ぽてん読者の皆さまに、特色ある教育プログラムで注目を集める学校を紹介するこの企画。今回紹介するのは、神奈川県川崎市にある共学校「洗足(せんぞく)学園小学校」です。
洗足学園小学校は、1949年創立の歴史を持つ私立小学校です。洗足学園音楽大学の溝の口キャンパス内に位置し、姉妹校の強みを生かした児童によるオーケストラ活動が有名です。中学受験に注力した進学校としても有名な同校ですが、ICTツールを活用した児童一人ひとりの主体性を育むグループ活動にも力を入れています。
今回は、洗足学園小学校の教育理念や、児童による学びの発信活動である「センゾクノトビラ」、近年実践されているグローバル教育などについて、6年生担任の野口先生、仙波先生にお話を伺いました。
この記事の目次
洗足学園小学校が目指す「自立」「奉仕」「挑戦」の精神と「たてわり活動」
初めに、洗足学園小学校の建学の精神について教えてください。
洗足学園小学校では、創立者である前田若尾先生が掲げられた「理想高遠 実行卑近」を建学の精神としています。この言葉は、「志は高く持ち、実際の行動は自分に近いところから行う」という意味です。この建学の精神をベースとし、社会のリーダーになる人材の育成を行っています。
建学の精神を児童に伝える際、どのような声掛けをされているのでしょうか。
児童に話す際には、建学の精神をかみ砕いて「自立」「奉仕」「挑戦」の3つの言葉で説明するようにしています。それぞれの学年に合わせた細かい学年目標を設定し、各学年の児童がわかる形に変えて提示しています。
建学の精神や教育理念が児童それぞれに浸透しやすいよう、工夫されているのですね。特にどのようなシーンで、生徒たちに建学の精神が浸透していると感じますか。
1年生から6年生までをたてわりの班に分ける「たてわり活動」は、特に児童たちの自立心や奉仕の心、挑戦心を育むことができる取り組みです。
「たてわり活動」は、学校生活のいろいろなシーンで実践しています。例えば、全学年が一緒になってお弁当を楽しむ月1回程度の「たてわりランチ」、3年生から6年生までが3泊4日のロッジ生活を体験する「黒姫移動教室」、たてわりのスポーツ大会などが代表的です。6年生を中心にたてわりのグループを作り、年間を通して様々な活動を行っています。
「たてわり活動」に参加する児童には、どのような様子が見られていますか。
各学ごとに成長する姿が見られているのですが、特に6年生のリーダーとしての活躍は目覚ましいですね。新年度が始まって間もなく、全学年が参加する「たてわり遠足」があるのですが、6年生はリーダーとして遠足の成功を目指して活動します。
最初は下級生にどう声をかけていいのかわからずに戸惑う児童もいるのですが、同じ班の6年生同士、お互いに役割を決めたり、分担したりしながら協力して活動を進めます。
最初は自信がなさそうだった児童も、1年間の「たてわり活動」で集団を動かす経験を重ね、だんだんとリーダーとして成長する姿が見られます。とても頼もしく感じますね。
6年生同士で協力しながら、小さな後輩たちに配慮して活動する姿は、まさに「自立」「奉仕」「挑戦」を体現するものですね。一方で、入学したばかりの1年生など、低学年の児童の様子はいかがですか。
班の雰囲気づくりなどはそれぞれに任せているのですが、6年生など高学年の児童たちから良い影響を受け、成長していると感じます。真面目な上級生の多い班は下級生もきっちりと動こうとしますし、明るくユニークな先輩が多い班では、下級生もわきあいあいと活動していますね。
洗足学園小学校の掲げる「理想高遠 実行卑近」の精神が、児童同士の学年を超えた関わりの中で着実に培われていることがわかりました。
児童のアイディアと主体的な発信が光る洗足学園小学校の「センゾクノトビラ」
▲学校を訪れた教育関係者の皆さまに、学校での取り組み内容などをご紹介する児童たち
洗足学園小学校では、児童たちの感性や心を磨く教育として「センゾクノトビラ」という独自の活動を実践されています。「センゾクノトビラ」とは、どのような活動ですか。
「センゾクノトビラ」は、洗足学園小学校の6年生が取り組んでいる、校外への発信活動です。
Apple認定校である本校では児童1人につき1台のiPadを活用し、先進的なICT教育を行っています。6年生が外部のお客様を学校にお招きし、自分たちの学びの成果を伝えるのが「センゾクノトビラ」です。
外部のお客様をお呼びして、日頃の学びを披露するイベントなのですね。お客様にはどのような方がいらっしゃるのですか。
お呼びするお客様は、児童が自分たちで決めるときもあれば、教員が事前に決めるときもあります。昨年は、小学校受験を考える年長クラスの子どもたちをお招きしました。
お呼びするお客様だけでなく、「センゾクノトビラ」当日の取り組み内容や事前の計画も、児童が自分たちで考えます。当日はいらっしゃったお客様を自分たちでおもてなししたり、プレゼンテーションで発表したりと、主体性を発揮してくれていますね。
2024年6月に今年度の「センゾクノトビラ」を開催された際には、どのようなお客様をお招きしたのですか。
2024年度は、教育関係者の方をお招きしました。他の小学校や中学校の先生、教育関係の企業の方など、教育のスペシャリストの皆さまに向けて本校の活動を紹介してくれました。
当日は二部構成になっており、第一部は本校の授業を紹介する「公開授業」でした。全クラスの授業を6年生が各教室の前に立ってゲストに紹介します。事前にクラスの先生からヒアリングした内容をもとに授業内容を紹介したり、チラシを配ったりしていましたね。
下級生の授業を6年生が外部の方にご紹介するのは、ユニークな取り組みですね。
そうですね。第二部は発表の時間とし、校内に10数個のブースを設けて児童たちによるワークショップを行いました。ワークショップの内容は、洗足学園小学校の1日の紹介、自分たちのアイディアに沿った授業の実践、気になるアプリの使い方紹介など、さまざまでしたね。
児童たちは、第一部・第二部でお客様をご案内する役割、広報としてイベントを宣伝する役割などを担い、それぞれが主体的に考えて取り組んでいました。
児童たちがいろいろな取り組みを考えて、お客様に楽しんでいただけるイベントを作り上げたのですね。先生方は、生徒たちの様子をどのようにご覧になりましたか。
私たちが思っていたよりも積極的に準備に取り組む児童が多く、驚きましたね。今回は「教育関係者を対象に公開授業と発表の2本立てにする」という構成まで教員側で決めたのですが、それ以降の具体的な内容はすべて児童が自分たちで決めています。
教室の前に張り紙をしてはどうか、授業内容のチラシがあった方がわかりやすいのではないかなど、自分たちで考えてくれました。当日はいつの間にか自分たちで教室前に机を持ち出し、「質問してください」と表示させたiPadを置いていましたね。私たちからは一切指示をしていないのですが、このような発想があるのだなと感心しました。
児童たちが楽しんで取り組んでいるからこそ、いろいろなアイディアが生まれるのではないかと感じます。
そうですね。児童たちは教育関係の皆さんに対して「私たちはこんなことをやっています」とお伝えできるのが嬉しかったようです。当日はまるで文化祭のように盛り上がっていました。準備期間から当日まで、楽しんで取り組んでくれましたね。
児童たちにとって2024年度の「センゾクノトビラ」は、専門家の皆さんに自分たちの取り組みを見てもらえるチャンスだったのですね。今回のご招待客を教育関係者とされた背景には、どのような意図があったのでしょうか。
「センゾクノトビラ」は児童たちの学びの発表を目的とした場ですから、保護者か教育関係者のどちらが良いだろうと考えていました。そのうえで、普段関わることのない外部の方に自分たちをご紹介する機会を持つことがより貴重な体験になると考え、教育関係者をお招きすることにしたんです。
すごくチャレンジングで素敵な機会ですね。外部の方に活動紹介するために苦労も多かったと思いますが、児童たちはこれまでにも他者に発表する経験を積んでいるのでしょうか。
授業でも、児童が学びをもとに考えたこと、作り上げたものを発表する場を日常的に設けています。学芸会の舞台のように、自己表現する機会もありますね。自分で学びをアウトプットする経験を、これまでの学校生活の中で数多く積み上げることができています。
▲プレゼンテーションで使用するスライドも児童たちが自ら準備
一方で、今回の「センゾクノトビラ」のように、自分たちの考えを外部の方にお話しする経験は多くありませんでした。普段の様子をご存じない方々に向けて、わかりやすくお伝えするにはどうすればいいのか、今までとは異なる困難さに直面することで、また1つ新しい意識を持つことができたと感じます。
これまで積み重ねてきたアウトプットの経験に加えて、「センゾクノトビラ」が新しい学びを得る体験となったのですね。参加された6年生からは、どのような声が聞かれていますか。
児童たちに「センゾクノトビラ」の達成度を自己評価してもらうアンケートを実施したのですが、「120%満足」という児童が全体の約7割を占めました。その他の児童も「100-80%満足」と回答しており、自分たちなりに「できたぞ」という自信につながる機会になったと感じますね。
100%満足ではなかった児童も、「次同じような機会があれば、次はもっとこうしよう」という、今後につながる学びの機会になったと思います。
児童の満足度がとても高いのは、自分たちが主体的に考えて作ったイベントだからこそと感じました。参加された外部の方からの評判はいかがでしたか。
児童が参加者用のアンケートを作成して実施したのですが、満足度はおおむね8割以上、全員が5段階評価で5か4を選んでくだいました。実際に「すごく楽しかった」という声もいただきましたね。
児童たちの発信が、参加者の皆さまに響いた結果ですね。洗足学園小学校の「センゾクノトビラ」を通じて、児童たちが楽しみながら経験を重ね、普段の学校生活とは異なる成長の機会を得ていることがわかりました。
図書やロボット、デジタル教材などで児童の感性を刺激する「Base_C」
▲独自の施設「Base_C」でiPadを用いたプレゼンテーションを行う児童の様子
洗足学園小学校の「センゾクノトビラ」では、「Base_C」という独自の施設でも子どもたちのワークショップが行われたと伺いました。「Base_C」とは、どのような施設ですか。
「Base_C」は、2023年に創設された本やSTEAM教育ツールなどを備えた施設です。「Base_C」の「C」は、好奇心や興味を意味し、児童たちの感性を刺激するベースになる場にしたいという意味で名付けられました。
「センゾクノトビラ」の際には、「Base_C」で児童たちが親しんでいるロボットを紹介するなど、5つのワークショップが開催されましたね。
ロボットに親しめる小学校は珍しいように感じます。「Base_C」には、そのほかにどのような設備がありますか。
もともと図書室だったため、本も多数置かれています。「aibo(アイボ)」など3台のロボットのほか、触れる地球儀の「SPHERE(スフィア)」、3Dプリンタ、MacBookなどがあります。児童たちは自分の好きなものに実際に触れることができるため、新しい発見を得る場所になっていますね。
児童がいろいろなテクノロジーに触れられる場所なのですね。「センゾクノトビラ」などのイベント時以外にも、児童が「Base_C」で活動する機会はありますか。
はい。全学年が週に1時間「Base_C」で読書する時間を設けていますし、休み時間も自由に出入りできます。児童たちが「Base_C」を活用する機会は多いと思いますね。
多くの図書や最新のテクノロジーに触れられる「Base_C」は、児童の知的好奇心や感性を育む身近な場になっていることがわかりました。
アジア圏の子どもたちとオンライン英会話。洗足学園小学校が取り組むグローバル教育
洗足学園小学校では、近年グローバル教育も実施されていると伺いました。どのような取り組みをされていますか。
今年(2024年)は、6年生がオンラインによる国際交流にチャレンジしました。オンラインツールZoomを活用し、ベトナムの同世代の子どもたちとおしゃべりする機会を設けたんです。お互いに英語で自己紹介をしたり、好きなものについて話したりしました。
ベトナムの子どもたちと御校の児童は、1対1でお話しされたのですか。
はい。zoomのブレイクアウトルームを活用して、基本的に1対1でお話ししました。もちろん苦労した様子も見られましたが、好きなアイスクリームの味などで盛り上がっていた児童たちもいましたね。
6年生にとって、英語で海外の方とお話しするのは大きな挑戦だったのではないでしょうか。
そうですね。ただベトナムの子どもたちも英語は第二言語に当たりますから、英語レベルとしては本校の児童たちと同じくらいでした。英語が母国語でない年の近い子ども同士、ちょうどよい交流になったのかなと思います。
ベトナムの子どもたちとの交流に参加した6年生からは、どのような声が聞かれていますか。
児童たちはとても積極的に会話していて、話が通じて嬉しかったという声がありましたね。一方で、ベトナムのネット環境などの都合でうまく通信できなかったり、英語での会話が続かなったりした児童もいました。しかし、ネガティブな体験として終わらせることなく、「リベンジしたい」と話してくれたのが印象的でしたね。
先ほどご紹介した「センゾクノトビラ」も同じですが、やはり学外の方と接触する機会は、児童を大きく成長させたり、モチベーションを上げてくれたりする貴重な学習の場だと感じましたね。
「自立」「奉仕」「挑戦」の精神で何事にも積極的に取り組む洗足学園小学校の児童だからこそ、英語でのオンライン交流といったチャレンジも、前向きな成長機会として取り組めていると感じました。
放課後に取り組む洗足学園小学校の本格的なオーケストラ活動
▲真剣な面持ちで弦楽器の演奏に取り組むオーケストラ部の児童たち
洗足学園小学校で特徴的な、オーケストラ活動についても教えてください。
洗足学園小学校のオーケストラは学園創立80周年を記念して結成されたもので、洗足学園音楽大学の専門講師が指導する本格的な活動になっています。希望するすべての児童が参加でき、放課後の時間を活用して練習しています。
洗足学園は音楽で有名ですから、入団を希望される方が多いのではないでしょうか。
そうですね、音楽は当学園の特色の1つであり、放課後に本格的なオーケストラの練習ができる学校も少ないと思います。ですから、オーケストラ活動に魅力を感じて本校への入学を希望される保護者の方もいますね。
1年生の約半数が入団を希望し、学年が上がるにつれて受験勉強などで人数が減る傾向にありますが、それでも卒業までがんばる児童も多数います。全学年合わせてかなりの大人数になっていますね。
本格的に音楽に触れたい児童にとって、学校でオーケストラ活動に参加できるのは貴重な機会ですね。実際にどのようなシーンで、演奏を披露されているのですか。
学校の入学式や卒業式など、全校で実施する大きな行事の際には、お祝いの演奏をしています。定期的に演奏できる機会があるため、児童たちも真剣に練習に取り組んでいます。
人前で演奏する機会が、児童たちのスキルやモチベーションアップにつながりますね。
はい。オーケストラ活動に限らず、児童たちは勉強もそれ以外の活動も本当に一生懸命取り組んでいます。児童たちを見ていると、一人ひとりに好きなこと、得意なことがあり、それぞれがタレントとして秀でるものを持っていると感じますね。
洗足学園小学校のオーケストラ活動は、本格的な音楽スキルを身につける場であるだけでなく、児童が自分の好きや得意を伸ばして輝ける居場所なのだと感じました。
洗足学園小学校からのメッセージ
▲今回お話を伺った、6年担任の野口先生(左)と仙波先生(右)
最後に、洗足学園小学校に関心のある子どもたちや保護者に向けて、メッセージをお願いします。
洗足学園小学校は中学校受験に力を入れているため、勉強が中心の小学校というイメージのある方が多いかもしれません。しかし今回ご紹介させていただいた「センゾクノトビラ」のように、本校では勉強以外の多様な活動にも注力しています。
児童それぞれが自分のやりたいこと、興味・関心のあることを伸ばしていけるコンテンツや仕掛けがたくさんある学校です。ぜひ実際に足をお運びいただき、本校の特色を感じていただけたらと思います。
洗足学園小学校を実際に訪問され方からは、「こんなに児童が活発に参加している授業は見たことがない」と言っていただくことがよくあります。本校では児童みんなで作り上げる授業を大切にしているため、児童がハツラツと参加しているんです。
「センゾクノトビラ」のようにグループで活動する機会も多く、児童が自発的に考え、アイディアを作り出し、実行できる学校です。想像力を働かせて創造することが好きなお子さまに、とても向いていると思います。ぜひ一度、本校の授業の様子を見に来ていただけたら嬉しいです。
今回の取材を通じて、児童の主体性や好奇心を伸ばし、一人ひとりの才能を伸ばす洗足学園小学校独自の取り組みや施設、特別活動について知ることができました。ありがとうございました!
洗足学園小学校の進学実績
洗足学園小学校は、児童が早い段階から自分の将来に目を向け、真剣に考える機会をもつことを大切にしています。人生や進路について考える授業もあり、進路指導にも注力しています。
2023年度には、浅野中学校や麻布中学校、桜蔭中学校などの難関中学校に合格者・進学予定者を輩出。例年高い進路実績を重ねています。
公式:特色教育とプログラム
公式:2023年度 6年生中学入試結果
洗足学園小学校の保護者の口コミ
最後に、洗足学園小学校の保護者の口コミをご紹介します。
洗足学園小学校の丁寧で熱心な受験対策、オーケストラなどの特別活動や充実した施設などに対する良い口コミが複数見られました。
洗足学園小学校へのお問い合わせ
運営 | 洗足学園小学校 |
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