ぽてん読者の皆さまに、今注目の学校を紹介するこの企画。今回は東京都港区高輪にある東海大学付属高輪台高等学校・中等部にインタビューを行いました。
同校は学校法人東海大学の運営する共学の私立中高一貫校です。高校からは約9割の生徒が同校を付設している東海大学に進学しており、大学受験のための勉強とは違う、将来のために必要な力を身につけられる環境があるのが特徴です。その中で、スーパーサイエンスハイスクールの取り組みや、同校の中核をなす「高校現代文明論」など、東海大学付属高輪台高等学校・中等部ならではの独自性のある教育が展開されています。
今回は高校教頭・高校生徒募集対策室長の野々村先生に、東海大学との一貫教育を前提とした教育方針や、高校現代文明論を始めとする独自の教育プログラムについて伺いました。
この記事の目次
東海大学付属高輪台高等学校・中等部の“中高大一貫”の教育方針
まずは御校の教育方針について教えてください。
まず本校の教育の前提にあるのが、東海大学の教育方針に基づく一貫教育を展開しているということです。中学から、あるいは高校から大学までの10年間・7年間の一貫教育の中で、社会に貢献できる人材育成を行っています。
そのため本校の教育方針も、東海大学の創立者である松前重義氏の建学の精神に根ざしています。青年時代に「人生いかに生きるべきか」を思い悩んだ松前氏は、デンマークの教育による国づくりを範としながら、人生に情熱と生きがいを与える教育を志す「望星学塾」を開設しました。この松前氏の建学の精神を踏まえた東海大学の「調和のとれた文明社会を建設する」という理想のもと、本校では文系・理系をバランスよく学習する文理融合教育を展開しています。
▲東海大学の創立者・松前重義氏の像
その本校の教育の中核にあるのが、建学の精神を具体的に学ぶ「高校現代文明論」です。高校現代文明論を中心に幅広い学びの機会を提供しながら、人間の基盤となるものの見方や考え方を養うというのが本校の教育の目指すところです。
東海大学付属高輪台高等学校・中等部独自の探究型教育プログラム
ここからは、建学の精神に基づく高校現代文明論の授業や、20年以上スーパーサイエンスハイスクール認定校として取り組み続けた理数系授業にとどまらない教科横断型のSSH授業など、独自の教育プログラムを紹介します。
幅広い視点を育み、ディベート力を向上する「高校現代文明論」
▲高校現代文明論では、まず学校長から建学の精神や学校の成り立ちが伝えられる
「高校現代文明論」のカリキュラムについて、詳しく教えていただけますか?
高校現代文明論は、SDGsや環境問題、知的財産といった現代文明の諸問題をテーマに、「人生いかに生きるべきか」を自らに問いかけ、多様なものの見方を育むことを目的とする教育プログラムです。高校現代文明論の教科書は全教職員が持っており、本校におけるすべての教育活動の中核をなすものとなっています。
高校現代文明論では、高校1年生を対象に週1時間、年間30回の授業を7ユニットに分けて授業を行います。最初は1年生全員を集めて東海大学の建学の精神や高校現代文明論の意義について説明し、その上でテーマに応じた探究学習を行っていく、というのが大きな流れです。
探究学習は「課題の設定→情報の収集→整理・分析→まとめ・表現」という探究のサイクルを回して、クラスの仲間と協働しながら仮説を検証するよう指導しています。また、クラスで選抜された代表生徒による学年全体の発表会も実施しています。
「高校現代文明論」の授業で大切にされていることはあるでしょうか?
ディベートの力を向上させることも、カリキュラムの目的の1つとしています。そのため探究学習に加え、ディベート力を鍛えるための授業も行っています。学校の校則など身近な話題から死刑制度の是非まで、幅広いテーマでディベートを行います。こちらもクラス内だけでなく学年代表者による「ディベート大会」を実施しています。
知的財産や環境問題といったテーマでは、実際にどのような内容を学んでいくのでしょうか。
例えば知的財産の授業では、アプリのアイコンをデザインすることからはじめ、パテントコンテスト(※)や高校生ビジネスプラングランプリへの応募などを通じて知的財産の知識を実践的に学んでいます。
※高校生、大学生等を対象に優秀な発明・デザインを表彰し、実際に特許庁出願を支援することで特許権・意匠権取得までの手続きを体験するもの。
環境問題の学習では、海洋プラスチックゴミの研究から発展して文化祭のクラス展示のテーマにしたクラスもありました。実際に海岸に行って海洋プラスチックを回収し、それを加工してキーホルダーをつくって文化祭に来たお客様に配る、という取り組みです。授業内だけで完結させるのではなく、そこから学びが広がっていくのも高校現代文明論ならではの特徴だと思います。
高校現代文明論の授業において、特に重視されているのはどのような点でしょうか。
生徒たちが自分で疑問を見出し、それを突き詰めていく主体的な学びを重視しています。高校現代文明論では「エネルギー問題」や「安楽死の是非」のような大枠のテーマは与えていますが、その中で何を調べていくかは生徒自身が決めています。我々教員の役割は、正解に向けたサポートではなく、さらに学びを深めるためのサポートなんです。
中には効率よくまとめて完成させる生徒もいますし、時には間違った答えを出すこともあります。ですが、間違いも学びを深める上で重要な要素です。また結論が出たあとも、「これで終わりにするのではなく、さらにそこから考察しよう」というような声かけをしています。
生徒たち自身の気づきを促すような関わり方をするというのが、教員の中でのテーマですね。
通常の授業よりもかなり時間を要するのではないかと思いますが、その点はいかがでしょうか。
おっしゃる通り、十人十色の探究内容をまとめていくのは生徒にとっても教員にとっても時間のかかる大変な作業です。付属推薦があり受験勉強ではない学習に時間を使える、本校だからこそできるプログラムだと考えています。とはいえ、年間のカリキュラムの中で発表までもっていく必要があるので、スケジュール管理は教員の方でもサポートしています。
高校現代文明論の授業を通じて、生徒さんにどのような変化が生まれていますか?
データを収集しそれをまとめる力や、人に伝えるためのプレゼンテーションの技術は目に見えて向上しています。そういったスキル面にプラスして、今後は探究活動に重要な課題を見出す力、考察する力をさらに向上させていきたいと考えています。
現代文明論の授業自体もまだまだブラッシュアップの余地があるため、教員も工夫しながらバージョンアップさせ、生徒の主体的な学びの姿勢を育んでいきたいですね。
「スーパーサイエンスハイスクール認定校」としての取り組み
東海大学付属高輪台高等学校・中等部のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の取り組みについても伺います。御校はいつからSSHの認定校として取り組みを実施されているのでしょうか。
本校は2004年に文部科学省からスーパーサイエンスハイスクールに認定され、以降20年以上スーパーサイエンスハイスクールとして理数系教育に取り組んでいます。2024年度からは新たに5年間の「SSH認定枠」に指定されています。
SSHの取り組みで意識されているのはどのような点ですか?
生徒自身が興味を持ったことを主体的に深めていける取り組みを実施するということです。SSHで初めて取り組んだのが大学や研究機関と連携して行う全4回のプロジェクト学習だったのですが、そこでも生徒が本当に興味のある分野で研究を行えるよう幅広い体験機会を用意しました。自分でテーマを決めて実験や研究を行い、最後に論文をまとめるというこの取り組みは、現在に至るまで実施されているSSHの学びの根幹をなすプログラムです。
実は先ほど説明した本校の教育の中心である「高校現代文明論」をもとに、このSSHでの学びを組み立てました。第1期、第2期SSHではSSHクラスを対象に展開してきたのですが、この学びを新学習指導要領で「総合的な探究の時間」が始まる5年前の第3期SSHから、SSHクラスだけでなく普通クラスも含めた全校に普及させていこうという方針のもと、本校での探究活動が生まれました。
他にも御校ならではのSSHの特徴はありますか?
SSHは文部科学省の方針に基づき「国際的な科学技術人材」の育成を目的としているプログラムではありますが、本校の志す文理融合教育に基づき、理数系科目に限らず教科横断型の学びを展開しているのが特徴です。理科・数学に特化した内容を行うのではなく、あらゆる教科の教員が全校的に協力しながらSSHを展開しています。
国語など、理科や数学と結び付けるのが難しい教科もありそうですが、例えばどのような内容を実施されているのでしょうか。
SSHでは論文を書く機会も多いので、国語の場合は論文の書き方などを授業で指導することが多いですね。それ以外の教科でも、例えば音楽では音階と数列の知識を結び付ける授業を実施していたり、美術では蜂の巣のハニカム構造を科学的知識から解説したりと、各教科が創意工夫しながらSSHにつながる学びを提供しています。研究結果を英語でまとめる場合もあるので、その際には英語の授業と連携させてネイティブ教員から指導を受けています。
SSHの取り組みの中で印象に残っているエピソードがあれば教えてください!
随分前になりますが、私自身がSSHの担当をしていた際に指導を行った生徒が印象に残っています。その生徒は元々化石に興味があり「アンモナイトの渦の規則性を数学的に研究したい」という研究テーマを設定したことから、数学の教員だった私が担当を任されました。特殊な研究内容なので正直戸惑いもあったのですが(笑)、一緒に試行錯誤しながら研究を進めていきました。
生徒自身もアンモナイトの化石をいくつか持っていたのですが、データを取るには数が足りないということで上野の国立科学博物館に協力いただいてアンモナイト化石のサンプルデータを取っていきました。そういった研究を経て2年生のときに発表を行ったのですが、3年生になって「せっかくだからコンピュータを使ってアンモナイトの立体像をつくりたい」と言い、また新たな方向の研究を一緒に行うことになりました。最終的には天文学に興味があったことから、天文学の研究を行うために東海大学の物理学科に進みました。
最近では、タイの学生と共同研究を行った生徒も印象に残っています。日本とタイで環境が違うことから、同じ実験をしたときにどう違いが出るのかということをテーマに研究を行っていました。コロナ禍を経てオンラインミーティングの技術が発展したことで、学習の場でも国際交流の幅が広がっていると感じます。
東海大学付属高輪台高等学校・中等部でのスクールライフ
東海大学付属高輪台高等学校・中等部では、東京タワーのある都心の風景が眼前に広がる中で、のびのびと学校生活を送れる環境があります。ここからは、同校の部活動や教員の授業改善の取り組みを紹介します。
吹奏楽は全国大会常連の超強豪校。サッカー部からもJリーガーを輩出
▲数々の部活動の表彰実績。Jリーガーの選手のユニフォームも(スクロールで写真がご覧いただけます→)
東海大学付属高輪台高等学校・中等部では部活動もかなり盛んに行われているんですよね。
はい。東海大学への進学を前提としていることもあり、受験勉強がなく部活動に打ち込みやすい環境があるのが本校の特徴です。
また他の年代とのつながりを活性化する意味でも、部活動をはじめとした委員会や生徒会といった活動を奨励しています。学校生活ではどうしても同級生との関わりがメインとなりますが、社会に出たときには多様な年代と関わり合いながら仕事をしていく必要がありますよね。部活動などの機会を通じてそういった多年代の関わりを増やしていけたらと思っています。
特に活動が活発なクラブはありますか?
吹奏楽部は1972年創部の歴史ある部で、全日本吹奏楽コンクールでの金賞受賞経験を複数持つ、かなりの強豪です。
サッカー部も活発で、OBには現在J1リーグのサガン鳥栖でプレーする横山歩夢選手をはじめ複数のJリーガーがいます。先ほどSSHのところでお話した生徒はサッカー部に所属しており、埼玉県大宮にあるグラウンドに通いながら、SSHの研究も両立して頑張っていました。
生徒による「授業評価」で教員も成長を続ける
東海大学付属高輪台高等学校・中等部では生徒による授業評価を取り入れているとのことですが、こちらについても教えてください。
本校では年に4回、生徒に対して「授業のわかりやすさ」などに関する授業評価アンケートを行い、教員の授業改善に役立てています。生徒から出た意見に対しては必ず授業の中で応えるように管理職から指導しているため、単なる意見把握にとどまらず実のある授業改善につながるものとなっています。
またその授業評価アンケートをもとに、教員に対する表彰を行っているのも特徴です。生徒たちからの評価が高い教員だけでなく、最初のアンケートからの改善割合が高い教員も表彰しています。アンケートや表彰制度を授業改善のモチベーションに、教員も成長しながら満足度の高い授業をつくりあげています。
東海大学付属高輪台高等学校・中等部からのメッセージ
▲インタビューにご対応いただいた野々村先生
最後に、東海大学付属高輪台高等学校・中等部に興味を持った読者の方に向けて学校からメッセージをお願いします。
本校はSSH指定校ということもあり、他の大学から指定校推薦枠のご依頼をいただくことも多くあります。ですが、あえてすべてお断りし、東海大学での学びを見越した7年・10年の一貫教育を行っています。そのため、そのことにご賛同いただいた上で本校を選んでいただけると嬉しいですね。
その分、大学受験のための勉強の時間を活用して、のびのびとした学びを得られる環境があります。また大学で自分の興味のある分野の学びを深めていけるよう、中高6年間で基礎学力をしっかりと定着させることに重点を置き教育を行っています。
興味のあるお子様・保護者の方は、年に何度か行っている学校説明会で本校の雰囲気をご体感ください。
野々村先生、本日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました!
東海大学付属高輪台高等学校・中等部の進学実績
東海大学付属高輪台高等学校・中等部では、卒業生の8割から9割が東海大学へ進学しています。東海大学は全国23学部・62学科・専攻を擁する総合大学であるため、生徒の興味・関心に合わせた学部選択が可能です。また東海大学の海外教育機関の1つ、ハワイ東海インターナショナルカレッジにも推薦による進学実績が生まれており、海外進学ができる環境があるのも魅力といえるでしょう。
進学先の学部を見ると、工学部を筆頭に文化社会学部、政治経済学部が続いており、SSHを中心とした文理融合教育の成果として、文系、理系含む多様な進路が実現していることがわかります。
■進学実績:https://www.takanawadai.tokai.ed.jp/senior/course/
東海大学付属高輪台高等学校の保護者・在校生の口コミ
▲東海大学付属高輪台高等学校・中等部制服。女子生徒の制服にはスラックスも採用
ここでは、東海大学付属高輪台高等学校・中等部の保護者や在校生から寄せられた口コミを一部抜粋して紹介します。
東京都港区という立地の良さを評価する声が多く聞かれました。また熱心に活動する部活動が多い一方で、勉強に関しても先生が手厚くサポートしてくれるという意見が挙がっています。大学受験を念頭に置いていないことから、のびのびとした雰囲気の中で、勉強や部活動などに打ち込める環境があることが伺えます。
東海大学付属高輪台高等学校・中等部へのお問い合わせ
運営 | 学校法人東海大学 |
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