ぽてん読者の皆さまに注目の学校を紹介するこの企画。今回は埼玉県さいたま市にある「淑徳与野中学・高等学校」を取材しました。
淑徳与野中学・高等学校は、中高一貫教育を行う私立の女子校で、仏教の教えに根ざした教育が行われています。また、語学研修や海外留学制度など国際教育にも力を入れています。
今回は、校長の黒田貴先生と、中等部教頭の小澤幸子先生に、建学の精神や淑徳与野中学・高等学校ならではの取り組みについてインタビューさせていただきました。
▲左から校長の黒田貴先生と中等部教頭の小澤幸子先生
この記事の目次
淑徳与野中学・高等学校は仏教に基づく心の教育で知性と人間性を育む
▲高校校舎にある礼拝堂「利行堂(りぎょうどう)」は、仏教行事や「淑徳の時間」に利用されている
まず、淑徳与野中学・高等学校の建学の精神について教えてください。
淑徳与野中学・高等学校の母体である「淑徳女学校」は今から130年以上前に、尼僧である輪島聞声(もんじょう)先生が開いた学校です。
建学の精神は、仏教に基づく情操教育を施そうというものです。校名の由来となった「静淑の徳」には深い知性と情緒に富んだ人間性と言う意味があり、それらを養い育て、女性の自立の土台とすることを大切にしてきました。
仏教というと身構えてしまう方がおられるかもしれませんが、「おかげさまの精神」というような、昔からある良識やモラルを若い世代である生徒たちに伝えていく。それによって生徒たちに豊かな人生を送ってほしいという思いが原点となっております。
仏教の教えを伝える「淑徳の時間」では僧侶の資格を持つ先生が授業を担当
▲「淑徳の時間」には座禅が行われることも
続いて、教育内容についてお伺いできますか。淑徳与野中学・高等学校ならではの取り組みについてお聞かせください。
本校では「淑徳の時間」という仏教の教えを伝える授業を設け、僧籍を持った教員が、生徒の人間性を育てる授業を行っています。中学生は1週間に1コマ、それから高校1年生と高校3年生も1コマずつ取り組んでいます。
「命の大切さ」を基本にしながらも生徒が興味を持てるテーマにしており、中学校では怪談話や面白おかしい漫談のようなものもあり、生徒も毎週楽しみにしているようです。高校では海外の戦争のことなども題材にしたり、人権意識やボランティア活動、仏教の教えや本校の歴史、女性の社会進出、キャリア教育などを幅広く勉強する時間になっています。
また、講話にとどまらず、グループ活動をすることもあります。15年後の自分に手紙を書いてグループごとに発表するなど、形にとらわれず取り組んでいます。
個人的には仏教というと畏まったイメージがあるので、面白おかしい漫談というのは意外に感じました。
普段は仏教に触れる機会というとお葬式などが中心になるので、そう思われるのかもしれませんね。本校は入学式の際、体育館の中央に阿弥陀如来が鎮座してましてお香の香りが広がっているものですから、入学したばかりの生徒たちは「この学校に来て良かったのかな?」と戸惑うようです(笑)。
ただ、仏教というのは、言い換えれば「生きるための教え」です。初めは戸惑っていた生徒たちも「淑徳の時間」などを受ける中で、仏教で最も根幹である「命の大切さ・命の尊厳」の大切さに気づけるようですよ。
このような気づきを得られるためか、本校の生徒には仏教の教えの一つである「人に対する思いやりの精神」が浸透しています。女子校ですからにぎやかなところもあるのですが、人への接し方が丁寧で思いやりがあるため、どことなく安心感と落ち着きがあります。そのため、外部から来客があると、「安心感のある、落ち着いた雰囲気が漂っていますね」と言われることが多いです。
それはやはり仏教というものが学校全体に浸透している、空気のように漂っているということなのだと思います。
年4回の仏教行事では演劇やコンサートの鑑賞も
▲「花まつり」は4月8日にお釈迦様の誕生を祝う行事
淑徳与野中学・高等学校では、「淑徳の時間」に加えて節目の仏教行事があると伺いました。そちらについても教えてください。
本校の仏教行事は年4回あります。「花まつり」からスタートして、「み魂まつり(みたままつり)」「成道会(じょうどうえ)」そして「涅槃会(ねはんえ)」があります。
そこでは校長の話の他に、演劇やコンサートの鑑賞など楽しいイベントをしたり、外部からさまざまな方を招いて講演をしていただいたりしています。2023年は津軽三味線を鑑賞しました。津軽三味線は元々死者の霊を慰める意味合いがあったので、行事のテーマにピッタリでした。
講演のテーマはどのようなものなのでしょうか。
「み魂まつり」などですと先祖との繋がりや命について話されることが多いですが、それ以外では生き方や多様性などさまざまなテーマでお願いしています。
人を押しのけず融和する。仏教の教えが浸透し、優しい雰囲気の校風
▲スポーツ大会
淑徳与野中学・高等学校には、どのような雰囲気の生徒が多いでしょうか。
本校ではインターナショナルプログラムがあって、行き先の学校には他校の生徒もいるのですが、そこで「淑徳与野の生徒はとにかく真面目できちんと課題をこなす。しっかりしていて、人を押しのけるようなことはしないし、うまく融和しながらやっている」と褒められることが多いです。
これは本校の雰囲気の中で培われているものだと思いますし、その一端にはやはり仏教の教えがあるのだと感じます。
進学校の中にはエネルギッシュな生徒がたくさんいて、みんなで引っ張っていくというような雰囲気の学校もありますが、本校はどちらかというと真面目に勉強をしつつもほんわかした優しい雰囲気があって、「競争が激しい学校には向いていない人たちにも安心して過ごせる場所があっていいですね」と言われることがあります。
生徒たちも「この学校だから自分にも居場所があって友達ができた」「にぎやかで活発な人にも、静かに過ごしたい人にも、それぞれに居場所がある」ということはよく言っていますね。互いの個性を尊重する校風だと思います。
国際教育は実践重視。語学研修やホームステイで国際感覚を養う
▲中学2年生の台湾海外研修
国際教育にも力を入れているそうですね。詳しく伺わせてください。
淑徳与野中学・高等学校の国際教育の一番の特徴は実践を重んじていることです。体験型とも言えますね。
まずは中学2年生で台湾に行きます。なぜ台湾かというと、まず隣人を知ることが大切だと考えているためです。
そして中学3年生で京都・奈良に修学旅行に行きますが、これも国際教育の一環と位置付けています。なぜなら国際教育というのは自国の文化や歴史をきちんと知らないと成り立たないからです。日本を知り、アジアを知り、世界を知る。そのための一歩ですね。
また、中学卒業時の春休みには、希望者がイギリスに2週間の語学研修に行くのですが、学年の約半数が参加しています。
高校1年生になると、「インターナショナルプログラム」という、3か月間1人でホームステイしながら現地の学校に通うプログラムがあります。行き先はアメリカかカナダ、またはニュージーランドです。また、高校2年生の修学旅行先はアメリカのオレゴン州のポートランドやワシントン州のシアトルで、1家庭2人ずつ3泊4日のホームステイをしています。
日本・アジアを体験してから欧米へ。段階を踏むことで成長を促す
淑徳与野中学・高等学校の国際教育を通して、生徒たちはどのように成長するのでしょうか。
日本での修学旅行、そしてアジアや欧米へ研修や修学旅行に行くことで、日本と他国との違いを段階的に感じ、視野が広がっていきます。
中学に入ってからは英語の授業が始まりますし、音楽などの文化にしてもアメリカを中心にした英語圏の影響は強く受けていて、アメリカというのは物理的な距離は遠くても心理的には身近だと思います。
一方で、台湾へ研修旅行へ行くと、ちょっと昔の日本みたいな雰囲気と、台湾独特のエネルギッシュなところがあって、街中で漢字も見ますし、年配の方を中心に日本語を話す人が多いですよね。台湾の人たちが日本語を話せたり親日である歴史的な背景は研修旅行前に勉強していきますが、実際に体験すると理解が深まるようです。
また、現地の姉妹校と交歓会をするのですが、そこで日本のアイドルやK-POPの話題になるので、「国は違っても同じところもあるんだ」と親近感を感じたり、自国との距離感を身をもって感じるようです。その後、イギリスやアメリカに行くと、宗教や習慣など距離感がアジアとはまた異なる。そうした差異を段階的に感じることで、いろいろ考え成長していくのはあります。
また、高校1年生の「インターナショナルプログラム」では、3か月間1人でホームステイしますから、精神的にとてもタフになりますし、生徒たちが帰国後によく言うのは「日本の良さを再確認できた」ということです。複眼的な思考を養うことができる点は非常に大きいと思いますね。
▲中学卒業時のイギリス語学研修
▲高校2年生の修学旅行
人前でプレゼンする度胸がつき、進路選択にも役立つ「創作・研究」
淑徳与野中学・高等学校の取り組みの中で他に力を入れているものはありますか。
中学校が開校したときからずっと行っている「創作・研究」というものがあります。中学1年生は新書を2冊以上読んで、そのうちの1冊についてプレゼンをします。
2・3年生になると、自分が興味を持ったテーマについて複数の本を読み、さまざまな考え方を比較したり、自分の考えを述べたりすることを目指します。
これは、まず「文献を調べる」ことを身につけさせたいという思いがあるからです。さらに、高校2年生のときに自分の決めたテーマを論文にする「研究小論文」があるので、そこに繋げる意図と、進路選択のきっかけにしてもらいたいとの考えもあります。
発達段階に合わせたキャリア教育も6年間実施していますが、本を読んだことをきっかけに視野を広げて、自分は将来どんな方に進みたいのか、何に取り組んでみたいのか、そのためにどんな通過点としての大学選択があるのかということを検討するプログラムにしています。
今回、生徒にアンケートをとってみましたが、「読書の幅が広がった」「今まで知らなかった世界のことをたくさん知ることができた」との回答があり好評でした。
印象に残っている発表はありますか。
「ゾウの時間ネズミの時間(※)」という本の発表が興味深かったです。ゾウとネズミはそれぞれの時間軸を持って生きてるんだということをしっかり理解して、生徒本人の時間軸の捉え方が劇的に変わったと感じられた点が印象深かったですね。
(※)本川達雄著「ゾウの時間ネズミの時間:サイズの生物学」(中公新書)
また、全員が口頭での発表を行います。大勢の人の前でプレゼンをする経験を積めるので、人前で自信を持って話すスキルも磨かれますね。
淑徳与野中学・高等学校からご家族・お子さまへのメッセージ
最後に、淑徳与野中学・高等学校からぽてん読者のご家族・お子さまへ、メッセージをお願いいたします。
今日は仏教に関するお話もたくさんしましたが、本校では仏教を押し付ける教育は行っておりません。ただ、人を大事にして、ともに慈しみ、活かしあう学校であることは知っていただきたいと思います。そして、積極的な生徒からおとなしい生徒まで、すべての生徒を受け入れる素地のある校風です。
また、本校は勉強が結構大変な学校ですが、それは生徒に自分の夢を実現してもらうためでもあります。ただ大学に進学すればいいというわけではありません。自分が行きたい進路、自分が成長できる進路を、教員と二人三脚で考えていく、面倒見の良い学校ですし、最終的には一人で人生を歩んでいけるような力を養っていく学校です。
興味関心のある方は、ぜひ一度説明会においていただければ幸いです。
淑徳与野中学・高等学校卒業後の進学実績
淑徳与野高等学校では、2024年には国公立大学(旧帝大と関東圏内の大学・大学校のみ)に合計52名、いわゆる「早慶上理(※)」と呼ばれる難関私立大学へは合計161名が合格しています。また、現役進学率は96.1%です。
(※)難関大「早稲田大学」「慶應義塾大学」「上智大学」「東京理科大学」をまとめた名称
卒業後の進路は理系学部進学がほぼ半数で、また、医学部・薬学部などへの進学者が多いことも特徴的です。2024年度からは中学校に医進コースが設置されているため、医学部・薬学部への進学者は今後も増えるものと予想されます。
好実績の背景には、一人ひとりの希望と適性に合った進学指導を実施していることがあります。また、放課後や土曜日、長期休暇等を利用した進学講座も充実しています。
■近年の大学合格者数(淑徳与野中学・高等学校公式サイト)
https://www.shukutoku.yono.saitama.jp/senior/edu/after.html
淑徳与野中学・高等学校の卒業生・保護者からの声
淑徳与野中学・高等学校の卒業生と保護者の声から、いくつか抜粋しました。
先生が見守る中で、さまざまな刺激を受けつつ、のびのび成長できる環境のようですね。
淑徳与野中学・高等学校へのお問い合わせ
問い合わせ先 | 淑徳与野中学・高等学校 |
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住所 | 埼玉県さいたま市中央区上落合5-19-18 |
電話番号 | 048-840-1035 |
公式サイト | https://www.shukutoku.yono. saitama.jp/ |