ぽてん読者の皆さまに、今注目の学校を紹介するこの企画。今回紹介するのは、宮崎県延岡市にある共学の私立中高一貫校「尚学館(しょうがくかん)中学校・高等部」です。この記事では、主に尚学館中学校についてお話を伺いました。
難関国立大学や名門私立大学、国立大学医学部の合格者を毎年輩出する宮崎県屈指の進学校でもある同校は、中学・高校共に敢えて校則を設けず、過度な宿題を課さないことで、生徒自身が望ましい立ち居振る舞いや学習スタイルを習得する工夫がなされています。
また、自立心の育成を教育方針とするため、高等部では問題意識を持ち地域の課題解決に向けて行動する「探究学習」に力を入れています。
今回は、そんな尚学館中学校の八田教頭、日高教務部長、ボランティア担当の前田先生に、特徴的な取り組みについて伺いました。
この記事の目次
校則を設けず、自立心を養う尚学館中学校の教育理念
▲お話を伺った八田裕二教頭(左)、日高教務部長(中)、ボランティア担当の前田先生(右)
まず、尚学館中学校の校訓について教えてください。
本校の校訓は、「進取」「勤勉」「礼節」の3つです。「進取」は、前例にとらわれず自ら進んで物事に取り組む姿勢を表すもので、建学の精神にある「自立心」と関連しています。そして進取を体現するためには、「勤勉」であることが大切です。
最後の「礼節」については、尚学館中学校・高等部にお越しいただいた方から、よく生徒たちの礼儀正しさをお褒めいただくことがあります。とある予備校の関係者の方がいらっしゃった際には、「数多くの学校を訪問しているが、このように気持ちいい挨拶をしてくれる学校ははじめてだ」と言っていただいたこともありました。
校訓の「進取」と繋がるという、建学の精神についてお教えいただけますか?
尚学館中学校では卒業生全員が高等部に進学するのですが、一貫して「自立心を養い、有為な社会人を育てる」という建学の精神を大切にしています。
「自立心」とは、誰かに指示・指導されずとも、自ら考えて行動を起こす精神です。例えば学習面において、親に言われたから、先生に叱られるから勉強するのではなく、生徒自らが考えて取り組む姿勢を身につけてもらいたいと考えています。
生活面においても同様で、学校側から強制されて行動するのではなく、自らの判断で自立的に動いてほしいという想いから、尚学館中学校・高等部では設立以来ずっと校則を設けておりません。学校から与えられたルールではなく、自分たちで考えて生活面を律してほしいという願いからです。
先輩の姿を見て自立していく生徒たち。学習面でも好影響を与える
校則がないと風紀が乱れないかと心配になりますが、問題は起こらないのでしょうか。
生徒たちが入学初年度から先輩たちの姿を模範として行動してくれているため、現在は問題なく学校運営ができています。
私は尚学館中学校・高等部の立ち上げ期からずっと在籍していますが、最初は校則なしで生徒たちが自らを律することへの難しさに直面しました。少数ですが問題行動を起こす生徒がいて、職員間の議論ではやはり校則を作るべきという声もあったんです。
しかし、校則で生徒の言動を制するのではなく、やはり自分達で自立心を養ってほしいという想いを貫きました。生徒たちには、なぜ校則を作らないのか、丁寧に私たちの考えを伝えました。その結果もあってか、年度を重ねるごとに生徒たちが校則を作らない理由を汲み取った行動を取るようになっていたのです。そんな先輩の姿を見て、後輩も同じように自ら考えて動けるようになったと思っています。
その他に、生徒の自立心を養うために気をつけていることはありますか。
尚学館中学校は校則がないだけでなく、学習指導においても宿題・課題を大量に出さないようにしています。あくまでも、必要な学習を自分で考えて、自分で取り組んでほしいからです。
延岡市は毎年人口が減少しており、2024年6月時点では約11万人となりました。その結果、高校生向けの学習塾や予備校などが市内にほとんどない状況です。今はインターネット学習もできますが、特に尚学館中学校・高等部の創設当初から約20年ほどは、自分たちで学習を進めるしかない状況でした。
だからこそ、学校が終わった後に生徒たちがいかに自分で学習に取り組めるかが重要です。そのような環境的な背景もあり、本校では学習面での自立にも力を入れるようになりました。
生活面でも学習面でも、学校が一方的に生徒を指導するのではなく、生徒自ら考えて行動できるように工夫されているのですね。
生徒の課題意識から生まれる高等部の探究学習
▲探究学習にて地域の農業活性のため活動する高等部の生徒たち
尚学館中学校・高等部が力を入れている探究学習について、具体的にお教えいただけますか?
わかりました。探究学習は「総合的な学習の時間」を活用して中学からスタートしていますが、より深く取り組んでいくのは高等部のほうです。
高等部の探究は今年(2024年度)で3年目を迎えました。現在は高校1・2年生の合計約80名が取り組んでいます。探究テーマは「地域の農業」、「地域の文化」、「ボランティア」、「自由テーマ」の4つです。
取り組むテーマは、生徒たち自身で選択します。自ら世の中の問題点を見つけ、解決に向けたアプローチを考え、実践してもらうことが大切だと考えています。
探究学習でも、建学の精神にある「自立心」の育成が重要視されているのですね。
地域の農業や「里神楽」などの文化を守る、生徒たち発案の取り組み
▲地域の農家の方から農耕機械の操作を教わる生徒たち
先ほどは各テーマの概要を伺いましたが、高等部の探究学習について、具体的な取り組み内容を教えてください。
「地域の農業」では、放棄農地などに着目した取り組みを行っています。学校周辺にはたくさんの田んぼや畑がありますが、人口減少や高齢化などが理由で利用されない農地が増えています。そんな放棄農地の問題を何とかしたいという想いから、活動がスタートしました。
活動は単に農業を体験するだけにとどまらず、地域の田畑を借りて季節の野菜や米を育てて収穫し、生徒や職員向けに格安で販売するところまで行っています。農家の方に指導、協力してもらうことも多く、地域の皆さんとの絆が育まれているのも特徴ですね。
地域の農業の課題を解決するために、具体的なアクションまで実行されているのは素晴らしいですね。
ありがとうございます。「地域の文化」については、2019年に延岡市で発生した竜巻被害への募金活動から始まりました。学校の近くにある神社の本殿が壊れてしまったのですが、文化的な建造物を残したいという想いから、修繕のための募金活動に協力しました。
その後は毎年開催される神社ゆかりの「里神楽」のイベントで、プロジェクションマッピングの運営ボランティアとして参加しています。
▲プロジェクションマッピングの運営ボランティアとして参加したときの集合写真
▲地域の里神楽を体験する高等部の生徒たち
高校1年生のときにこれらの体験をした生徒たちが2年生になり、自主的に地元にある他の神社についても調べるようになりました。
その結果として地域の神社マップを作成してホームページに掲載したところ、その活動を地元の新聞が取り上げてくださったことがあります。その新聞を読んだ読者の方が、高校生がこんな活動をしてくれているのが大変嬉しいと、神社などを描いた水彩画のハガキをわざわざ学校まで送ってくださったこともありました。
自分たちの活動が地域の皆さんに伝わり、喜んでもらえるのは嬉しい体験ですね。
はい。とても印象に残る体験になったと思います。また、「自由テーマ」は生徒それぞれの興味関心を自分で突き詰めていくというもので、今後は積極的に学外の企業や団体と連携していきたいと考えています。
尚学館に根付くボランティア精神と地域連携
▲地元である人吉市の水害ボランティアに参加する生徒の様子
続いて、探究学習のテーマの1つである「ボランティア」について伺います。具体的にどのような活動をされていますか。
尚学館中学校・高等部では、2021年頃に探究学習のテーマとして取り上げる以前から、積極的にボランティア活動を行っていました。
例えば2020年7月の豪雨では、川が氾濫して橋が流され、JR全線が停止し、街が水浸しになって神社も崩れるなど、熊本県の人吉市に甚大な被害がありました。尚学館高等部では、清掃活動のお手伝い、クラウドファンディングで集めた資金で人吉市のお祭りを盛り上げるなどの活動を2年間行いました。現在ではこのようなボランティア活動を、探究学習のチームが引き継いでいます。
▲水害に遭った人吉市を現地訪問した際の様子
探究学習として取り組まれる前から、ボランティア活動を積極的に実施していたのですね。
はい。生徒たちから声が上がって、私たち教職員が支援する形でボランティア活動がスタートしています。現在でも学校に正式な公文書として高校生へのボランティア依頼が届いた場合は、探究学習とは別に生徒へお知らせして参加者を募るようにしているんですよ。
御校の生徒の皆さんにボランティア精神が根付いていることがよくわかります。探究学習の中では、その他にどのようなボランティア活動が行われていますか。
探究学習のボランティアチームでは、これまでにこども食堂やウクライナ難民の皆さまへの支援などを行っています。子ども食堂に食料品やキッチン用品などの支援物資を集めてお届けしたり、宮崎県に避難された当時7名のウクライナ難民の方へ学校で販売したコーヒー豆の利益を寄付させていただいたりしました。
▲地域の子ども食堂へ支援物資を提供する生徒たちの様子
ボランティアの対象や内容については、どのように決めているのでしょうか。
子ども食堂の支援も、ウクライナ難民の方への寄付活動も、生徒たちから「力になりたい」との声が上がって実現したものです。人吉市の水害支援も、もともとは生徒たちから希望者が出てきたのがきっかけでした。他団体の皆さまとの連携は教員などが補助する部分もありますが、生徒たちの自主性に委ねている部分が大きいですね。
▲地元の店舗と協働してウクライナの難民支援を行ったときのポスター
探究を通して生徒の視野が広がり、大学受験でも胸を張ってアピールできる
ボランティア活動やその他の探究学習を通じて、御校の生徒の皆さんに変化はありましたか。
生徒の成長はすごく感じますね。ボランティアにしても、地元の農業や神楽文化に関わる活動にしても、学校外の方と多く接する機会があります。地域の皆さまからいろいろな知恵をいただくなかで、生徒たちの世界が広がっているように思います。
探究学習を通じて「私ももっとこんな活動がしたい」といった言葉が生徒から出るようになったのは、私自身も驚きでした。
探究学習で地域の皆さまと関わる中で、生徒たちの視野が開けて、新しいものの見方ができるようになっているのですね。
そう思います。探究学習が成り立っているのは、地域の皆さま、そして保護者の皆さまの協力があってこそです。保護者の皆さまには、校外活動で地域に出向く際にボランティアをしていただくなど、教員だけではフォローしきれない部分でとても助けていただいています。
探究学習やボランティア活動に参加される保護者の方からは、どのような意見が聞かれていますか。
生徒が自分で体験することで、学んだことを自信をもって話せるようになったと聞きますね。例えば大学受験の面接時などで、探究学習での活動をしっかり話せたといったエピソードを伺ったことがあります。生徒たちの成長した姿、今までと違う一面が見られて嬉しかった、という声もいただいています。
探究学習が、生徒の自発的な意見から始まり、地域の皆さま、保護者の皆さまの協力を得て、生徒たちの大きな学びの場になっていることがわかりました。
生徒主体の学校行事と毎朝の読書で自立心を育む
▲主体的に授業に取り組む生徒たちの様子
御校のインスタグラムを拝見したのですが、百人一首大会や合唱など、多彩なイベントを開催されていますね。学校行事でも、生徒の自立心を育てていくことを意識されているのでしょうか。
はい。尚学館中学校・高等部では「行事を通して自立心を高める」という考えのもと、感性豊かな教育をたくさん行っています。
特に大きなイベントが、尚学館祭「文化の部」、「体育の部」です。文化の部では、1,000人以上を収容できる延岡市の総合文化センターを毎年お借りして、演劇、合唱、弁論の発表を行っております。舞台の準備など、生徒たちが主体となって行っています。体育の部も同様で、実行委員長を務める生徒を中心に生徒が自主運営しています。
▲毎年体育館で開催される尚学館中学校・高等部の校内百人一首大会
学校行事でも、生徒たちの自立心が発揮されているんですね。
はい。尚学館中学校・高等部では、中学1年生から高等部2年生まで全員が参加する百人一首大会、クラシック音楽や落語の鑑賞、中学1年生で取り組む宮崎県青島での2泊3日のサマースクール、文化祭での野点など、多彩なイベントがたくさんあります。
受験前にはなりますが、高等部の3年生も含めた冬のロードレース・駅伝大会もあり、学校行事が盛りだくさんなんです。
中学・高校の6年間を通じてイベントが多く、とても楽しそうですね。
そうなんです。また、普段の学校生活の中でも自立心を育む取り組みをしています。
蔵書数3万冊を超える尚学館中学校・高等部の図書室を活用して、月曜から土曜まで週6回、朝15分の読書タイムを設けています。加えて中学1、2年生は週に1回授業中に読書の時間があるため、合計で週2時間半ほど集中して読書に取り組んでいます。
特別な学校行事だけでなく、日常的な読書による学びからも、生徒の自立心が育まれているのですね。
▲蔵書数3万冊を超える尚学館中学校・高等部の図書室
難関大学への合格者が続出する尚学館の学習サポート
▲教員と生徒の距離が近く少人数で学べる、尚学館中学校・高等部の理科実験の様子
尚学館中学校・高等部は、東京大学や九州大学などの難関国公立大学、早稲田大学や慶応義塾大学などの名門私立大学や、国公立大学の医学部などへ多数の合格者を輩出されています。難関大学合格に向けて、特別なサポートをされているのでしょうか。
難関大学には都会の中高一貫校の生徒さんも受験されるわけですから、私たちも問題練習の指導などに力を入れています。しかし、尚学館中学校高等部が地方からでも高い進学率を維持できている一番の要因は、生徒と教員の距離の近さにあると考えています。
尚学館では、教員20数名に対して高等部の生徒数が1学年で40名程度なので、必然的に手厚いサポートが可能になっているのです。
しかも中高一貫で6年間を共に過ごすため、生徒と教師がお互いのことをよく把握しています。その結果として、一人ひとりに合った手厚いサポートができているのが、尚学館中学校・高等部の強みだと感じています。
少人数で複数の先生から手厚く指導してもらえるのは、生徒たちにとって心強い環境ですね。
そうですね。加えて、先ほど申し上げた通り、延岡市周辺には予備校や学習塾がほとんどありません。だからこそ、生徒たちには「大学に合格するために自分でしっかり勉強しなくてはいけない」という意識が入学当初から備わっているようです。
結果として、入学生のうちの約10%が医学部医学科、約15%は早稲田大学や慶応義塾大学などに進学する県内屈指の進学校になっています。生徒が自ら積極的に学ぶ姿勢があれば、地方からでも難関大学に合格できる学力は十分つくと感じています。
教員と生徒の距離の近さ、生徒たちの自立的な学習姿勢が、難関大学への合格を実現しているのですね。
尚学館中学校・高等部からのメッセージ
最後に、尚学館中学校・高等部に興味を持たれた学生、保護者の皆さまへメッセージをお願いします。
私たちは、旭化成株式会社などで有名な工業都市である延岡市にある中高一貫校です。
本校に入学する生徒は、中学受験の経験はあるものの、それほど厳しい受験勉強をくぐり抜けたことのない生徒が大半です。高等部卒業まで一度も学習塾に通ったことがない生徒も多くいます。そのような環境でも、生徒と教員の距離が近い中で6年間過ごしていくうちに、生徒たちが自立心を身につけ、難関大学への合格も実現しています。
尚学館中学校・高等部に関心のある保護者の方、小学生の方がいらっしゃいましたら、随時学校見学を受け入れていますので、ぜひ一度校舎を訪れてください。
本日の取材を通じて、御校の生徒たちが学習面・生活面で自立し、教員や地域の皆さま、保護者の皆さまに見守られながら成長されている様子がとてもよくわかりました。ありがとうございました。
尚学館中学校・高等部の進学実績
尚学館中学校を卒業した生徒は、全員が尚学館高等部(正式には延岡学園高等学校普通科尚学館高等部コース)に入学します。
高等部では、創立以来合計で東京大学23名、九州大学82名、早稲田大学・慶応大学・上智大学に合計210名、国立大学の医学部に76名の合格者を輩出。(2024年6月、取材時点)
2024年度も、九州大学や大阪大学、筑波大学などの難関国立大学、東京医科大学医学部、慶應義塾大学、中央大学などの名門私立校に合格するなど、安定した進学実績を残しています。
公式:尚学館中学校・高等部「卒業生の合格実績(1期生~28期生 計1,342名分)」
公式:尚学館中学校・高等部「令和6年度大学入試等合格情報」
尚学館中学校・高等部の卒業生・保護者の口コミ
▲春には美しい桜が楽しめる尚学館中学校・高等部の校舎
ここでは、尚学館中学校・高等部の卒業生や保護者の皆さまの声をご紹介します。
教員による熱心な学習指導や、校則がない中で生徒たちが社会のルールを学んでいく仕組みに賛同する口コミが数多く見られました。自立心を養う尚学館中学校・高等部の教育方針と成果が、保護者や卒業生にも伝わっていることがわかります。
尚学館中学校・高等部へのお問い合わせ
運営 | 尚学館中学校・高等部 |
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