特色ある探究学習やグローバル教育を展開する学校を特集するこの企画。今回は香川県丸亀市の私立中高一貫校の共学校「大手前丸亀中学・高等学校」を紹介します。
大手前丸亀中学・高等学校は120年近い歴史を持ち、東京大学や京都大学といった国内最難関大学への合格者を継続的に輩出している進学校です。教科学習だけでなく探究活動にも非常に力を入れており、中高6年間を見越した体系的な探究プログラムを展開しています。
探究活動が盛んなことを背景に、生徒有志による団体「TSUNAGU」も積極的に活動しており、地域を舞台に生徒主体のさまざまな取り組みが生まれているのも特徴です。また、中学1年生のときから外国人講師と実践的な英会話力を身につけられるグローバル教育も特徴で、実用英語技能検定(英検)準1級合格者も毎年輩出しています。
そんな大手前丸亀中学・高等学校の探究活動やグローバル教育の特徴、「TSUNAGU」の魅力などについて、副校長の佐々木先生、総合探究係の神原先生にお話を伺いました。
この記事の目次
「社会のリーダー」育成を目指す、大手前丸亀中学・高等学校の教育方針
はじめに、御校の建学の精神を教えてください。
本校では「品位ある人格の陶冶と、力の教育とを伝統とし、知性情操の両全を目指し、公共の福祉に貢献できる指導的社会人を育成せんとする」を建学の精神に掲げています。中でも肝心なところは「指導的社会人を育成せんとする」という部分で、あらゆる教育活動においてもここに重点を置いています。
指導的社会人というのは、簡単に言うと社会のリーダーです。リーダーになるためには自分一人で考え、物事を解決する力も必要ですが、これからの時代はそれだけでなく、仲間と協働し、周囲の意見を聞きながら解決に導いていく姿勢が不可欠です。
そのために本校で力を入れているのが探究活動です。あらかじめ設定された答えを導き出していくために必要な論理的思考力を育むのが教科の学習だとすると、探究活動とは答えのないものに対して考え、仲間と一緒に答えを導き出す力を育むものです。
本校の探究活動を通じて、課題解決力やコミュニケーション能力など、これからの社会を担うリーダーに必要な力を培っていけたらと思っています。
中学校で探究スキルの土台を培う。6年間を見越した体系的な探究プログラム
▲グループ内で発表を行う生徒の様子
大手前丸亀中学・高等学校の探究活動は、具体的にどのように進められているのでしょうか。
前提として、本校は中高一貫校のため、探究活動においても中学校からの1年1年のスモールステップが6年間つながってステップアップしていけるような、体系的な学びのプログラムを意識してつくっています。その中で段階的に生徒が探究に必要なさまざまな力を身につけているのが特徴です。
まず中学校の探究活動の取り組みを具体的にいうと、中学校では「ENAGEED(エナジード)」という教材を使って探究活動の土台を作っています。ENAGEEDは探究活動とキャリア教育のための教材で、日常生活にあるちょっとした違和感などから“答えのない問い”をテーマに設定し、「こういう問題があったときにどうするべきか」を皆で考えていくという学びの教材です。
ENAGEEDを使って授業を行う際に大切にしているのが、教員が教え込むのではなく、グループワークの中で生徒主体で考えていくという点です。生徒同士で意見交換をしながら答えのない問いについて考える時間を経験することで、自分の意見を言う発信力や、相手の意見をポジティブに受け取る力が身についていきます。そこで育まれたコミュニケーション能力が、本校で探究活動を行っていく上での礎となっています。
また中学1・2年生では探究活動の一環として、「Thinking Science(シンキングサイエンス)」の時間も設けています。これは通常の理科の授業ではなく、科学的に考える力を身につけるために、さまざまな課題についてグループで話し合ったり実験を行ったりする授業です。
他にも例えばある年には、中学1年生・2年生でユニクロとコラボレーションして世界の難民に子ども服を送るというプロジェクトを行いました。またここ数年は「丸亀まちあかり」という地域のイベントに参加するなど、徐々に学校の外とつながった活動にも取り組んでいます。
こういった授業で探究に必要な力の土台を育みながら、中学3年生から高校1年生にかけて本格的に生徒主体の探究活動に取り組んでいくことになります。2021年から2022年にかけては中学3年生は学校側が設定したテーマに対してグループごとに分かれて調べものをし、フィールドワークなども行いながら課題解決に向けたアイディアを考えるなどの取り組みを行いました。
中学3年生で行う生徒主体の探究活動ではどのような取り組みが生まれているのですか?
一例として、ある年は「食品ロス」をテーマとして取り組みました。丸亀市の商店街のお店、農協(JA)の職員さんにインタビューを行い、食品ロスを防ぐためにはどうしたら良いのかを考えていきました。そこから、学校や自宅で賞味期限が迫っている食品を集め、それらをまとめて地域の福祉団体や施設に寄付する「フードドライブ」の活動につなげました。
この取り組みは香川県の「かがわ食品ロス削減大賞」コンテストで2年連続で優秀賞を受賞するなど対外的にも評価されました。調べてまとめて終わるだけでなく実践的な行動にまでつなげられた、大変意義のある探究活動になったと思います。
▲学校で行ったフードドライブの様子
「アイディア」で終わらない。生徒発の活動が多数生まれる高校の探究活動
中学3年間を経て、高校での探究活動はどのような内容となるのでしょうか。
高校の探究活動では、実際に地域社会に出て取り組みを行うことが増えていきます。例えば高校1年生ではマイナビさんの「locus」というプログラムを活用してフィールドスタディと会社訪問を行っており、そこでは企業活動の意義や、企業が行う社会貢献活動の内容などを学んでいます。
高校2年生では姉妹校である大手前高松高校の先生があなぶきグループさん等と一緒に立ち上げた4か月集中型の探究プログラム「プロジェクトToBe」に参加しています。企業訪問や、企業の方から与えていただいた課題の解決方法を考えてプレゼンテーションをするなどの活動を行っています。
▲高校生の探究活動では、企業や自治体などを訪問してさまざまな学びを得ている
企業訪問やボランティアの経験から、生徒が探究するテーマとしては、地元である四国、丸亀市が抱える課題に関することが多いですね。
中学校の探究活動のお話にもありましたが、高校の探究活動でもアイディアを考えるだけでなく「自分たちが行動できることは何か」を前提に置きながら探究活動を行っているのが特徴です。
これまでの高校生の探究活動で印象に残った取り組みはありますか?
2021年から2022年にかけて地域をテーマとした取り組みで印象的だったのが、四国の抱える少子高齢化・人口減少の課題から、四国を活性化するためのアイディアを考えていったグループがいました。この生徒たちは、「観光」と「自然」という四国の持つ地域資源に着目し、森林資源の保全と観光施策をかけ合わせた移住・定住施策を考えました。
このアイディアで「SB Student Ambassador全国大会」というSDGsに関係する高校生の大会の四国ブロック大会にて代表に選ばれ、全国大会にも出場しました。
2022年から2023年にかけては、探究活動の中で、特に「海ごみ」をテーマにした取り組みが印象的でした。生態系破壊にもつながる海ごみの問題に対して、今自分たちにできることは何なのかを生徒たちで考え「海ごみというのはもともと道路や河川敷に散らばっているごみが川の中に入り海の中に流れていったもの」だというところから、身近なごみ拾いから始めるというアイディアが出ました。ここから新しい生徒主体の活動へと広がっていきました。
そこから朝の時間、放課後の時間などを使ったごみ拾いの活動が始まり、今でもずっと続いています。この活動をごみ拾いだけのものではなくさまざまなボランティア活動につなげていこうという発展的な動きも生まれています。
▲探究活動から生まれたごみ拾い活動
学校内外での意見交換・発表機会を通じて課題解決力・プレゼンテーション能力が向上
中高6年間の探究活動で得られる生徒の皆さんの成長、変化はどのようなところに感じられますか?
中学校ではENAGEEDの教材を通じた探究活動の土台づくりがメインですが、生徒同士で意見交換をする中で「発信したことが受け入れてもらえる」という安心感を積み重ねられているのがポイントです。
そこで得た安心感があるからこそ、高校で地域社会に出たときも積極的に発言し、周囲と前向きに関わりながら活動を進められているのではないでしょうか。その中で着実に課題解決の力やプレゼンテーション能力も高まっています。
生徒が行うプレゼンテーションでは、皆スライドショー作成アプリを使いこなしながら堂々と発表しています。大手前丸亀中学・高等学校のすぐそばに丸亀市市民交流活動センター「マルタス」という施設があるのですが、そちらをお借りして学校外の一般の方に向けたプレゼンテーションを行うこともあります。
外部の方に向けた発表の経験を積み上げていけることも、プレゼンテーション能力向上の一助となっています。
▲企業に対してプレゼンテーションを行う様子
中学校からの積み上げ、経験が着実に探究スキルとして結実していっていることが伝わります。生徒の皆さんからは、御校の探究活動についてどのような感想が聞かれますか?
中学校でのENAGEEDの教材を使った授業では、これまで考えたことのないようなテーマについて深く考察することになるため、「発想が新しくなった」という意見をよく聞きます。
高校からはさらに一歩進んで実際に会社訪問をしてお話を聞くため、刺激を受ける生徒も多いようです。企業の行う社会貢献活動というのは、ビジネス的な視点も絡むため、生徒がイメージする社会貢献活動とはまた違う視点からの学びを多く得られるんです。そこで改めてボランティアや地域貢献の重要性、必要性に気づいたという生徒からの意見も多く聞きます。
中学1年生から実践的な英語力を育む大手前丸亀中学・高等学校のグローバル教育
▲外国人講師を交えてスピーチやディスカッションを行う「スーパーハイレベル英会話講座」
続いて、御校のグローバル教育において特徴的な取り組みをご紹介いただけますか?
中学1年生では英語の時間が週5時間あり、プラス1時間外国人講師による英会話の授業を行っています。中学2年生ではさらに一歩進み、外国人講師によるオールイングリッシュの授業を行います。日本人教員がアシストにつきますが、日本語は基本的に一切使わないという授業です。
また中学校1、2年生で、パソコンの画面上で外国人の方と話せる「オンライン英会話」を取り入れています。年間30回のレッスンのうち、数回を学校で短期集中型で行い、残りは各自が好きな時に自宅で行えるようにしています。生徒1人につき1人の外国人講師と会話ができるのが特徴です。
通常の授業だけでなくもっと英語を学びたいという生徒に向けては、月に2回ほど「スーパーハイレベル英会話講座」を開講しています。これは英語検定(これ以降「英検」)準1級・1級合格を目指している生徒を対象とした講座です。
ここでは学年の壁を超えて1つの教室に集まり、外国人講師と一緒に英語でスピーチやディスカッションなどを行いながら英語の力を伸ばしています。英検だけでなく、大学受験で必要な英語対策として受講する生徒もいます。
スーパーハイレベル英会話講座は英検準1級・1級を目指す生徒を対象としているとのことですが、御校では英検対策にも力を入れられているのですか?
英検対策には学校全体で非常に力を入れています。全校生徒に必ず年1回は受験してもらい、スーパーハイレベル英会話講座とは別に、各英語の先生方が英検に合格するように教材を工夫しています。
中学1年生から外国人の方と話す機会がとても多いと思いますが、それによって英語力はどう進化されていると感じますか?
英語に対する抵抗感や苦手意識が薄くなり、物怖じせずに話せる姿勢が身につくのが大きいと思います。
中学1年生は初めて外国人の方と話す生徒も多いためもちろん最初の内は緊張してしまうこともあるのですが、オンライン英会話やオールイングリッシュの授業などを重ねる中で、英語で考えて英語で話すのが当たり前、という意識が次第に生まれていきます。そのため徐々に積極的に英語でコミュニケーションを取れるようになり、それに応じて英語力も上がっていると感じます。
イギリスへの短期留学を通じて、さらなる英語力の向上と視野の広がりを得る
▲イギリスへの短期留学「英国語学研修旅行」の一部、現地の観光の様子
高校でのグローバル教育の取り組みで特徴的なものがあれば教えてください。
高校1年生の希望者を対象に、イギリスへの短期留学を実施しています。
現地ではホームステイをしながら語学学校に通うため、1日中英語漬けの環境に身を置くことになります。これまでの中学3年間と高校1年間で身につけた英会話を試す場にもなりますし、さらに英語で話すことへの度胸を身につけられる機会になっています。
イギリスへの短期留学を終えた生徒の皆さんはどのようなご様子ですか?
日本とは違う環境、異なる文化で生活をすることで、視野が広がる生徒が多いようです。またその経験を持ち帰って周囲の生徒たちに話すことで、他の生徒の刺激にもなっています。語学力という点はもちろん、それ以上に人間的な成長を得られる非常に貴重な経験となっています。
全校で約170名が所属!生徒主体で社会活動を行う“TSUNAGU”
▲「香川丸亀国際ハーフマラソン」で事前ボランティアを行う生徒の様子
探究活動やグローバル教育の他にも、御校ならではの特徴的な活動があればご紹介ください。
以前より、ボランティア活動は香川丸亀国際ハーフマラソンの事前ボランティアなどを含め、生徒が色々と行ってくれていましたが、「TSUNAGU」という、生徒による社会貢献活動を行う団体があるのは、他にはない大手前丸亀中学・高等学校ならではの魅力です。「TSUNAGU」はもともと「広報委員会」という名前で、学校のさまざまな活動に関する記事を広報委員の生徒が作成し、それを学校ホームページやInstagramで発信する広報活動を行っていました。
しかし3年間の活動を通じて、学校の中だけでなく外にも目を向けていくべきではないかという動きが生まれてきました。そこで活動範囲を学校の中から外に広げ、地元のまちの中にある問題を解決する活動を行う「TSUNAGU」という団体に生まれ変わりました。
特にボランティア活動に非常に力を入れており、地元で行われるものから県単位で行われるものも含めて、さまざまなボランティア活動に参加しています。先ほど探究活動のところでお話したフードドライブの取り組みも、今は「TSUNAGU」の中に受け継がれて、さらに発展していっています。
「TSUNAGU」は生徒誰でも所属できる団体なのでしょうか?
はい。中学1年生から高校2年生の生徒に、年度初めに声をかけています。現在約170名の生徒が所属しています。多い学年だと半数近く入っている学年もあります(取材は2024年7月に実施)。
ものすごく大所帯の団体なんですね!人気の秘訣は何だと思われますか?
学年を超えて外部とつながりながら活動できるという活動内容自体が魅力的なところはあると思います。それに加えて、「広報委員会」の時代からさまざまな賞を受賞するなど、活動が対外的に評価されているため、活躍している先輩に憧れて入る後輩が多いのではないでしょうか。
またwebでの日々の発信を通じて高いメディアリテラシーを身につけている生徒も多くいます。そういう先輩の姿を見て、自分もやってみたいという生徒が多く所属し、活動の輪が広がっていっています。
大手前丸亀中学・高等学校からのメッセージ
▲インタビューにご対応いただいた佐々木先生と神原先生
最後に、大手前丸亀中学・高等学校での学校生活に興味を持った読者の方に向けてメッセージをお願いします。
本校は「社会のリーダーを育てる」ことを目指す学校です。とはいえ、小学生の皆さんにはまだピンとこないかもしれません。
将来的に社会のリーダーになっていくために、今必要なのは「今の自分を少しでも良くしたい」「周りのことを少しでも良くしたい」という思いです。例えばクラスで何か問題があったとき、それを解決したいという思いは、社会のリーダーに育っていくための大切な資質です。
そういう気持ちを少しでも持っている方は、ぜひ大手前丸亀中学・高等学校に来て、社会のリーダーになるための土台を育んでいってほしいと思います。
佐々木先生、神原先生、本日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました!
大手前丸亀中学・高等学校の進学実績
▲高校2年生の終わりから高校3年生の1学期までに英数国は高校課程を修了する先取りカリキュラムで、余裕をもって学習を進める
大手前丸亀中学・高等学校は完全中高一貫校として6年一貫教育の先取りカリキュラムを編成しています。中学2年生の終わりまでには英数国の中学校課程を、さらに高校2年生の終わりから高校3年生の1学期の終わりまでに英数国の高校課程を修了し、高校3年生からは入試に向けた演習授業を行っており、大学受験に向けて余裕をもって学習を進められる環境が整っています。
大手前丸亀中学・高等学校の過去5年間の大学合格実績をみると、毎年東京大学、大阪大への合格者を輩出しています。また国立大学医学部医学科、私立大学医学部医学科へも毎年複数名合格しており、医学部合格者が多くなっているのが特徴です。
私立大学では関関同立(※1)、早慶上理(※2)といった関西、関東の名門校に毎年複数名の合格者を輩出しています。
※1関関同立…関西難関私立校「関西大学」「関西学院大学」「同志社大学」「立命館大学」の総称。
※2早慶上理…関東難関私立校「早稲田大学」「慶應義塾大学」「上智大学」「東京理科大学」の総称。
■大手前丸亀中学・高等学校の合格実績(公式サイト)
https://www.otemae.ed.jp/achievement/passed-achievements/
大手前丸亀中学・高等学校の生徒・保護者の口コミ
ここでは、大手前丸亀中学・高等学校に寄せられた生徒や保護者からの口コミを一部抜粋して紹介します。
進学校ということで、手厚い学習サポートや先取りカリキュラムを背景とした確かな進学実績に対する評価の声が多く聞かれました。
その中でも、友達と高め合いながら勉強に打ち込める環境があること、行事なども含め学校生活自体が居心地の良いものであることなど、大手前丸亀中学・高等学校の雰囲気の良さが伝わる口コミが多かったのも印象的です。
▲勉強も頑張りつつ、文化祭や遠足、体育祭など、行事もメリハリをつけて盛り上がる!
▲文化部・運動部ともに部活動が活発
大手前丸亀中学・高等学校へのお問い合わせ
運営 | 学校法人倉田学園 |
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