英語以外の言語も扱う「山口県立下関中等教育学校」のグローバル教育とは|中高一貫校

独自の教育を実践する注目の学校を紹介する本企画。今回は、山口県下関市にある中高一貫の共学校「山口県立下関中等教育学校」を紹介します。

同校は、中学校と高校の学習課程を統合し、中高6年間を一体的に行う山口県立の「中等教育学校」として2004年4月に開校しました。さまざまな国際交流を取り入れた特色あるカリキュラムで世界に活躍するグローバルな人材育成を行なっています。

今回は、そんな同校のグローバル教育のほか、特徴的な取り組みについて、中等教育学校推進課課長の藤本先生と進路指導課長の中島先生にお話を伺いました。

国際社会で活躍する人材育成を目指す下関中等教育学校

山口県立下関中等教育学校の玄関・事務室前の写真

編集部

まずは、下関中等教育学校の教育理念についてお聞かせください。

中島先生

本校は、国際化の進展に対応した学校づくりを教育理念とし、「自主」「気概」「向上」の3つを校訓に掲げています。

この3つの言葉を価値観や行動を考える際の指針とし、「夢や希望をもち、自ら進んで学び、積極的に行動できる人間であること」「努力を怠らず、気概をもって困難に立ち向かい、克服できる人間であること」「高い志と向上心を忘れず、社会に貢献できる人間であること」を常々生徒に指導しています。

スクールミッションは、幅広い年齢集団での協働的な学びや海外との継続的な交流を通じた学びを生かして、豊かな人間性と主体性を育み、グローバルな視点に立って国際社会で活躍できる人材を育成することです。

下関中等教育学校のグローバル人材育成への取り組み

下関中等教育学校の海外語学研修

編集部

下関中等教育学校のグローバル教育について教えてください。

藤本先生

本校では、グローバル人材を育成するためにさまざまな取り組みを行っています。

まず、後期課程4回生次(高校1年生に相当)で実施する海外語学研修がその1つです。2023年度は4回生が約2週間カナダに行きました。海外語学研修に行かない選択をした生徒は、下関市立大学の留学生との英語交流プログラムを実施します。

そのほか個人の活動となりますが、文部科学省主催の「トビタテ!留学JAPAN」で留学した生徒がいます。これは、異文化交流や探究活動を通じてグローバルな人材育成を目指すもので、審査に通ると日本代表として無料で海外留学できます。去年(2023年)は5回生の生徒が1名、フィリピンのセブ島に留学しました。現地の生活を学び、ボランティア活動にも参加したそうです。

カナダ大使と話す下関中等教育学校の生徒

▲カナダ大使が下関中等教育学校に訪問した時の様子。堂々と話す生徒の姿が頼もしい

編集部

語学研修や留学を体験した生徒さんの変化はいかがですか?

中島先生

行く前は不安があったと思いますが、実際に行ってみて英語を使わざるを得ない状況に置かれてみると「やるしかない」と覚悟ができるようです。英語を使い始めると徐々に自信がついて、自分から進んで話すようになります。

藤本先生

私は主に後期生(高校生)の英語の授業を担当しています。語学研修に行く前、いろいろと会話の訓練をするのですが、実際には思ったようには喋れず「もっと勉強しておけばよかった」と多くの反省点が見つかるようです。それがむしろ勉強のモチベーションにつながっているようで、語学研修後はスピーキングの練習にも身が入ります。

語学研修が進路に影響を与えることも多々あり、「海外にすごく興味が湧いてきた」「もう一度オーストラリアに行ってみたい」「将来は国際関係の分野に進みたい」などと考えるようになる生徒もいます。

韓国語・中国語の授業を選択可能。韓国の生徒との交流もある

韓国からの留学生を迎える下関中等教育学校の生徒

編集部

下関中等教育学校には、中国語や韓国語の授業もあるそうですね。詳しく教えてください。

藤本先生

学校のカリキュラムでは、2回生から「東アジア文化入門」という授業があり、韓国語か中国語を選択できます。また、「時間と空間を超えた交流プログラム」では、インドネシア・マレーシア・ニュージーランド・フィリピン等のNGO団体の職員さんと持続可能な社会作りに関してオンライン交流をします。これも授業の一環です。

本校が重視する目標は「豊かな人間性と主体性を育み、グローバルな視点に立って国際社会で活躍できる人材を育成」することです。その一環として語学のスキルを磨くことがあるわけですが、英語に限らずさまざまな言語を学んでほしいと思っています。

授業以外のところでも自主的にしっかりと学習し、卒業までに韓国語能力試験の2級を取ろうなど目標を決めてがんばっている生徒もいます。それが大学の推薦入試のアピールポイントとして進路実現につながる場合もあります。

編集部

韓国語や中国語について、先生方から何か特に興味づけなどはされていますか?

藤本先生

校内にはコモンホールと呼ばれる多目的広場があり、そこに「韓国の高校生はこうだよ」や「中国の文化にはこんなことがあるよ」と紹介する韓国語・中国語の掲示板を設置しています。それは中国語、韓国語に限らず英語もあります。それぞれネイティブの先生が掲示板をつくってくれます。

また、6月に開催される「旦陵祭」と呼ばれる文化祭で、教員からの出し物の一つに韓国の服「韓服を着てみよう」という体験ブースがあります。授業以外の部分で他国の文化に興味をもつ機会であり、興味づけにつながっているかと思います。

下関中等教育学校の文化祭「旦陵祭」

▲文化祭「旦陵祭」で韓国の民族衣装に身を包む生徒と先生

編集部

英語のように、現地の人と韓国語や中国語を使って話すような機会はあるのでしょうか?

藤本先生

本校に韓国から海外留学生が訪れる機会があります。「児童生徒慶尚南道友好相互交流事業」という事業で、韓国の慶尚南道の高校生で結成する山口訪問団が本校に来校し、本校生徒と親交を深めるものです。

本校の生徒は韓国の鎮海女子高等学校の生徒たちとオンライン交流を行ったり、文通をしたりもしています。5回生の生徒1名が4日間程度ソウルに滞在する「日韓高校生交流事業」もあります。そうした取り組みの成果と言えるかもしれませんが、山口県主催の「山口県韓国語弁論大会」では本校5回生の生徒が学生の部で最優秀賞を受賞しました。

また、山口大学主催の「山口きらら杯 マルチリンガルスピーチコンテスト」には6回生3名が参加し、英語、中国語、韓国語の3ヶ国語を使って下関のおすすめスポットを動画で紹介しました。

下関中等教育学校の探究学習「海峡学」とは?

夏祭りに参加する下関中等教育学校の先生や生徒たち

▲探究学習の一環で地元の文化を学ぶため、「馬関まつり」で平家踊りを披露する先生と生徒の皆さん

編集部

下関中等教育学校の「海峡学」についてもお聞かせください。

中島先生

「海峡学」は総合的な学習・探究の時間です。下関から山口、山口から世界へと視野を広げながら、国際社会で生き抜く力を身につけることができる授業内容となっています。

具体的には、1回生はまず人間関係づくりや下関の文化を学びます。下関の自然や歴史についても学び、フィールドワークとして興味がある場所を訪れます。例えば、長府の町並みや市立しものせき水族館、赤間神宮などです。これらの活動をまとめて発表する活動もしています。また、「平家踊り」という下関の伝統的な踊りを学び、夏休みの祭りで披露することもあります。

2回生になると、社会で働く意義を学ぶため、「職業体験」や「職業講話」に参加し、自分の将来の職業について考える時間を設けます。また、下関市立大学を訪問し、大学生活を体験する機会もあります。

3回生になると、自分が興味のある分野で課題を設定して探究活動を行い、調べた内容をまとめて発表します。また、山口大学を訪問し、大学のゼミについて学びます。

4回生になると、夏以降は語学研修への取り組みがあるので、夏までの活動となりますが、大学のゼミ訪問を行い、研究内容を学び、それを持ち帰って自分たちに何ができるのかをグループで話し合い、自分たちの活動に活かします。

5回生になると、卒業研究に取り組みます。自分が疑問に思ったことを研究し、大学からの助言を受けながら研究を進めます。そして年末に学年で発表し、オーデションで選ばれたチーム(班)は全校生徒に発表します。

6回生は、探究活動は少なくなり、進路活動に重点を置きます。海峡学の6年間はそういった流れになっています。

海峡学の卒業研究を発表する下関中等教育学校の生徒

▲海峡学の卒業研究を全校生徒の前で発表。

編集部

具体的に生徒さんはどんなことを研究されているのでしょうか?今までの事例を教えてください。

藤本先生

5回生の卒業研究は「看護医療班」「環境理工班」「心理文化班」「福祉健康班」「国際班」「教育班」「経済班」などテーマごとに分かれています。各班の代表班が発表をして、投票を行い、高得点だった班が全校生徒の前で発表します。例えば「精神疾患を防ぐ環境作りについて」「宇宙エレベーターを建設する上での問題点」といった研究事例がありました。

中島先生

私が去年担当したのは医療班だったのですが、保健室を訪れる人が少しでも明るくなるようにということで、保健室の模様替えをしたり、音楽をかけたりし、それを実践する前と後ではどのような変化があったかを研究した班がありました。

また、蚊を集めて、どこに薬品(忌避剤)を置けば蚊が嫌がるか等の実験をして蚊の動向を探り、刺されないためのアドバイスを発表した班もありました。

地元に寄り添ったものでいうと、「ひこっとランドマリンビーチ」という海水浴場があるのですが、そこのビーチに愛される椅子を置くことをテーマに「周りの環境を考えて、どのようなデザインの椅子のベンチを置くべきか」をそれぞれの班が研究しました。そして、山口県立大学や下関市立大学、山口大学、オンラインで千葉大学、近畿大学などいろいろな大学の先生方に研究の内容を見てもらい、いただいたアドバイスを活かして発表した事例もあります。

上級生が下級生をサポートする、下関中等教育学校の寮生活

編集部

寮があるとお聞きしたのですが、寮での暮らしについてお聞かせください。

中島先生

山口県下関市在住以外の生徒約70名が寮生活をしています。学校・部活動が終わったら寮に戻り、入浴を済ませ、19時~20時の間に食事をします。食事の後は休憩があり、1回生は21時から22時の1時間は学習時間です。定期考査前は2時間ほど学習時間があります。23時に就寝です。起床は6時頃で、朝食が7時から7時半頃まで、その後身支度をして登校となります。

藤本先生

本校では、学校活動のあらゆるところで、上級生が下級生にいろいろなことを教える「リトルティーチャー制」を取り入れています。これは、寮の中でもしっかりと機能しています。6回生が務める男子棟・女子棟の各寮長のほか、寮の中でも委員会をつくっていて、生活委員会、厚生委員会、環境委員会があります。

環境委員会は、掃除分担表を作ったり、寮全体が効率よく掃除できるように考えたりします。寮では年に2回レクリエーションを開催していますが、これは厚生委員会が企画します。1回生から6回生まで、年齢による差があまり出ないように工夫しながら楽しく遊べるレクリエーションを考えます。

それぞれの委員長は自分が下級生のときに先輩から受けたアドバイスを思い出しながら、しっかりと後輩に伝えています。

もちろん学校生活においてもリトルティーチャー制は定着しており、後輩に悪い手本を見せてはいけない、という意識が上級生たちによく身に付いており、模範となる態度を示してくれています。4月に行う身体測定と体力テストも学年ごとに分かれるのではなく、6回生と3回生、5回生と2回生、4回生と1回生で分かれます。上級生たちが下級生たちを指導することが受け継がれており、校風として根付いていると思います。

語学研修の成果を下級生に発表する下関中等教育学校の生徒

▲語学研修の成果を下級生に発表。これもリトルティーチャー制の一貫

下関中等教育学校の卒寮式の様子

▲卒寮式での一幕。指導してくれた先輩が旅立つ、感動の瞬間

下関中等教育学校からのメッセージ

下関中等教育学校の中島先生(左)、藤本先生(右)

▲取材に対応していただいた中島先生と藤本先生

編集部

最後に、下関中等教育学校に興味を持ったお子さまや保護者の方に向けてメッセージをお願いします。

中島先生

本校は語学研修や国際交流活動、主体性を身につけるための「海峡学」など、中高一貫学校として実りのある活動をしています。勉強だけではなく、本校で学んだことを活かして、自分の道を切り開いていくことができる人材育成を目指し、教職員一丸となってがんばっていきますので、ぜひ入学をご検討いただきたいです。

藤本先生

「リトルティーチャー制」もそうですが、私たち教員自身が6年間を通じた生徒の成長を目のあたりにできる喜びを日々実感しておりますので、安心してお子さまをお預けいただければ、世界に羽ばたける人材へと育成いたします。

編集部

御校ではさまざまな国際交流活動を行っていること、国際社会で生き抜くために6年間を通して「海峡学」と呼ばれる探究活動を行っていること、上級生が下級生を指導している校風が受け継がれていることなどがわかりました。本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

下関中等教育学校の生徒が考えたクラス企画でマリオ・ルイージに仮装する生徒、文化祭で劇を披露をする生徒、体育祭の記念写真

▲イベントの豊富な下関中等教育学校。文化祭や体育祭など、思い出に残るシーンもたくさんある

下関中等教育学校の進学実績

下関中等教育学校の図書室

▲図書室の奥には自習ができるスペースもある。

下関中等教育学校では、ほとんどすべての生徒が進学しており、国公立大学や難関私立大学・有名私立大学の合格者も多数輩出しています。

2024年度卒業生の実績としては、大阪大学、神戸大学、鳥取大学、広島大学、山口大学、九州工大、山口県立大学、下関市立大学など国公立大学に39名が合格しています。

国公立大学を第一志望に挙げる生徒が多く、国公立大学の現役合格者は2022年度で27名、23年度は30名、24年度は39名と、コンスタントに合格率を伸ばしてきています。

私立大学に関しては、2024年度には法政大学1名、立命館大学2名、関西学院大学3名、近畿大学2名など、難関私立大学・有名私立大学を含む現役合格者は71名となっています。

■進路実績(下関中等教育学校公式サイト)
https://www.s-chuto.ysn21.jp/%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E6%95%99%E8%82%B2/%E9%80%B2%E8%B7%AF%E6%8C%87%E5%B0%8E

下関中等教育学校の保護者・卒業生の口コミ

2024年4月、下関中等教育学校創立20周年式典

▲2024年4月に創立20周年を迎えた下関中等教育学校

ここからは、下関中等教育学校の卒業生や保護者の口コミを紹介します。

(保護者)山口県内では唯一の県立の中高一貫校です。勉強に対して熱心な先生が多く、基本、6年間持ち上がりなので、先生と生徒との絆も深く、担任以外の先生とも積極的にコミュニケーションを取っていたようです。勉強に集中できる環境で、安心して通わせることができました。

(保護者)みんな受験をして入学してくるので、それぞれがしっかりと目標を持っており、充実した6年間を過ごせると思います。部活動はたくさんあります。設備も整っていて、寮もあります。

(卒業生)高校受験がないのでその分、大学進学に目標を据えて、じっくりと進路を検討できます。在校中は、テストが多いと不満に思っていましたが、志望の大学に合格できたので、あとになってみると良かったと思えます。また、国際交流の機会がたくさんあり、楽しく学べました。

下関中等教育学校茶道部がお手前の披露する様子、書道パフォーマンスをする生徒、ダンス部のパフォーマンス、中国大会出場につき表彰される弓道部の生徒の皆さん

▲部活動も活発な同校。左上から順に茶道部・書道部・ダンス部・弓道部。弓道部は中国大会にも出場経験あり

2024年度に全国大会に出場した下関中等教育学校の演劇部

▲2024年度の全国大会に出場した演劇部

下関中等教育学校へのお問い合わせ

運営 山口県立下関中等教育学校
住所 山口県下関市彦島老町2丁目21-1
電話番号 083-266-4100
公式ページ https://www.s-chuto.ysn21.jp/