独自の教育を実践する注目の学校を紹介する本企画。今回は、神奈川県横浜市にある中高一貫の男子校「サレジオ学院中学校・高等学校」を紹介します。
1960年創立の同校は、カトリック教会の修道会「サレジオ会」の創立者であるドン・ボスコの教育理念に基づく教育活動を行っている歴史ある伝統校です。
今回は、そんなサレジオ学院中学校・高等学校の教育目標や特徴的な取り組みについて、広報担当の澁谷先生、総合探究担当の染谷先生、宗教科教諭のホアン先生にお話を伺いました。
この記事の目次
サレジオ学院中学校・高等学校の教育目標「25歳の男づくり」
最初に、サレジオ学院中学校・高等学校の教育理念についてお聞かせください。
本校は「25歳の男づくり」を教育目標に掲げ、カトリックの教えを基に、社会での役割に気づき、それを果たす人材の育成を目指しています。特に価値観教育に力を入れており、生徒の成長段階に応じたプログラムを通じて、自分の役割を見出して社会に貢献できるよう導いています。
▲本校の母体であるサレジオ会創設者、ドン・ボスコの石碑
25歳という年齢は、どのような理由で設定されているのでしょうか?
1つには、大学受験がゴールではないとの意味があります。あまり先過ぎても実感が沸かないと思うので、中高生が現実味を持って感じ取れる最初の目標として「25歳」という時期を設定しています。
また、本校には「サレジオファミリー」という考え方があり、家庭と学校と生徒が協力して「25歳の男づくり」に向けて教育活動を行っております。自分のご子息のことだけを思うのではなく、友だちまでも含め、教育共同体としての意識を常に持ってもらいたいと考えております。
そのために、それぞれの学年主任が中学1年生から高校3年生の卒業まで、ほぼ毎月、学校での出来事を家庭に伝えるための「学年通信」を作って発行しています。
また、年1回は必ず保護者面談を担任が行い、学校での様子とご家庭での様子を照らし合わせながら、どのように成長しているか、あるいはこれからどのように成長すべきかを確認しています。このように、学校での教育活動は、チーム「サレジオファミリー」で行っております。
キリスト教の教えに触れながら価値観を養う「宗教の時間」
▲中学校の宗教の授業の様子
サレジオ学院中学校・高等学校の教育プログラムについて、具体的に教えていただけますか?
わかりました。日々の授業に加え、行事や進路指導、語学教育、部活動などさまざまな学びがあると思いますが、ここではカトリックの特徴が表れた価値観教育を中心にご紹介したいと思っています。
本校では中高6年間を3つのステージに分け、生徒たちの成長に応じたプログラムを整えており、価値観教育は中でも重要な役割を果たすと考えています。キリスト教の精神を知ること、そして探究的な学びを通して、自分を肯定しながら自己の発見と他者への貢献を進めていくんです。
宗教科に所属されているホアン先生も、価値観教育を実践されているお一人なのですね。
そうですね。宗教の授業では、主に中学3年間を通して生徒たちが自分の価値観をつくっていく基礎の部分を担っています。
授業の大きなテーマがあるとすれば、それは「良く生きること」と言えます。良く生きるためには、社会や学校におけるさまざまな規則があります。これらの規則は、誰かに強いられた枠であり、時には制限のように感じられるかもしれませんが、価値観が育つことによって、自ら自由に善いものを選択できる力が養われます。
本校では、キリスト教の価値観を基盤にした教育を行っています。その基礎となる考え方は、「人間は神に似た姿に創造された」という信念です。これにより、人間の尊厳が強調され、すべての人が尊厳を持った存在として互いに関わり合うことが求められます。
「将来、社会でどのような役割を果たすか」と考えたとき、狭い意味でその召命となるのは職業や肩書などになると思います。ただ、広い意味での召命は、「相手を大切にし、愛すること」なんです。キリスト教の考え方では、人間は愛するために生まれてきた存在であり、愛するためには相手の価値を認識することが必要です。
こうした価値観が育つと、勉強する意義や目的が明確になります。将来自分が社会の中で他者を助け、他者の尊厳を守るために自分がどのように貢献すべきかを考えるようになるのです。
聖書のストーリーや体験談を通して、自己理解を深めていく
宗教の授業では、どのようなことを伝えていくのでしょうか。
学年に応じて、内容は変わってきます。まず、中学1年生では聖書の世界観に触れて、聖書の中に描かれている人間観や人間と神の関わり、人間と人間の関わり等を学びます。聖書は堅苦しいというイメージがあるかもしれませんが、実際にはいろいろなストーリーが描かれていて、具体的なエピソードがあるんですよ。
例えば、アダムとイブの子どもの「カインとアベル」の話があります。兄弟である2人は、兄のカインが神に対してごまかしをしてしまったことで妬みが生まれ対立するようになり、最終的には弟を殺害してしまうという悲劇です。
その話の中で、カイン心の中に起こっている感情の変化は、学校生活で生徒たちが体験し得ることです。自分が適当な仕事をして叱られて、しかし自分の責任を認めることができずに、自分よりできる相手を妬み始め、さらに発展して恨みに変わるというのは誰にでも起きるケースです。
このように聖書のストーリーを通して、まずは自分を理解します。そして、自分が大切にされていることを少しずつ理解することで、今度は相手を認め、大切にすることができるような気づきを与える授業内容になっています。
中学3年生になると、もう少し社会的な問題を取り上げて考える授業を展開します。また、国際協力関連のNPO法人で活動されている方を本校にお招きして、講演していただくこともあります。
例えば、カンボジアで貧困の負の連鎖を断ち切るためにどういった支援活動が行われているかなど、キリスト教的な価値観に基づいて生きている人に触れることで、自分のビジョンや可能性を少しずつイメージできる機会としています。
中学1年生から3年生まで宗教の授業を行っていく中で、生徒さんの成長や変化を感じることはありますか?
例えば、リアクションペーパー(授業の感想文)の中で、聖書に出てくる登場人物の心情に自分の経験を照らして書くときに、過去の自分がいろいろと許してもらった経験や、逆に自分が人を許せなかった経験に、気づいていくようになります。
どれだけ人に支えられているかということに中学1年生では気づかないものですが、学年が上がるにつれてそういった気づきは増え、少しずつ自己理解が深まっていく様子を窺い知ることができます。
社会的なテーマと向き合い価値観を醸成する「総合的な探究の時間」
▲高校2年生の総合探究の授業では、なんとキリスト教と仏教の宗教対談も
サレジオ学院中学校・高等学校の価値観教育について、高校では宗教の授業から「総合的な探究の時間」で引き継がれていくということですね。
そのとおりです。本校の総合的な探究の時間は、中学3年生の3学期から高校3年生の1学期まで、「論文活動」と「クリスチャン・スピリット(CS)」の2本立てで展開しています。中学3年生と高校1,3年生は週1回、高校2年生は週2回のカリキュラムとなっています。
「論文活動」としては、自分の興味と向き合い、論文の書き方を知り、論文を執筆したり、学問分野を知り、大学入試を考える進路探究をしたりします。
具体的には、中学3年の終わりから高校1年生の1学期にかけて、2,000字の論文に挑戦しようということで、論文の書き方を学びながら、自分がどういうことに興味があるのかを探ります。
高校2年生の2学期以降には、それまでの学び・探究を8,000字の論文に仕上げていきます。これは通称「論文8000」と呼んでいますが、選ばれた生徒のみ高校3年生の1学期に最終発表会に進みます。これが探究活動の流れとなっております。
宗教と社会を接続して多様なテーマで学ぶ「クリスチャン・スピリット」
▲CSの講義例。産婦人科医を招き、女性の身体の仕組みについて学んでいる
「探究活動」に比べ、「クリスチャン・スピリット」は非常に独自性のある内容だと感じました。
そうですね。「クリスチャン・スピリット」は本校では略してCSと呼んでいますが、先ほどホアン先生からお話があったキリスト教的な価値観を持って、さまざまな社会問題・テーマを生徒に問いかけていくものです。
こちらは2022年度スタートのカリキュラムですので、これから改善していくことになろうかと思います。いろいろな教員が関わってできている、本当に手作り感満載のおもしろいプログラムになっていますね。
CSのテーマについて伺えますか?
現在、7つのテーマを設けております。
まず1つは「ボランティア」です。無理なく、自分たちのできる範囲で行いながら、誰かの役に立てることを目標にしています。例えば、海岸に遊びに行ったときにゴミ拾いをするといったことです。そんなようなことを生徒たち自身が考えて、夏休み中にグループ活動をするプログラムになっています。
2つ目は「環境」の中でも水問題について考えていくもの、3つ目は「国際」のテーマです。国際では、カンボジアとオンラインで繋いで現地の暮らしを学んだり、校内のカトリック研究会でフェアトレードコーヒーの販売を担当されている方をお呼びして、「どのようなシステムで販売しているのか」「どういう思いを持っているのか」などを講演いただきながら、自分たちにできることは何なのかを考えたりしていきます。
4つ目は「AI」です。AI時代に高校生はどのように生きればいいのかを主題として取り上げています。このテーマは私が担当していますが、AIに詳しい生徒数名をピックアップして、みんなの前で発表してもらいました。
5つ目は「情報」です。ここでは、自分たちでフェイクニュースを作りました。生徒たちは互いに「騙された」などと言いながら、けっこう楽しそうにしていましたね(笑)。
6つ目は「出会い」の文化ということで、ハンセン病の担当されている弁護士先生をお呼びして、いろいろな偏見や差別の問題を語っていただきました。
最後、7つ目は「精神と健康」の2本立てです。前半は、産婦人科医に、生理や妊娠・出産など女性の体の仕組みについてお話していただきました。男子校ではなかなか触れる機会が少ないテーマなので、生徒たちにとっては衝撃的な内容だったかと思っています。
また後半は宗教対談ということで、サレジオ会の修道会の神父さんと仏教徒であるお寺の住職さんとの対談で、テーマは「死」について語っていただきました。
このようなさまざまなプログラムを通して、生徒たちの価値観を育み、他者の存在を大切にするとともに自分の存在を大切にするための理解を深めていくことができればということで取り組んでおります。
手作りなので今後、変わっていくとは思いますが、本校の教員たちはいろいろな案を持ってきてくれるので、非常にバラエティに富んだ、充実したプログラムに仕上がっていると自負しております。
自己評価や発表会での話しぶりを見ても、生徒の成長がわかる
▲「論文8000」の発表会の聴衆
「総合的な探究の時間」により、生徒の皆さんはどう成長していくのでしょうか?
定量的な成長という意味では、本校ではルーブリック評価項目を設定しているので、そこである程度見て取れるかと思います。これは1年に一度、3学期のアンケートで自分がどの段階なのかを5段階で自己評価するというものです。
結果をグラフにしてみると、価値観とスキルの両方全項目について、中学1年生から高校3年生まで、少しずつですが上昇していることがわかりました。こうしたことから、本校の教育の成果が数値としても表れていると把握しております。
▲ルーブリック評価項目
探究学習の発表についてはいかがでしょうか?
発表の機会は2つあり、1つは先ほどご案内させていただいた「論文8000」の最終発表会です。2024年度の発表会に関しては生徒4名が発表しました。
そのうち1つのテーマは、サイバー空間の著作権証明についての論文でした。2023年度にAIの授業で発表してくれた生徒が1人いたのですが、その生徒が技術的なところを深掘りして、熱意を持って語ってくれました。
もう1つの発表の機会は、各学年で行う10月の探究発表会です。例えば、ボランティア活動をしたことの発表だったり、2,000字の論文の発表だったり、2024年度は各部活でどういったことを行っているのか、発表してもらうことを検討中です。
論文のテーマは、本当にさまざまですね。テーマが何だったとしても、他人が興味を持ったことに対して受け容れる風土が本校にはあります。お互いを尊重する姿勢は本校の特徴の1つだと思っています。
サレジオ学院中学校・高等学校からのメッセージ
▲取材に対応していただいたホアン先生、澁谷先生、染谷先生(左から)
最後に、御校に興味を持ったお子さまや保護者の方に向けてメッセージをお願いします。
本校はカトリックの学校ですが、必ずしも信者が多いわけではありません。1学年約180名のうち、多い学年でも5名です。つまり、クリスチャンのための教育を行っているわけではなく、世界中で広く信仰されているキリスト教を通して価値観を形成している学校です。
普遍的な道徳の良い部分をみんなで学んでいる自負があるので、カトリックの学校というよりは、心の教育をしっかり行っている学校であることを知ってもらえればと思っています。
生徒と面談していると、中には第1志望校は他校だったという生徒もいますが、みんな本校に入学して良かったと口を揃えて言います。期待を裏切らない学校だと思っていますので、本校に興味を持たれた方はぜひ一度足を運び、学校の雰囲気を感じてみてください。
本校は本当に面倒見が良い学校だと思います。教員は常に生徒に対して何ができるのかを考えており、そうした熱意が、教員と生徒との距離の近さにも繋がっていると思っています。
本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
サレジオ学院中学校・高等学校の進学実績
サレジオ学院中学校・高等学校では、ほとんどすべての生徒が大学に進学しており、毎年多くの生徒が国公立大学や難関私立に合格しています。2024年の卒業生数は181名のうち約36%は国公立大学に合格しています。
2024年度の合格実績としては、東京大学11名(既卒生2人含)、一橋大学10名(既卒生2名含)、横浜国立大学13名、東京工業大学7名(既卒生1名含)、京都大学5名(既卒生1名含)ほか66名が現役で国公立大学に合格しています。既卒生の国公立大学合格者は11名です。
難関私立大学の合格実績としては、早稲田大学82名(既卒生19名含)、慶應義塾大学52名(既卒生13名)、上智大学41名(既卒生17名含)、東京理科大学61名(既卒生13名含)が、GMARCHへは242名(既卒生49名含)が合格しています。
■進学実績(サレジオ学院中学校・高等学校公式サイト)
https://www.salesio-gakuin.ed.jp/25/
サレジオ学院中学校・高等学校の卒業生・保護者の口コミ
▲文武両道を目指して部活動も盛ん
ここからは、サレジオ学院中学校・高等学校の口コミを紹介します。実際に通学していた卒業生や保護者の声をまとめました。
サレジオ学院中学校・高等学校へのお問い合わせ
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