独自の教育を実践する注目の学校を紹介する本企画。今回は、埼玉県さいたま市にある中高一貫の公立共学校「さいたま市立大宮国際中等教育学校」を紹介します。
2019年に新設された大宮国際中等教育学校は、埼玉県で初めての中等教育学校として誕生しました。また、国際バカロレア機構からMYP(ミドル・イヤーズ・プログラム)およびDP(ディプロマ・プログラム)の認定を受けた、関東圏内の公立学校で初めての国際バカロレア認定校です。
今回は、そんな大宮国際中等教育学校の教育目標や独自の取り組みについて、沼尾教頭先生にお話を伺いました。
この記事の目次
大宮国際中等教育学校が目指す、国際的な視野をもち社会に貢献する人材
▲取材に対応していただいた沼尾教頭先生
最初に、大宮国際中等教育学校が目指す教育についてお聞かせください。
本校では、「ここで学ぶ 世界の未来のつくり方/Learn to make the future of the world」というメッセージを掲げています。これには、国語や理科、社会などの勉強を学ぶだけではなく、「未来をどのように作っていくのか」「社会にどのように参加していくか」ということに向けて学んでほしいという思いが込められています。
その中で、本校の目指す学習者像(生徒像)が3つあります。
1つ目は「未来の学力が備わった人」です。本校では、何を学ぶのかではなく、どのように学ぶかに重点を置いています。社会が驚くほど速いスピードで変わっていく中で、単に知識を学ぶのではなく、自ら課題を設定し、解決に導く力を養い、考えや結果を発表したり表現したりする力を備えようというもので、いわゆる探究的な学習への取り組みです。
2つ目は、本校の名称が表している通り「国際的な視野を持った人」です。地球上のいろいろな場所で活躍できるような新しい発想を身につけ、日本だけではなく、世界の多様な人たちとどのようにこの世界を作り上げていくのかを考えてほしいというものです。そして「世界」には、日本はもちろん、地元のさいたま市も含まれています。国際的な視野を持ち、多様性を尊重する心をもつことが世界・社会を形作るためにとても重要なことだと考えています。
3つ目は「より良い世界を築くことに貢献する人」です。主体性をもって仲間とともに学び、他者への寛容性や協働性を身につけ、より良い社会を作っていこう、しっかり貢献できるようになろうということで、これら3つの力を備えた生徒の育成に努めています。
国際バカロレア認定校「大宮国際中等教育学校」の特色あるカリキュラム
大宮国際中等教育学校の特徴的な取り組みについてお聞かせください。
本校は、スイスで創設された教育プログラムで世界各国の学校で採用されている国際バカロレアの認定校であり、国際バカロレアのプログラムを用いて授業を行っています。1年生から4年生(中学1年生から高校1年生)までがMYP(ミドル・イヤーズ・プログラム)、5年生・6年生(高校2年生・3年生)はDP(ディプロマ・プログラム)のコースを用意しています。
MYPに関しては、本校の1年生から4年生の全員が履修します。DPについては、5年生・6年生にてグローバルコースに進んだ生徒に適用されるプログラムとなっており、DPを履修し、所定の成績を収めると、世界中の多くの大学の入学資格として認められているディプロマ資格を取得することができます。
MYPとDPの両方とも認定されている国公立学校は、全国でも5校しかありません。関東圏で言えば、本校を含む2校のみです。
「教科」の学びが社会にどうつながるのか、探究的に考える
大宮国際中等教育学校のMYPでは、どのようなことを学ぶのでしょうか?
生徒が興味を持ったことや、社会の諸課題の解決等に、学校の教科等の学びが、どのようにつながるのかを学びます。
特徴的なものは探究学習と概念学習です。例えば理科の音と光の単元において、人をハッとさせる音とはどのようなものなのかということについて、緊急地震速報を題材に探究します。その過程で、周波数と音の関係やハーモニーとのつながりに触れます。また、美術において建造物の美しさを探究する中で、黄金比を見つけ、その黄金比を表現する二次方程式の美しさに到達します。そして、理科・音楽・数学・美術にて学んでいることが「美しさ」という概念で繋がるのです。
社会の諸課題等について興味をもって学び、学んだことが「概念」をとおして繋がるという体験をしていきます。
中学3年の美術では、新しい文様のデザインを通して「文化の継承と発展」を探究する授業を行います。
最初に日本と他国の伝統文様を調べて、その文様はどのように作られたものなのか、どのような意図を持ってその文様になったのか、私たちの生活にどのように関係しているのかなどを考えます。そして、それらを融合させて新しい意味をもつオリジナルの文様をデザインします。自分がデザインした文様を布製品に印刷し、自分の生活の中で使用したり、校内ショップで販売したりします。
これらの経験をとおして、自分が生み出した文様は「文化の継承と発展」にどのように影響するのかを探究し、結論をまとめます。
▲MYP「文化の継承と発展」の授業の様子。伝統文様を組み合わせたオリジナル文様をエコバックに印刷
美術の「文化の継承と発展」の授業では、どのような学びを得られますか?
芸術を学ぶことで得られるものはいくつかあると思いますが、芸術や文化的なものを見た時に、自分が受け取るものが深くなると思います。例えば、着物の柄でも「別に興味ない」と思っていたものが、「この柄にはどういう意味があるんだろう」「江戸時代のこういうものから発展した柄なのか」と考えられるようになります。
これができるようになるとどう良いのかというと、やはり人生が豊かになったり、またはそれを発信できるようにもなります。古くから受け継がれてきたものには、そうなるだけの意味や価値があり、今私たちが暮らす社会に生かされています。その意味や価値を今日まで受け継いでこられたのはなぜか。それは人々に「美しさを感じ取る力」があるからです。
最新のテクノロジーを搭載した車もスマートフォンも、人々に受け入れられる美しさがなければ普及していかない。芸術のもつどのような力がどのように文化の継承と発展に寄与できるのか。時代ごと地域ごとの美的価値観が詰まっているもののひとつである文様を、芸術的な視点でとらえなおし、そこから新たな文様を生み出すことで、芸術が人生や社会にもたらす力について学べます。
絵の上手な人、芸術的センスのある人だけが学ぶものではなく、全員が教養として芸術を学び、文化を作り出す素養を身につける必要があると思っています。
探究関連の授業は他にどういったものがありますか?
体育の授業は6年間ありますが、最初は「走るとは?」「投げるとは?」など自分の体を動かすことについて探究するところから始まって、6年後には共生社会を作ることがテーマになります。なぜ体育で共生社会を作るのかと言えば、いろいろなスポーツをとおして、多様性のある様々な人と協力して何かを成し遂げる方法を作り上げることが社会の幸福につながるからです。
パラスポーツについても学ぶのですが、実際にパラスポーツを体験してみよう、教えてみよう、作ってみよう、と発展させていきます。そして最終的には、「共生社会ってどういう社会なんだろう。私たちはどのように作っていけるんだろう」というところまで考えます。
▲車椅子スポーツを体験する体育の授業
プレゼンして終わりじゃない。行動して「やりたいこと」を実現させる探究学習
他にも、大宮国際中等教育学校ならではの探究学習があれば教えてください。
本校には「3G Project」という総合的な学習(探究)の時間があり、3年生以上の生徒は、それぞれ自分のプロジェクトを持っています。このプロジェクトは、生徒が自分の興味のあるものについて探究するプロジェクトなのですが、例えば、フードロスや起業、水俣病、LGBTQなど、生徒が探究しているテーマはさまざまです。
そして、自分のプロジェクトについて深めたり、周囲の人に広めたりするために積極的に外部団体との連携を行っています。自らのテーマを探究する中で、ただ調べて終わりではなく、実際の社会や研究機関とつながり、より良い社会を築くための行動を実際に行うことを推進しています。
はじめは、教員が外部との連携を提案したり、連携に必要なサポートをしたりしていますが、生徒たちは慣れてくると自分で連携先を探し、自分で連絡を取り、外部団体とつながっていきます。
これまでどのような外部との連携を行っているのですか?
いろいろありますが、自らのテーマに基づいて、近隣の小学校に出向いて出前授業をしたいという生徒は、自ら小学校に連絡をとり、授業のプレゼンを校長先生に見てもらい許可をもらいました。4回にわたり小学校を訪問し出前授業をしました。
また、LGBTQの問題意識に基づいた商品開発を行った生徒は、現在それを実際に商品化するために複数の企業に連絡をとっています。
他には、食育をテーマにしたプロジェクトで、「フードロスの問題を解決したい、さらに障害者の方たちが働いて作ったパンを広めたい」というものがありました。
どうすればそれらの問題・存在を人々に広めることができるかを考え、「学校説明会や文化祭でキッチンカーを呼ぼう」ということになりました。生徒たちはキッチンカーを持つ人に連絡するだけでなく、保健所にも連絡したりして、準備をしました。当日は集まった人に食の問題や生徒たちの思いを伝えることができ、フードロスなどについて考えるきっかけを与えることができたと思います。
さらに、コンスタントに行われていることとして献血があります。昨年度は、2回ほど献血車を呼んで、献血しました。
やりたいことがあれば、ただプレゼンして終わるのではなく、実際に行動することが大切です。この取り組みを通して、学校内の勉強だけでなく、社会に出て実践し、どのように社会に影響を与えるかを学んでほしいと考えています。
オールイングリッシュ授業も。大宮国際中等教育学校の英語教育
▲英語で数学を学ぶ「English Inquiry」の授業風景。三角関数を英語で学んでいる。
大宮国際中等教育学校の英語教育について教えてください。
まず、本校にはネイティブ教員が13名おり、1学年に1人、ネイティブ教員が担任として入っています。ネイティブ教員は英語しか話せませんので、朝の会や帰りの会もすべて英語で行います。ネイティブ教員が道徳を担当することもあり、その際は、すべて英語で授業を行います。
そして、本校の特徴的な取り組みの一つに「English Inquiry」があります。これは、1年生から4年生までが週2時間、オールイングリッシュで数学や国語、理科などを学ぶものです。
そのほか毎朝15分、生徒も教職員も全員が英語で活動する「All English」の時間を設けています。「All English」の時間はインタビューしたり、発表したり、手紙を書いたりするのですが、これをすべて英語で行うことで、「英語で自分を表現する力」を向上させていきます。
また、この他にも希望者制でディベートコンテストや模擬裁判を英語で行う取り組みもしています。ディベートコンテストは本校だけでなく他校の生徒を招待して行うもので、北海道、広島、高知など遠方からも来ていただき、本校も含めて全国10校、43チーム、180名が参加しました。
▲他校を招いて開催されるディベートコンテスト
そのような英語教育をする中で、生徒の皆さんの成長はいかがでしょうか?
本校では国際基準に基づいた英検IBAを採用していますが、中学2年生で155人全員、つまり100%が英検3級合格以上のレベルに達しています。このうち81.9%にあたる127名は英検準2級以上合格レベルです。
本校の英語の授業では文法についての細かい指導はほぼありません。どんどんインプットして、どんどんアウトプットすることを基本に、オールイングリッシュで授業をしています。入学当初の中学校1年生の中には、授業についていけなくて困っている生徒もいますが、言われていること、書かれていることの全てを理解できなくても、仲間と一緒に活動していくうちに、中学2年生、3年生になると段々ついていけるようになるのです。最終的にはものすごく英語力を持った子たちが育っています。
大宮国際中等教育学校からのメッセージ
最後に、大宮国際中等教育学校に興味をもったお子さまや保護者の方に向けてメッセージをお願いします。
子どもたちがこれからの世界で活躍するための力を育むことが本校の使命だと考えています。いろいろなことに興味がある好奇心旺盛なお子さまが、その素養を発揮しながら大きく成長できる環境が本校にはあります。
「世界をどんどん自分たちの力で良いものにしていきたい」その想いに賛同していただける方、いろいろなことをやりたいけれども、障壁があってできない、難しいと思っている方、ぜひ本校に来てください。本校で夢や希望を実現させてください。
少しでも本校に興味をお持ちの方、説明会やオープンスクールでお待ちしております。
沼尾先生、本日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。
大宮国際中等教育学校の在校生・保護者の口コミ
▲自習スペースもある図書館
ここでは、大宮国際中等教育学校の在校生・保護者から寄せられた口コミを一部抜粋して紹介します。
大宮国際中等教育学校の英語教育について満足する声が多く、また広くて整備の行き届いた校内にも満足の声が多く見られました。
▲広々とした中庭には芝生が。生徒の憩いの場にもなっている。
大宮国際中等教育学校へのお問い合わせ
運営 | さいたま市立大宮国際中等教育学校 |
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住所 | 埼玉県さいたま市大宮区三橋4-96 |
電話番号 | 048-622-8200 |
問い合わせ先 | https://www.city-saitama.ed.jp/ohmiyakokusai-h/ |
※詳しくは公式ホームページでご確認ください。