この記事では、特色ある教育に取り組む注目の学校として、幼稚園から中学校まで11年間の一貫教育を行う国立・共学の「島根大学教育学部附属学校園」をご紹介します。
島根県松江市にある島根大学教育学部附属学校園は、島根大学教育学部附属の「幼稚園」と、小学校・中学校に相当する「義務教育学校」から成り立っています。
同校には探究的な学びを軸とする「未来創造科」という独自のカリキュラムがあり、地域の人々や地元企業との関わりを通じて地域や社会が直面する課題を知り、その解決に挑んでいます。また、木と触れ合うことでSDGsへの意識を高める「木育」に取り組んでいる点も同校の特色です。
今回は、そんな島根大学教育学部附属学校園の未来創造科の学びや木育について、学校園長の大島先生、附属幼稚園の副園長を務める太田先生、附属学校園研究部長の大谷先生にお話を伺いました!
この記事の目次
幼稚園から中学校まで11年間の一貫教育を行う島根大学教育学部附属学校園
まず、島根大学教育学部附属学校園が掲げる教育の理念についてお聞かせください。
本校の教育目標は「よりよい未来に向けて 多様な他者と手を取り合い すこやかに しなやかに学び続ける子どもの育成」です。
この教育目標のもと、小学校にあたる附属義務教育学校前期課程と中学校にあたる後期課程では3つの「目指す子どもの姿」を掲げています。それが、「【伸びる】なりたい自分をめざし、創造的に探究し続ける子」、「【つながる】友達と考えを高め合い、共に学び続ける子」、そして「【創る】社会や集団の課題に目を向け、進んで解決しようとする子」です。
このような姿を実現できるよう、幼稚園から中学校までの11年間を通じて探究的な学習などの特色あるカリキュラムに取り組んでいます。
島根大学教育学部附属学校園の探究学習「未来創造科」とは
探究的な学習を重視する島根大学教育学部附属学校園。2019年度にスタートした新しいカリキュラム「未来創造科」では、子どもたちが地域住民や企業と協力しながら地域課題の解決に取り組んでいます。
ここからは、同学校園の未来創造科の学習内容について詳しく伺っていきます。
地元・松江市が抱える課題を解決する「住みたいまちプロジェクト」
未来創造科の学習内容や狙いについて教えてください。
未来創造科は、探究的な見方や考え方で地域や社会が直面する課題に取り組む学習です。課題に対して創造的で未来志向的なアプローチを行うことは「社会のあり方」を考えるきっかけになるとともに、社会や地域における自身の役割について考えることにもつながります。
具体的には、どのようなプロジェクトに取り組んでいるのでしょうか。
代表的なものに、小学校と中学校を通じて実施している「住みたいまちプロジェクト」があります。学校がある松江市は少子高齢化という課題を抱えていることから、プロジェクトでは松江の魅力を向上させ、みんなが住みたいと思えるまちにするためのアイディアを考えます。
課題解決のアイディアを考えるためには、まず地元を知ることが必要です。そのため、小学校ではまちの探検からスタートし、松江の伝統行事である「鼕(どう)行列(※)」を体験したり、特産品のシジミについて学んだりします。
(※)大きな太鼓を山車に載せ、打ち鳴らしながら街を練り歩くお祭り。江戸時代から続くと言われている。
こうした経験を通じて地域の課題を知り、次のステップとして解決のためのアイディアを考えます。例えば、小学校で学んだ「鼕行列」を中学3年生になった時に改めて取り上げ、観光振興の観点からお祭りのアピール方法などを提案する生徒もいます。
子どもたちはどのような方法で地元の課題を知り、解決策を考えていくのでしょうか?
地域の方々や地元企業などに協力していただいています。例えば、鼕行列では保存会の方々からお話を聞いたり、地元の人と一緒にお祭りに参加したりしながら歴史を知り、魅力や課題を見出していきます。
中学校ではまちの活性化などに取り組む地元企業や団体を訪問し、そこでの学びをもとに松江を「住みたいまち」にするための方法を考えます。
2023年度は森林に注目したチームがおり、木材の活用や森林の魅力を知るために県庁や市役所の担当課を訪問したほか、企業とタッグを組み、伐採された木を使った木製の名札フレームを製作しました。
▲木材の活用法の提案として中学3年生が製作した木製の名札フレーム。校内で教員に向けて販売した。
地元住民や企業との触れ合いが「新しい視点」をもたらす
▲未来創造科で原子力発電について探究した中学3年生のチームは、2024年に開催された「私たちの未来のための提言コンテスト」の中学生・高校生・高専3年生以下の部で最優秀賞を受賞した。
住みたいまちプロジェクト」では学校を飛び出して地元の人や自治体、企業と連携する機会がたくさんありますが、子どもの成長にどのように役立っていますか?
地域や企業の方には教員にはない視点やアイディアをもらうことが多く、子どもたちの視野の広がり、創造的に考える力が高まっていると感じます。
中学3年生はプロジェクトの成果発表を行うのですが、夏の中間発表の際は一般の方や市役所の方にも参加いただき、外部の視点からアドバイスをもらって最終発表に向けたブラッシュアップを行っています。
学校外の方とコミュニケーションすることは、物怖じせずに自分の思いを伝えたり、相手から聞かれたことに対して自分の言葉でしっかり説明したりする力にもつながっていると感じます。
未来創造科は、探究の力だけでなく自己表現力やコミュニケーション力など、これからの時代に必要なスキルをたくさん得られるカリキュラムなんですね。
その通りです。教育目標に「多様な他者と手を取り合う」とあるように、未来創造科では普段の生活では触れ合うことができない人とたくさん出会い、世界を広げ、自分の可能性を広げてもらいたいと考えています。
幼小接続を意識し、幼稚園のうちから探究の基礎を築く
附属幼稚園でも、探究教育を行っているのでしょうか?
未来創造科は小学校から始まるカリキュラムですが、小学校に上がった時にスムーズに未来創造科に取り組めるよう、幼稚園のうちから主体性や探究力の基礎を築いています。
その代表的な取り組みが、幼稚園児と小学1年生が一緒に活動する「わいわいランド」です。ただ一緒に遊ぶのではなく、協力しながらイベントを作り上げるプログラムで、2024年の秋は一緒に出し物を行う予定です。
先日、1年生が出し物の内容を考えていたのですが、黒板にはお化け屋敷やボウリングコーナーなど、楽しそうなアイディアがたくさん書き出されていましたよ。
「わいわいランド」を経験した子どもさんには、どのような成長がみられますか?
幼稚園では「これがやりたい」という遊びを自分で見つけ、それにエネルギーを注ぐことを通じて探究の基礎を身につけてほしいと考えています。そのうえで、自ら遊びを作り出し夢中になれる「わいわいランド」はとても効果的な取り組みだと感じています。
また、小学1年生は初めて「上級生」の立場を経験するので、責任感や思いやりの心の育成にもつながっていると感じます。
島根大学教育学部附属学校園は「木育」を通じてSDGsを考える
▲木音の部屋には木製のおもちゃがたくさん。定期的に一般開放日を設けている。
島根大学教育学部附属学校園では、SDGsに関連した教育も行っているそうですね。
本校では、11年間を通じて木を教育に取り入れる「木育(もくいく)」を行っています。
幼稚園の園庭には50種類の樹木が植えられているほか、どんぐりを拾ってパチンコ遊びなどをしています。数年前には地元の木工店さんに協力いただきながらツリーハウスを作りました。このような活動を通じて、「木が私たちの生活を豊かにしてくれている」という意識を持ちます。
また、木製のおもちゃを集めた「木音(もね)の部屋」があり、島根大学の山下晃功名誉教授が生み出した国産の木材を使ったロボット「ロボ木ー(ロボキー)」で遊んだり、木の端材を使ってどんぐり迷路を作ったりしながら、私たちの遊びや生活に木がどのように役立っているのかを学びます。
小学校に上がってからはどのような木育を行っていますか?
島根県は県土の8割が森林と言われる森林県なので、未来創造科のプロジェクトでも森林について学ぶ機会は多いですね。先ほど大谷先生から紹介のあった木製の名札もその一例と言えます。
幼稚園の木音の部屋を訪問して「この木はどこから来たんだろう?」と考えるような時間も設けています。
5年生の宿泊研修では県内の森林を訪れ、木を伐採する様子を見学します。このような木育を通じて、子どもたちは自然を身近な存在として捉え、持続可能な森林づくりに必要なことを考えるようになります。
島根大学教育学部附属学校園からのメッセージ
▲左から、附属幼稚園の副園長を務める太田先生、学校園長の大島先生、附属学校園研究部長の大谷先生。
最後に、記事をご覧の保護者の方や子どもさんにメッセージをお願いします。
先行きが不透明で変化の激しい社会を生きる子どもたちには、答えのない問いに向き合い自ら判断する力が必要です。地域の課題に目を向け、地域のさまざまな人と関わりながら探究的に解決する未来創造科は、まさにこれからの時代に必要な力がつく学習だと考えています。
また、本校はグローバル社会に対応するための教育にも力を入れています。英語のスピーチコンテストをはじめとする英語教育はもちろん、中学校ではアメリカ・シアトルの子どもたちが来日し、生徒の家庭にホームステイをしながら2日間一緒に勉強や部活動をするプログラムもあります。
探究力や国際力を身につけたいとお考えのご家庭は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
幼稚園から中学校まで、11年間を通じて一貫した教育を行っていますので、将来に必要な力をしっかりと身につけていただけると思います。
本日はありがとうございました!
島根大学教育学部附属学校園の在校生・保護者の口コミ
▲ICTの活用にも積極的な島根大学教育学部附属学校園。授業のノート取りや、未来創造科のプレゼン資料作成など、あらゆる場面でChromebookを使用している。
最後に、島根大学教育学部附属学校園の在校生や保護者の声を紹介します。
口コミでは、教員の熱心なサポートや、未来創造科をはじめとする探究学習の内容を評価する声が多くあがっていました。
▲中学3年生の修学旅行は沖縄県へ。
島根大学教育学部附属学校園へのお問い合わせ
運営 | 国立大学法人島根大学 |
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住所 | 附属幼稚園:島根県松江市大輪町416-4 附属義務教育学校(前期課程):島根県松江市大輪町416-4 附属義務教育学校(後期課程):島根県松江市菅田町167-1 |
電話番号 | 附属幼稚園:0852-29-1120 附属義務教育学校(前期課程):0852-29-1200 附属義務教育学校(後期課程):0852-29-1300 |
公式ページ | https://www.shimane-fuzoku.ed.jp/ |
※詳しくは公式ページでご確認ください