特色ある教育や校風で注目を浴びる学校を紹介する本企画。今回は、沖縄県名護市にある共立校の「沖縄三育中学校」を紹介します。
キリスト教教育を届ける同校では全寮制を導入し、寮生活を通して深められる他者理解や協力を大切にしています。また、聖書の教えに基づく「サーバントリーダー」という人物像の育成に力を入れています。
そして、自然環境の中で主体性を育てることを目的とした「自然体験学習」という独自の取り組みも設けていることも大きな特徴です。
今回は、そんな同校の建学の精神を始め、寮教育や自然体験学習、探究学習、学校行事について、校長の増田先生と教頭の島田先生にお話を伺いました。
この記事の目次
キリスト教の”使命”を胸に主体性を育む沖縄三育中学校の理念
初めに、沖縄三育中学校の建学の精神について教えていただけますか?
本校は、キリスト教の学校として「神に仕え、人に奉仕する人物の育成」を建学の精神(本校では使命と表記しています)としています。これは聖書の教えを土台として隣人の必要に応えるために一生懸命働く人物になることを生徒たちに伝えています。
具体的に、生徒のみなさんにはどのようなお話をされるのでしょうか?
本校の掲げる使命を周知するために週に一度の全校集会や各種宗教プログラムにおいて、さまざまな視点から生徒たちにお話をしています。例えば、「神に仕えるとは何か?」「奉仕するとは何か?」という概念的な話をし、まずはその意味や意義を理解してもらうようにしています。
さらに、標榜する人物になるために「自分で考え、自分で行動する」ことを生徒に求めています。神に仕えるにしても、人に奉仕するにしても、何をするにしても、誰かから言われてやるのではなく、自分で考え、選び、行動することができるような人物になってもらいたいとの願いから、使命に関連づけて生徒に伝えています。
▲讃美歌を歌う沖縄三育中学校の聖歌隊
沖縄三育中学校のバラエティ豊かな教育プログラム
ここでは、沖縄三育中学校の特色あるカリキュラム・プログラムや全寮制の生活について伺いました。
聖書に基づく人間を育てる「サーバントリーダー教育」
続いて、沖縄三育中学校の「サーバントリーダー教育」についてお教えいただけますか?
本校の使命である「神に仕え、人に奉仕する人物」を一般的に使われている「サーバントリーダー」と表現しています。このサーバントリーダーは、メンバーを支援しながらチームの目標達成に導くリーダー、メンバーを適切にフォローして、力を発揮できるようにするリーダーというように定義されています。本校では、この定義に加え聖書の教えを土台にしてサーバントリーダーを育成するための教育を行っています。
具体的な教育活動として、「人物をかたちづくる4つの特色教育」、「主体性を育む3つの特長的教育」といった伝統的教育があります。さらに、2年前から「サーバントリーダーシップの学習」や特色教育と特長的教育を横断的につないで構築した「サーバントリーダー養成プログラム」を新たに加えています。これらの教育活動を総称して「サーバントリーダー教育」と呼んでいます。
サーバントリーダーシップの学習について、学年ごとに詳しくお教えいただけますか?
1年生は、まず一般的なサーバントリーダーの知識を得るための学習を行います。次に「聖書を土台にしたサーバントリーダーとは何か?」についてグループディスカッションを中心に考えていき、2年次からの学習の基盤を作ります。
2年次では、聖書を土台にしたサーバントリーダー像を明確にするために聖書の人物やその物語を通して学びます。また、学校の問題や課題をグループで話し合い、その問題や課題を解決するためにはどんな学校にすることが求められるのか、を考え全校生徒にプレゼンができるように準備します。
3年次では、2年次の学校づくりを踏まえてサーバントリーダーである一人ひとりに何ができるのか、何をすべきなのかを考えて具体的な計画を立て実践していきます。
なかなか計画通りの教育ができているわけではありませんが、概念としてあるいは知識として理解するだけではなく実践力を育てる教育活動にしていきたいと考えています。
寮生活でクリスチャンの習慣・自己管理能力・ソーシャルスキルを育てる
▲学年を越えた繋がりが生まれる寮生活
続いて、寮教育の特色についてもお教えいただけますか?
本校の寮教育には、3つの目的があります。その1つがクリスチャンとしての習慣作りです。というのも、入学時点の生徒たちのクリスチャンの割合は多くて30%ほどです。つまり、およそ70%がキリスト教の背景がまったくない生徒たちなんですね。
となると、お祈りもしたことがなかったり、聖書自体触ったことがなかったりと、生徒たちは入学当初、戸惑うことも多いです。そこで寮教育では、上級生が丁寧にサポートにまわるんですね。こうして祈りや賛美、聖書の学びなどのクリスチャンとしての習慣作りは、主に生活の中心となる寮生活の中で行っています。
またこうした習慣を身につけていきながら、生徒たちは自己中心ではなくて他者の考えを敬うことを寮の中で実践していくこともできるんです。
2つ目の目的が、自主自律的な自己管理能力の向上です。時間管理や整理整頓、健康管理など、寮生活ではすべて自分で管理する必要があります。とりわけ社会人になって、その重要性を理解しますよね。こういった将来も見据え、本校ではこの寮教育から自己管理能力を身につけることを大切にしているんです。
そして3つ目の目的は、規則遵守と協力です。生活を共にするわけですから、ある程度のルールを設け、それに沿って生活してもらうことを基本としています。ただ、決められたルールの中でおかしいと思うことがあれば、積極的に意見を言ってもらう場を設けているんです。
例えば、特定のルールに対して、変えてほしいことがあったら、生徒たちはそのルールに関するアンケートを実施します。そのアンケートを元に生徒総会を開催し、総会で承認が得られると教師会でプレゼンができるんです。実際に生徒たちが教師会でプレゼンを実施した事例も少なくないんですよ。
このようにルールに沿って生活を送ることを基本としていますが、ルールに対して意見や不満がある場合にも受け皿となれる場所も同時に用意しています。こうした規則遵守と協力を重んじた共同生活では、ソーシャルスキルを育てることを目指しています。
これら3つの目的を実現するために、寮生活ではどのような取り組みを行っているのでしょうか?
寮生活での部屋は、学年を混ぜて割り振っています。1~3年生の3,4人で1部屋で生活しているんです。例えば寮生活が始まったばかりの1年生は、やはり喧嘩が多い傾向があります。そんな時も上級生が相談に乗ってくれたり、アドバイスをくれたりと、うまくまとめてくれているんです。これもサーバントリーダーのあり方の一つですね。
こうして上級生たちは自分たちの経験をもとにサーバントリーダーシップを発揮し、そして下級生たちは人間関係の築き方を実践しながら学んでいくことができるのも、学年を分けずに部屋を割り振っているからだと思っています。
また、寮生活では掃除の時間も多く設けています。寮の掃除や部屋の掃除、自分の身の回りの片付けなど、生徒たち同士で協力する機会になっています。
自然体験学習で発揮する主体性
▲リバートレッキングで滝まで無事に辿り着いた生徒たち
御校の特色でもある「自然体験学習」についてもお教えいただけますか?
本校が掲げる「主体性を育む3つの特長的教育」のうちの1つが自然体験活動にあたります。「主体性」をテーマにしていることから単に海や山で遊ぶのではなく、教育活動の1つとして位置づけ、計画的に取り組んでいるんですね。
例えば、毎年行う川の活動では、川下から川上の滝がある場所まで川の中を歩いていくリバートレッキングというプログラムを行っています。川の中に入るわけですから、足場が不安定になったり、流木がそこらじゅうにあったり、木が倒れていたりと、危険が身近にある環境です。そういう状況下で、生徒たちは安全に目的地に辿り着くための方法を考え実践していきます。
リバートレッキングに向けて、生徒たちには起こりうる状況や問題を事前に伝え、生徒たちもグループごとに対応策や方針を固めています。ただ、実際に現場に向かうと自分たちが考えていたことと、実際の状況が異なっていることを知るんですね。
自分たちが事前に考えていた方法で切り抜けられない場合、生徒たちには臨機応変の対応が求められます。このようにリバートレッキングの教育活動では、再度グループで話し合い、新たな打開策を打ち出す第2段階の学びも用意しているんです。
ただ、中学1年生が取り組むリバートレッキングでは、現場に行って楽しくなって騒いでしまう子たちもいるわけですよね。こういったいろんな子たちがいるメンバーを統率する力もグループに求められます。
リバートレッキングを始めとする自然体験活動では、予測ができない自然環境の中で主体性を育てる時間を作っています。
”働く”の本質に触れる労作教育
▲自転車の修理にも挑戦!
探究学習の特色についてもお教えいただけますか?
本校では、毎週月曜日の午後に全校生徒で「労作」という時間を設けています。農業や草刈り、ペンキ塗り、パンクした自転車の修理など、主に実際に社会に出た時にも役に立つような体験を多岐に渡って行います。労作は、本校の伝統的な取り組みの1つでもあるんです。
これらの活動に加え、2,3年生になると週に1度、音楽やスポーツ、社会科、健康にまつわる学びなどそれぞれ興味のあるテーマについてゼミ形式で学ぶ時間を希望者に設けています。
ゼミ形式の2,3年生の学習で、実際に印象に残ったテーマについてお教えいただけますか?
昔の人の生き方を参考に今の豊かさを問い直すことを目的にしたSDGsキャンプを地域の小学生を対象に企画しました。社会科探求ゼミの参加者が主体となって、子どもたちと一緒に竪穴式住居を作ったり、昔の手遊びに興じたりしました。名護市の博物館の方にもサポートしていただき準備にも時間がかかったのですが、人と人とが接することでもたらされる豊かさについて考えさせられる非常に価値のある体験でしたね。
また、SDGsのスクールパートナーという形で、沖縄のテレビ局ともタイアップさせていただき、テレビでも放映していただきましたよ。
SDGsキャンプを通じて、生徒のみなさんにはどのような変化や成長がありましたか?
自分たちが伝える側になるためには、より多く学ぶだけでなく、何を伝えたいかを明確に持つ必要がありますよね。だからこそ、生徒たちの学びに対する姿勢もより深みが出たように感じています。また、メディアが入ったこともあり、学びを通して得られる達成感や充実感を知るきっかけになっているようです。
1年生から「労作」の学びを設ける意図についてお教えいただけますか?
土に触れたり、外で働いたりと、実際に身体を動かして働くという、人として当たり前のことをしっかりと体験することが重要だと考えています。また、2,3年生になると労作とゼミどちらも体験することで、ゼミの学習にも良い影響が与えられていると生徒の姿を見ていると感じますね。
▲本格的な竪穴式住居が完成!
生徒たちの意見やアイデアで自在に形作られる学校行事
▲全校生徒で行った球技大会
続いて、学校行事の特色についてもお教えいただけますか?
体育祭や球技大会など、本校の学校行事は、基本的に生徒が企画運営しています。チーム分けや対戦表に関するプレゼンを作成し、教師会での発表・ディスカッションを通して、企画を固めていきます。行事ごとに、朝の時間を使って会議をしたりと、行事運営もプロジェクト学習の1つとして取り組んでいますよ。
もちろん行事のグループごとに、教員がサポートにまわりますが、主体となるのは生徒たちで、高い企画運営能力を発揮しています。
▲インタビューに答えてくださった沖縄三育中学校教頭の島田先生
沖縄三育中学校からのメッセージ
▲インタビューに答えてくださった沖縄三育中学校校長の増田先生
最後に、沖縄三育中学校に興味をお持ちのお子さま・親御さまに向け、メッセージをお願いします。
本校は、すぐに結果が出る教育よりも、社会に出たときに活かせる心構えや問題解決能力、やり抜く力を育てることに力を注いでいます。その中でも、体験を通して学びを深められるさまざまな活動を用意しているのが大きな特色だと思っています。
例えば「夢プロジェクト」は、生徒たちの方から取り組みたいことを提案してもらい、教師会でプレゼンやディスカッションを実施し承認が得られると、学校から資金やアドバイスがもらえるという取り組みです。このように学校の環境や仕組みを使って、やってみたいことがある子どもたちにはぜひ、来てもらいたい学校です。
沖縄三育中学校には生徒のみなさんの夢や好奇心を後押しする環境が整っていることを知ることができました。貴重なお話をありがとうございました!
▲夢プロジェクトの活動でウッドデッキを作る生徒たち
沖縄三育中学校の進学実績
沖縄三育中学校では例年、およそ80%の生徒が推薦制度を用い、系列の広島三育学院高校へ進学しています。また、他の高校を志望する生徒には、個別面談や学習指導を行うなど、生徒それぞれの進路に沿った指導を行っています。
また、沖縄三育中学校の過去5年間の高等学校合格実績としては、那覇西高等学校、国立沖縄工業高等専門学校、読谷高等学校、浦添工業高等学校、普天間高等学校、開邦高等学校(学術探究・芸術)、那覇国際高等学校、首里高等学校、コザ高等学校、興南高等学校に合格者を輩出しています。
■進路実績(沖縄三育中学校の公式サイト)
http://jh.okinawa-saniku.ed.jp/entrance_examination.php#link04
沖縄三育中学校の卒業生の口コミ
▲吹奏楽部の生徒たち。クラブ活動も活発
沖縄三育中学校の卒業生から寄せられた口コミを紹介します。
口コミからは、先生方との良好な関係性や寮生活について高く評価している声が聞かれました。また、夜に設けられた自習時間など、寮生活ならではの過ごし方についても、満足している様子でした。
沖縄三育中学校へのお問い合わせ
運営 | 沖縄三育中学校 |
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住所 | 沖縄県名護市旭川837 |
電話番号 | 0980-52-3942 |
問い合わせ先 | http://jh.okinawa-saniku.ed.jp/written_application.php |
公式ページ | http://jh.okinawa-saniku.ed.jp/ |
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