ぽてん読者の皆さまに、今注目の学校を紹介するこの企画。今回は芝浦工業大学附属中学高等学校を紹介します。同校は、東京都江東区豊洲にある私立の中高一貫校です。2017年に板橋から豊洲に移転、2021年には中高ともに男子校から共学化するなど近年大きく進化しています。
そんな同校の最大の特徴は、芝浦工業大学の附属校として理工系教育を推進していること。数学や理科といった特定の教科の学びだけを重視するのではなく、理工学を中核に据えつつすべての教科を含めた多角的な教育プログラムを展開しています。
今回は同校校長の柴田先生に、芝浦工業大学附属中学高等学校の教育方針や、あらゆる教科を理工学と関連づける授業「ショートテックアワー」をはじめとする理工系教育、グローバルとITを軸に学ぶ探究学習などの特色あるカリキュラムについてお話を伺いました。
この記事の目次
理工学に特化した学びを進める芝浦工業大学附属中学高等学校の教育方針
▲インタビューにご対応いただいた柴田校長
まずは芝浦工業大学附属中学高等学校の特徴や教育方針を教えていただけますか?
本校の教育の最も大きな特徴は、理学・工学の単科大学(1つの領域からなる大学)である芝浦工業大学の附属校として理工系教育を推進していることです。芝浦工業大学の教育目標である「世界に通用する技術者の養成」を踏まえ、本校でも理工系の知識を活かしてグローバルに活躍できる「グローバル理工系人材」の育成を目指しています。
かなり専門特化した学びを深められるという印象を受けますが、やはり理工系教育を期待して芝浦工業大学附属中学高等学校に入学される方が多いのでしょうか。
そうですね。芝浦工業大学は本当に理工学に専門特化した研究を深められる大学なので、芝浦工業大学に進学し、そこで技術者になることを見越して本校を選ぶというケースも少なくありません。
その一方で、本校は高等専門学校や工業高校ではなく、普通科の学校として幅広い学びを提供しているという点も特徴です。理工学の学びを中心にさまざまな経験ができることで、「学ぶ楽しさ」を見出していける環境があると思っています。
芝浦工業大学附属中学高等学校の理工系教育を象徴する「ショートテックアワー」
御校の理工系教育の中でも特徴的な取り組みは何ですか?
理工学を軸に幅広いテーマで学ぶ「ショートテックアワー」は、まさに本校の理工系教育を象徴するカリキュラムです。ショートテックアワーでは、理系教科だけでなく国語や社会、英語、芸術や保健体育など、全教科の教員が理工学と関連づけた授業を実施しています。
国語や体育などは理工学と関連づけるのがかなり難しそうだと感じるのですが、例えばどのような内容なのでしょうか。
体育の授業の一例として、オリンピックで使用されるタイマーやパラリンピックで使用される車いすをテーマに、そこに凝らされた工夫から「ものづくり」を学ぶという内容を実施しています。また国語では『走れメロス』の本文から気になった個所を引用し、文書を入力するとAIが続きを創作してくれるソフトを利用してどんな文章になるか検証するという授業などを実施しています。
お話を聞いているだけで楽しそうだなと思います。理工系の視点から見ることで、他の教科への興味や関心も深まっていきそうですね。
そこがまさに先ほどもお話した、学ぶ楽しさにつながっていく部分です。理工学と他の教科を関連づけて学びを広げ、総合的な力を身につけることができればと思っています。
理工学を学ぶ楽しさを引き出す「サイエンス・テクノロジーアワー」
その他にも、理工学に特化した学びで特徴的なものはありますか?
理科の授業でも実験は積極的に行っていますが、中学3年生ではそれにプラスして隔週2時間の特別授業「サイエンス・テクノロジーアワー」を実施しています。地学の分野で天体望遠鏡の制作を作成したり、生物の分野でDNAの抽出を行ったり、飛行機ペーパークラフトの制作を通じてプロジェクトマネジメントを体験したりと、教科書の枠を超えた幅広い学びが得られます。
サイエンス・テクノロジーアワーで重要視しているのはどのような点ですか?
生徒たちが興味・関心を持てるテーマを設定し、理工学を学ぶ楽しさを引き出すという点です。主体的に学ぶ姿勢を育むためには、まず興味を持ってもらうことが大切です。興味を持つ分野は生徒によって異なるため、サイエンス・テクノロジーアワーを通じて、できるだけ幅広い分野の体験機会を提供しています。
芝浦工業大学との連携で、理工学の“専門性”と“楽しさ”をアップ
2017年に豊洲にキャンパスを移転されたことで芝浦工業大学と隣接する立地となりましたが、大学と連携した学びの機会などはあるのでしょうか。
中学校の各学年で、芝浦工業大学の教授やゼミ生と一緒に学ぶ「ものづくり体験」の機会を設けています。中学1年生ではスパゲッティを使って最も強度が高い橋を実現する「スパゲッティブリッジ」、2年生ではリモコン操作ロボット、3年生ではデザイン工学の楽しさを体感できる講座を行っています。
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御校の大学連携授業の魅力はどういった点にあると思われますか?
芝浦工業大学の全面的な協力のもとで、通常の中学校の授業だけでは得られない高次の学習内容を体験できることは、生徒の学びの意欲につながっていると思います。なおかつ「ものづくり体験」を中心に、学びの楽しさを追求しているのも本校の大学連携の魅力です。楽しい内容だからこそ、難しいことにも前向きに挑戦できているのだと思います。
GC×ITで社会課題の解決を目指す探究学習「SHIBAURA探究」
続いて御校の探究学習について伺います。「SHIBAURA探究」という名称で中学校から探究型授業を展開されているとのことですが、どのような内容なのでしょうか。
SHIBAURA探究は大きく「グローバルコミュニケーション(GC)」と「インフォメーションテクノロジー(IT)」の2軸で展開しています。GCはコミュニケーションと協働の力を育みつつ社会課題に向き合う教育プログラム、ITはITリテラシーをもってアイディアを実体化できるエンジニア養成を目指す教育プログラムです。
GCとITは異なる教育プログラムですが、最終的にはそれぞれの学びが相互連関し、理工系の知識を活かして社会課題を解決できる人材を育成することを目指しています。
身近な地域からアメリカまで、幅広い社会課題を学ぶ探究プログラム「GC」
GCで行っている具体的な取り組みを教えてください。
グローバルコミュニケーションを学ぶことを目的としているため、中学3年生ではアメリカへの海外教育旅行を行います。ただし世界を知る上で、まずは身近な地域や日本の文化、産業を知ることが必要です。そのため1年生は本校の所在地である豊洲を舞台に歴史や産業などを学び、2年生では長野県の農村体験を通じて日本文化を学ぶという段階的なプログラムを実施しています。
1年生では、昔と今の豊洲が示された独自の地図を使ってこの地域のことを調べていきます。そして2年生の農村体験はアメリカの教育旅行の前段階として、「農業」という日本の産業・文化を学びつつ、民泊でアメリカのホームステイの疑似体験を行います。
農村体験を経験した生徒さんからはどのような反応がありますか?
東京都江東区という土地柄、都心で生活している生徒が多いため、普段の生活とは何もかも違う環境に驚いています。今はインターネットで調べれば何でも出てくる時代ではありますが、実際に体験するからこそわかることがたくさんあるようです。
核家族化が進む中で祖父母との生活を体験したことのない生徒も多く、民泊でおじいちゃん、おばあちゃんと同じくらいの年齢の方と寝食をともにする中で世代を超えた交流も生まれています。世代が違う人とコミュニケーションを取る上でいつもとは違う伝え方も意識する必要があるので、その点でも勉強になっているのではないでしょうか。
長野県では社会課題の調査も行っているのですよね。
はい。事前に地域が抱える課題を調べ、現地で調査をして解決策のアイディアをまとめ提案する、という地域の課題解決プログラムも実施しています。
そこで生まれたアイディアの例を教えてください。
長野県は高齢化が進んでおり移動に困難を抱えている方が多いことから、電動キックボードを活用するというアイディアが生まれました。地域振興と交通インフラを最新技術を活かして解決するというものです。またスキーが盛んなので、地元のスキー場を盛り上げるための方法として、雪に色をつける・夏季期間中にキャンプや天体観測のイベントを行う、といった具体的なアイディアも生まれました。
こういったアイディアを考える際のポイントは、実現性やSDGsの視点はもちろん、ビジネス的な側面も考慮する点です。生徒は単に面白い取り組みだというだけでなく、どうしたら経済効果を生むことができるのかも含めて検討しています。
探究プログラム「IT」ではものづくり・データサイエンスからPBLまで幅広く学ぶ
「IT」というプログラムは、どのような内容なのでしょうか?
ITでは、プログラミング等の技術を活かした「ものづくり」を中心に幅広い内容を行っています。中学1年生で行う「Scratch」というプログラミング技術を用いたドローン制御などもあれば、企業と連携した問題解決型授業(PBL)を行うこともあります。
例えば2023年には東京メトロさんと連携し、東京メトロさんが抱える課題解決に資するアイディアを考える授業を行いました。ITを切り口にしつつ、アイディアを実体化できるエンジニアの育成に向けた多角的な力を身につけていくのが目標です。
また中学2年生からはデータサイエンスも学びます。本校では他の学校で使用していないような検索エンジンを入れ、GoogleやYahoo!などの主要検索エンジンでは拾い切れない情報も収集できる環境を整えています。そこで得たメガデータをもとに分析・検討を進めていくのがデータサイエンスの内容です。
データサイエンスも探究学習の一環として、調べ学習や発表を行っているのでしょうか。
はい。データサイエンスでもグループでの検討や発表を定期的に実施しています。しかしGCなど他の学びと違うのが、自分の考えや周囲の意見といった定性データではなく、あくまで「数字ありき」で結論を導き出すという点です。
数字をもとに仮説を立ててグループで検討し、発表後に皆から意見をもらってまた検討する、というサイクルで進めています。中学生ながら鋭い視点で、さまざまな考察が生まれていますよ。
興味のある分野で自由に発想する、「SHIBAURA探究」の集大成となる発表機会
「理工系の知識を活かして社会課題を解決できる人材の育成」に向けて、GCとITの学びを総括する機会はありますか?
2024年2月に初めて「SHIBAURA探究」の総決算となる発表を実施しました。中学3年生の9月に行く海外教育旅行を1つの区切りとして、そこまでの学びを活かして自分たちの好きな内容で発表を行ってもらいました。
発表手法はポスターセッションでも、プロジェクターを使ったプレゼンテーションでも、成果物をつくるのでも自由としています。長野県での経験を経て、長野の「鯉食」の文化を発展させるために鯉の調理方法を動画に取って提案する生徒もいましたし、自分の体の成長に合わせてサイズ変化する靴というのを模型をつくってシミュレーションした生徒もいました。それぞれの興味・関心に合わせて、本当に多様な発表内容、方法が生まれていましたね。
「SD(自立学習)」で自学自習・部活動との両立をサポート
▲各教室が外からも良く見える設計になっており、「外から見られる」ことが学びのモチベーションにつながっているという
御校では「Self Development-SD(自立学習)」という時間を設けられているそうですが、こちらについてもご説明いただけますか?
SDは自立学習の時間を授業枠として設ける取り組みで、他の学校にはない本校ならではの特徴です。中学1年生・2年生は週2時間、中学3年生は週3時間の時間を確保しています。
SDの時間を加味して学習計画も立てられるので、部活動と勉強を両立している生徒からも「SDがあるから部活を頑張れる」という声があがっています。自宅でやるよりも集中できる環境ということもあり、より学習効果があるという意見もあります。
SDでは教員側から「これをしなさい」と時間の使い方を指定することはなく、宿題やレポートのまとめ、苦手教科の勉強など、生徒が必要な勉強に時間を使うことができます。
「SD」という時間を設けた目的についてお聞かせいただけるでしょうか。
勉強は、授業で先生に教えてもらっただけで完結するものではなく、自分自身で興味を持ち、復習したり調べたりするからこそ定着するものです。しかし、授業が終わったあとに部活動を頑張り、帰宅後に宿題をやるという毎日の中で、その時間を確保することはなかなか難しいでしょう。遠くから通学する生徒はなおさらです。
自分で勉強する最低限の時間を確保してあげることで学習効果が望めますし、生徒たちが忙しい毎日のなかで追い詰められることのないようにしたいという思いもあります。
御校では、やはり自主学習を大切にされているのでしょうか?
そうですね。自学自習を大切にしているので殊更に「勉強しなさい」と生徒に働きかける風土はありませんが、自分で計画を立てて勉強ができる生徒は増えていますね。理工系教育や探究学習などを通じて興味・関心のある分野の学びを深めていく上で、勉強の必要性が生徒の中にも浸透していると感じています。
理工学の学びを深める部活動がさかん!それを支える環境設備も充実
▲ロボカップ世界大会総合優勝を果たした電子技術研究部手作りのUFOキャッチャー
SDが勉強と部活動の両立に役立っているとのことですが、御校では部活動もさかんなのでしょうか。
部活動は運動部、文化部含めてたくさんの種類があります。
その中でも、電子技術研究部はロボカップのフランス大会優勝などの実績を残しており、部員数も中高合わせて160名程度とかなり人気の部活です。他にも、工作技術研究部という部活では、「エコラン」という決められたコースを走行したときの消費燃料の少なさを競う競技に参加しています。
こうした理工学系の部活動が活躍しているのは、本校ならではの特徴です。
理工学系のクラブ活動には特殊な環境が必要だと思いますが、2017年から開始している新校舎にはそのような環境も整っているのでしょうか。
本校の校舎の1階には一般教室がなく、3つの理科室と2つの技術室、2つのコンピュータ室というすべて理科やテクノロジー関係のものづくりの部屋となっています。加えて大型のものづくりが可能な「ファクトリー」、鉄道工学の歴史的資料を展示した「しばうら鉄道工学ギャラリー」を配置しています。授業はもちろん、部活動にも使用されていますよ。
▲大型機械の使用できるものづくりスペース「ファクトリー」
ロボット技術室はITの授業でも使用しますが、電子技術研究部の活動の場となっています。3Dプリンターが15台あって、ロボット製作に活かせるのも本校ならではの特徴ですね。
▲15台の3Dプリンターを用いてものづくりが行われている
芝浦工業大学附属中学高等学校からのメッセージ
最後に、芝浦工業大学附属中学高等学校に興味を持った読者の方に向けてメッセージをお願いします。
本校は理工系教育に特化した独特なカリキュラムを実施する学校です。その分理工学に興味がない方にとってはややミスマッチを感じる瞬間があるかもしれません。
「理工学をベースにしたさまざまな経験を通じて総合的な力を身につける」という教育に魅力を感じる方であればきっと楽しみながら学べる環境があると思いますので、そういうお子様に来ていただけると嬉しいです。
柴田校長、本日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました!
芝浦工業大学附属中学高等学校の進学実績
芝浦工業大学附属中学高等学校が附属推薦制度の枠を持つ芝浦工業大学は理工系単科のトップ大学であり、大学で専門的な研究活動ができることから、大手企業への高い就職実績を誇っています。中学高等学校の過去4年間の進学実績を見ると、多くの生徒が芝浦工業大学に進学しています。
芝浦工業大学以外の学校への進学実績をみると、東京工業大学や東北大学、筑波大学などの国立大学、早稲田大学、慶應義塾大学、東京理科大学、上智大学といった名門私学などが名を連ねています。
■芝浦工業大学附属中学高等学校進学実績(公式サイト)
https://www.fzk.shibaura-it.ac.jp/high/career/
芝浦工業大学附属中学高等学校の卒業生・保護者の口コミ
ここでは、芝浦工業大学附属中学高等学校に寄せられた卒業生、保護者の方の口コミを一部抜粋して紹介します。
教育環境や生徒も含む学校全体の雰囲気に、理工系に特化しているからこその特徴があることが伝わってきました。充実した設備の中で理工学を突き詰めたい方にはとても良い環境があるのではないでしょうか。
2021年度からの完全共学化により女子生徒も徐々に増えていることもあり、口コミからは多様な生徒が共存しながら学校生活を楽しんでいる様子も伝わってきました。
芝浦工業大学附属中学高等学校へのお問い合わせ
運営 | 学校法人芝浦工業大学 |
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