特色ある教育プログラムで注目を集める学校を特集するこの企画。今回は京都府京都市にある私立共学校の「京都橘中学校・高等学校」を紹介します。
京都橘中学校・高等学校は、自立した女性の教育を目標に1902年に創設された京都女子手芸学校が前身となる中高一貫校です。その後2000年に男女共学となり、2010年に国公立大学進学中高一貫Vコースとして中学校を設置し、現在の形に繋がります。
創設当初から大切にしている「自立」や「共生」は、現在もなお教育理念やカリキュラム、教員の姿勢、そして部活動にも色濃く反映されています。
そこで今回は、藤野大次郎副校長先生に、京都橘中学校・高等学校に息づく自立と共生の精神について多方面からお話を伺いました。
この記事の目次
京都橘中学校・高等学校の建学の精神「自立と共生」
▲京都橘中学校・高等学校の副校長である藤野大次郎先生
京都橘中学校・高等学校の建学の精神について教えていただけますか?
建学の精神として「自立と共生」というあり方を大切にしています。1902年、本校の創設者である中森孟夫先生は、自立する女性を育てることを本校の目標に掲げました。
つまりこの「自立と共生」とは、「力を実業教育に注ぎて、将来自営独立の実力を得しめん」という中森先生の言葉を受け継ぎ、社会において個人がしっかりと自立していくことと、社会で協調していくことの大切さを表しています。
このように、創設者が本校を創設したときの思いを現代にも通用する形で繋いでいるのです。
探究学習や学年を越えた交流が「自立と共生」を育む
生徒のみなさんには、どのように「自立と共生」を伝えているのでしょうか?
生徒たちは「探究」という授業で「自立と共生」に関するテーマを学びます。以前は授業の名称も「自立と共生」としていたくらいです。現在では多くの学校でこうした探究学習や総合学習が広く行われていますが、本校では先駆けて取り組んでいました。
また、中学校と高等学校が同じ校舎内にあるので、中学生と高校生が交流する機会も作るようにしています。例えば、体育祭では中学1年生から高校3年生までが一緒に応援する縦割りの団編制になっています。
それから日常的な場面の例だと、全校一斉の掃除の時間に、中高合同の清掃場所を多く作っています。その中で、できるだけ生徒同士が交流できるよう教員たちも指示を最小限にしているんです。すると、掃除の合間や掃除後の雑談が交流のきっかけとなり、学年を越えた友情が芽生えるなんてこともありますよ。
こうした学校の特色を生かしながら、生徒同士の交流を通して、自然と自立心や協調性が育まれる環境づくりを行っています。
一般的には、部活動以外の場で先輩と後輩が関わる機会は少ないですよね。
学校が生徒同士の交流の場を提供し、縦の繋がりを意識的に作ることで、生徒たちは自然と責任感を持つようになります。すると、自分たちで学校を良くしていこうという意識が芽生えていくようです。このような取り組みは、生徒指導の観点からも非常に重要な意味があると考えています。
生徒たちの自立と共生を育てるため、教員自身も”魅力的な大人”を目指す
その他に、生徒たちの自立と共生を育てるために工夫していることはなんですか?
教員自身が魅力的な大人になることを大切にしています。生徒に何かを一方的に伝えて理解させるという教育スタイルは、今は主流ではなくなりつつあります。その中で、教員は生徒と最も長い時間を共有する大人として、魅力ある存在であるべきだと考えています。
特にクラブ活動などで生徒と深く関わる場合、教員は生徒の成長に大きな影響を与える存在になります。だからこそ教員は、様々な研修に参加して自己研鑽に努めています。
「魅力的な大人」になるために、教員の方々はどのようなことをしているのでしょうか?
例えば、学校内には「学びの会」という教員の自主的な研修グループがあり、年間8回ほど開催されています。希望者が集まり、その時々のテーマについて研修を行っています。
「魅力的な大人」としての姿を示していくことへの難しさや手ごたえなどはありますか?
本校の教員は、生徒の自立を促すために、適切な関わり方を日々模索しています。完全に放任するのではなく、かと言って過度に介入しすぎるのでもなく、その絶妙なバランスが難しいのだと思います。
上手くバランスを取れる教員もいれば、まだ昔ながらの手厚い指導方法から抜け出せない教員もいるようです。ただ、我慢強く生徒に向き合い見守ることで、生徒が自分で考え生き生きと行動する姿を見られた時に、教師としてのやりがいを感じられるという点はどの教員も共通していると思います。
生徒たちの「主体的な学び」を目指した探究学習プログラム
▲京都の伝統工芸品の魅力をより多くの人に届けるため販売会を企画する中学生たち
「探究」という授業について、詳しく教えていただけますでしょうか?
「探究」の授業は昨年度からカリキュラムの内容を見直し、中高一貫の6年間を3つのタームに分けて、それぞれのタームで目標を明確に設定しています。
第1ターム(中学1、2年生)では、「遊びながら本物を知る」をテーマに、京都の伝統工芸などを学び、それをどのように周りに発信するかを考えます。また、企業から課題をもらい、問題解決も試みます。
第2ターム(中学3年生、高校1年生)では、探究の対象地域を京都から沖縄やカンボジアに広げ、現地の起業家とコラボレーションします。現地の課題に対して、生徒たちが自分なりの視点で解決策を考え、地元の方にプレゼンテーションを行います。
そして第3ターム(高校2、3年生)では、生徒自身が探究テーマを見つけ、将来の目標や方向性にまで視野を広げていきます。
このように「探究」の授業では、各学年に応じて段階的に内容を深め、生徒たちが主体的に学ぶことができるプログラムを整えています。
具体的にどのようなテーマを扱っているのでしょうか?
テーマの一つとして、地域の伝統工芸があります。中学生は、和ろうそくや提灯、竹細工などの伝統工芸品を実際に作ってみて、それをどのように販売すれば高価な伝統工芸品を買ってもらえるかを考えます。
また、高校生になると視野を広げ、沖縄やカンボジアの現地産業と連携した探究活動を行います。週1時間の授業を通してSDGsの課題解決に取り組む起業家とともに、直面している社会問題に取り組みます。
これらの活動は、高校1年生の3月に行われる研修旅行とも結び付けられています。オンラインで現地の起業家と打ち合わせを行ったりと、研修旅行は現地に行く前から始まります。そして、生徒たちは1年間をかけて学んだことを現地での体験で深め、プレゼンテーションの内容を練り直すのです。
「探究」の授業をタームで分けたのはなぜですか?
「探究」では、生徒たちの学ぶ道筋を段階的に用意しています。つまり単発的な授業ではなく、生徒の成長に合わせて一貫したストーリーを描いているのです。このように、生徒一人ひとりが目指すべき人物像を描きながら、柔軟に学びを進めていける内容になっています。
だからこそ、授業内容を全て細かく決めてしまうのではなく、基本的な方向性を示しつつ、生徒たちの興味関心や成長に合わせて調整していく方針をとっているのです。
カンボジア研修旅行も、生徒たちの自立と共生をうながすきっかけに
▲カンボジアでのプレゼンテーションを終え、生徒たちはみんな満ち足りた様子
カンボジアではどのような研修を行ったのでしょうか。
カンボジアでは、現地の人が販売する服についての探究学習を行いました。現地の縫製工場は、屋根があるだけのような簡素な作りだったり、野外だったりすることもあります。生徒たちは、そのような環境で働く人々の様子を見学します。私自身は直接見ていませんが、鮮やかな色の布を使ってミシンで何かを作っている様子を見学したようです。
現地の方々とは、どのようにコミュニケーションをとっているのですか?
カンボジアでの現地の方とのやり取りは、言葉だけではどうしても難しい部分があります。そのため、身振り手振りを交えながらコミュニケーションをとったり、翻訳ツールを活用したりしながら進めていきます。
また研修中、生徒たちは1チーム15人で行動します。慣れない環境で15人がうまく協力できずに、なかなか前に進めなくなってしまうこともあります。しかしそのような場合も、せっかくカンボジアまで来たのだからと、生徒たちはチーム内で役割分担を行い自発的に考えたり決めたりという行動を起こしています。
教員側から細かく指示せずとも、生活や行動に関する係や伝達係、プレゼンテーション資料を作成する係、インタビューをまとめる係など、試行錯誤しながらチームがひとつになるための役割が生まれているんですよ。
現地の方々とは具体的にどのように交流をするのでしょうか?
最初に、現地の人々とコミュニケーションをとりながら、服の販売状況や縫製工場の実態を知ること、さらにはそこで働く人々の生活の様子を体験することから始めます。そして、自分たちなりに製品や販売方法を提案するなど、具体的な意見交換を行いました。
最終日には、「帰りたくないほど充実した経験ができた」と言うほど。現地のメンバーやサポートしてくれる人たちと仲良くなり、どうすれば相手にうまく伝えられるかを考えながら、多くの人と話をする機会があったことが良かったようです。
また、カンボジアの研修旅行後にアンケートを行ったのですが、ほぼ100%の生徒が「満足した」と回答しました。生徒たちは今まで経験したことのない、フィールドワークを通した学びの楽しさを感じることができたようです。
この経験を後輩にも同じようにしてほしいと思ったり、大学生になったら今度は自分がサポート側に回りたいと考えたりする生徒もいるんです。こうした意見からも、探究活動が生徒たちに大きな影響を与えていることがわかります。
▲沖縄研修の様子
カンボジアや沖縄での研修旅行だけでなく、日常的に生徒たちに働きかけられていることはあるでしょうか。
本校では生徒の自立を促すために、様々な場面で自立という言葉を投げかけています。探究活動の中でも生徒たち自身で考えることが求められますが、放課後の過ごし方についても同様です。
放課後は、学校側が一方的に講習を設定するのではなく、生徒たち自身が選択できるようになっています。講座を受講するのも良し、クラブ活動に参加するのも良し、自分で習い事をするのも自習をするのも良しとしています。
放課後の時間の使い方を生徒たち自身で選択し行動することが、自立の一つの形になっていると考えています。私たちは、生徒たちが主体的に判断し行動できる環境を整えることで、自立心が自ずと育つことを常々望んでいるんです。
海外プログラムでターニングポイントを迎える
研修旅行とは別に用意されている海外プログラムについても教えていただけますか?
本校では、3週間から1年間までの様々な期間の海外プログラムがあります。対象生徒は、中学3年生から高校2年生までです。夏休みを活用したカナダへの3週間の語学研修や、3学期の全期間を使ったニュージーランドへのターム留学など、生徒たちの留学の目的や英語力に合わせて決めることができます。
また、現地のコーディネーターや留学エージェントと提携しているので、不安なことやわからないことは、一緒に解決しながら準備を進めていくことが可能です。
プログラムに参加した生徒さんには、どのような変化が見られましたか?
海外プログラムの効果は本当に素晴らしいものがあります。プログラム終了後には報告会を開催し、参加した生徒一人ひとりが1分程度のプレゼンテーションを行います。その様子を保護者の方にも見ていただくのですが、生徒たちの表情は留学前と比べて全く別人のように変化しているんですよ。
まず、生徒たちは素晴らしい経験ができたことへの感謝の気持ちを口にします。そして、自分に足りなかった点や、これからどのように成長していきたいかという気づきも得ているのです。
実際、カナダへの留学をきっかけに英語が大好きになった生徒は、その後も英語学習を続け、高校3年生の時に英検準1級に合格し、卒業後は外国語や国際関係の分野に進みました。海外プログラムへの参加は、生徒たちの人生に大きな影響を与えていると感じています。
クラブ活動にも根付く自立と共生の精神
京都橘中学校・高等学校のクラブ活動についても教えていただけますでしょうか?
本校には、全国大会を目指すレベルの強豪クラブが複数あります。運動部では男子サッカー部、女子バレーボール部、陸上競技部が全国的な活躍を見せています。特に陸上競技部は、昨年のインターハイで3種目の全国優勝を果たしました。
また、文化部では吹奏楽部と和太鼓の太鼓部が強豪として知られています。吹奏楽部は一昨年10月に台湾へ招待演奏に行き、現地で大きな賞賛を受けました。また、台湾の蔡英文総統から定期演奏会へのお祝いのメールをいただくなど、特別な関係を築いています。
ただし、これらの強豪クラブに所属する生徒が全員推薦入学というわけではなく、高校から始めた生徒も在籍しているんです。
そして、ロボットプログラミング部では中学生が全国大会に出場したり、自然探究部では無人島や高原でのハイキングを中心に活動したりと、ユニークな活動を行うクラブもあります。自然探究部は理科の教員が担当しており、探究活動と学習を組み合わせた活動ができます。
その他にも、英語ディベート部やサイエンス部、ダブルダッチ部など、全国レベルの強豪クラブから、個性的な活動を行うクラブまで、多種多様な部活動が存在しています。
全国レベルで競うほどの強い部活が育つ秘訣は何ですか?
陸上競技部の顧問であり、現在は校長を務める安田先生の考えを一つの指針としています。安田先生は、生徒の自立を促すために、自分で考えることが非常に重要だと常々話しています。
教員が生徒に対して全てを用意してしまうと、受け身の姿勢になってしまい、生徒は「先生、どうしたらいいですか」と質問してくるようになります。このような自分で考えない習慣は、何か問題が起きた時に他人のせいにしたり、自分自身の問題として考えられなくなったりしてしまうのです。
教員たちによる生徒の自立を促す指導は、学習面のみならず、部活動にも大きく影響を与えているのだと思います。
生徒自身の自立した意識を育むことで、学業との両立もうまくいきそうですね。
本校では、どのクラスの生徒であってもクラブ活動に参加できるよう、授業は15時35分に終了するようにしています。その後に全校一斉に掃除を行い、16時からは全ての生徒がクラブ活動や自由な活動ができるんです。
生徒たち自身が自由に選択して、各々の放課後の時間を有意義に過ごせるような体制を整えています。
教育カリキュラムだけでなく、クラブ活動にも「自立と共生」の精神が一貫して息づいていることが感じられます。
私たちは、教育理念である「自立と共生」を日常生活の中で実践することを大切にしています。教職員も、この理念に立ち返りながら生徒と接することで、生徒との対話がスムーズにできるようになっています。
共生という観点から考えると、学校生活の中で最も大切なのは挨拶だと考えています。もし本校を訪れる機会があれば、生徒たちが進んで挨拶をする姿を目にすることができますよ。学校の関係者だけでなく、外部から来校された方からも、生徒の挨拶が非常に気持ち良いと高い評価をいただいています。
こういった挨拶の習慣は、教員が手本となって生徒に示すことで身につけさせています。教員自身が率先して挨拶をすることで、生徒も自然と挨拶ができるようになっているようです。教育理念を日常の中で実践し、生徒が自然と挨拶や感謝の気持ちを表現できるような環境作りに取り組んでいます。
京都橘中学校・高等学校からのメッセージ
最後に、京都橘中学校・高等学校から興味を持った読者に向けてメッセージをお願いします。
恵まれた自然環境の中にある本校では、有意義な学びや学校生活が用意されています。勉強だけにとどまらず、クラブ活動や探究活動、海外研修プログラムなど、様々な形で本校が大切にする「自立と共生」を育むことができるはずです。生徒一人ひとりの興味関心に応じて、学びの機会を見つけ、広げていくことができると思います。
ぜひ一度、京都橘中学校高等学校に足を運んでいただき、その雰囲気を直接感じてみてください。
藤野副校長先生、本日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました!
京都橘中学校・高等学校の進学実績
京都橘中学校・高等学校は、国公立大学や私立の難関校に多くの生徒を輩出しています。2023年度の入試結果を見ると、東京大学に1名、大阪大学に4名、横浜国立大学に1名合格した生徒がいるほか、私立だと早慶に9名、GMARCH(学習院大学、明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学)に12名という実績を残しています。
■大学合格実績はこちらから
https://www.tachibana-hs.jp/high/education/college/
京都橘中学校・高等学校の保護者・在校生の口コミ
ここでは、京都橘中学校・高等学校に寄せられた在校生、保護者の方からの口コミを一部抜粋して紹介します。
学ぶための環境や教員によるサポートに満足している声が上がっていました。受験に向けた独自の対策を用意していることも、前向きな評価に繋がっていました。
京都橘中学校・高等学校へのお問い合わせ
運営 | 京都橘中学校・高等学校 |
---|---|
住所 | 京都市伏見区桃山町伊賀50 |
電話番号 | 075-623-0066 |
問い合わせ先 | https://www.tachibana-hs.jp/contact/ |
公式ページ | https://www.tachibana-hs.jp/ |
※詳しくは公式ページでご確認ください