独自の教育を実践する注目の学校を紹介する本企画。今回は、滋賀県大津市にある共学校「滋賀大学教育学部附属中学校」を紹介します。
滋賀大学教育学部の附属校である同校は、常に先進的な教育活動を実践しており、近年、注目の探究学習にいたっては、「総合的な学習の時間」の先駆として1982年にスタートし、実に40年以上の長きにわたり実績を積み重ねています。
今回は、そんな滋賀大学教育学部附属中学校の教育目標や特徴的な取り組みについて、副校長の河野先生と研究主任の原田先生にお話を伺いました。
この記事の目次
先進的な教育を実践。滋賀大学教育学部附属中学校の教育目標
最初に、滋賀大学教育学部附属中学校の教育理念や教育目標についてお聞かせください。
本校は、国立大学法人滋賀大学の附属学校として、先進的な教育研究や教育実習、地域の教員の研修校としての役割を担っております。
教育目標としては「郷土を愛し世界へはばたく心豊かな生徒の育成」を掲げ、創造的な知性と正しい判断力、思いやりや感謝の気持ちを育てる心の教育の充実を目指しています。また、人との協調的な学びを大切にし、できるだけ多くの人と関わることができる環境に努めています。
本校が実践してきた先進的な研究の中には、現在の学習指導要領に反映されているところも多々ありますので、本日はそういった点を中心に本校の魅力をお伝えしていきたいと思います。
滋賀大学教育学部附属中学校の探究学習「BIWAKO TIME」
▲「BIWAKO TIME」のグループ決定の様子
滋賀大学教育学部附属中学校では、学校教育目標「郷土を愛し世界へはばたく心豊かな生徒の育成」を実現するための教育課程の軸として、総合的な学習の時間に「BIWAKO TIME」と「情報の時間」を実施しています。ここでは「BIWAKO TIME」と「情報の時間」についてお話を伺いました。
異学年のグループで、郷土を軸に多岐にわたるテーマを探究
▲「BIWAKO TIME」のガイダンス
御校の探究学習「BIWAKO TIME」について教えてください。
「BIWAKO TIME」は、40年以上続けられてきた歴史がある総合的な学習の先駆けです。本校の一番のセールスポイントと言えるかもしれません。2020年頃からは、これまで実践してきたことを世界にも発信し、世界にも目を向けて探究的学習活動をしようということになり、グローバル・ESD教育の側面を強めていきました。
異学年合同の縦割り活動が「BIWAKO TIME」の特徴で、約半年間かけて、自分たちの知りたいと思うことをグループで考えあって、調べていくというのが概要になります。流れとしては、滋賀や琵琶湖など自分たちが住んでいる地域をテーマに「問い」を持つことからスタートします。
まずは、個人で問いを持ってレポートを作ることから始め、そこからよく似たテーマ・問いを持った生徒たちが、5~6人程度の小グループを作り、さらに新しい問いを立てていきます。
とは言え、40年も実践していると、先行研究が積み上げられてきており、問いを持とうにも、既に研究されている内容が多くあります。そこで、テーマを広げ、滋賀や琵琶湖だけではなく、他地域との比較や関連性もテーマの中に入れることにしました。
1982年に「BIWAKO TIME」がスタートしたときは環境学習が中心でした。滋賀あるいは琵琶湖に足場を置くのは今も変わっていませんが、長い時間の中で仕組みが改善され、テーマは広がっていったということです。
本校では14のベースルームに分かれて活動しており、その中には自然環境もあり、歴史的なこともあり、社会行政のこともあります。75ぐらいのグループができますので、テーマは多岐にわたります。研究の対象が非常に広範囲にわたっているのも本校の特徴だと思っています。
また、全校生徒が同時に取り組むため、学校の中の全てのリソースを全てつぎ込むことも本校「BIWAKO TIME」の特徴かと思います。
▲「BIWAKO TIME」のグループ決定の様子
異学年合同の縦割り活動ならではの相乗効果がある
テーマごとにグループを作ると思うのですが、その編成が大変ではないでしょうか。どのように実施されるのですか?
まずレポートを書く前に希望調査を取ります。例えば、自分が「琵琶湖の伝説」について知りたいと思ったら、歴史、文化、自然活動など異なる視点から問いを立てます。
それを教員が確認し、テーマごとにグループ分けを行います。ベースルームは14室あり、各ルームには25~30人の生徒が配属されます。教員は生徒の問いの内容や人数を考慮して適切なグループ分けを行います。
そこからは生徒たちが自分のグループ内でレポートを作成し、そのレポートを見せ合い、自分と同じテーマや近いテーマを持つ生徒と交流します。
グループに何年生が何人参加するということは決まっていないのですか?
そうですね。大体の比率は同じようにはしますが、3年生の少ないベースもありますし、1年生の少ないグループもあります。その中で、上級生は責任感と自覚を持っています。下級生がはぐれてしまわないように、上手く混ざれるように声をかけあいながら、対話しながらグループが作られていきます。
▲「BIWAKO TIME」の校外での学習(滋賀県庁)
異学年で関わり合う中での生徒さんの様子はいかがでしょうか?
3年生になると、1年生、2年生のときのやり残しがあるので、今度はぜひこれをやりたいという強い意思を持っている生徒が多いです。その中で1年生はそれに引っ張られながら学んでいくので、相乗効果がとても大きいと思っています。
これからの社会では協働する力がとても大事だと思います。3年生は視野が広がりますし、1年生は直感的に新鮮なアイディアがでます。協働するところに、この異学年活動の良さを感じています。
お互いに良い影響を受けながら、主体的に自分たちのテーマを探究し合うところが「BIWAKO TIME」の良さであり、自信を持ってお伝えできるところです。コロナ禍においても、TeamsなどICTの活用で異学年交流は続けてきました。
▲「BIWAKO TIME」の校外での学習(滋賀大学教育学部)
探究に必要なスキルを学ぶ「情報の時間」の設定
▲「BIWAKO TIME」まとめ集会
探究学習「BIWAKO TIME」を実施する過程においては、ツールやワークブックなどを使っていらっしゃいますか?
思考ツールで「Yチャート」というものがあり、それを使って自分の観点を整理し、観点ごとに交流できるような仕掛けを準備しています。
探究学習は早くから導入していたものの、どう考えればいいのか、どのように論理的に突き詰めていけばいいのか、どう研究すればいいのか、探究学習に必要なスキルを、あまり学習しなかった反省が本校にありました。
それを反映したのが、もう1つの総合的な学習「情報の時間」です。本校では学びのエンジンと呼んでおり、探究する方法や研究結果の伝え方について指導しています。
それが支えとなって「BIWAKO TIME」が存在しています。さらに、そこで培った能力が、各教科の探究が求められるシーンで発揮されていると思っています。生徒たちは3年間で成長しますので、本当に頼もしく思います。
具体的にどのようなところに成長を感じますか?
3年生は発表の場面で成長を感じます。学力とは関係なく、好奇心で他の学年を引っ張りながら関係を進めていくところは、これから求められていく力だろうと思います。
知識を溜め込んでいく記憶の量が勝負ではなく、新しい発想を現実のものにしていく能力についてはすごく成長しているところだと思います。
さらに、3年生の最後には、最後の大掛かりな探究学習として、エネルギーと社会・環境のかかわりについて学ぶ「科学技術の時間」を設けています。ここは徹底的に議論をさせる場であり、中学3年間の集大成として生徒たちの成長を実感する場でもあります。
「BIWAKO TIME」の発表はICTを使ったプレゼンテーションでしょうか?
基本的に資料作成にはPowerPointを使用します。作成したスライドはブラウザ上で表示し、スクリーンに投影して発表するのが一般的です。また、本校にはMicrosoftのSurface Hubも10台ぐらいあります。この大型ディスプレイを使って、発表を行うこともあります。
発表資料を作成する時間は、総合学習や情報の時間を中心に設定されており、ほかの授業でも「良い見せ方」や「良い聞き方」について学びます。これにより生徒たちは効果的なプレゼンスキルを身につけ、他教科でも活かすことができていると思います。
▲「BIWAKO TIME」まとめ集会
滋賀の文化を守るために、伝説を和菓子で伝える
「BIWAKO TIME」について、印象に残っているテーマをご紹介いただけますか?
以前、琵琶湖で繁殖して困る外来魚対策を研究したグループがありました。外来魚をどうにか活用しようと、生徒たちが実際にブラックバス、ブルーギルといった外来魚を釣りに行って、釣ってきたものを調理して、教員みんなで試食しました。
あるグループは、最初は滋賀の伝説を伝承していくためにはどのような方法があるかを考えていました。いろいろと意見はあったらしいのですが、その中で和菓子を使って何か表現できないだろうかということで、自分たちのイメージするデザインを発表しました。
プロセスとして、大津市内の和菓子屋さんを3軒ほど巡り、滋賀県の特徴的な和菓子や水神様の龍をモチーフにした和菓子についてインタビューを行いました。例えば、「なぜこれは丸いのですか?」「なぜこれは緑色なのですか」と質問し、和菓子職人の方から直接話を聞く機会を持ちました。
そのインタビューを通して、生徒たちはこうした伝え方があってもいいと思い、伝説を和菓子に込めたのです。「伝説をこうやって伝えていくことは、文化を守る上でも大切だ」と発表したことは大変印象的でした。
他にはやはり自然科学のテーマが多いです。外来魚だけではなく水質もそうですし、自然環境や生態系について、安直に昔の琵琶湖に戻そうではなく、人間との共生といった前向きな問いが多く見受けられます。新たな価値を見つけていく、それこそが我々が目指している「BIWAKO TIME」のあり方です。
滋賀大学教育学部附属中学校の文化祭・国際交流について
▲文化祭の学級劇
そのほかに、滋賀大学教育学部附属中学校の取り組みについてお教えいただきたいです。
本校では、総合学習をとても大事にしております。「BIWAKO TIME」は文部科学省が総合学習をデザインするときのもとになった学習であると聞いていますし、いろいろな総合学習を組み合わせる中で、1つのカリキュラムデザインをマネジメントしていく考え方をしています。
例えば、総合学習の一環として文化祭の学級劇に取り組む場合は「コミュニケーションタイム」と呼んでいます。つまり、文化祭の学級劇を学校行事として捉えるのではなくて、総合学習の仕組みの中で捉えています。
そのほかグローバル教育・国際的な視野で言いますと、しばらく実施できていませんが、修学旅行と韓国の姉妹校生徒のホームステイがあります。
修学旅行では韓国へ行き、韓国からは数名が来られ、本校生徒の家庭でホームステイをしてもらう国際交流をずっと行ってきたのですが、昨今はいろいろな社会情勢がありますので、直接訪問することは控えています。しかし、今現在もオンラインで韓国との交流を行なっています。
▲多目的室
滋賀大学教育学部附属中学校からのメッセージ
▲取材に対応いただいた河野副校長と原田先生
最後に、滋賀大学教育学部附属中学校に興味を持たれたお子さまや保護者の方に向けてメッセージをお願いします。
学校の中で学ぶことはとても大事ですが、その学びは社会や地域と繋がることで、初めて本当の学びになると感じます。「BIWAKO TIME」を通して、他地域と繋がり、自分以外の人と関わることが多くなってきます。
知りたいと思えるところに主体性が生まれて、これまで学んできたことが繋がってくる場面に出会えるのは教員としても大変幸せですし、そういう学びが本校にはあります。
本校の生徒は、それなりに頑張って進路を切り開いていますが、進学実績云々ではなく、今の時代に求められている力、あるいはこれからの時代を生きていく力をつけるための学習を進めていきたいと思っています。
生徒たちが身につけた力が本当に役に立つのは、社会の意思決定者になったときです。そういう意味で、本校で実践している教育活動が、生徒たちの中で継続的に続いていくことを目指しています。目の前の受験を乗り切るだけの学力ではなく、もっと先を見た学力をつけたいと思っています。
本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
▲コンピュータ室での社会科授業
滋賀大学教育学部附属中学校の進学実績
滋賀大学教育学部附属中学校の令和4年度卒業生進路状況としては、卒業生107名のうち、国公立には53名が、私立には54名が進学しています。
内訳としては、膳所20名、石山8名、東大津8名など48名が滋賀県内の県立高校に進学しています。滋賀県内の私立高校は、比叡山高校7名、立命館守山4名、光泉カトリック3名の14名が進学しています。そのほか5名が県外の国公立に進学、40名が県外の私立に進学しています。
■進学実績(滋賀大学教育学部附属中学校公式サイト)
https://www.edu.shiga-u.ac.jp/fc/entrance-exam/circumstances/
滋賀大学教育学部附属中学校の卒業生・保護者の口コミ
ここからは、滋賀大学教育学部附属中学校の口コミを紹介します。実際に通学していた卒業生や保護者の声をまとめました。
滋賀大学教育学部附属中学校へのお問い合わせ
運営 | 滋賀大学教育学部附属中学校 |
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住所 | 滋賀県大津市昭和町10番3号 |
電話番号 | 077-527-5255 |
公式ページ | https://www.edu.shiga-u.ac.jp/fc |
※詳しくは公式ページでご確認ください