教員が実験器具を新開発!大谷中学校・高等学校の独自の理科教育とは|中高一貫校

特色ある教育に取り組む“注目の学校”を紹介するこの企画。本記事では、大阪府大阪市にある私立中高一貫の女子校「大谷中学校・高等学校」を紹介します。

1909年に大谷裁縫女学校として開校し、2024年に創立115周年を迎えた歴史ある同校は、時代に合わせた最先端の女子教育に取り組んできました。理科教育では実験を重視したカリキュラムが豊富で、高校卒業後は医療系学部に進む生徒が多いことも特徴です。また、人口減少に伴う海外流入を見据えてグローバル教育にも力を入れており、国際交流を通して相互理解力も育みます。

今回は、そんな大谷中学校・高等学校の教育方針や取り組みについて、校長の萩原(はぎはら)先生と中学入試広報部長の東良(ひがしら)先生にお話を伺いました。

穏やかで心優しい生徒を育てる。大谷中学校・高等学校の教育方針

授業を受ける大谷中学校・高等学校の生徒たち

編集部

まず初めに、御校の建学の精神についてお聞かせください。

萩原先生

本校は、仏教の教えをもとに教育を行っている学校です。校訓に「朝に礼拝、夕に感謝」を掲げており、生徒たちは毎朝の朝礼でこれを唱和します。入学当初はただ読んでいるだけでも、6年間ずっとその言葉を口にすることでいつしか自分のものになっていくんです。

そしていろんなことに対して「ありがとうございます」と感謝する気持ちが自然と体の一部になっていく。これが、建学以来大谷の伝統として受け継がれてきた精神であり、穏やかで心の優しい女性を育てる上で本校がいちばん大切にしている部分です。

編集部

理想の女性になるために、具体的にはどのような教育を行っているのでしょうか。

萩原先生

大谷の教育は「やさしく、かしこく、うつくしく」の言葉で表すことができます。

「やさしく」は、宗教をもとにした情操教育の部分。相手も自分も大切に、優しい心を持って人と接するということです。「かしこく」は、学生の本分である勉強を表します。自分の希望の進路を目指して、確固たる学力を身につけます。

「うつくしく」は外見の華やかさではなく、きちんとした身だしなみや、内面から滲み出る心の美しさを意味します。これら3つを持って、人からも良い印象をもってもらえる理想の女性になってほしいと考えています。

球技大会で声援を送る大谷中学校・高等学校の生徒たち

編集部

校訓や教育方針をもとに学んだ結果、生徒はどのように成長していると感じますか?

萩原先生

とても礼儀正しく、心優しい生徒が多いと感じます。たとえば、本校にお客さんが来たときには元気に挨拶していますし、構内で迷っておられたら積極的に声をかけて道案内をしている姿を見かけます。

気遣いの言葉が自然と出てくるような生徒たちの姿は非常に微笑ましく、校長として誇りに思う部分でもあります。

実験を通して好きになる。大谷中学校・高等学校が力を入れる理科教育

顕微鏡を覗き込む大谷中学校・高等学校の生徒たち

編集部

大谷中学校・高等学校は理科教育を重視しているそうですね。

萩原先生

その通りです。本校は伝統的に理科の実験に力点を置いた授業を行っています。資料として昭和初期の古い写真が残っているのですが、そこにすでに実験をする女子生徒の姿が写っているほどです。

失敗に学び、試行錯誤を繰り返して最終的に目的のデータを得る実験のプロセスは、考える力も身につきますし自信にも繋がるので、非常に有意義だと考えています。

編集部

進路に合わせて選択する3つのコースがあるそうですが、どのコースでも実験が充実しているのでしょうか?

萩原先生

はい。本校には、医学部や最難関大学の合格を目指す「医進コース」、難関大学の全学部の合格を目指す「特進コース」、グローバルマインドを軸に世界で活躍する女性を目指す「凛花コース」がありますが、どのコースを選んでも実験中心の授業ということに変わりはありません。卒業生の6割近くが医療系に進む点にも、本校の理科教育の成果が現れていると思います。

編集部

入学当初は理系科目に興味がなかった生徒でも、考えが変わるのでしょうか?

東良先生

そうですね。最初は「理科は苦手」と思い込んでいる生徒も、「おもしろそう!」と思うようになっていきます。

実際に、もともとは理科があまり好きではなかったけれど、本校の授業や活動を通しておもしろさに気づいたという生徒もいます。その生徒は科学部員だったのですが、合宿で天文台に行ったときに見た土星の美しさに感動したことをきっかけに、「宇宙に関わる仕事がしたい!」と強く思うようになりました。

その後、航空宇宙工学の研究が盛んな東北大学を目標に頑張って、みごと合格したんです。この生徒はすでに大学を卒業し、今は種子島の宇宙航空に関わる研究機関で働いています。

実験器具の開発や改良が盛ん。理科を身近に感じられる工夫

実験に取り組む大谷中学校・高等学校の生徒たち

編集部

御校のホームページを拝見して、実験関係の設備も非常に充実していると感じました。

萩原先生

そうですね。本校には、理科教育の新しい発想と工夫にもとづいた教育事例を表彰する「東レ理科教育賞」を2回受賞した教員がいるんです。実験器具を自作して応募する全国的な理科コンテストで、うち1回は文部科学大臣賞にも選出されました。

編集部

どのような器具を作られたのでしょうか?

萩原先生

ひとつは、調理に使う金属製のボウルを2つ重ねて、内部に電極などを通して作った「バンデグラフ」と呼ばれる静電気発生装置です。生徒とともに8年間にわたって改良を重ねた成果が評価されました。

大谷中学校・高等学校の教員が開発した静電気発生装置

▲静電気発生装置「バンデグラフ」

もうひとつは、高校物理で学ぶ「弦の振動」を視覚的に観察できる実験装置です。今後の広い普及が期待されるとして、受賞に至りました。

大谷中学校・高等学校の教員が開発した弦の振動実験装置

▲弦の振動実験装置

編集部

この教員の方を中心に、「理科教育研究所」も設立されたのだとか。

萩原先生

そうなんです。この施設を活用し、充実した研究環境で実験器具を開発したり、実験のようすを動画に撮って普段の理科実験活動に還元したりしています。受賞した教員だけでなく、他の教員も一丸となって、本校の理科教育全般のレベルアップに繋げています。

東良先生

本校の教員が考えた実験装置が実際に製品化されたものもいくつかあります。ですが、市販品は高価なので、他の学校は1〜2個ほどしか買えません。一方、本校には元となったお手製の器具がありますし追加で作ることもできますから、全生徒に行き渡らせることができるという贅沢な環境でもあるんです。

萩原先生

教員が開発した実験器具が身近にあることで、生徒たちは「これはあの先生が作ったんだ」と、理科や実験がより身近なものに感じられるというメリットもあるんです。本校では、気持ちの面からどっぷりと理科に浸れる理想の環境が整っていると思っています。

編集部

先ほど話に出た静電気発生装置は、今も科学部の生徒が改良を加えていると聞きました。

東良先生

そうなんです。最初はコンセント式でしたが、外で使うときのためにバッテリー内蔵型になり、その後、充電が必要かわかるほうが良いとバッテリー残量を表示できるようにしました。スイッチを入れる際に静電気でバチッと手が痛むのが嫌だとなれば、次はリモコン式にするなど改善を続けています。

代々の科学部員による取り組みはさまざまな地域の教育現場で知られており、理科教育研究会へ装置を提供したり、科学技術館へ寄贈したりしたこともあります。

編集部

改良の結果をお披露目する場もあるのでしょうか?

東良先生

はい。科学部員は、中学1年生から「サイエンス・フェスタ」という関西の大きな科学イベントに参加し、静電気発生装置などを持ち込んで来場者に説明をするんです。

人前で話すには自分が仕組みを理解していないといけないので正直最初はたどたどしいのですが、回を重ねるごとにしっかりと説明ができるようになります。その成長ぶりは本当に頼もしく、たくましいなと毎回感心します。

DXハイスクール指定校として「デジタル理系女子」の育成に向けた取り組みも

手作りの実験装置を前に説明をする大谷中学校・高等学校の生徒たち

編集部

ほかにも、理科教育で力を入れているポイントがあれば教えてください。

萩原先生

本校は、デジタル教育の拠点となる高校「DXハイスクール」指定校でもあります。これは文部科学省がデジタル人材の育成を目的に2024年度から開始した取り組みで、同省は、「2028年度に指定校から大学の理系学部への進学者を2万人増やす」としています。

編集部

具体的にはどのようなことが学べるのでしょうか?

萩原先生

DXハイスクール指定校は、従来の理科や数学に加え、情報・デジタル分野の知識理解やスキル獲得に向けた新たな教育を行います。本校では、令和8年度の高校2年生において、理系科目にAIやデータサイエンスなどの学びを融合させたより発展的な学びを取り入れていく予定です。

編集部

デジタル情報分野の教育でも、更なるステップがこの先待っているということですね。

萩原先生

その通りです。単なる理系女子の育成だけではなく、これからは「デジタル理系女子」の育成に向けて、理科教育にさらに力を入れようと考えているところです。

相互理解力を育み、国際社会に備える大谷のグローバル教育

記念撮影をする姉妹校の生徒と大谷中学校・高等学校の生徒たち

編集部

御校はグローバル教育にも力を入れているのだとか。

萩原先生

そうですね。本校では、グローバル教育はこれからの時代に必須で、すべての生徒に対して積極的に行うべき教育と捉えています。

日本は少子高齢化で労働人口が減少しています。なので、必然的に海外の優秀な人材がどんどん国内に入ってくることになります。つまり、今以上に海外の方とチームを組んで働くことが求められるはずなんです。

編集部

グローバル人材を育てるために、具体的にはどのような教育が行われているのでしょうか?

萩原先生

海外の人たちと仲良くなるというポジティブな経験がたくさんできるよう工夫しています。本校はオーストラリアやニュージーランド、タイに姉妹校があり、交流が盛んです。夏休みには姉妹校に体験入学し、現地生徒の家庭にホームステイすることができます。

また、姉妹校の生徒が研修旅行で来日する際には必ず本校へ寄っていただき、学校全体で歓迎会をして一緒に授業を受けるんです。生徒たちは短時間でもすぐ仲良くなり、積極的にコミュニケーションを取っています。海外の方と触れ合い、友達になれたという楽しい気持ちを中学生・高校生のうちに味わうということは、とても大事な経験になると考えています。

東良先生

ちなみに、姉妹校の生徒が日本に滞在する際には、本校に通う生徒のご家庭から希望を募り、ホストファミリーになっていただくこともあります。

保護者の方からすれば、我が子が海外研修でお世話になった学校の生徒さんを日本で預かることになるんです。ですから比較的受け入れもスムーズですし、家族同士の交流も生まれる、またとない機会になると思います。

編集部

コミュニケーションを重視することで、英語を学ぶモチベーションも高まりそうですね。

東良先生

実際に、本校で英語スキルを伸ばし、それを武器にして難関私立大学に推薦で合格した生徒もいました。中高で培った海外の人たちに対する相互理解力を軸に社会で活躍してくれたらうれしいなと思っています。

海外教育に特化。グローバルマインドを育む「凛花コース」

授業に取り組むネイティブ教員と大谷中学校・高等学校の生徒たち

編集部

先ほどコースの説明で「凛花コース」を紹介いただきました。こちらについてもう少し詳しく教えてください。

萩原先生

「凛花コース」は、海外教育や国際理解に特化したコースです。プレゼンテーションやフィールドワークを豊富に取り入れ、3ヶ月・1年間の留学プログラムも用意しています。また起業体験、模擬国連なども行います。

特徴的なのは、ネイティブ教員と一緒に2日間みっちりと英語に特化した取り組みを行う「グローバルワークショップ」です。1日目は座学で、英会話を学んだり異文化理解を深めたりします。2日目は大阪城公園に出向いて、習った会話のスキルを活かして海外旅行客に突撃インタビューをします。最後に、2日間の取り組みについて、自分たちでまとめて発表をするんです。

編集部

日本文化について学ぶ機会も設けているのだとか?

萩原先生

その通りです。外国の方と話をするときには、日本のことがわかっていなければなりません。ですから、まずは日本の和の心を極めようということで、凛花コースの生徒は全員、授業の中で茶道・華道を学びます。どちらも外部講師をお招きし、免状の取得を目指します。

英語力の底上げをはかる放課後講座「Global English Zone」

編集部

このほかにも、放課後特別講座があると聞きました。

東良先生

2022年に、オールイングリッシュの環境で英語力を鍛える「Global English Zone(以下、GEZ)という取り組みを始めました。週2回放課後の1〜2時間を使って、ネイティブ教員4名と英語教員が参加し、レベルに合わせて英語で日本文化を話したり、ディスカッションしたりします。

編集部

GEZは希望制ということですが、どんな生徒が参加していますか?

萩原先生

海外研修や授業で海外の方と触れ合う中で「もっと英語を喋れるようになりたい!」と思った生徒が積極的に出席しています。1〜2時間英語で話すとやはりすごく疲れるようですが、どの生徒もどっぷり英語に浸かって、充実した時間を過ごしているようです。

楽しく前向きに学び、その気持ちを次のモチベーションに繋げる良いサイクルができていると感じますね。

大谷中学校・高等学校からのメッセージ

大谷中学校・高等学校の萩原先生と東良先生

▲お話を伺った萩原先生(左)と東良先生(右)

編集部

最後に、記事をご覧のお子さんと保護者の方に向けてメッセージをお願いします。

東良先生

6年間の学びは楽しいことばかりではないかもしれませんし、多感な時期ですから時には悩むこともあるでしょう。ですが、卒業するときには必ず「大谷でよかった」と思ってもらえる自信があります。

本校にはほぼ毎日と言っていいほど卒業生が代わる代わる訪ねてきて近況を報告してくれ、中には親子揃って大谷という人もいます。そんなところにも、本校の居心地の良さが現れていると思っています。

萩原先生

本校が開校以来行ってきた女子教育は、これからもずっと変わりません。誰から見ても「すばらしい女性だ」と思われるような内面の美しい人に成長できる心の教育を大切にしています。

これに加え、ひとりひとりの学力に合わせた学びやデジタル理系女子の育成など、時代の流れに対応した取り組みも積極的に取り入れていく予定です。

私たちは、伝統を守りながら革新し続け、常に新しい学びを提供することに邁進している学校です。入試説明会では、卒業生や在校生が自分の言葉で本校での体験を語る時間を設けているので、ぜひ参加していただき、大谷中学校・高等学校を候補のひとつに加えていただけたらと思います。

編集部

仏教の教えにもとづいた教育方針が生徒たちに浸透しているようすや、将来を見据えた実践的な理科教育・グローバル教育が印象的でした。御校での学びは、その後の進路選択の大きな助けになると感じました。本日はありがとうございました!

文化祭で起業体験の商品の説明をする大谷中学校・高等学校の生徒

大谷中学校・高等学校の進学実績

金剛登山で記念撮影をする大谷中学校・高等学校の生徒たち

理科教育に力を入れる大谷中学校・高等学校では、難関大学のほか、医学部・歯学部・獣医学部・薬学部など、医療系に進む生徒が多いことが特徴です。

2024年度は、大阪大学、神戸大学などの国公立大学に33名、関西大学、同志社大学、慶應義塾大学、上智大学をはじめとする難関私立大学などに647名が合格しました。うち医学部医学科に10名、歯学部歯学科に12名、獣医学部に1名、薬学部に87名、看護学科に73名、その他医療系(検査・理学療法など)に20名の生徒が進路を決めています。

■近年の大学合格実績(大谷中学校・高等学校公式サイト)
https://www.osk-ohtani.ed.jp/guidance/performance/

大谷中学校・高等学校の保護者の口コミ

凛花Dayで記念撮影をする大谷中学校・高等学校の生徒たち

最後に、大谷中学校・高等学校に通う生徒の保護者から寄せられた感想の一部をご紹介します。

入学時に「勉強はもちろん、人として成長し、6年後大谷に来てよかったと思っていただけるよう誠心誠意お嬢様と向き合って参ります」と説明がありました。その言葉通り、先生方が本当に良くしてくださっており、娘も毎日楽しく学校生活を送っているようです。

娘の笑顔が増え、楽しそうに学校に通っているのが何よりうれしいです。明るい校風で、「勉強するときは集中!遊ぶときは全力で楽しむ!」と切り替えが上手な生徒さんが多いと感じています。

毎日の小テスト実施や受験対策など、学習サポートがしっかりあって安心です。娘もわからないところは積極的に質問できる環境が整っていると喜んでいますし、親としても先生にいろいろ相談ができる環境で助かっています。

サポート体制が手厚く、毎日の宿題をこなしていれば着実に学力がつくという声もありました。また、穏やかながらも明るい雰囲気で、安心して通えるという声も多数上がっていました。

大谷中学校・高等学校へのお問い合わせ

琵琶湖での自然教室でいかだを漕ぐ大谷中学校・高等学校の生徒たち

運営 学校法人大谷学園
住所 大阪府大阪市阿倍野区共立通2丁目8−4
電話番号 06-6661-0385(中学校)
06-6661-8400(高校)
問い合わせ先 大谷中学校・高等学校
公式ページ https://www.osk-ohtani.ed.jp/

※詳しくは公式ページでご確認ください