ぽてん読者の皆さまに、今注目の学校を紹介するこの企画。今回は香川県坂出市にある国立中学校「香川大学教育学部附属坂出中学校」を紹介します。
香川大学教育学部附属坂出中学校は、1947年に創立された80年弱の歴史を持つ伝統校です。同校で実施する独自の探究学習プログラム「総合学習CAN」では、生徒自身が設定したテーマに異学年の少人数グループで取り組んでおり、探究スキルのみならず生徒の人間的成長を培うものとなっています。
また同校では、生徒の考える力、主体的な学びの姿勢を育むために「語り合いの時間」という哲学対話の授業を実施しているのが特徴です。答えのない問いに対して生徒同士で語り合うことで、生徒の思考の深まりや視野の広がりにつながっています。
今回は、同校教頭の渡邊先生、研究部長の島根先生に、香川大学教育学部附属坂出中学校の教育目標や、同校の特徴的な教育プログラムである「総合学習CAN」「語り合いの時間」の詳しい内容についてお話を伺いました。
この記事の目次
生徒の“広い視野”と“豊かな個性”を育む教育目標
御校の教育理念と、そこに込めた思いを教えてください。
香川大学教育学部附属坂出中学校では「広い視野をもった個性豊かな生徒の育成」を教育目標に掲げています。これは具体的には、国際的な視点に立ち、常に自ら学習を求め、自己の創造性を生かしながら、他とともに心豊かな生活を築いていこうとする生徒を表しています。
「広い視野をもった個性豊かな生徒の育成」に向け、校訓には「自由と規律」を設定しています。「自由と規律」の精神のもと、広い視野を持って周囲と協働しながら、一方で自分の個性も大切にできる生徒を育てていけたらと考えています。
我々はこれまで香川大学教育学部の附属校の使命として、教育に関する研究と実証を続けてきました。それらすべての研究は、この教育目標の実現につながるものであると考えています。これから先も本校の教育活動を通じて追及し続けることを、不易の目標と位置付けています。
異学年の小集団で取り組む「総合学習CAN」の特徴
▲生徒と教師が探究内容について話している様子
続いて探究学習のテーマについて伺います。御校では独自の取り組み「総合学習CAN」を実施されているとのことですが、“CAN”にはどのような意味が込められているのでしょうか?
まずCはクラスター(Cluster)、つまり小集団を意味します。総合学習CANでは1年から3年までの各学年から小集団を形成して活動を行うプログラムです。最小で各学年1人ずつの3人のクラスター、最大でも5人程度のクラスターを形成し、生徒自らが考えたテーマについての探究活動を行います。2024年度の場合は全校生徒315人で84クラスターを形成し、84種類の探究テーマに応じて活動を進めています。
Aはアクションラーニング(Action Learning)のAです。アクションラーニングとはチーム内で課題解決策を考える学習法のことをいいます。本校では「AL会議」と呼ぶ会議の中で生徒同士お互いに質問し合いながら、探究の方向性を明確にしていっています。
また「CAN」で可能性という意味もあり、生徒たちの可能性を広げていくという意味もあります。
異学年のグループで活動を行うのにはどのような意図があるのでしょうか。
異学年で活動することで、後輩は自分より経験豊富な先輩から学び取り、先輩は後輩を導く力を身につけることができます。また学年が上がるにつれて教わる立場から導く立場に、クラスターでの立ち位置が変化していきます。3年間通じてそれを経験することで生徒の成長につなげていくのが狙いです。
総合学習CANのクラスターはどのような流れで形成されるのですか?
4月から具体的な探究活動をスタートしていくために、2年生と1年生で1月からクラスターの形成を行います。総合学習CANでは生徒自らが問いを立てることを重視しているため、2年生、1年生は全員まず「身近な困り事」「素朴な疑問」「趣味・好きなこと」の3つの視点からテーマを考えます。
具体的なテーマとしては、食品ロスやプラスチックゴミの削減などSDGs関係のものから、荷物を濡らさずに傘をさす方法、カラオケで高い点数をとる方法まで本当にさまざまです。バスケットボールでフリースローを決める確率など、部活動関係のテーマも少なくありません。
そして2年生の考えたテーマの一覧を体育館の壁に貼り、1年生は自分の考えたテーマに近いものに名前を伏せて投票します。そして2年生が自分の行いたい探究活動の方向性とマッチする1年生を選び、クラスターを形成します。
4月になるとそこに新入生が加わるため、年度が変わって2・3年生になったクラスターが1年生に対してプレゼンを行います。1年生はそれを見た上で興味のあるテーマに投票し、1年生も加えたクラスターが形成されていくという流れです。
▲体育館で実施される「総合学習CAN」編成会議の様子
実際に進めていくにあたっては、テーマの方向性が明確でないケースが多いため、生徒同士でテーマについてのアクションラーニングを行います。「このテーマの意図は何なのか」「何を明らかにしたいのか」を話し合います。教員もアクションラーニングの“質問”を意識して、有効なテーマ設定となるよう伴走しています。
特にテーマ設定では言葉の定義も大切です。例えば「良い環境にするために」というテーマなら「良い環境とは何なのか?」という不確かな部分をアクションラーニングを通じて明確にできるよう意識しています。
テーマが決定してクラスターも形成した4月以降は、総合学習CANはどのように進んでいくのですか?
週2時間の授業を通して、大学の教授や企業など外部とつながって活動をするクラスターもあれば、アンケート調査を実施したり学校で実験をしたりするクラスターもあり、テーマに応じて多様な探究活動を実施しています。
また、中間発表や最終発表会で発表をするのですが、その際には上の学年だけでなく必ず全員一言は発言することをルールとしています。
▲異学年の小集団で探究に取り組む様子
発表会の場では、生徒同士の質疑応答を通して学びを深める
総合学習CANは、最終的に発表などを行う機会もあるのでしょうか。
6月に中間発表会、10月の終わりから11月頭に最終発表会があり、そこで各クラスターの発表を行っています。クラスターは各学年で形成されていますが、発表の際には上の学年だけでなく必ず全員一言は発言することをルールとしています。
発表会でも重視しているのが、アクションラーニングの「質問」です。発表の後に生徒からの質疑応答の時間を取り、わかりづらい点などをしっかりとフィードバックしています。
▲中間発表で質疑応答を行う様子
これまでに印象に残っている総合学習CANの取り組みはありますか?
コロナ禍での換気をテーマに、どのような換気が有効なのかを教室の模型をつくって発表したクラスターがありました。実物を用いた発表というのはなかなか珍しいため、それはとても印象に残っています。
また食品ロスをテーマにしたクラスターが、余った食材を集めて食品を必要としている団体に寄付する「フードドライブ」を学校内で行った事例があります。他の人を巻き込みながら実際の活動につなげる、とても良い探究活動だと感じました。
「エッグドロップ」という、高いところから生卵を安全に落とす取り組みにチャレンジしたクラスターも印象に残っています。もともとは動画などを見て「自分たちもやってみたい」という好奇心から始まったため、スタート時点ではなぜやりたいのか、これをやって何になるのかまでは明確になっていませんでした。
しかし卵を割らないためにいかに衝撃速度を緩めるか、そのための構造は何なのかと探究活動を進めていく内に「これは物理学の探究なんだ」という、自分たちのテーマがもたらす価値に自分たちで気づいていったんです。
テーマ設定の時点で方向性を明確にすることももちろん大切です。一方で探究活動を進める中で自分たちがそのテーマの価値を身をもって実感するという過程も同様にとても大切なため、その点でとても意義のある活動だったと思います。
異学年で取り組むからこそ、探究スキルだけでなく人間的成長につながる
香川大学教育学部附属坂出中学校の総合学習CANを通じて、生徒の皆さんにどのような成長を感じますか?
やはり異学年の小集団で取り組むことで、学年が上がるにつれて生徒が自分の役割を自覚して行動しているなと感じる瞬間は多いですね。実際に学年が上がることで成長していったある生徒のエピソードがあります。
その生徒は1年生のときはクラスターの探究テーマと自分の興味が合わず、あまりクラスターでの活動に参加せずに自身の追求したいテーマに関係のある模型を黙々とつくっていました。しかしその生徒が3年生になったときには、1年生に指示を出したり、2年生、3年生を調整したりしていたんです。一人で模型をつくっていたときとは別人のような姿に、人間的な成長を感じてとても感心しました。
総合学習CANはデータ分析や考察など、探究のスキルを培う意味もありますが、渡邊先生のいうとおり人間的な成長に及ぼす影響が大きい活動だと思います。今ご紹介した生徒に限らず、1年生、2年生、3年生と学年が上がるごとに、皆それぞれリーダーの姿になっていくんですよ。
最初は自分のことで精一杯だった生徒も、だんだんと周りが見えるようになってきて、自分のやりたいことよりも周りのやりたいことを優先して立ち回れるようになっていきます。まさに教育目標に掲げる「広い視野」につながっているなと感じますね。
生徒の学び続ける姿勢を育む「語り合いの時間」
▲車座になって生徒同士意見を言い合う「語り合いの時間」
続いて「感性・心を磨く教育」のテーマについて、御校の特徴的な教育プログラムを教えてください。
本校では生涯にわたって学び続ける土壌を育むため、すべての学年で「語り合いの時間」というプログラムを実施しています。これは各クラスを4つのグループに分け、生徒同士であるテーマについて語り合う哲学対話の授業です。現在は各学年で年間4回程度実施していますが、今後はさらに視野を広げていけるよう、異学年で対話の機会を設けることも検討しています。
「語り合いの時間」は、生徒同士の語り合い40分間、振り返りの時間を10分で構成しています。テーマには「普通とは何か」「すべての失敗に価値はあるのか」といった答えのない問いを設定しているのが特徴です。
先ほどの総合学習CANのテーマ設定のお話にもありましたが、「そもそも失敗とは何か?」という言葉の定義から生徒の皆さんの意見が分かれそうな難しい内容ですね。
そうですね。生徒もまずはそこで行き詰まることが多いです。言葉の定義づけはあらゆるテーマにおいて重要なため、その部分も「語り合いの時間」では重視しています。
答えのない難しいテーマについて語り合う上で工夫している点はありますか?
明確な答えのないテーマについて意見を言うのは、勇気がいることでもあります。そのため「お互い傷つけるようなことは言わない」など、安心して語り合える場とするためのルール設定には配慮しています。
また考え続ける・学び続ける姿勢を育む上で、忍耐強さは欠かせません。それは自分で考える際にも、相手の考えを聞く際にも求められる点です。そのため「語り合いの中で発言者が黙って考え込んでしまう場面があっても待つ」こともルールとしています。そうすることで、考えながら語る、語りながら考える姿勢が育まれていくのだと考えています。
生徒さんからは「語り合いの時間」に関してどのような反応がありますか?
「こんなことまで深く考えたことはなかった」という感想は毎回あがっています。40分間という長い時間語り合うことで、普段生徒が考えない領域まで踏み込んで深掘りすることができているのではないでしょうか。自分の考えに気づいたり、他人との意見交換によって視野を広げたりという生徒の変化は、教員からみても感じますね。
香川大学教育学部附属坂出中学校からのメッセージ
▲インタビューにご対応いただいた教頭の渡邊先生と研究部長の島根先生
最後に、香川大学教育学部附属坂出中学校に興味を持ったお子様や保護者の方に向けてメッセージをお願いします。
香川大学教育学部附属坂出中学校は自分のやりたいことをとことん追求したいお子様に本当におすすめの学校です。本校では生徒同士だけでなく、教員も生徒に対して“問う”姿勢を大切にしています。頭ごなしに指導するのではなく、生徒に問いかけながら生徒自身が自分で考え、判断できるようにサポートしています。本当に自分のやりたいことを見つけ追求していきたい方にはとても良い環境があると思いますので、ぜひ香川大学教育学部附属坂出中学校にお越しください。
渡邊先生の言った通り、香川大学教育学部附属坂出中学校は自分のやりたいことを実現できる環境がある学校です。総合学習CANも、模範的な活動を行うことではなく、多少失敗しても生徒の興味・関心を深められることを第一の目的としています。教員は正しい方向に導くのではなく、生徒のやりたいことを実現させるための伴走者として寄り添っています。
それは探究活動に限らず、部活動など本校のすべての学校生活においても同様です。実際私は理科部の顧問を担当しているのですが、理科部の生徒も本当に楽しそうに活動していますよ。そんな3年間を通じて自身の変化も実感していただけると思います。興味のある方は香川大学教育学部附属坂出中学校に来ていただけると嬉しいです。
香川大学教育学部附属坂出中学校の生徒・保護者の口コミ
▲3年生に向けて1・2年生が演劇を行う香川大学教育学部附属坂出中学校の伝統行事「送別芸能祭」
ここでは、香川大学教育学部附属坂出中学校の生徒や保護者から寄せられた口コミを一部抜粋して紹介します。
教員の手厚いサポートのもとで周囲に刺激を受けながら勉強に取り組めるという、学習環境についての評価の声が多くあがっていました。また生徒からも保護者からも総合学習CANを評価する声が多く、生徒の成長につながる教育プログラムであることが伺えます。
香川大学教育学部附属坂出中学校へのお問い合わせ
運営 | 国立大学法人香川大学 |
---|---|
住所 | 香川県坂出市青葉町1番7号 |
電話番号 | 0877-46-2695 |
問い合わせ先 | http://www.sch.ed.kagawa-u.ac.jp/information/inquiry |
公式ページ | http://www.sch.ed.kagawa-u.ac.jp/ |
※詳しくは公式ページでご確認ください