帰国生が2割強。頌栄女子学院中学校・高等学校の生徒が過ごす「多様性のある環境」とは

ぽてんをご覧の皆さんに、全国のオリジナリティあふれる学校を紹介するこの企画。本記事では、港区白金台にあるキリスト教系の女子中高一貫校、「頌栄(しょうえい)女子学院中学校・高等学校」にインタビューを実施しました。

同校の特徴は、全体の2割強という帰国生の多さです。勉強面でもそれ以外でも一般生と刺激を与えあって助け合いながら、みんなぐんぐんと成長していくということでした。また、その英語力の高さを活かして、難関私立大学について全国屈指の進学実績を残しています。

今回は、1993年に赴任して長く学校の歴史を見てきた広報部長の湯原和則先生に、頌栄女子学院中学校・高等学校の特徴についてお話を伺いました。

頌栄女子学院中学校・高等学校の広報部長である湯原和則先生

▲インタビューさせていただいた湯原先生。現在も教壇に立って日本史を教えている

頌栄女子学院中学校・高等学校の「讃美・奉仕」という理念

頌栄女子学院中学校・高等学校の正門

編集部

初めに、伝統ある頌栄女子学院中学校・高等学校の歴史と教育理念をお教えいただけますか?

湯原先生

頌栄女子学院は、現校長である岡見清明の曽祖父である岡見清致(きよむね)が信仰に基づいて創立した「頌栄女学校」が元となっています。時期としては、鹿鳴館ができたのとほぼ同じくらいですね。キリスト教主義の学校ながら、海外から訪れた宣教団(ミッション)ではなく日本人が日本人のために設立したのが特徴的だといえます。

実は、この「頌栄」という校名が、まさに私たちの理念をあらわしているんです。これはキリスト教において「神の栄光を褒め称える」という意味で、聖書の教えをベースとする本校がずっと大事にしている言葉です。学院の標語として掲げている「讃美」にもつながっています。

また、もうひとつの標語である「奉仕」の精神も大切にしています。他人や社会に貢献できる人間に育ってほしいという想いで日々生徒たちと接しているんです。

ただ、そのためにはまず自分がどんな人間なのかを知らなくてはならない。英語のtalent(才能)は聖書が語源(※)なのですが、6年間かけて神様からもらった才能が何なのか、それを活かせる人間になるにはどうするのかを学んでいくのが、本校の究極の目標だといえるでしょう。
(※)talentの語源:古代ギリシャ語のtalantもしくはtalantonという重量の単位が由来。「マタイによる福音書」25章のエピソードに登場する

毎朝実施する礼拝で、気づくと聖書の教えが身につく

頌栄女子学院中学校・高等学校の礼拝室

編集部

日課や授業の中でも、キリスト教の精神を学んでいく機会はあるのでしょうか?

湯原先生

はい。頌栄女子学院では、1日の始まりに必ず礼拝をおこなっています。毎朝教室で聖書を読み、賛美歌を歌うというルーティーンを守るほか、週に1回は中学生と高校生で分けてホールでの合同礼拝も実施しているんです。

また、週に1単位(必修)を聖書を学ぶ時間に充てています。日本基督教団に所属している各地の教会から、牧師の先生が来校して教えてくれています。聖書は世界で最も読まれている本ですから、登場する人物や物語を知ることで、生徒の視野が広がるものと考えています。

加えて、学びの機会とは少し異なるかもしれませんが、小学生のお子さんを招待して礼拝に参加してもらったり、クリスマスのコンサートを楽しんでいただくような催しもクリスマスこども会として開催しています。

編集部

ほとんどの生徒にとって、キリスト教の精神について学ぶのは初めてだと思います。6年のあいだ御校で過ごすと、どのような変化や成長があるのでしょうか。

湯原先生

正直に言って、在学中はそこまで大きく変わるということはないかもしれません。長い人生のどこかで中学高校時代に触れたキリスト教の教えがにじみ出てくるようなものだと思っています。

実際、大学に進学し、そして社会に出て、いろいろな人と交流するようになった際、生徒本人は「キリスト教の考え方を持って他の人と接している」と感じることがあるようです。それは不公平な立場の方に愛をもって接することだったりと場面としてはいろいろですが、気づくと聖書の教えが身についているということだと思います。

頌栄女子学院中学校・高等学校のグローバル教育とは

頌栄女子学院中学校・高等学校の教室

▲教室は扇形に広がっているのが特徴的。特注の椅子は回転するのでグループワークもやりやすい

編集部

頌栄女子学院中学校・高等学校の特徴であるグローバル教育について、お聞かせください。

湯原先生

まず、生徒全員のうち帰国生が2割強ほどいるのが本校の特徴ですね。ひとつの学年はおおよそ200名強なので、40〜50名が帰国生です。彼女たちは3つのクラスに分かれて、一般生との混合クラスを形成します。

これらのクラスをのぞいてみると、教室の中は英語が飛び交っているんですよね。中には生まれてからの12年間をアメリカで過ごしたという子もいるので、物事を考える際には英語を使用している、つまり思考回路が英語であるという生徒もいます。こういった環境があるので一般生も刺激を受け、積極的に英語を話す雰囲気ができています。

逆に、帰国生は国語や社会の授業が概して苦手だったりするので、一般生が片言の英語で教えている場面もよく目にします。また、ネイティブの教員も9名(2024年2月時点)いるので、英語を使うシーンは想像以上に多いですね。

編集部

帰国生は、どのエリアからの入学が多いですか?

湯原先生

割合としては北米が一番多くて、その次にイギリスを中心とした欧州圏という感じです。これは、以前の帰国生入試の出願資格では英語圏もしくはインターナショナルスクールに限っていたからです。

現在の中学1年生(取材は2024年2月)からは対象を広げていますので、中国・タイ・ベトナムなどアジアからの帰国生も少しずつ増えています。

本校は1986年から帰国生の受け入れをしているので、これまでのノウハウは豊富に蓄積されています。現在海外にいらっしゃる方も、安心して入学を検討いただければと思います。

発音クリニックなどの授業での工夫で、大半の生徒が中3で英検準2級を取得

編集部

帰国生が多くレベルが高い環境だと、授業についていけるか心配になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

湯原先生

英語の授業に関しては、一般生と帰国生で異なるカリキュラム(※)を用意しています。帰国生の影響で意欲的に英語学習に取り組んでいるため、全体的に速いペースで進めていることは確かですが、心配される必要はないかと思います。
(※)高校2年からは習熟度別となる。例年、上級クラスには一般生も入っているとのこと

よく保護者の皆様からも質問をいただくのですが、中学入学時点ではアルファベットと基礎的な英単語を書くことができれば大丈夫です。リスニング・スピーキングなどは入学後にしっかりと学ぶことができますから。

編集部

日々の授業では、どんな工夫をされているのでしょうか。

湯原先生

たとえばネイティブ教員の授業では、丁寧に発音指導とテストをおこなう「発音クリニック」という取り組みをしています。また日本人教員の授業でも、一人一台持っているタブレット端末と専用ソフトにより発音をAIで採点し、何度も繰り返して練習できる仕組みを整えているほか、帰国生とも日常的にしゃべるわけですから、驚くほどのスピードで成長していきますね。

また、ライティングについても、Shoei Writing Program(6年一貫型のnative教員による英作文指導)を通して、効率よく確実に生徒のライティング力を伸ばしています。

こうした積み重ねの結果、一般生であっても中学3年でおよそ85%の生徒が英検の準2級を取得するくらいの実力をつけています。英検準2級は一般的には高校中級のレベルなので、かなり先取りしているわけです。

カナダ・イギリスへの海外研修あり。海外の文化を体験できる

編集部

頌栄女子学院中学校・高等学校では、校外で英語を学べるイベントもあるのでしょうか。

湯原先生

もともと希望者は長期休暇を利用した海外への語学研修で生きた英語を学んでいたのですが、コロナ禍の影響で丸3年休止となっていました。

ただ、ようやく可能な状況となったので、2023年度はまず高校生を対象としてカナダ研修を再開しました。次年度以降はコロナ禍以前と同様に、中学3年生はカナダに、高校1・2年生はイギリスの約2週間のホームステイに戻す予定です。コロナ禍以前にも、カナダ研修は人気で、60人が定員のところ100人程度の応募がありました。

研修中は、現地の学校で授業を受けるだけでなく、いろいろなアクティビティを体験します。有名な観光地を楽しんだり、市場や老人ホームなどで地元の方々と交流したりしているうちに、同年代の海外の学生やホストファミリーとの関係性も深まっていくんです。離れるときにはお互いに涙するという場面も、毎年のように見ていますね。

そんな濃密な時間を過ごすと、帰ってきたときには一回り大きくなっているように感じます。

頌栄女子学院中学校・高等学校の「ライフデザイン教育」

頌栄女子学院中学校・高等学校の中学1年生の研究発表

▲中学1年生が「未来の仕事」というテーマで調べた研究結果の数々

編集部

頌栄女子学院中学校・高等学校の教育方針として、他に特徴的なものはあるでしょうか。

湯原先生

近年力を入れているのは「ライフデザイン教育」です。これは、ホームルームや行事などさまざまな機会で、自分の人生計画や適性について考えてほしいという想いで取り組んでいます。

具体的には、たとえば中学1年生ではホームルームの時間を利用し、「これからはどんな職業が新しく誕生するか」というテーマでリサーチして発表しています。

学年が上がるにつれて、「起業するならどんな会社にするか」をグループで考えたり、社会人のOGを呼んで仕事についていろいろ話してもらうなど、より実践的になっていきます。高校生になると進路選択が迫ってきますので、自分の目指す学部と社会との関わりについて調べたりしていますね。

これらのプログラムを設けているのは、大学進学、そしてその先の就職において、ミスマッチをしてほしくないという想いがあるからです。ただ、中学生にいきなり「自分に向いている仕事は何か」を考えさせても実感が湧かないので、広く情報を集めることでまずはきっかけを作ってほしいですね。

編集部

OGから話を聞く機会があるということですが、御校では先輩後輩のつながりは強いのですか?

湯原先生

そう思います。ライフデザイン教育の一環で卒業生が訪れるのは年に1回ですが、クラブ活動の関係で上級生とやり取りをすることは日常的にありますし、OGも気軽に来てくれるので、勉強法やどんな仕事が向いているかなどのアドバイスを受けることもあるみたいです。

「コ・ラーナーズ・デイ」の研究発表で、関心を持つテーマをさらに調べていく

編集部

ライフデザイン教育の取り組みは、行事にも反映されているのでしょうか。

湯原先生

はい。その中でも代表的なものは「コ・ラーナーズ・デイ」です。これは通常の学校だと文化祭に相当すると思いますが、本校では研究発表会として、生徒と教員が関心を持って調べたことを学内・学外に発表するという催しにしています。

発表のテーマはさまざまで、高校2年生の理系クラスだとスペースデブリ(※)の実態を調査して対策を検討していました。最近はマーケティング関係に興味を持つ子が多くて、理想のコンビニを追求したり、若い世代に響く企業広告を考えたりしていましたね。
(※)スペースデブリ:地球の衛星軌道上にある不要な人工物。いわゆる宇宙ゴミで、近年その数が増えて問題視されている

私がクラスの担任をしていたときは、古地図を基に江戸の町並みと現代を比較したり、東京の上水道について地形図をもとに調べたものなどが印象に残っています。

グループで取り組むか個人で取り組むかは、学年により異なります。どちらにしても、大勢の前でプレゼンし、最優秀作品を目指して本気になって挑戦する機会ですので、生徒たちにとってすごく良い経験になっています。

頌栄女子学院中学校・高等学校のスクールライフ

頌栄女子学院中学校・高等学校の中庭

▲生徒の憩いの場所である中庭。四季を通して何らかの花が咲くように工夫されている

ここからは、今まで伺ってきたトピック以外での学校生活についてお話しいただきました。頌栄女子学院中学校・高等学校の生徒たちの素顔について、さらに探っていきます!

聖歌隊やハンドベルなど、頌栄ならではのクラブ活動がたくさん

頌栄女子学院中学校・高等学校のグローリアホール

▲広々としたグローリアホールでは、聖歌隊やハンドベルの発表もおこなわれる

編集部

頌栄女子学院中学校・高等学校のクラブ活動についても、ぜひお教えください。

湯原先生

本校はクラブ活動も盛んで、ほとんどの部で中高6年間一緒に活動しています。

頌栄ならではのものでいうと、「ハンドベル・クワイア」や「聖歌隊」についてはぜひ紹介したいです。どちらも入学式などの式典や礼拝の機会で披露していて、学外を含めて多くの方々の耳を楽しませています。

2023年には、聖歌隊は合唱部としてNHK全国学校音楽コンクール(Nコン)全国大会に中学・高校ともに初めて出場し、中学は銅賞、高校は優良賞を受賞しました。

編集部

日本舞踊部や箏曲部(琴)など、伝統ある女子校だからこそのクラブもあるのですね。

湯原先生

そうですね。どちらも専門の先生をコーチとしてお迎えして教えていただいているので、楽しみながらも凛とした姿勢で伝統文化を学べています。

意外なところでは、女子校ではありますが理科研究部も熱心に活動しています。約90人の生徒が所属していて、ペットボトルロケットを作ったり、ウーパールーパーを飼育したり、顧問立ち会いのもとで夜間に星空観察をしたりと活動内容も面白いですね。

また、文化系だけではなく、チアリーディング部など体育系も活発ですよ。弓道部は東京都の中でも強豪で、関東大会や全国大会でも多数入賞しています。

リゾート地に山荘を所有。高齢者施設への奉仕活動などで活用中

編集部

御校の行事については、特徴はあるでしょうか。

湯原先生

泊りがけの行事など、さまざまな場面で利用する施設を2つ保有しているのが本校の特徴です。

歴史が古いのが志賀高原にある「頌栄山荘」で、1966年に建設された後、スキーキャンプやクラブ合宿などで使われています。1981年に完成した「頌栄軽井沢学荘」も、同様の行事やオリエンテーションなどで幅広く活用されています。

頌栄山荘では3泊4日の「ワークキャンプ」も実施しています。これは、有志の生徒が参加し、近隣の特別養護老人ホームを訪問して入所者のサポートや施設の掃除などをおこなう奉仕活動です。生徒からは、「興味深い昔のお話を聞いて交流を深められた」という反応もありましたね。

コロナ禍では思うように実施できないこともありましたが、本校の標語のひとつである「奉仕」を体現するようなイベントなので、今後も続けていきたいと考えています。

頌栄女子学院中学校・高等学校からご家族・お子様へのメッセージ

頌栄女子学院中学校・高等学校の広報部長である湯原和則先生

編集部

頌栄女子学院中学校・高等学校には、どのような生徒さんが多いのでしょうか?

湯原先生

「お嬢様が多いのではないか」というイメージをお持ちの方が多いようですが、実際話してみると全然そんなことはないですね。良い意味で期待を裏切るというか、フランクに接してくれる明るい子ばかりです。

これは、全体の2割を超える帰国生の存在も大きいと思いますね。自分の意見をどんどん言うし、人と違っていても気にしない。このような生徒に引っ張られて「もっと自分を出していいんだ」とみんな気づいていくんです。

あとは、学校の内側にいて感じるのが「いじめが少ない」ということです。多感な時期ですから小さないさかいなんかは避けられませんが、集団で特定の個人をいじめるようなことは、知っている限りではありません。全校的に、個人を尊重して多様性を認めるカルチャーがあるからだと思います。

帰国生も最初のうちはすごく目立つのですが、決して浮いたままではなく、5月のオリエンテーションキャンプを経てお互いを知ってからは混じり合った中で個性を発揮するようになっていきます。女子校特有の人間関係については心配されるようなことは少ないのではないでしょうか。

編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いいたします。

湯原先生

本校は当たり前の中学高校生活を送ること、そのためには様々な行事を経験し、また積極的に校外での学習を体感することが何より重要と考えています。その過程で6年間かけて生徒が自分の才能を見つけていく、そのための手助けを勉強面でもその他の体験でも全力でやっていく学校だということは、胸を張って言えます。

見学や行事の際に生徒と触れ合っていただくと、そのことをより理解していただけると思いますので、ぜひ本校に一度足を運んでいただければ嬉しいです。

編集部

頌栄女子学院中学校・高等学校は、キリスト教精神を伝えていく伝統校であるとともに、帰国生がもたらす多様性が校内に浸透していることもよくわかりました。本日はありがとうございました!

頌栄女子学院中学校・高等学校の進学実績

頌栄女子学院中学校・高等学校は、いわゆる「早慶上理(※)」と呼ばれる難関私立大学への進学で全国屈指の実績を誇っています。
(※)都内に主なキャンパスがある難関大「早稲田大学」「慶應義塾大学」「上智大学」「東京理科大学」をまとめた名称

2023年度を見ると早稲田大107人、慶應大131人、上智大150人、東京理科大39人と圧倒的な合格者数(延べ人数)で、しかも9割以上が現役です。

その要因を伺うと、やはり帰国生の存在があってか「英語力の高さがアドバンテージになっている」と湯原先生はおっしゃっていました。とはいえ、どの教科においても必要以上に先取りすることはせず、補習や追試も実施して全体を底上げしているから、このような実績を残せているということです。

また、「上級生から下級生に勉強のコツを教えているのも効果が大きい。教員が言うことよりちゃんと聞きますから(笑)」とも話されていて、異学年のつながりの強さが好影響を与えている点も印象的でした。

■近年の大学合格者数(頌栄女子学院中学・高等学校公式サイト)
https://www.shoei.ed.jp/life_design/#sec01

頌栄女子学院中学・高等学校の卒業生の声

頌栄女子学院中学校・高等学校を卒業した生徒の声から、いくつかを抜粋しました。

楽しく充実した6年間でした。振り返ると、個性豊かな友達や、温かくサポートしてくれる先生方のおかげだったと思います。

帰国生として入学して最初は不安でしたが、一般生と助け合うのが当たり前の雰囲気で、一生の友達もたくさんできました。讃美歌も歌ってみて大好きになり、聖歌隊にも入部しました!

毎朝の礼拝や聖書の授業など、キリスト教について学ぶ機会は多いですが、どれも生徒の意志を尊重した内容です。私の場合、心を静かに整える時間となり、学業により集中できました。

ほとんどの卒業生が「友達と過ごした時間が充実していたこと」を挙げていて、非常に良い雰囲気の中で中学・高校の6年間を過ごしていたことが伺えました。

お問い合わせ

問い合わせ先 頌栄女子学院中学校・高等学校
住所 東京都港区白金台2-26-5
電話番号 03-3441-2005/8009
公式サイト https://www.shoei.ed.jp/