独自の教育を実践する注目の学校を紹介する本企画。今回は、東京都目黒区にある共学校「トキワ松学園小学校」を紹介します。
同校は、少数制のきめ細かなサポートのもと、実践的な学びを重視し、宿泊学習プログラムを数多く取り入れています。また、2023年度からは演劇の要素を取り入れた「劇遊び」の授業を導入し、児童の表現力や想像力、協働性の育成に努めています。
今回は、そんなトキワ松学園小学校の教育理念や特徴的な取り組みについて、同校の校長を務める百合岡先生にお話を伺いました。
この記事の目次
個性を伸ばしながら強さと優しさを養うトキワ松学園小学校の教育理念
最初に、御校の建学の精神や教育目標等についてお聞かせください。
本学園の創立は、大正5(1916)年です。当時の社会状況の中で、学びたくても学べない女子のために、小さくても温かい学校を作ろうということで創立されました。創立者である三角錫子(みすみすずこ)先生は「皆が自由に楽しく学べばよい、子供達が銘々持って生れた天分を伸び伸びと伸ばしてさえあげればよいのだ。」との言葉を残しています。
さらに「鋼鉄(はがね)に一輪のすみれの花を添えて」と謳っており、強さと優しさを兼ね備えた、バランスの良い人間を育てることがトキワ松学園全体の建学の精神であり、ポリシーになっています。
トキワ松学園は、併設する中学・高等学校が先に開校し、本校は男女共学の小学校として1951年に設立されました。開校時、初代校長である丸山丈作先生が「モロモロノ恵ミヲワスレズ常ニ善イコトヲスル。体ヲ強クスル。カシコクナル。ヨク働ク。ムダヲシナイ。」を校訓として掲げました。
この校訓を後に、5代目の校長が小学生にもよりわかりやすく簡潔に「健康・感謝・親切・努力」の4つの言葉にまとめたものが、現在の教育目標となっています。
▲トキワ松学園小学校の校訓
小学校開校以前は漢字で「常磐松学園」だったのが、カタカナに変わったのですね。
本校初代校長の丸山先生はカナ文字論者であり、カナ文字の書きやすさ、読みやすさを重視して使用を推進しました。戦後、小学校が設置されるタイミングで校名を漢字からカタカナに変える大転換をしました。
校名こそ漢字からカタカナに変わりましたが、学園の精神や姿勢は変わらないということでしょうか?
その通りです。三角先生の言葉にある「小さくても温かな学校」の通り、小学校は設立時から1学年40数名の規模で、現在は2クラス(1クラス約23名)の少人数体制で教育活動を行っています。
「トキワ松ファミリー」として保護者との結びつきも強い
▲保護者による読み聞かせボランティア
御校の公式サイトやパンフレットを拝見していると「トキワ松ファミリー」という言葉を頻繁に目にしますが、これはなぜでしょうか?
児童だけでなく、保護者や卒業生との関係性の深さや、同じ敷地内に中高生がいることなどから、学園全体でひとつのファミリーとしての感覚があるためですね。
本校には卒業生の会だけでなく、卒業生の保護者の組織もあります。自分のお子さんが卒業してからも「トキワ松ファミリー」として、本校を応援してくださったり、学校に遊びに来てくださったりします。保護者の方々のあたたかさも、本校の特色の1つといえるでしょう。
保護者の方々は、日頃の教育活動にもさまざまな協力をして下さいます。例えば図書ボランティアとして図書の整理作業を手伝って下さったり、読書週間で読み聞かせをして下さったりします。また、学園行事であるバザーでは毎年保護者の方々が中心となって企画・運営して下さいます。
運動会や演劇鑑賞教室など、保護者参加の行事も多くあります。保護者の方からは「子どもと一緒に小学校生活を楽しんでいます」といったお声も多くいただきます。
▲保護者主体で開催されるバザー
豊かな情操と人間関係を育む、トキワ松学園小学校の体験型プログラム
▲3年生・4年生・5年生の3学年で実施する宿泊学習のスキー教室
トキワ松学園小学校独自の取り組みや特徴的な教育プログラムについてお聞かせください。
本校は少人数であることを生かしながら、バラエティーに富んだ学校行事、特に宿泊学習を多く設定しています。
具体的には、2年生から宿泊学習があります。2年生は、宿泊学習に慣れつつ、特別感も味わえるよう、学校にお泊まり(1泊)します。校庭でスイカを食べたり、水鉄砲で遊んだりしますし、その後はみんなで近くの銭湯に行って、夜の学校探検をして、和室に布団を敷いて寝るのです。
3年生から6年生までは、それぞれ1学期と3学期の年2回、宿泊行事があります。
1学期は、3年生は2泊3日で海の教室、4・5年生は縦割りで山登りなどをする3泊4日の山の教室、6年生は自然の中で農業やアクティビティを体験する3泊4日の自然体験教室です。うち1泊はグループに分かれて農家のお宅に民泊させてもらいます。
もう1つ、3学期になると3・4・5年生の3学年でスキー学校に行きます。初代校長の丸山丈作先生の体を強くすることが大事という考えのもと、全国の小学校の中でもいち早くスキー教室を取り入れました。6年生は3泊4日で京都・奈良方面へ修学旅行に行きます。
さらに、春休みには希望者(全学年の児童、保護者、卒業生)が参加できる3泊4日のスキー行事「さつき会スキークラブ」があります。卒業生がコーチになって子どもたちにスキーを教えてくれます。
▲在校生・保護者・卒業生の“トキワ松ファミリー”が参加する「さつき会スキークラブ」
リーダーシップが芽生える。豊かな人間関係の育成と行事前後の学び
▲6年生の宿泊学習は農業の自然体験
それらの宿泊行事はどういった目的で行われているのでしょうか?
宿泊行事には、子どもたちをトータルで育てる力があります。まず生活をともにしますので、助け合いの心が芽生えますし、お互いを理解し、新たな一面を知ることもできます。
また、友だちと体験を共有することによって、後で振り返ったときに、共感し合ったり、多角的に理解できたりします。共通の思い出としても心に深く刻まれます。
4・5年生の縦割りでの山の教室では、5年生がリーダーシップを取り、登山や部屋での生活で4年生を優しくリードします。4年生も5年生に感謝し、憧れの気持ちをもちます。帰ってから4年生全員から5年生へ手紙を書いていました。子ども同士の世界の中で、心が豊かに育まれていきます。
また、宿泊学習の前後には必ず事前学習と事後学習をします。例えば、行き先の自然や文化、歴史、特産品などテーマを決めて調べて発表したり、オリジナルのしおりを作ったりします。貴重な学びの機会を生かせるよう、前後の活動も大切にしています。
体験するだけではなく、行事の前後に探究的な学びを取り入れているのですね。
そうです。6年生の農業体験は福島県の裏磐梯に行くのですが、その土地のことを調べたり、まとめたりするだけではなく、お世話になる農家さんに対しては事前に写真付きの手紙を書いて、終わった後も学んだことや感想を書いたお礼の手紙を出します。
宿泊行事をきっかけに、その後、個人的に夏休みに家族で行ったり、その土地に興味を持って自分たちで足を運んだりといったこともあるようです。
トキワ松学園小学校ならでは。演劇を教育に活かす「劇遊び」
▲特別授業の「劇遊び」
トキワ松学園小学校では演劇の要素を取り入れた校長先生の特別授業があると伺ったのですが、詳しく教えていただけますか?
私は、長く担任を務めてきた中で、演劇的な手法を教育活動に取り入れる実践・研究を続けてきました。演劇は、想像を膨らませて全身を使って表現する、あるいは他者の表現を受け止める、そしてイメージを共有して新たな世界をつくり出すものです。互いの理解や協力がなくては成り立たないのが劇ですが、「ごっこ遊び」があるように、子どもたちは本能的に好きな活動だと思います。
劇を通して「仲良くしましょう」や「協力しましょう」などとあえて言わなくても自然と協力しますし、一人一人の個性を生かしながら、みんなで作り上げる喜びを感じられます。学校教育と親和性が高いものだと考えながら実践してきました。
そうしたことから、校長に就任した2023年から全学年全クラスで、各学期に一回、みんなで楽しむ「劇遊び」の授業を導入しました。
児童の皆さんの反応はいかがでしょうか?
私が想像していた以上に反応が良く、どの学年も楽しんでくれています。まず、遊びというだけで「わーい!」となりますし、競ったり、優劣をつけたりするものではなく、一人一人が自由に思いついたことを出し合って体を動かして表現するものなので、子どもたちが本来持っている力が生き生きと表れているように感じます。
劇遊びを通して想像力や協調性が身につき、友達の普段と違う姿も見られる
具体的にはどのように展開しているのでしょうか?
最初は、私と一緒に手遊びやじゃんけんをしたり、輪になって遊んだりしながら、「みんなで楽しもう!」という雰囲気づくりから始めます。この仲間とだったら恥ずかしくない、何をやっても大丈夫だという前提を作ることが大事です。
その上で遊びに想像や表現の要素を入れていきます。例えば、みんなが小人になって私の手の上に乗っているという設定で、私の手の動きに合わせて動いたり、出されたお題について即興でジェスチャーで表したりと、イメージの世界で遊びます。
最後に、ランダムにグループを作り、その日の発表テーマを出します。例えば「休み時間」がテーマの場合、「アスレチックで遊んでいる」や「砂遊びをしている」などシチュエーションが書かれたくじを各グループに渡します。各グループは、そのシチュエーションについて相談し、役割分担を決め、言葉を使わずにジェスチャーだけでその様子を表現します。
このように劇遊びの授業は、最初にみんなで遊ぶ、次に表現の要素を取り入れる、最後は仲間と相談して発表する流れにしています。
脚本がある舞台演劇ではなく、演じる要素を取り入れているということですね。
そうです。自由に想像を膨らませて、みんなでそれをシェアして楽しむ中で、子どもたちの表現世界や人間関係を豊かに育んでいくことを目的としています。それが教科や行事の発表機会でも生かされてくると思います。
1年生と6年生だと内容も変わってきますか?
基本的な流れは同じですが、発達段階や子どもたちの反応によって少しずつメニューを変えています。グループ発表のテーマも、子どもたちの経験の有無を考慮したり、高学年はより手応えのあるものにしたりします。
この劇遊びの授業を通じてどういった成果が得られましたか?
何か目に見える形での成果というのは難しいのですが…。クラスみんなで笑い合えたり、子どもたち一人一人がもつ良さが見えてくることが、この授業の良さだと思っています。
教科の学習の中だけでは見えないところ、例えば普段はもの静かな子が生き生きとした表現を見せたり、友達との関わりがやや苦手な子がよいアイディアを出してみんなから称賛を受けたり、劇遊びの授業でこそ見られる子どもたちの姿があります。
そうした互いの姿をクラスの中で発見できるので、子どもたちだけでなく先生たちも新しい視点を得ることができる活動だと思っています。
6年生の「個人発表」など、探究心を喚起する環境を整えている
▲全校集会での6年生の個人発表の様子
探究的な学びについて、トキワ松学園小学校独自の取り組みがありましたらお聞かせください。
小学校の段階はいろいろなことに興味を持つので、そのことを調べて、みんなの前で発表して、あるいは友だちの発表を聞く体験が数多くあることが大事だと考えています。そこで、自然と興味が沸いて調べてみようと思える機会や環境作りを意識しています。
例えば、「自学ノート」という、自分で興味を持ったことを調べて書いて先生に提出し、先生もコメントを返すノートがあります。内容や提出頻度は自由にしながら、優れた内容のものをクラスで掲示したり話題にしたりすることもあります。
発表の機会として特色があるのは、全校集会での「個人発表」です。6年生になると必ず1人1回は全校児童の前で自分の好きなことや得意なことなどを発表します。
発表の内容も、発表の仕方も自由で、スピーチでも実演でも構いません。例えば野球が好きな子がキャッチボールをして見せたり、電車が好きな子は電車の模型や写真を見せながら説明したりします。
発表と聞けば研究結果をまとめてポスターを作るなどを想像してしまいますが、発表の形式は問わないわけですね。
個人発表に関しては全く自由です。クラス内で事前にリハーサルなどもしながら、どの子もよく準備をして臨んでいます。
これは10年以上前から実施しており、始めた当初はみんな原稿用紙に書いたものを読み上げるスタイルが多かったのですが、徐々に実演が増えてきて、今は内容だけでなく発表の仕方もバラエティに富んでいます。
印象に残っている個人発表はありますか?
例えば、バイオリンを習っている子が楽器についての説明をした後に、みんなの前で演奏してくれたり、好きなキャラクターについてクイズ形式で説明したり、毎回とても面白いです。
昨年の発表で、スポーツメーカーのミズノが大好きで、ミズノの歴史やロゴマークの意味など、熱くプレゼンしてくれた子がいました。それが本校の教員を通してミズノ関係者に伝わって、当時の社長さんからお礼のお手紙をいただいたというエピソードは強く印象に残っています。
2024年の学校のテーマでもあるのですが、自分の好きなことや興味のあることを発信することで、そこから良い縁がつながり、広がっていくことを教えてくれた出来事ですね。
本来、自分の好きなことを全校の前で発表するのはハードルが高いことだと思います。しかし、歴代の先輩たちが、ややマニアックと思われるものも含めて堂々と発表し、聞く側も興味を持って受け止める雰囲気が積み重ねられてきました。
自分の言いたいことが言える土壌・文化を根付かせてきた取り組みの1つです。
▲児童一人ひとりが「好き」なことを書いて貼り出している
トキワ松学園小学校からのメッセージ
▲取材に対応いただいた百合岡校長
最後に、御校に興味を持った保護者の方に向けてメッセージをお願いします。
創立者である三角錫子先生の言葉の通り、人には持って生まれた天分、必ず一人ひとりに良さがあり、それを安心感のある環境で伸ばしていくことがその人の人生を豊かに幸せにしていくと思っています。
私立学校は、それぞれの学校の特色があり、校風といわれる独自の空気感があります。本校のイメージとしてよく言われるのは「のびのびしている」「自然体」「温かい」「安心」です。
本校に興味を持ってくださった方は、ぜひ実際に足を運び、本校の空気に触れていただきたいと思っています。学校見学も随時受け付けておりますので、トキワ松の子どもたちの生き生きとした学校生活をお子さんとご覧いただけると嬉しいです。
本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
トキワ松学園小学校の進学実績
▲授業風景
トキワ松学園小学校では、中学入試模擬テスト結果や学校生活での日常の様子、そして本人の希望をもとに、一人ひとりに最適な進学先を保護者とともに考えていきます。
進学実績としては、女子児童は、内部推薦制度により併設のトキワ松学園中学校へ進学することができますが、他校の受験も可能で、国立の付属校や難関校に合格・進学する児童もいます。内部進学率は年によって差がありますが、ここ数年は、半数前後がトキワ松学園中学校に進学しています。
男子児童は全員外部受験となり、国立・私立大学の付属校のほか、難関中学校に合格・進学する児童もいます。
昨年度の合格進学実績としては、麻布、海城、学習院、高輪、攻玉社、駒場東邦、渋谷教育学園渋谷、立教、成城学園、広尾学園、早稲田などがあります。
■進路実績(トキワ松学園小学校公式サイト)
https://tokiwamatsu.ed.jp/advancement/
トキワ松学園小学校の卒業生・保護者の口コミ
▲遊び時間の様子
ここからは、トキワ松学園小学校の口コミを紹介します。実際に通学していた卒業生や保護者の声をまとめました。
※卒業生の声は、トキワ松学園小学校2024の公式パンフレットより引用しています。
https://tokiwamatsu.ed.jp/wp-content/themes/Tokiwamatsu230825/pdf/pamphlet2024.pdf
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