間力の育成を目指しています。ぜひ、オープンキャンパスにお越しいただき、生徒の学校生活の様子や周辺の環境を実際に感じていただけたら幸いです。

編集部

本日はありがとうございました。

近江兄弟社中学校の進学実績

学校法人ヴォーリズ学園近江兄弟社中学校の礼拝堂

近江兄弟社中学校の2023年の進学状況を見ると、約6割が併設校の近江兄弟社高等学校に進学しています。外部進学では滋賀県立膳所高等学校や滋賀県立彦根東高等学校への合格者を数多く輩出しています。

■近江兄弟社中学校の進学実績(公式サイト)
https://www.vories.ac.jp/omibh-jhs/career/achievements

近江兄弟社中学校の卒業生・保護者・在校生の口コミ

ここでは、近江兄弟社中学校に寄せられた在校生や卒業生の方の口コミを一部抜粋して紹介します。

勉強も部活も両立できるバランスの取れた学校です。優しい先生が多く、面白い先生もたくさんいます。(卒業生)

英語に力を入れているので、英語を真剣に学びたい人に向いています(在校生)

品がある生徒が多く、落ち着いた環境で学校生活を送ることができます。英語を中心に勉強を頑張りたい意欲のある人に向いています。(卒業生)

中高共有の立派な図書館が使えるので、テスト前などは集中して勉強ができます。(在校生)

勉強で分からないことは、納得できるまで先生が丁寧に教えてくれます。(在校生)

在校生を中心に多く寄せられたのが、英語教育への評価です。また、丁寧な指導をする先生や施設の充実度にも高い評価が寄せられていました。

近江兄弟社中学校へのお問い合わせ

運営 学校法人ヴォーリズ学園
住所 滋賀県近江八幡市市井町177
電話番号 0748-32-3444
問い合わせ先 問い合わせフォーム
公式ページ https://www.vories.ac.jp/omibh-jhs

※詳しくは公式ページでご確認ください