相模女子大学中学部・高等部は授業と入試にプログラミングを導入し探究力・人間力を磨く|中高一貫校

独自の教育を実践する注目の学校を紹介する本企画。今回は、神奈川県相模原市にある中高一貫の女子校「相模女子大学中学部・高等部」を紹介します。

同校は、1900年に創設された日本女学校を礎に、1946年に東京都文京区から現在の所在地である神奈川県相模原市に移転しました。現在は、四季折々の変化を感じられる広大なキャンパスに、幼稚部、小学部、中学部・高等部、大学・短期大学部・大学院を併設し、生徒たちの個性や適性を引き出す教育活動を行っています。

今回は、そんな相模女子大学中学部・高等部の建学の精神や独自の取り組みについて、副校長を務める中間先生にお話を伺いました。

非認知能力を重視し、社会で生きる力を育む、相模女子大学中学部・高等部の教育目標

相模女子大学中学部・高等部の授業風景

編集部

最初に、御校の建学の精神や教育目標についてお聞かせください。

中間先生

本校の建学の精神は「高潔善美」であり、その意味は「固き心を以って、やさしき行いをせよ」です。創立者である西澤之助が謳ったこの言葉は、本校併設の幼稚園から大学院まで共通の精神として受け継がれています。

本校は、女子に十分な教育がされていなかった頃の1900年に、女子教育を目的に創立されました。学校なので学力についてはもちろん重点を置いていますが、女性としての人間性をしっかりと育てるという教育理念が「固き心を以ってやさしき行いをせよ」の言葉に込められていると解釈しております。

編集部

幼稚部から大学院まで共通の建学の精神とのことですが、中学部・高等部での教育目標があればお聞かせください。

中間先生

中学部・高等部の教育目標としては「研鑽力・発想力・協働力」の3つを掲げています。これは、数値化される学校成績やテスト以外の能力、いわゆる「非認知能力」を重要視した教育活動をしていこうということで、2017年に教育目標を立て直して定めたものです。

大学合格を意識した学力の習得はもちろん大切ですが、大学名や合格人数の結果よりも、一人ひとりの生徒をどう育てるかを重視し、社会に出たときに必要な能力をしっかりと身につけていく教育活動をしていこうと新たに定めたのが2017年ということです。

「研鑽力・発想力・協働力」の非認知能力を伸ばすことによって、結果的には進学実績に結びつくものと考えています。

中学部の入試にも導入。考える力や問題解決力を鍛えるプログラミング

相模女子大学中学部・高等部のプログラミングの授業

相模女子大学中学部の特徴的な取り組みとして、プログラミングの授業があります。ここからは、プログラミングの授業の目的や生徒たちの様子、また、プログラミングを取り入れている入試について伺いました。

パソコン上では完結しない、実物を動かすプログラミング

編集部

御校の特徴的な取り組みとして、プログラミングの授業があるとお聞きしていますが、それについてお伺いできますか?

中間先生

本校が注力している「非認知能力」は多岐にわたると思いますが、それを育てるための授業づくりこそが本校の特徴です。全教科とも非認知能力の育成を意識しておりますが、わかりやすい授業としてプログラミングがあります。

流行りの「リケジョを育てます」や「リケジョを増やしたい」という目的でプログラミングの授業を設置しているのではありません。プログラミングのツールを使い、非認知能力を育てることが大きなテーマです。

本校では、中学1年生から3年生までの各学年とも、週に1時間ずつプログラミングの授業を設定しています。その中でのこだわりとして、パソコンの中で終わる授業ではなくて、必ず実物を動かすことにしています。

例えば、中学校1年生はレゴ社のブロック教材を使っていますが、車型のロボットで迷路をゴールさせるという課題が出たときに、理論上は30センチ直進して、90度左折して、50センチ直進の命令を送ればゴールするはずですが、実際はうまくいきません。

パソコンでの理論上の命令は合っていたとしても、実生活の中では、滑りやすい床なのか摩擦が大きい床なのか、30センチが28センチで止まってしまうことが起こりうるのです。

そうしたことが起こったとき、「答えは合っているはずなのにうまくいかない、どうしよう、先生教えてください」と質問がきます。しかし、プログラミングを教えている教員は、自分で考えなさいと言ってあえて教えることはしません。

相模女子大学中学部・高等部のプログラミングの授業

編集部

その答えは生徒自身に考えさせるわけですね。生徒はどうするのでしょうか?

中間先生

数学が得意な生徒は30対28の比率を計算し始めたり、感覚的に32センチぐらいでやってみれば30ちょうどぐらいになるのではないかと考える、当たって砕けろタイプの生徒がいたりします。それが90度曲がる箇所でも誤差が発生し、次の50センチ進むところでも誤差が発生してといった具合に、いろいろな問題に直面します。

さらに、レゴブロックを使っているので、タイヤが曲がってついていたことを発見したり、何回かやると動き変わるけど、最初のスタートでロボットを置く場所そのものが違うのではないかに気づいたり、いろいろな問題が見えてきます。

今、いくつか例を挙げましたが、その考え方ややり方は全部正解です。本校のプログラミングの授業では、目的を達成するために自分で試行錯誤すること、論理的思考力や問題発見力、その解決力など、そうした思考の育成、非認知能力への刺激が目的だからです。

また、地道に作業していくことでクリアできたときの達成感を実感し、やり抜く力を身につけてほしいと思っています。障壁や試練が多い作業ですが、授業風景としては、賑やかで本当に楽しそうです。

プログラミングなので、失敗すれば壊れることがあるかもしれませんが、大怪我することはないですし、いくら失敗しても構わないし、何より失敗すること自体に抵抗がなくなります。失敗したらもう一回やればいいと思えることは重要です。

実際、授業中に間違えるのは恥ずかしいと思うのですが、このプログラミングでは間違えることのハードルが低いです。むしろ間違いを経なければ成功にたどり着かないわけで、失敗して終了ではなく、失敗は成功までの過程ということで、プログラミングの授業を行っています。

編集部

プログラミングそのものが目的ではなく、課題に対する取り組み姿勢や思考力を養うことが目的というわけですね?

中間先生

そうです。私は理科の教員ですが、理科の授業では、実験が苦手で手を出せないという生徒が一定数います。しかし、このプログラミングを始めたところ、実験に参加しない生徒が明らかに減りました。これは大きな成果だと感じています。

非認知能力を発揮できるプログラミングを入試に導入

相模女子大学中学部・高等部のプログラミングの授業

編集部

プログラミングを中学の入試に取り入れているとお聞きしましたが、それについてお聞かせください。

中間先生

本校がプログラミングの授業を導入したのが2017年で、その翌年2018年度末よりプログラミングを入試に取り入れることにしました。私立中学の受験といえば、受験勉強に数年かけて、塾に通って国語や算数などの学科入試が一般的かと思います。そういった努力はもちろん大切ですし、学力を評価する入試システムは継続しています。

一方で、小学5年生、6年生で私立中学校に行きたいと思ったけど、準備が遅かったというお子さまが結構多くいらっしゃいました。実際に本校でも、入試の時点で最下位、本当にギリギリの点数で入学した生徒がいたのですが、この生徒の場合は受験準備が遅かっただけで、入学してから中学3年間ずっとトップの成績を維持していました。

時間が足りないだけで、本当は能力を持っている子どもたちが学科試験ではない部分で力を発揮できる入試をということで、このプログラミングの入試につながりました。

入試当日は、まず機材の説明の授業から始まります。授業が20~30分程度、その後に1時間程度の作業を行います。予備知識がなくても、その場で学びながら試行錯誤していく作業になっているので、その本人が持っている非認知能力が試される試験となっており、そこをしっかりと評価します。

自他ともに尊重するコミュニケーション力を養う「アサーショントレーニング」とは?

相模女子大学中学部・高等部のマーガレットタイムのプロジェクトアドベンチャーの様子

▲マーガレットタイムの自然体験「プロジェクトアドベンチャー」の様子

編集部

御校のホームページを拝見しましたところ、「マーガレットタイム」という独自の取り組みをされていますが、それも含めて御校が実践されている感性・心を磨く教育についてお聞かせください。

中間先生

このマーガレットタイムは道徳や総合的な学習の時間に当たるプログラムです。自然体験や平和学習、赤ちゃんとのふれあいなどさまざまなカリキュラムがあります。

元々は女子校として命をテーマに、さまざまなことを学ぼうということで始まりましたが、時代の変化に合わせて内容も変化しており、最近はキャリア教育に近い形になっています。

そのマーガレットタイムの中で、2023年から「アサーショントレーニング」というコミュニケーションのトレーニングを始めました。導入の背景としては、コロナ期間中にグループワークや友だちとの関わりが減り、その後、友だち同士のトラブルが増えたのではないかという実感があったからです。

生徒たちには何の責任もないですが、マスクをしていたので表情を読むことができず、あるいは交流不足により、どんな言葉がけをすればスムーズに人間関係が進むのかがわからなくなっていたのだと考えました。

相模女子大学中学部・高等部の生徒

編集部

そのアサーショントレーニングでは具体的にどのようなことをしてコミュニケーション能力を高めているのでしょうか?

中間先生

このアサーショントレーニングは、自他尊重のコミュニケーションと呼んでいます。コミュニケーションをとる上で、ものをはっきりと言える生徒はあまり困ることはありません。

問題は、言えない生徒です。ものをはっきりと言えない生徒は、傾向としては、言える生徒に従ったり、同調したりしてコミュニケーションとることが多いと思うのですが、そこで本当に同意してればそれでいいのです。しかし、「本当はこうしたいのに自分では言えないから従っておこう、同調しておこう」であれば、相手のことは大切にしているけど、自分のことは大切にしていないコミュニケーションになります。

逆に、ものを言える生徒は、意見が通りやすく、自分のことは大切にしているかもしれませんが、相手を大切にしていないかもしれない、相手が我慢しているかもしれないということです。自他ともに尊重できるためのコミュニケーション力を養うのが、このアサーショントレーニングです。

実際には、自分がどのコミュニケーションタイプなのかを認識することから始めます。大きく4タイプあり、上手にコミュニケーションとれるのがアサーティブなタイプで、自分が我慢してしまうタイプ、相手に我慢させてしまうタイプ、もう1つは自他ともに大切にしていないタイプの4つです。4つ目は、我慢はするものの、後で嫌味を言ってしまう人などをいいます。

自分がどのタイプかを決めるのは難しいのですが、自分の傾向を分析するところから始まり、それを友だちと意見交換する中で、他の人の考えや気持ちを知ります。そして、こういう状況でこういうことを伝えたいときに、どういう言い方をすればアサーティブになるか、具体例をあげて体験していきます。

編集部

この「アサーショントレーニング」に対する生徒さんの反応はいかがでしょうか?

中間先生

まず自分について分析できる良い機会だということです。また、自分が思っていることと相手が思っていることが違うのは知っていたけど、それを実際に共有する場が提供されるので、より具体的に理解ができて良かった、といった感想があがってきています。

1年目の昨年は3学年とも同じことを行い、まずは自己分析から始まり、今年は2年目で、実際にアサーティブな伝え方のための実践的な具体例をシミュレーションしようとしています。

相模女子大学中学部・高等部のコース制について

相模女子大学中学部・高等部の校舎外観

▲校内はたっぷりの緑に包まれています

編集部

御校では高校に入ってからコース分けがありますが、それについて教えてください。

中間先生

本校では高校生に入ってから初めてコース分けが始まります。以前は中学3年から特進・進学の2つに分かれるようになっていましたが、まだ13~14年しか生きてない子どもたちが考える4年後はあまりにも遠く、具体的なイメージが沸かないだろうということで、高校からになりました。

大学受験に向けて早く準備するほうが良いという考え方があるかもしれませんが、結局親の意向になってしまうわけで、中学校でのコース分けは早すぎるという判断と反省があります。

現在は高校1年で特進・進学の2コース、2年生からは、アカデミック(文系・理系)、 グローバル、ライフサイエンス、リベラルアーツの4コースに分かれています。

かつては特進の理系・文系、進学の理系・文系のコース分けなっていたのですが、進路や大学入試の形態も多様化していく中で、よりきめ細かに対応できるようにということで今の4コース制になりました。4コース制になった1期生が現在の高校3年生ですので結果はこれからになります。

相模女子大学中学部・高等部からのメッセージ

相模女子大学中学部・高等部の中間副校長

▲取材に対応いただいた中間副校長

編集部

最後に、御校に興味をお持ちのお子さまや保護者の方にメッセージをお願いします。

中間先生

大切なお子さまを6年間お預かりするわけですから、ご本人も保護者の方も、しっかりと考えて、じっくりと検討して、本当にマッチする学校を丁寧に選んでほしいと思っています。

もしも、何としてでも有名大学に入りたいという教育方針であれば、本校はやめた方がいいかもしれません。本校は、本人がやりたいことを見つけるまで待つスタイルの学校です。そして、生徒一人ひとりの個性や自主性を尊重する学校です。

生徒が100人いれば100通りの個性があります。その多様性を認め合いながら、自分のやりたいことができる、それが本校の魅力です。

本校は部活動もがんばっており、バスケットボール部が全国で準優勝したこともあります。バリバリのスポーツ系の生徒もいれば、文化部でがんばっている生徒もいますし、スポーツなんか嫌いだというインドア派の生徒もいます。それぞれが自分の個性を発揮しながら、楽しい学校生活を送っています。

本校は相模大野駅から商店街だけを通って徒歩10分の場所にあります。商店街の中なので冬場でも暗くなることなく安心して通学できます。もし本校に興味をもっていただけたのであれば、ぜひ一度足を運び、学校の雰囲気を感じてみてください。

編集部

本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

相模女子大学中学部・高等部の進学実績

相模女子大学中学部・高等部の正門正面

▲正門から校舎にたどり着くまでは徒歩5分ほどかかる広大なキャンパス

相模女子大学中学部・高等部では、ほとんどすべての生徒が進学しており、2023年度(2024年3月卒業)卒業生337名のうち、系列校の相模女子大学・短期大学部へは18.4%、他の大学は69.1%、他の短大へは2.7%、専門学校へは7.4%が進学しています。

2023年度の主な大学合格者数としては、系列校の相模女子大学・短期大学部は70名、国立大学は7名、早慶上理・ICUは13名、GMARCHは36名、成成明学獨國武は25名、津田塾大学・東京女子大学・日本女児大学は19名、日東駒専は27名が合格しています。

■進路実績(相模女子大学中学部・高等部公式サイト)
https://www.sagami-wu.ac.jp/chukou/career/results/

相模女子大学中学部・高等部の卒業生・保護者の口コミ

相模女子大学中学部・高等部のグラウンド

▲クラブ活動では、スポーツ部・文化部ともに活発に活動しています

ここからは、相模女子大学中学部・高等部の口コミを紹介します。実際に通学していた卒業生や保護者の声をまとめました。

中高6年間のいちばんの思い出は、バトントワーリング部の日々です。横浜国立大学を志望校にしたのは高1の時で、推薦入試を受けるためには課外活動にも力を入れなければなりません。勉強との両立に悩んだこともありました。しかし、妥協したくないと高3まで続け、12月の全国大会で初めて金賞を獲得! 共にがんばった仲間と感動を分かち合えたこと、続けてきた努力が結果に結びついたこと、それが何よりの喜びでした。(2019年3月卒業)

相模女子大学に子ども教育学科があると知り、中学部から入学。幼稚園か保育園の先生になりたかった私は、幼稚部ボランティアや土曜講座の幼児教育の講座に参加しました。大学進学後、講義に触発され小学校の先生になろうと決心。神奈川県教員採用試験の大学推薦を得るべく勉強に励みつつ、チアリーディング部の活動もがんばりました。夢を実現し、現在は南足柄市立の小学校で3~6年生に音楽と算数を教えています。(2019年3月卒業)

中高一貫校なので高校受験がなく、みんな伸び伸びと学校生活を楽しんでいます。活発な生徒が多く、学校全体が明るい雰囲気に包まれていました。教育カリキュラムがしっかりとしており、熱心な先生が多いです。生徒と先生との距離感もいい感じで、わからないところは個別で丁寧に指導してくれます。相模女子大学へ進学する生徒もいますが、年々難関大学への合格者が増えているようです。(保護者)

私立なので設備も規則もしっかりとしており、親としては安心して通わせることができました。高校受験がない分、大学進学を視野に早くから目標を設定して取り組むことができます。部活動も盛んで、ほとんどの生徒が勉強と部活動を両立しています。また、生徒同士の仲が良く、やさしくて面白い先生が多く、充実した学校生活を過ごすことができました。(保護者)

※卒業生の声は学校公式サイトから抜粋して引用しています。
https://www.sagami-wu.ac.jp/chukou/career/voice/

相模女子大学中学部・高等部へのお問い合わせ

運営 相模女子大学中学部・高等部
住所 神奈川県相模原市南区文京2-1-1
電話番号 042-742-1442
問い合わせ先 https://www.sagami-wu.ac.jp/chukou/contact/
公式ページ https://www.sagami-wu.ac.jp/chukou/

※詳しくは公式ページでご確認ください