ぽてんをご覧の皆様に、注目の学校をご紹介する本企画。今回は、東京都世田谷区にある私立の中高一貫の女子校「玉川聖学院中等部・高等部」をご紹介します。
同校は、「戦後の日本を健全な国家として再建するためには、若い女性たちにキリスト教教育が必要である」という目的のもと、1950年に創立されました。聖書に基づいた心の教育を施すミッションスクールとして、「信仰・希望・愛」をスクールモットーとしています。中等部では学ぶ楽しさを知り、成長への土台をつくる期間とする一方、高等部では、世界に目を向けて未来を切り拓くための3年間としてグローバル教育に注力しています。
今回は、玉川聖学院中等部・高等部の教育理念やカリキュラムの特徴について、中等部教頭の笠井先生にお話をうかがいました。
この記事の目次
生徒の様々な「発見」を促す。玉川聖学院中等部・高等部の教育方針
まず、玉川聖学院中等部・高等部の沿革についてお聞かせいただけますでしょうか。
本校の創立は1950年です。創設者である谷口茂寿牧師が、日吉学園という私立の女子校の再建を委ねられたところが発端です。
谷口牧師は、道徳的、倫理的なものを携えた女性が、新しい日本には必要だと、強く感じていました。そこで、この女子校をキリスト教主義に基づいたミッションスクールとして再スタートさせようと考え、アメリカ・インディアナ州にあるチャーチ・オブ・ゴッド(神の教会)の協力を得てスタートさせたという経緯です。
御校の教育方針についてお教えください。
本校の教育方針は、3つの「発見」からなっています。
1つ目は「かけがえのない私の発見」です。私たちは、みんな神様につくられた大切な存在です。生徒たちには、一人ひとりの存在が尊く、すばらしい価値をもっていることを6年間で知ってもらいたい。そうすることで、学ぶ意欲と生きる力が得られます。
2つ目は「違っているからすばらしいという発見」です。人間は一人ひとり、皆違いますよね。違っていていいということを伝え、自分のすばらしさを認める一方で、自分と違う他者のすばらしさにも気づく心を育てていきます。学校生活では、様々な行事やクラブ、生徒会活動などを通して、他者を知り、互いの特性を認め合うことになります。そのなかで、多様な人々と一緒に世界を広げていける喜びや楽しさを学びます。
3つ目は「自分の可能性、使命の発見」です。自分はかけがえのない存在であり、他者との違いがすばらしいということに目を向け、今は具体的なものでなくとも、自分にしかない可能性、使命があることに気づいてほしいのです。自分が何をしたいのかということも大切ですが、世界が混沌とするなかで、自分には何ができるのか、何をするべきなのかを考えていく。本校ではそのような女性を育てることを目指しています。
本校の教育の心は、「世界をつなげる心を育てる」という言葉で言い表すことができます。3つの「発見」を経て、人と人とをつなげ続けていく心をもった女性を育成したいと考えています。
聖書を開いて、自分の思いを話す「終礼」
▲玉川聖学院中等部・高等部では、毎日、生徒が思いを述べる終礼を行っている
先ほどの教育方針にもつながると思うのですが、キリスト教教育を実践するにあたって、具体的に取り組んでおられることをご紹介いただけますか。
まず、学校生活が礼拝から始まるということは、創立から今日まで変わっていません。1日の最後に行う終礼も、大切な振り返りの時間です。
終礼では各クラスで讃美歌を歌ったのち、当番の生徒が聖書を開き、その言葉に基づいたエピソードや、自分が考えていること、最近体験したことなどを短く話します。最後に、お祈りをして終わります。
これは本人にとって心の整理になりますし、自分の考えていることをしっかりと他人に伝える練習にもなります。また、話を聞いたクラスメイトが「このお友達はこういうことを考えていたんだ」とか「こんなことで悩んでいたんだ」というのを知ることで、信頼関係の構築にもつながります。終礼は、1日の大切な「祈りを合わせる」時間だと捉えています。
本格的な論文執筆や国際交流も。玉川聖学院中等部・高等部の総合学習
玉川聖学院中等部・高等部では、環境などをテーマにしたフィールドワークや、中等部3年間の総合学習の締めくくりとして、生徒一人ひとりが自身の関心に沿って執筆する修了論文など、多様な総合学習に取り組んでいます。探究的な取り組みの紹介として、総合学習の詳細について伺いました。
学校周辺の環境に目を向ける中学2年生の総合学習
▲中等部では、自然と環境をテーマにした総合学習に取り組む
玉川聖学院中等部・高等部の探究的な学びについて、特色を教えてください。
本校の探究学習の取り組みは、3年間の総合学習という形で20年前からカリキュラムを立てて実施してきています。各学年に目標を設け、問題意識を深められるようにしています。
例えば、中学1年生の時は「よりよい人間関係を目指して」という目標を掲げています。これは、様々な小学校からやってきた生徒たちにとって、まず出会いが大切であることを知ってもらいたいとの狙いがあります。様々な活動を通していろいろな人と出会う、それを大切にしようというテーマのもと、週2時間、国語や音楽、体育などの時間を活用して実施しています。
また中学2年生では、自然と環境をテーマにして、理科の時間を使って環境学習を行ったり、コンピューターを活用をしてグループごとに問題意識を深めます。最近では、学校の近くを流れる多摩川を取り上げて、上流や下流、川が行きつく海はどうなっているのか、人々の暮らしにどうかかわってきたのかなどを調べました。
2023年度は東京都檜原村と連携して、多摩川沿いの森林のヒノキを用いたスプーン作りを行いました。また、川の環境だけではなく、自然食、フードロスの問題、獣害の問題など、すべてつながっているということを学び、学院祭でも発表しました。教室で展示物を掲示し、スライドを使いながら発表し、保護者の方々も聞き入っておられました。
▲総合学習の一環として、中2の生徒が江の島のゴミ拾いを実施している様子
発表をご覧になって、どんな点に生徒の成長ぶりをお感じになりますか。
総合学習を始める時点で、生徒は学院祭での発表があることを承知しています。だからこそ、しっかりと目的をもって学び、発表につなげなければならないという思いを強くして、総合学習に臨んでいるようです。
発表については、グループで行いますので、皆で協力してスライドを作ったり、原稿を仕上げたりしなければなりません。生徒たちはそういった協力体制も試行錯誤しながら作り上げていきます。言うまでもなく、発表し終わったときの生徒たちの満足げな表情はとても素敵ですし、味わっている達成感は非常に大きいと思います。
目的をもった学習、そして同級生と協力して一つのプロジェクトを仕上げるということから、大きな成長の機会を得ていると思います。
総合学習の集大成として修了論文を執筆
▲修了論文の執筆では、学校内の図書館「情報センター」を活用するほか、教員から1対1の指導を受ける。
続いて、中学3年生が取り組む総合学習の特色について教えてください。
まず大きなものとして挙げられるのが、中等部の総合学習の集大成として、3年生全員が取り組む、修了論文の執筆です。自身で関心あることなどを基にテーマを設定し、書きたいことを調べて、深掘りしていきます。
生徒は、テーマにふさわしい教科の先生からの1対1の指導を受けます。一人で悩むのではなく、大学でいうとゼミのような形で指導を受けながら、自分の言葉で論文を書くことに挑みます。論文作成に必要な資料の調べ方や引用の仕方、図書館の利用方法に至るまでを習得します。
本校の図書館である「情報センター」では、司書の教員が資料の活用の仕方だけでなく、資料の探し方、論文の最後に記す参考文献の紹介の書き方に至るまで丁寧に説明した、論文作成の手引きのようなものを作り、中学2、3年生の授業で説明しています。
このようなサポートもあり、大学入試における小論文作成や自己推薦文の作成、さらに大学生になっても役に立つような知識とスキルを得られるのも、修了論文に取り組むメリットなのではないかと考えています。
また、本学院では中学生一人ひとりがChromebookを持っており、仕上げた論文もクラウド上で提出します。教員が内容を確認し、優秀な論文は、毎年1月の終わりに中等部の全生徒が集まった発表会で紹介します。
生徒たちはどんなテーマを取り上げているのでしょうか?
中学2年生では環境をテーマに総合学習に取り組みましたが、修了論文においては、必ずしも理科に沿った内容とは限りません。
地球環境と人間活動の関係について調べる生徒もいますし、フィンランドが幸福度ランキングで世界一の理由を考察するもの、女性の社会進出を取り上げたもの、人を笑顔にする医療メイクとは何かなど、生徒それぞれが身近だったり、関心があったりするテーマについて、論文を書きました。
1年間、修了論文の執筆に取り組み、生徒はどのように変わるのでしょうか。
物事を探究する精神はもちろんですが、執筆が時にはうまくすすまなくてもあきらめない粘り強さや、洞察力、いい原稿を仕上げたいという強い信念などが、論文を作る1年間で育まれています。
中学3年生での論文執筆ですので、すんなりといくものではありません。しかし、この挑戦を何とか乗り越える過程で、生徒たちは様々な学びを経て、大きく成長していきます。
世界20か国の人々と英語で交流するイベントを体験
▲東京バプテスト教会の協力を得て、約20か国の人と英語で交流するイベントを設けている
修了論文の執筆のほかに、中学3年での総合学習の取り組みがあればご紹介ください。
中学3年生では「国際人として生きよう」をテーマに英会話の時間を活用して、3年間学習した英語を使ったコミュニケーションに取り組みます。毎年5月に東京都内の大規模なキリスト教会である「東京バプテスト教会」の協力をいただいて、「International Day」という異文化体験の場を設けています。
米欧、アジア、アフリカなど20か国ほどの方が来られ、それぞれ自分の国の紹介をするブースで民族衣装を飾ったり、その国の食べ物やパンフレットを置いたりして、生徒たちはブースの方々と英語で交流をします。生徒は手製のパスポートを持っていて、1つのブースを訪問したらハンコを押してもらいます。それを何度か繰り返し、世界旅行の気分を味わえるようなプログラムです。
グローバル感覚が養えそうなイベントですね。
お越しいただいた外国の方は皆、英語を使うのですが、米国の英語だけではなく、アジアやアフリカの英語に触れることもあります。その中で生徒たちも自分なりの英語を使ってコミュニケーションしています。
最初は緊張していた生徒たちも、ブースを1つ、2つを回り始めると、積極的に楽しそうに会話するようになります。
中等部3年間の学びを発展させた、高等部独自の授業「総合科人間学」
ここまで中等部での学びについて、お話しいただきました。これらの経験が高等部ではどのような形で生かされていくのでしょうか。
高等部に進学して、1年生全員が履修するのが「総合科人間学」です。中等部では、人とつながったり、環境のことを探究したり、外国の方とコミュニケーションをとって世界を見つめたりしました。高校生になると、総合科人間学の時間に、もう一度自分について掘り下げる機会を設けます。
自分はいったい何者なのか、自分がここに存在することの意味とは何か、ということを考える時間です。思春期の心に向き合うことで、本当の自分の姿を見出すことができます。
高校2年に進むと、総合科人間学では、人生の四季について考え、人の一生について学ぶということをテーマにします。
人生の四季というのは、人の一生を春夏秋冬になぞらえたものです。生まれてから成長するまでが春。成長して家庭をもつ、子育てをする、あるいは社会に出て働くというように、人のために生きる時期が夏。そして体が衰え、できないことや人に助けてもらうことが増えていく老いの時期を指すのが秋。死を迎えるのが冬となります。
人生の四季について一通り学んだ後、社会の中で生きていく自分について考える時間を設けます。この時間を持つことで、生徒たちは高校3年生になったときに具体的に自分の進路や、そもそもの生き方、もう少し細かい視点ではなぜ勉強しなければいけないのとか、人は人のために生きていかなければならないこと、などを考えるきっかけになります。
総合科人間学は、自己を肯定し、生徒一人ひとりの人間形成を目指すプログラムであると言い換えることもできます。
校内外で様々な体験ができる。玉川聖学院中等部・高等部の「玉聖アクティブプログラム」
玉川聖学院では、課外活動を充実させているとうかがいました。詳細を教えてください。
高等部では、2016年から玉聖アクティブプログラム(TAP)という体験プログラムを設けています。
「地球共生」や「サイエンス」、「芸術・メディア」など5つのテーマのもとに、ボランティアや行事などを設けており、それらを自由に選択できるようにしています。時間割には組み込まず、夏休みなどの長期休暇や放課後、週末や祝日などを使うもので、自分が興味あることに参加します。
具体的にはどのようなプログラムがあるのでしょうか。
例えば、ウガンダの子どもたちの交流や、地元行事への参加、近所の農園に協力いただいて種まきから収穫まで行う農業体験など様々です。海外語学研修や国際ボランティアの機会などもあり、TAPから将来の進路へのきっかけをつかんだ生徒も少なくありません。
高等部の生徒は一人ひとり、タブレット端末を持っており、TAPの案内は適宜、端末に配信されるようになっています。校外においても生徒の探究心を育む機会をしっかり設けているのも、本校の特色ではないかと考えています。
玉川聖学院中等部・高等部からのメッセージ
▲インタビューに応じてくださった玉川聖学院中等部教頭の笠井先生
最後に、この記事をご覧になっている読者の皆様へメッセージをお願いします。
玉川聖学院は、何事においても人を育むということを大前提に置いている学校です。教育方針として申し上げた大切な三つの発見を通じて、自分自身が大切な存在であることを追求してほしいと、教員一同願いながら、教育活動を実践しています。
また、聖書の言葉に基づき、自分を取り巻く周囲の方々を大切にする心、命を尊ぶ心、そういったものも本学院できっと見つけてもらえると思います。ぜひ保護者の方は学校にお嬢さんを送っていただきたいですし、受験生の皆さんは、ぜひ一度学校に足を運んでいろいろなものを見て、体験していただければと思います。
インタビューのお時間をいただき、ありがとうございました。
玉川聖学院中等部・高等部の進学実績
玉川聖学院中等部・高等部では2024年度、94%が大学に進学しました。慶應義塾大学、早稲田大学、国際基督教大学などの難関私立大学にそれぞれ1名、GMARCHと呼ばれる学習院大学(1名)、青山学院大学(7名)、立教大学(2名)、法政大学(7名)にも合格者を出しています。また、愛知医科大学医学部や東京薬科大学、星薬科大学(それぞれ1名)など医薬系の大学の実績も出ています。
また、学校推薦、総合入試での合格は現役合格者の89%と高水準を占めています。このほか、教育方針を共有する大学と連携協定を結んで、学びをつなげる進路選択の可能性を広げる高大連携にも注力しており、東京女子大学や明治学院大学などにも実績があります。
■玉川聖学院中等部・高等部の進学実績(公式サイト)
https://tamasei.ed.jp/career/records/
玉川聖学院中等部・高等部の保護者の口コミ
ここでは玉川聖学院中等部・高等部の保護者から寄せられた口コミを一部抜粋して紹介します。
口コミからは、ミッションスクールならではの聖書の教えを厳格に守りながらも生徒一人ひとりに寄り添う教育方針を支持する声や、駅に近く、周辺環境に恵まれた立地、パソコン、タブレット端末を駆使したICT教育などを評価する意見も目立ちました。
玉川聖学院中等部・高等部へのお問い合わせ
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