系列校化と共学化を控える「日本学園中学校・高等学校」の個性を伸ばす独自プログラム|中高一貫校

独自の教育を実践する注目の学校を紹介する本企画。今回は、東京都世田谷区にある中高一貫の男子校「日本学園中学校・高等学校」を紹介します。

同校は、1885年に東京英語学校として創立された歴史ある伝統校です。2012年から明治大学と連携を開始し、2026年4月からは明治大学の系列校として、その名も新たに「明治大学付属世田谷中学校・高等学校」として生まれ変わります。また、系列校化と同時に共学化も決まっています。

今回は、そんな日本学園中学校・高等学校の教育方針や独自の取り組みについて、同校のOBであり校長を務める水野重均先生にお話を伺いました。

明治大学の系列校に。2026年に大きな変化を迎える日本学園

日本学園中学校・高等学校リニューアルの看板

▲2026年4月から「明治大学付属世田谷中学校・高等学校」に校名を変更する

編集部

日本学園中学校・高等学校は、今後数年で大きな変化を迎えると伺いました(取材は2024年5月に実施)。まずはそこからお話しいただけますか?

水野先生

わかりました。まずは端的に事実から申し上げると、私たち日本学園は2026年4月1日から明治大学の系列校となり、校名は「明治大学付属世田谷中学校・高等学校」に変わります。また、現在は男子校ですが、女子を受け入れて男女共学となります。

系列校になった後は、卒業生の約7割が推薦で明治大学に進学できるような教育体制を整えていく予定です。

日本学園中学校・高等学校の歴史を示す校内の掲示板

▲日本学園中学校・高等学校の歴史を記した校内の掲示

編集部

そのような大きな決断をされた理由はなんだったのでしょうか。

水野先生

もともと日本学園は2012年から明治大学と地域教育連携を開始しており、そのご縁がありました。中高一貫校である本校が大学とさらに連携することにより、中学校・高校・大学とシームレスに学びを続けていくことができるというのが大きな理由です。

子どもたちにとって、近い将来が見えているというのはとても大切なことです。前が見えない状態で学んでいくより、中学のときは高校が、高校では大学まで見通しがあるほうが望ましいので、この連携により有意義な教育プログラムを展開していけると考えています。

そしてもうひとつの理由は、一見して単純なようにも思えますが、キャンパス間の距離が近いということがあります。本校は京王線・京王井の頭線の「明大前」が最寄駅という立地で、明治大学和泉キャンパスまでは線路を挟んで徒歩10分程度で到着します。

この距離感で中・高・大が協力していくことで、この一帯を学園都市にしていきたいという思いがありますね。実際に地域の皆さんの反応を見ても、「より活気が出てきそう」と歓迎してくれているように感じています。

新校舎を建設中。伝統を残しながらも開放的な空間に

日本学園中学校・高等学校の一号館の外観と登録有形文化財の看板

▲登録有形文化財でもある現校舎の一号館。新校舎の誕生にあわせて内部がリニューアルされて存続する

編集部

2026年のリニューアルに伴い、学校施設としての変化はあるのでしょうか。

水野先生

はい。中庭・グラウンド部分に新校舎を建設中で、2025年秋に完成する予定です。現在使用している既存の校舎についても、使いやすくすることに加え共学化に関連する工事も必要なので、内部に手を入れていく予定です。

現校舎の一号館は国の登録有形文化財でもあり、いろいろな思い出も詰まっています。全て建て直すようなことはせず、共存させながら生徒にとって良い形にしていければと考えています。

日本学園中学校・高等学校の建設中の新校舎

▲テニスコートの向こうには建設中の新校舎が見える

編集部

新校舎建設および現校舎のリニューアルについて、特徴的な点をお教えください。

水野先生

全体的に、明るく開放的な空間となるように工事を進めています。

まず、新校舎および現校舎の一号館には各階にラーニングコモンズ(ラウンジ)を設ける予定です。これはいわゆる多目的空間で、授業だけでなくイベントの会議や部活の相談など、生徒の自発的な活動を促すようなものになっています。

ランチ・アンド・スタディルームには壁一面を占めるほどの大型モニターを設置します。このスペースは食事だけでなく大学とつなげてインタラクティブな授業をすることも想定していますし、将来的には海外ともオンラインでつながって国際理解教育に役立てたいとも考えています。

また、私がこだわったのは廊下の広さなんです。現校舎はどうしても少し狭く感じるところもありますので、廊下を広げることで生徒たちがふとしたときに集まる「巣」のような役割も果たすことができればと考えています。

日本学園中学校・高等学校のグラウンド

▲新校舎建設中のため一部閉鎖されていたグラウンド

大学とも共通する「個」を伸ばすという教育理念

日本学園中学校・高等学校の水野校長先生

▲取材にご対応いただいた水野校長先生

編集部

学校としての体制が変わることは、日本学園の教育理念や方針などにも影響を与えるのでしょうか?

水野先生

いえ、明治大学の系列校となっても、本校の教育理念は変わることはありません。

日本学園は、学校の創設者である杉浦重剛先生が残した「人は得意な道で成長すればよい」という言葉を大事にしていて、生徒一人ひとりの個性を伸ばすこと、そして自分の道をしっかりと見つけていくために支えていくことを基本姿勢としている学校です。

実は、明治大学も建学の精神として「権利自由、独立自治」を掲げていて、個性を重視する方針は共通しています。だからこそ、スムーズに系列校化のプロセスが進んだと言えるかもしれません。双方とも個性を尊重した教育理念を持っているため、これまで培ってきたアイデンティティを踏襲していくことができるんです。

学校説明会でのアンケートでも「教育方針は変えないでください」「プログラムや行事は今まで通り行ってください」といった回答が多くありました。系列校になったり合併したりすると、理念も合わせて変わってしまうことがあるのですが、本校の場合は継続していけるので大変ありがたいと思っています。

日本学園中学校・高等学校の校内の壁に書かれた建学の精神

▲校内の壁に書かれた建学の精神。「身も心も清らかで、正しい行いをし、世界の人と交わり活躍できる人物となれ」という意味

編集部

そういった個性を伸ばす教育理念が、個性豊かなOBの方々を輩出している理由でしょうか?

水野先生

そうですね。本校のOBであり、初代の文化勲章受章者を受賞した画家の横山大観は、伝統的な日本画の枠を超えて日本美術の近代化に大きく貢献したことで知られますが、当初は彼が新しく生み出した朦朧体(もうろうたい)という画風は認められず、全く評価されていませんでした。しかし、自分の信念を貫き続け、最後には大成しました。

本校は、8名もの文化勲章受賞者を輩出しており、近年では甘利俊一先生を挙げることができます。そうした大きな器をもった人物を育てることが学校教育で大切なことであり、本校の使命だと思っています。

日本学園中学校OBの甘利俊一さんの写真

▲東京大学名誉教授で工学博士の甘利俊一さんも日本学園中学校のOB

プロセスを重要視する、日本学園の独自プログラム「創発学」

日本学園中学校・高等学校の創発学の発表

▲「創発学」の林業体験の発表

編集部

御校独自の教育プログラム「創発学」についてお聞かせください。

水野先生

豊かな創造力と発信力を養う「創発学」は、今でいうところの探究学習ですが、本校では全国の学校が探究学習に力を入れ始めるよりかなり前の2003年にスタートしています。準備期間も含めると、もっと早くから着目していました。

このプログラムは、調査や研究、取材を通して創造力を育み、創造したものを表現・発表することで発信力を身につけることを目的としています。フィールドワークを通じて創造力を養う体験実行型の取り組みなんです。

林業や漁業など「現地」での体験を通じて物の見方や現場での考え方を知り、興味を持ち、課題を見つけることから始めます。現代の子どもたちは、こうした体験の機会が少ないため、五感をしっかりと使って感じたことから疑問を見つけ、問題を提起し、解決するプロセスを学ぶことが重要です。

編集部

具体的な活動内容について、ぜひ教えていただきたいです。

水野先生

例えば漁業体験では、海流の地図を使って魚の居場所を予測し、餌をカゴの中に入れるカゴ漁を行いました。さすがに生徒だけでは難しいので漁師さんが餌の設置を手伝ってくれますが、餌の設置場所や仕掛けの工夫などは自分たちで計画し、その結果を分析します。

漁業はいろんな要素が絡み合っていて、多くの魚が取れても市場価値が低い魚だったり、量は少ないけど高価な魚だったりするので、そこも考慮する必要があるんです。また、うまく水揚げできなかった場合は原因を考えていきます。こういった一つ一つのプロセスが非常に重要で、学校の授業だけではなかなか学べないと思います。

現場で体験するのはそのプロセスの中の一部分であり、それを自分でまとめて課題を見つけて、調べて発表するわけです。同じものを見ても感じ方はさまざまなので、人によって発表内容は違ってきます。それがまた新たな気付きにつながります。

日本学園中学校・高等学校の創発学の発表

編集部

過去の生徒の発表で、印象に残っていることはありますか?

水野先生

強烈に覚えているのは、ラーメン店を100店ぐらい食べ歩いてレポートを書いた生徒のことです。すごく面白いテーマだと思いました。ニッチなところに目をつけることができるのは、その子の個性ですね。

レポートの書き方やプレゼンテーションの経験など、生徒の成長につながるものは多いですが、他にも例えばラーメンの塩味や麺の太さ、色などを数値化していけば、データサイエンスにも関連してきます。発想次第でテーマの広がりは無限大ですし、確実に将来の役に立っていると思います。

他にも、これからさらに発展していくBRICsについての研究を発表し、高校でブラジルに1年間留学した生徒もいます。そこから国際系の学部に進学し、今では商社に勤めていますね。

語学力だけではない、日本学園中学校・高等学校の“グローカル”教育とは?

日本学園中学校・高等学校の授業風景

編集部

次に、国際教育に関する御校の取り組み「にちがくグローカルプログラム(NGP)」についてお伺いできますか?

水野先生

「にちがくグローカルプログラム」の「グローカル」とは、グローバル(Global)とローカル(Local)を組み合わせた造語です。国際的な視点を大切にしながらも、自分自身の文化やアイデンティティーを認識しようというものです。

英語ができたからといってコミュニケーションが取れるかと言えば、それは違います。語学力だけではなく、相手の文化や背景を理解してこそ、本当の意味でのコミュニケーションが取れるんです。裏を返せば、自分たちの文化をしっかりと理解していなければ、相手の文化との違いさえも分からないということです。

自分たちの地域的な背景や文化を大切にしながら、世界とのつながりを育んでいく。それが本校の狙いです。

編集部

具体的には、どういったプログラムがありますか?

水野先生

中学3年の生徒全員が、オーストラリアに約10日間の語学研修に向かいます。原則として1人が1つの家庭にホームステイする形です。また、高校1年では希望者が3カ月間のオーストラリア留学をしますし、1週間のフィリピン語学研修も用意しています。

編集部

オーストラリア研修についてですが、集団で行動するのではなく、中学3年生でたった1人でホームステイするというのはなかなか大変ですね。

水野先生

そうですね。でも、その苦労こそが良いと思っています。実は、創発学の農業体験でもグループごとで農家に分泊していて、オーストラリア語学研修のプレ体験にもなっているのです。本校では、一つ一つのプログラムを個別に行っているのではなく、次の課題につなげています。

また、ホームステイ前には日本の文化について調べたり、発表をしたりする機会を多く設定しています。音楽の授業でもお琴を弾いて伝統文化を体験するなど、各教科で準備をしていますね。

編集部

互いの文化を理解することが大事とはいえ、英語力も必要になってくるとは思います。そちらの対策はされているのでしょうか?

水野先生

NGPのひとつであるCLP(コンバインド・ランゲージ・プログラム)がそれに当てはまりますね。これは言語能力のプログラムで、日本語能力と英語能力の両方を並行して鍛えていくものです。

基本的に、「国語の能力はないけど英語の能力だけはある」というケースはほとんどありえないと思っています。ただ日本語を話すことができればいいのではなく、きちんと母国の言語を理解することはとても大事です。

そういう意味でCLPは両方を学ぶプログラムとなっており、国語力という土台を強化しつつ、英語に興味を持って取り組めるプログラムとなっています。

日本学園中学校・高等学校の雰囲気と部活動

日本学園中学校・高等学校の講堂

▲校内の講堂。取材時は生徒たちが卓球を楽しんでいた

編集部

日本学園中学校・高等学校の生徒の皆さんは、どんな雰囲気の子が多いと感じているでしょうか?

水野先生

率直に思うのは、子どもたちが非常に素直だということですね。「あいさつしなさい」と特別に指導したわけでもないのに、校内に訪れた方に対して当たり前のようにあいさつをするんです。それは、先輩から後輩へといつの間にか継承されている本校の伝統だと思います。

また、個性を大切にしており、個性を伸ばしていく学校ですから、いろいろな特徴を持った生徒が集まっています。金太郎飴のように同じ人材を送り出すというのでは教育機関として面白くないですし、ここも日本学園の良いところだと思います。

その特徴がわかりやすく現れているのが、クラブ活動ですね。硬式野球部や鉄道研究部などが運動部・文化部問わずいろいろと活動しているのですが、「料理・焼き菓子部」もあるのは、とても個性的ですよね。

日本学園中学校・高等学校のプール

日本学園中学校・高等学校からのメッセージ

日本学園中学校・高等学校の水野校長先生

編集部

最後に、日本学園中学校・高等学校に興味をもったお子さまや保護者の方に向けて、メッセージをお願いします。

水野先生

保護者の皆さまにお伝えしたいのは、中学・高校ではぜひ「見守る姿勢」を大事にしてほしいということです。

小さい頃はかわいいお子さんと一緒にいろいろな体験をして、ずっと側で見てこられたと思うのですが、中高の6年間は「子どもたちが自分で成長しようとする」時期なので、手や口はできるだけ出さないほうが良いと、私は考えています。

うどん作りで例えると、小学校卒業までは「水回し」の時期にあたります。粉に水を回し入れてじっくりと手をかけてまとめていく。逆に、中高は手を出さなくても生地の熟成が進んでいく時期なので、必要以上に触ることはありません。

6年間かけてお子さんたちが熟成していくための環境づくりは、ぜひ本校にお任せいただければと思います。興味をお持ちの方は、ぜひ説明会やオープンスクールにお越しください。

編集部

本日は、貴重なお話をお聞かせいただきましてありがとうございました。

日本学園中学校・高等学校の進学実績

日本学園中学校・高等学校の校舎外観

日本学園中学校・高等学校では、ほとんど全ての生徒が大学に進学しており、関東エリアの難関私立大学、有名私立大学への合格者も多数輩出しています。

2024年3月卒業生の実績としては、早稲田大学3名、明治大学4名、青山学院大学2名、立教大学1名、中央大学5名、法政大学9名、成城大学4名、成蹊大学1名、明治学院大学2名、獨協大学1名、國學院大學1名ほか多数の私立大学に現役で合格しています。

また、2026年度からは明治大学の系列校になることが決まっているため、2029年度からは推薦入試で明治大学へ進学する生徒が増えることが予想されます。

■進学実績(日本学園中学校・高等学校公式サイト)
https://www.nihongakuen.ed.jp/education/guidance-course/

日本学園中学校・高等学校の卒業生・保護者の口コミ

日本学園中学校・高等学校の体育館

日本学園中学校・高等学校に通学していた卒業生や保護者の声を集めたので、その一部を紹介いたします。

(卒業生)先生と生徒の距離が近く、先輩後輩も仲良くて青春できる学校だと思います。学校自体も学校の周辺も治安が良くて安心して学校生活を過ごせます。学習サポートが万全で補習や講習もしっかりしてくれます。体育祭は中高生が一体感を持って楽しめます。

(卒業生)学校周辺には自然環境があり、駅から歩いて行けるので通いやすかったと思います。部活も盛んですが、勉強面も熱心で先生たちは「文武両道」とよく言っていました。勉強面はわからないところがあれば気軽に先生に聞けます。進路相談も親身になってくれました。

(保護者)素直な生徒が多い印象です。学校へ行くとみんな元気よくあいさつをしてくれます。校風は割と自由で、息子は楽しく学校に通っているので入学して良かったと思っています。もちろん合う・合わないがあるかもしれませんが、先生方は熱心で面倒見が良いです。

(保護者)学校のスタンスとして、難関大学や有名大学を狙っているわけではなく、好きなことややりたいことを見つけて、それを進路にしようという考えです。その方針が気に入って入学しました。受験のための勉強ではなく、個性を伸ばしてくれる学校です。

全体的に、駅から近い立地の良さや、個性を尊重した楽しい学校生活が送れることについて評価する意見が目立ちました。また、明治大学の系列校化について、地域がより活性化するという期待の声も上がっているようです。

日本学園中学校・高等学校へのお問い合わせ

運営 日本学園中学校・高等学校
問い合わせ先 東京都世田谷区松原2-7-34
電話番号 03-3322-6331
問い合わせ先 https://www.nihongakuen.ed.jp/inquiry/
公式サイト https://www.nihongakuen.ed.jp/

※詳しくは公式ページでご確認ください