岡山県立津山中学校の校舎外観

探究力と語学力を養う「岡山県立津山中学校」の特色ある授業内容とは?|中高一貫校

独自の教育を実践する注目の学校を紹介する本企画。今回は、岡山県津山市にある中高一貫の共学校「岡山県立津山中学校」を紹介します。

同校は、岡山県北初の併設型中高一貫教育校として2015年に開校し、2024年に10年目を迎えました。 津山高校は2012年から文部科学省のスーパーサイエンスハイスクールに指定されており、2017年からは同中学校も含めた全校生徒を対象とした研究開発の指定を受けています。

今回は、そんな岡山県立津山中学校の教育理念や取り組みについて、副校長を務める大西先生、主幹教諭であり広報室長を務める清水先生、教務主任・広報担当を務める杉山先生にお話を伺いました。

見通す力、やり抜く力、探究心を身につける岡山県立津山中学校の教育目標

岡山県立津山中学校の授業の様子

編集部

最初に、御校の教育目標についてお聞かせください。パンフレットを拝見しましたところ、御校が大事にされている言葉に「Be a Challenger」があると思うのですが、それに関する補足もお願いします。

大西先生

「Be a Challenger~可能性への挑戦~」は本校のスローガンです。失敗を恐れずに果敢に挑戦していこうということで、2015年の開校以来、この言葉を合言葉に進んできました。

本校では全員が3年間をかけて課題探究活動を行っています。課題研究を始めるとうまくいかないこともたくさんあります。それでも諦めることなく、粘り強く挑戦する姿勢を大切にしようと、生徒に呼びかけています。

大西先生

また、本校の母体である津山高校は、2012年から文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定されています。2017年からは、津山中学校を含めた全校生徒を対象とした研究開発の指定を受けています。その中で授業や学校行事を通して身につけさせたい3つの力「VGR」を設定しています。

VのVision(ビジョン)は「グローバルな視点を持って将来を見通す力」、GのGrit(グリット)は「他者と協働しながら失敗を恐れず、困難を乗り越え最後までやり抜く力」、RのResearch Mind(リサーチマインド)は「様々な科学的手法を用いて、課題の解決に向け探究する力」です。

このように本校では、見通す力・やり抜く力・探究する力の3つの力の育成を目指して、6年間一貫したカリキュラムの開発を行っています。

サイエンス探究基礎から課題探究につなぐ、岡山県立津山中学校の段階的な学び

岡山県立津山中学校の職場体験

▲2年生の「社会を知る」ための職場体験

編集部

御校の探究学習についてお聞かせください。

清水先生

まず1年生は「地域を知る」ということで、自分たちが住んでいる地域にはどういった企業があり、みんながどういった想いを持って仕事をしているのか、暮らしているのかを考えます。2学期になると、フィールドワークでインタビューを行いますので、それに向けて、未来予想や地域を知る活動となっています。

2年生では「社会を知る」ということで職場体験があります。職場体験に向けて、自分たちが、これからどういう社会へ出ていくことになるのかを、近年ではSDGsを絡めながら学習をして、その後の2学期に、職場体験を行います。

3年生では、課題研究ということで、週に2時間、ゼミにわかれて、1人1テーマの個人研究を1年間通して行います。生徒個人が身近なことからテーマを設定し、仮説を立てて研究をしていくのですが、すぐに自分が思った通りの研究成果が出るとは限りません。

思ったようなデータが得られず、うまくいかないことの方が圧倒的に多いものです。すんなり進まなかったり、失敗したり、試行錯誤を繰り返しながら、最後3学期に発表会を迎えます。

ある程度、自分が立てた仮説に近い研究成果が得られる生徒もいれば、思っていた結果と全く違った結果になったという生徒もいますが、いずれにしても、先程申し上げたリサーチマインド、様々な科学的手法を用いて、課題の解決に向けて探究することで「探究力」を養うプログラムとなっています。

岡山県立津山中学校の課題探究発表会

▲課題探究発表会の様子

編集部

例えば、どういったテーマ・課題で研究されているのでしょうか?

杉山先生

例えば、「人・物・地域・伝統の循環」というテーマで、地域と連携して、リサイクル着物を有効に活用できないかという研究をした生徒がいました。過去には、隣町の地域活性化を担う施設と連携し、そこでイベントを企画するといった課題研究をした生徒もいます。また、児島高徳という岡山出身の歴史上の人物がいるのですが、彼が実在するかどうかを研究したものもありました。

基本的に理系の研究が盛んなので理科的な研究が多くあります。両極板を鉛とした蓄電池の実用性についての研究をした生徒や風力発電で、例えばブレードの形と発電効率の関係について研究した生徒がいます。また、英語で論文を作成し、英語で発表した生徒もいます。

清水先生

今の高校3年生のある生徒は中学校のときに、氷筍(ひょうじゅん)という氷についての研究を1年間かけて行いました。その後、高校では理数科(※)に進み、その研究を継続して、2023年度に日本物理学会から表彰されました。
(※)高校には普通科と理数科の2コースあり(取材は2024年6月中旬)

本校での学びが、高校でも活かされている例です。やはりSSHの指定を受けていますので、非常に充実した研究ができると思っています。

岡山県立津山中学校の課題探究学習のフィールドワーク

▲課題探究学習のフィールドワーク

岡山県立津山中学校の課題探究学習のフィールドワーク

▲課題探究学習のフィールドワーク

編集部

課題研究について、先生方はどのような指導やサポートをされるのでしょうか?

清水先生

課題研究を行っている週2時間は、授業のない教員は、課題研究に関わります。少人数制で、5~6人の生徒をゼミ生として、1人の教員が担当します。

テーマ決めが一番の肝になってくるので、最初の段階で本当にそのテーマで研究が進められるかどうか、先行研究がどこまでされているのか、過去の先輩たちはどういう部分で苦労して、どういうテーマであれば、研究を進めていけるのかを、2年生の終わりから数ヶ月かけて、テーマ設定をしていくようになります。

予備実験を何度もした上で、テーマを決める理系の生徒もいます。教員はそれがうまくいくようにサポートします。

中学校の教員だけでは指導・サポートが難しい場合は、高校の教員や近隣にある大学等に行って話を聞かせていただくなど、いろんなところと繋がりながら、研究を進めていきます。

清水先生

本校では、1年生・2年生のカリキュラムで、理科の授業とは別に「サイエンス探究基礎」を設定しています。自然科学に関する実験や観察、モノづくりを通して、考える力・工夫する力・学ぼうとする力を身につけるものです。

1年生・2年生で3年生の課題研究で必要な知識や技能を段階的に学ぶので、3年生になって急に研究するというものではなく、それまで積み上げたものを生かし、継続して、最後の研究で集大成を迎えるという流れになっております。

岡山県立津山中学校のサイエンス探究基礎の授業

▲1年生・2年生のサイエンス探究基礎の授業風景

多彩なアプローチで表現力・英語力を磨く、岡山県立津山中学校のグローバル教育

岡山県立津山中学校の“イングリッシュ”ロード

▲“イングリッシュ”ロードの授業の様子

編集部

岡山県立津山中学校のグローバル教育についてお聞かせください。

杉山先生

グローバル教育に関して、本校では特色ある授業を数多く取り入れています。例えば選択教科で「“イングリッシュ”ロード」があります。これは、さまざまなテーマについて、英語でスピーチしながら英語のコミュニケーション能力を高める授業になっております。

ALT(Assistant Language Teacher)の先生に入ってもらい、会話討論や英語のプレゼンテーションを行う中で、例えば国について紹介をすることによって、英語表現力だけでなくグローバルな視点の育成にもつながっています。

岡山県立津山中学校のエクスプレッション

▲エクスプレッションの授業の様子

編集部

「エクスプレッション」という授業があるそうですが、これはどういったものでしょうか?

杉山先生

「エクスプレッション」は自分の意見を相手にわかりやすく効果的に伝えるために、考えを論理的に組み立てて言葉を活用する力、発表する力、自分を表現する力を身に付けます。1年生のときは物語を考えて自分で情報発信します。

2年生ではディベートを行うのですが、ディベートするにあたっては、いろんな価値観を学ぶために、外国人の講師の方やJICAの青年海外協力隊経験者に講演をしてもらうなどし、国際的な視野を広げるためのプログラムを取り入れています。

このほか英語に対する「イングリッシュ・デイ」という学校行事があります。岡山県内10数名のALTの先生方に集まっていただき、岡山県青少年教育センター閑谷学校という施設で1日、オールイングリッシュで過ごします。日本語は禁止です。

その中では、短い英語劇を行ったり、文化紹介をしたり、英語を伝える楽しさを学べるプログラムとなっています。

岡山県立津山中学校のイングリッシュ・デイ

▲イングリッシュ・デイの様子

編集部

オールイングリッシュでの生徒さんの反応や感想はいかがでしょうか?

清水先生

実際に行くまでは、とても不安で自分が本当に英語で話ができるのだろうかと心配している生徒も多いのですが、いざ1日活動してみるとみんなとても楽しんでいます。

生徒の感想としては「今まで学んできた英語がどれだけ大切かを痛感した」や「もっと話せるようになりたい」、「コミュニケーションをとることで、いろんな国の文化を知ることができて良かった」など、前向きなものが多く、かなり満足度が高い行事になっていると感じています。

岡山県立津山中学校のスクールライフ

岡山県立津山中学校の生徒の登山風景

ここからは、岡山県立津山中学校の生徒さんの前向きな授業での様子やほとんどの生徒が所属しているクラブ活動について、また、修学旅行について伺いました。

学びに対する好奇心旺盛な授業の様子

岡山県立津山中学校の課題探究活動

編集部

御校の生徒のタイプや雰囲気についてお聞かせいただけますか?

杉山先生

私は社会科を担当しています。本校は中高一貫校で6年間の教育を見据えておりますから、高校で行われる教科、内容を意識しながら、授業をしています。

生徒の雰囲気としては、前向きに頑張ろうとする生徒が多く、「もっと知りたい」や「なんでこうなるんだろう」と、授業が終わっても質問をしにくる生徒がたくさんいます。「もっと発展的な内容を教えてください」という生徒も一定数おります。

本校の教育目標や探究学習への取り組みが、こうした生徒たちの意欲的な姿勢を醸成しているものと考えております。

清水先生

私は数学を担当しています。数学についても同様で、本当に意欲的に学びたい生徒が多いと感じています。一般的な中学校の内容よりもやや難しい、高校を見据えた質問を投げかけたときにも、本当に目を輝かせ、一生懸命考えながら、思考している生徒が多いので、教員としてもやりがいがあります。

大西先生

本校は中高一貫校ということで、高校の教員も中学校に授業に来てくれています。課題研究活動の授業でもそうですが、それ以外に、数学も週に1時間「探究数学」の授業があり、高校の教員と中学の教員2人で授業を行います。

先日も1年生の授業を見に行くと、高校の先生が素因数分解を教えているところでした。難しいかもしれませんが生徒たちは楽しく授業をしていました。

ドイツ大使館や大学訪問を盛り込んだ東京への修学旅行

岡山県立津山中学校の修学旅行

▲修学旅行

編集部

修学旅行についてはいかがでしょうか?

大西先生

修学旅行は3泊4日で東京へ行きます。政治・経済の中枢を担う機関や最先端の研究を行う施設を訪れることで、自らの将来について考えを深めます。国会で模擬法案の審議を行ったり、上野の博物館で本物に触れたり、班別の自主研修を行ったりすることで、多様な視点から我が国について理解を深め、世界に視野を広げ国際社会に生きる日本人としての見識も深めます。

杉山先生

例えば去年の班別研修は、ドイツ大使館やテレビ局、新聞、出版社、官公庁などを訪問しました。教員がアポ取りほかサポートはしますが、聞きたいことや知りたいことは、生徒が担当者と連絡を取ります。

岡山県立津山中学校の修学旅行

▲修学旅行では政治・経済の中枢を担う機関や研究施設、大使館などを訪れ視野を広げる

編集部

大使館はなかなか行く機会がないと思いますが、生徒さんの様子はいかがでしょうか?

杉山先生

とても充実していたと思います。英語で事前に質問状を送ったのですが、行く前からとても楽しみにしており、質問を真剣に、それでいてイキイキとした表情で考えていました。滞在時間も3時間と長かったため、子供たちは満足そうな様子でした。

岡山県立津山中学校からのメッセージ

岡山県立津山中学校の十六夜祭

▲中高合同で行う十六夜祭。学校全体が大きく盛り上がる3日間

編集部

最後に、御校に興味を持たれたお子さまや保護者の方に向けてメッセージをお願いします。

大西先生

本校は今年で10年目ですが、母体である津山高校は1895年に開校し、今年2024年で130年目を迎える歴史と伝統を誇る普通科と理数科を持つ全日制の高校です。卒業生も4万人を超え、世界へ飛び立ったり、地域で活躍したり、素晴らしい人材を多く輩出している学校です。

楽しく充実した学校生活を通して、自分のやりたいことを叶える学校です。もし本校に興味をもっていただけたのであれば、ぜひ一度足を運び、学校の雰囲気を感じてみてください。

編集部

本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

岡山県立津山中学校の進路実績

岡山県立津山中学校の探究学習発表会

津山中学校からは、津山高校へ入学者選抜を受けることなく全員が進学することができます。岡山県立津山高等学校では、ほとんどすべての生徒が進学しており、毎年多くの生徒が国公立大学や難関私立大学に合格しています。

2024年度の合格実績としては、京都大学、大阪大学、神戸大学、一橋大学ほか国公立大学には162名が合格しています。このうち岡山大学には41名、鳥取大学には17名、香川大学には12名が合格しました。

過去数年の国公立大学の合格者数としては、2023年度は164名、2023年度は166名、2022年度は164名が合格しており、安定して多くの合格者を輩出しています。

2024年度の私立大学の合格実績としては、早慶上理には13名、GMARCHは9名、関関同立には83名が合格。そのほかのべ427名が私立大学に合格しています。

このほか2024年度は海外大学の合格者も2名いました。

■進路情報(津山高校公式サイト)
https://www.tuyama.okayama-c.ed.jp/introduce/course/index.html

岡山県立津山中学校の卒業生・保護者の口コミ

ここからは、岡山県立津山中学校の口コミを紹介します。実際に通学していた卒業生や保護者の声をまとめました。

(卒業生)津山中学の特色ある授業である“イングリッシュ”ロードやサイエンス探究基礎、エクスプレッションなどを通して、他の学校ではできない深い学びを得られます。また部活動では、高校生と一緒に練習することで、よりハイレベルな体験ができます。

(卒業生)時には辛いことや苦しいこともありますが、それを一緒に乗り越えていける友人や、頼りになる先生方に出会うこともできました。津山中学校で得た粘り強さ、最後まであきらめずにやり抜く力は、これから社会で生きていく上で必ず役に立つと思います。

(保護者)先生方は熱心に指導してくださいますし、生徒は基本的に真面目です。自分でしっかりと目標をもって主体的に勉強に取り組みたい生徒に向いている学校だと思います。テストや課題が多く、しかも部活動にも励んでいれば、忙しそうではありますが、とても充実した学校生活を送れると思います。

(保護者)中高一貫校なので、エスカレーター式に津山高校に進学することができます。高校受験のストレスを感じることなく、大学を目指して将来設計できるので良い環境だと思って選びました。中学と高校の距離が近く、高校生の姿を見ながらの生活なので一体感があると思います。部活動を頑張っている生徒も多く、文武両道の学校だと思います。

※卒業生の声は学校パンフレットから抜粋しています。
https://www.tuyama-jhs.okayama-c.ed.jp/dl/2024_jhs_annai.pdf

岡山県立津山中学校へのお問い合わせ

岡山県立津山中学校の校舎

運営 岡山県立津山中学校
住所 岡山県津山市椿高下62
電話番号 0868-22-3301
公式サイト https://www.tuyama-jhs.okayama-c.ed.jp

※詳しくは公式ページでご確認ください