ぽてん読者の皆さまに、今注目の学校を紹介するこの企画。今回は神奈川県鎌倉市にある私立の中高一貫女子校「清泉女学院中学高等学校」を紹介します。
清泉女学院中学高等学校はカトリックの女子修道会「聖心侍女修道会」を母体とするミッションスクールです。開校当時から実施している「倫理」の授業をはじめ、キリスト教精神に基づく情操教育に力を入れているのが特徴です。
またクラブ活動が活発に行われており、9割程度の生徒がクラブに所属しています。全国的に実績を残す音楽部を始め、運動部・文化部ともに精力的に活動する部が多く、充実した学校生活を送っています。
今回は清泉女学院中学高等学校の中学入試・広報部長の北宮枝里子先生に、「倫理」の授業やグローバル教育の特徴、クラブ活動や制服などスクールライフの魅力についてお話を伺いました。
▲インタビューにご対応いただいた北宮先生
この記事の目次
キリスト教の精神に基づき、普遍的な「10の価値」を教育理念に掲げる
▲クリスマスの時期に行う「キャンドルトワイライト」など、ミッションスクールならではの行事も多い
まずは御校の教育理念や教育方針について教えてください。
清泉女学院中学高等学校は、キリスト教精神に基づく教育を展開するミッションスクールですので、その教育はキリスト教の価値観に根ざしています。それはつまり「あなたはあなたのままで素晴らしい」という価値観です。もちろん学校である以上成績をつけることは必要ですが、数字では測れない生徒一人ひとりの個性やタレント(賜物)を尊重することを大切にしています。
それを象徴するのが、本校が掲げる「10の価値」です。10の価値は、「愛」を中心にして「生命の尊重」「無償性」「一致・兄弟愛」「正義・連帯」「和解・平和」「喜び・希望」「真理」「自由」「責任」と同心円状に広がる図で表されます。
時代に応じて教育の在り方も変化していくものですが、いつの時代にも変えてはいけない普遍的な価値観を表しているのが、この「10の価値」です。母体である「聖心侍女修道会」が考案したもので、世界中に設立している本校の姉妹校すべてで共有されています。
開校以来続く「倫理」で、キリスト教をベースに幅広い価値観を学ぶ
キリスト教精神に基づく価値観を伝えるために、清泉女学院中学高等学校では具体的にどのような教育活動を実施されているのでしょうか。
6年間必修の「倫理」の授業が特徴だといえます。倫理は創立当初から実施されている、清泉女学院の伝統的な授業なんです。
ミッションスクールの場合「聖書」や「宗教」という授業名で実施されているところが多い中、本校ではキリスト教をベースとしつつ、キリスト教以外の宗教や思想などを幅広く学び、生徒一人ひとりの視野を広げ生き抜く力を育むことを目的に「倫理」という名称で実施しています。
本校にはクリスチャンの生徒はほとんどいないため、キリスト教の教えである「神」や「愛」の概念が生活の中に浸透している生徒は多くありません。そのため、中学1年生、2年生の段階では新約聖書・旧約聖書を用い、キリスト教について学んでいきます。
それを踏まえた上で、中学3年生以降はイスラム教などキリスト教以外の宗教や、哲学・東洋思想など学びの範囲を広げていきます。高校2年生以降では身近にある社会課題や、世界にあるさまざまな倫理課題を考えるという、より実践的な内容となっていきます。
倫理の授業から発展した「AI倫理会議」では、社会とつながりながら学びを深める
▲人工知能に関するさまざまな問題について話し合う「AI倫理会議」のメンバーと、彼女たちが作成したポスター
倫理で取り扱うテーマとしては、例えばどのようなものがありますか?
例えば「生命倫理」や「人工知能」は、本校で古くから取り上げているテーマです。
「デカルトによれば『理性が人間を人間たらしめる』と考えられているけれど、では理性を持つAIが出てきたらそれは人間として扱うべきなのか」という問いかけから始まり、映画などの創作物等を通じて考えを深めていきます。
例えば「ドラえもん」が法に抵触したり、人間と恋愛関係になったらどうなるのかといった身近なところから考えていきます。技術的にどんどん人間に近づいてくるAIについて掘り下げることで、逆に“人間の本質”とは何かを理解していくのです。
このテーマを始めたころはロボットの「ペッパー」が出始めた頃で、本校でも授業の中でペッパーと触れ合いながら、AIについて考えていきました。そのとき、生徒から「今後AIと共生していくためにどうしたら良いのかもっと見識を深めたい」という意見が出てスタートしたのが「AI倫理会議」です。
▲会議では企業からゲスト講師を招いたり、訪問したりすることも。先端的な知識や視野の広さなどを身につけていく
「AI倫理会議」は、学校外からも注目を集める本校独自の取り組みです。時流に沿ったAIに関するテーマを設定してその分野の有識者を招いて講演いただき、さらにその内容について他校の生徒とディスカッションを行います。最終的に報告書を内閣府に提出し、内閣府の政策担当の方と座談会を行うというのが、会議の一連の流れとなっています。
これらのプロセスは、外部とのやり取りも含めてすべて生徒主導で行っていくんです。顧問をしている私から見ても、すごいなと感心しています。
「AI倫理会議」に参加した生徒の皆さんはどのようなご様子ですか?
2023年度の第7回AI倫理会議は河野太郎デジタル大臣に講演いただきました。今のAIの課題や各国の政策などをわかりやすく説明していただき、生徒にとっても非常に感じ入るところがあったようです。
これまでの「AI倫理会議」では、工学部系の大学教授などからAIの技術や開発面をお話いただくことが多かったため生徒の中にもAIを人間と切り離した「機械」として捉える認識が強まっていく傾向がありました。
しかし近年は工学的な部分だけではなく、AIに人格権が存在するかといったことや、生成AIによる作品の著作権についてなど、法的な要素にも多く触れる会議が開かれています。AIと共存する上で日本に求められていること、そして自分たちのような若い世代に求められていることを生徒も深く認識できるようになっているのではないかと思います。
実体験を通じて世界の価値観を学ぶ清泉女学院中学高等学校のグローバル教育
続いてグローバル教育について伺います。具体的な取り組みの前に、まずはグローバル教育を推進していく上で御校が大切にしている点を教えていただけますか?
先ほどの倫理にも通じるお話ですが、宗教も含めた多様な価値観やバックグラウンドを持つ相手と正確に意思疎通できることがグローバル社会を生きるための第一歩だと考えています。そのため英語力を高めることのみに重点を置かず、平和や地球環境などの世界的な課題も含めてさまざまな学びを深め、「地球市民」の意識を高めていくというのが本校のグローバル教育の特徴です。
なるほど。具体的にどのようなプログラムを展開されているのかも教えてください。
英語の語学研修以外の海外プログラムとして、ベトナムスタディーツアーを行っています。聖心侍女修道会が現地で運営する「ラブスクール」という、経済的事情で公教育を受けられない子どもたちのための教育施設を訪れ、子どもたちに勉強を教えたり一緒に遊んだりといった奉仕活動を行うプログラムです。
特徴的なのは、子どもたちと学校で交流して終わりではなく、それ以上に関わっていけることです。ラブスクールの児童は午後は仕事に行くことが多いのですが、その仕事場を見に行ったり、場合によっては自宅を訪問させていただくこともあります。それは聖心侍女修道会を母体とした姉妹校としてのつながりがあるからこそできる、本校ならではの体験だと思います。
▲ベトナムスタディーツアーでの様子
他にも特徴的なグローバルプログラムはありますか?
「ボストンカレッジ研修」は、世界中から集まった学生と一緒にさまざまなテーマについて議論するという、倫理とグローバル教育の両側面を持つプログラムです。
参加するのはアメリカのボストンカレッジ内のイエズス会教育高等研究所が企画するリーダー養成プログラム「Ever to Excel」で、日本からは本校と栄光学園さんの2校が参加しています。
この研修では現地で1週間、アメリカやアイルランド、ベネズエラなどから集まった200人近い高校生と一緒に、無償の愛とは何か、友達とは何かといったテーマについてキリスト教をベースに議論をしていきます。もちろん研修中はずっと英語を使用するため英語の力を高められる面もありますが、それ以上に性別や国境を超えて共有できる価値観を見出し、世界中に仲間をつくる機会となっています。
▲「Ever to Excel」のプログラムで、世界中の同年代の生徒と話し合っている様子
こうしたグローバルプログラムを通じて生徒の皆さまにはどのような変化が感じられますか?
ベトナムスタディーツアーでは現地の子どもたちの生活により深く入り込めるからこそ、経済発展の裏側にある現実を身をもって体感できます。生徒たちからは、自分たちよりもはるかに年下の子どもたちが働いているという事実に触れて「そこから目を背けてはいけないんだなと思った」という声をよく聞きます。実体験から世界を学ぶという、グローバルプログラムの重要なポイントといえるでしょう。
「Ever to Excel」ではすべて英語の環境の中で、自分の考えが現地の学生に伝わったことで自信を持つ生徒が多いです。また議論を通じて、国籍が違っても分かり合える価値観があることを改めて実感し、それが安心感につながっているという面もあるようです。「これは世界共通の価値観なんだ」という軸を持てることは、将来的に海外進学や海外で仕事をすることを考える上でも大きいのではないでしょうか。
▲ロールプレイング型で国連での会議を体験する「模擬国連」への参加など、他にも多彩なグローバルプログラムを展開
世界でも実績を持つ「音楽部」などクラブ活動も盛ん
▲強豪である音楽部が「NHK全国学校音楽コンクール」に出場したときの様子
続いて、御校のクラブ活動について伺います。特に音楽部は本当に素晴らしい実績を残していらっしゃいますよね。
音楽部は日本だけでなく世界のコンクールでも実績を残す強豪です。2023年度には全日本合唱コンクール全国大会で中学・高校ダブルで日本一という本校史上初の快挙を成し遂げました。
私は以前音楽部の顧問をしていたのですが、顧問の立場から見てすごいと思うのが、中学入学時点でほぼ経験者がいないことです。小学校のときに音楽の授業で歌っていたというくらいの普通の子が音楽部に入って、譜読みの練習やボイストレーニングを経て実績を残していく過程は本当に驚異的だと思います。
ちなみに本校の音楽部は合唱だけではなく、ときにはミュージカルや楽器演奏を取り入れた合唱などを実施することもあります。全身を使った音楽表現をするため「音楽部」という名称にしています。
▲全日本合唱コンクール全国大会で中学・高校ダブルで日本一になった、音楽部の生徒の皆さん。
ほとんど初心者の状態からスタートしてこれだけの実績を残しているというのは本当にすごいことですね!その秘訣は何だと思われますか?
先輩と後輩の縦の関係性の中でしっかりとした指導が行われているのが一番大きいと思います。本校の音楽部出身で声楽の道に進んだOGが指導に来てくれますが、基本的には本校ではプロの音楽家が指導に来てくれるということはないんですね。
先輩たちが後輩一人ひとりを見ながら手取り足取り一生懸命教えていて、後輩も上級生を見て学んでいく中で実力が培われています。そこに指揮者の先生の指導が加わることで、全国的な結果につながっているのだと思います。
御校では90%以上の生徒がクラブに所属して精力的に活動されているそうですが、音楽部の他に特徴的な活動を行うクラブがあれば教えてください。
ソフトテニス部は近年実績を上げている部活の1つです。これまで県の私学大会で決勝戦まで勝ち抜きつつ惜敗が続いていたのですが、2023年度の神奈川県私立中学校ソフトテニス大会女子個人の部でついに中3・中2ペアが優勝し、雪辱を果たしました。
※オムニコート…人工芝に砂を敷き詰めたコートのこと。足腰に優しく水はけも良いためテニスプレイヤーに好まれている。
▲運動部・文化部ともに充実している同校では、90%以上の生徒が何らかのクラブに所属している
多彩な個性の生徒たちが学校生活を謳歌するスクールライフ
▲授業や部活動、そのほかの活動など、自分らしい分野でのびのびと力を発揮できる雰囲気がある
伝統のあるミッションスクールである清泉女学院中学高等学校は、全体的にどんな雰囲気があるのでしょうか。
本校では大人しい生徒もいれば活発な生徒もいて、本当にさまざまな個性を持つ生徒が学校生活を謳歌していますね。
ある関係者の方に伺ったお話なのですが、受験する中学校を選ぶ際に塾の先生に「うちの子は本ばかり読んでいて物静かなのですが、どこが合うと思いますか」と聞いたところ、清泉女学院をおすすめされたそうなんですね。
一方で、同じく「うちの子はいつも外を走り回っていて、木にも登ってしまうくらい活発なのですが、どこの学校が良いと思いますか」と聞いた保護者の方にも、我々を勧めていただいたそうです。
私たちにとっては当たり前のことだったのですが、それくらい多彩な個性を持つお子様がそれぞれ学校生活を楽しめる環境があるのだと改めて気づかされたエピソードでした。
実際に本校を見ていただくと、生徒がそれぞれ好きな過ごし方をしている風景を目にしていただけると思います。休み時間に広い校庭を走り回っている生徒もいれば、静かに一人で本を読んでいる生徒もいます。そういう風景が当たり前に広がっているところが、清泉女学院ならではの魅力といえるのではないでしょうか。
盛夏服が人気!伝統を感じる清泉女学院中学高等学校の制服
御校は制服もとても特徴的ですよね。制服に憧れて御校を選ばれる方も多いのではないでしょうか。
そうですね。特に夏は「盛夏服」といってギンガムチェックとストライプから選べるブルーのワンピースタイプを着用できるのが特徴です。この盛夏服に憧れて、清泉女学院中学高等学校を選んだという生徒も少なくありません。
実は洗濯機でネットに入れずに丸洗いできる仕様になっているので、お手入れの負担が少ない点で保護者の方にも人気です(笑)。
▲任意購入ながら人気の高い盛夏服は、丸襟のギンガムチェック・角襟のストライプの2種類のワンピースタイプを選べる
盛夏服ももちろんですが、冬服もシックでとても素敵だなと思いました。
冬服ではリボンではなくネクタイを結ぶため、それを「かっこいい」と気に入っている生徒も多いです。入学当初は皆結べないのですが、高学年になるにつれてウィンザーノットやダブルノットなど結び方にアレンジを加える生徒も増えていますよ。
また入学式や創立記念日などの式典で着用する正装は、ワイシャツにジャンパースカート、茶色のストッキングを合わせています。一般的にはその上にブレザーを着るのが正装とされますが、ヨーロッパのドレス文化に合わせて本校ではブレザーを着用しません。
またワイシャツの色が白ではなく薄いベージュなのも特徴的で、かつて修道会のシスターたちが紅茶で染めたのが始まりとされています。制服の成り立ちに修道会やヨーロッパの文化が深く関係しているのも、本校ならではの特徴といえるでしょう。
清泉女学院中学高等学校からのメッセージ
▲清泉女学院の生徒たちが活躍するフィールドは、国内・海外問わず広がっている
最後に、清泉女学院中学高等学校に興味を持った読者の方に向けてメッセージをお願いします。
最初にお話した通り、清泉女学院中学高等学校は何か特別なことができるという点に価値を見出す学校ではありません。どのようなお子様も素晴らしい素質を持っており、それを見つけて引き出していくのが本校の教育方針です。
自分の子どもにまだ何ができるのか分からないという保護者の方もいらっしゃるかもしれません。しかし分からないからこそ、無限のポテンシャルを秘めているともいえます。本校の6年間のさまざまなプログラムを通じて生徒一人ひとりの可能性を引き出し、自信につなげていけたらと考えています。
まずは生徒たちの姿を見に、本校にお越しいただけると嬉しいです。そして在校生たちに声をかけて、どんな学校生活を送っているのか聞いてみていただければと思います。
北宮先生、本日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました!
清泉女学院中学高等学校の進学実績
▲清泉女学院中学高等学校の校舎は玉縄城跡に立地。一部にそのおもかげを残している
2023年度の卒業生の進路状況をみると、早慶上理ICU(※1)に20%、GMARCH(※2)に13%と、関東地区の難関私立大学が多数を占めています。文系進学が半数以上となっている一方で、医・薬・看護・保健系に16%、理工・物理・建築系に10%と理系進学の割合も多くなっています。
※1早慶上理ICU…早稲田大学・慶應義塾大学・上智大学・東京理科大学・国際基督教大学
※2GMARCH…学習院大学・明治大学・青山学院大学・立教大学・中央大学・法政大学
国公立大学への進学実績も数多く生まれており、過去3年間では国内最難関の東京大学を始め、一橋大学や東北大学、筑波大学といった難関校への進学者を輩出しています。
■清泉女学院中学高等学校の進学実績(公式サイト)
https://www.seisen-h.ed.jp/course/index.html
清泉女学院中学高等学校の生徒・保護者の口コミ
▲学校行事が行われる講堂をはじめ、施設の充実面も高評価の清泉女学院中学高等学校
ここでは、清泉女学院中学高等学校に寄せられた生徒、保護者からの口コミを一部抜粋して紹介します。
キリスト教精神に基づく情操教育や伝統ある雰囲気の一方で、堅苦しくなることなく、学校全体に明るくのびのびとした校風があることが口コミから伝わってきました。クラブ活動や行事など勉強以外の部分にも力を入れていることで、人間的な成長が得られるという声も聞かれます。
清泉女学院中学高等学校へのお問い合わせ
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