奈良教育大学附属中学校の科学部がロボットの世界大会で6位入賞したときの集合写真

ロボット大会で世界一に!奈良教育大学附属中学校で生徒たちの「探究心」が育つ理由

独自の教育を実践する注目の学校を紹介する本企画。今回は、奈良県奈良市にある共学の国立中学校「奈良教育大学附属中学校」を紹介します。

同校は学校生活を通してさまざまな探究学習の機会を提供しており、生徒たちの探究する力、研究する力、創造する力を育みます。

こうした力を発揮して、生徒たちは主体的に興味のある学習に取り組んでいます。特に同校の科学部はロボットの世界大会で世界一を獲得した実績を持つなど、目覚ましい活躍を見せています。

今回は、そんな奈良教育大学附属中学校の教育目標や探究学習の取り組み、科学部の活躍の秘訣などについて、校長の八重先生、研究推進部部長の有馬先生、科学部顧問の葉山先生のお三方にお話を聞かせていただきました。

国立校である「奈良教育大学附属中学校」の教育目標

奈良教育大学附属中学校の校舎外観

編集部

まずは、奈良教育大学附属中学校の理念や教育目標についてお聞かせいただけますでしょうか?

八重先生

本校は、奈良教育大学の附属学校として、大きく分けると3つの役割を持っています。

一つ目が、大学と連携し今日的な課題を見据えた実証的で先導的な教育研究を行うというもので、二つ目は、教員養成のための実習校として果たす役割です。そして三つ目が、奈良県をはじめとする地域教育に貢献するという、公立学校のモデル校としての役割となります。

また、本校には5つの教育目標があります。

具体的には、「真理を求め、平和を願い、しあわせな世の中を築く人間に。」「科学と技術の基本を身につけ、すすんでものの本質をきわめる人間に。」「自由と責任を重んじ、粘り強く現実を切り開く人間に。」「みんなのいのちや願いを大切にし、あい励まし合い助け合う人間に。」「豊かなこころとたくましいからだをもち、明るく健やかに生きる人間に。」というものです。

この教育目標は60年以上も前に制定されたものですが、時代が変化しても本校が育てたい生徒の姿は変わりませんので、今も変わらずに大切にして指導にあたっています。

ユネスコスクール加盟校として環境教育や平和教育に注力

奈良教育大学附属中学校のユネスコクラブのメンバー

▲授業の枠を超えて、部活動(ユネスコクラブ)としてSDGsやESDの課題に取り組む生徒も。「アースデイ奈良」など地域のイベントにも積極的に参加している。

編集部

奈良教育大学附属中学校はユネスコスクール(※1)に加盟しており、ESD(※2)の取り組みに力を入れているとお聞きしています。取り組み内容についてご紹介いただけますでしょうか。
(※1)ユネスコの理念を実現するため、平和や国際的な連携の実践を目的とした学校。
(※2)Education for Sustainable Developmentの略。サステナブルな社会を目指して行動できる人を育てるための教育のこと。

有馬先生

本校では、「ホールスクール・アプローチ」と言って、教育活動すべてで環境教育や平和教育などのESDの取り組みを行っています。授業、総合的な学習の時間、生徒会活動、部活動など、すべてがESDに通じるような学校作りを目指しています。

直近の事例では、林業が盛んな奈良県黒滝村の森林組合さんのご協力のもと、伐採の現場や木材加工の現場を見学させていただき、今の奈良県の森林産業の問題点について教えてもらいました。

そして、奈良県の林業の持続可能性について学ぶ中で、地産地消を目指して教室の机の天板を奈良県産の杉の木に交換するという取り組みを実現しました。学校で何ができるかを考えたときに子ども達の中からこうしたアイデアがでてきましたので、地元の木材加工会社の方に相談して作ってもらうことにしたんです。

この取り組みは環境省のESD実践動画百選にも選ばれており、優れたESDの活動の事例として環境省のホームページにも掲載されています。

奈良教育大学附属中学校の奈良県産の杉を使った机の天板

▲林業の持続可能性について学んだ生徒のアイデアから生まれた、奈良県産の杉を使った学習机

地域のフィールドワークを通じて課題解決に挑む「1・2学年合同奈良めぐり」

奈良教育大学附属中学校の生徒がユネスコ国際会議で発表している様子

▲ユネスコの国際会議に生徒たちが登壇し、日本のグッドプラクティスとして「1・2学年合同奈良めぐり」の活動を紹介

編集部

ほかにも、ESDの取り組み事例があれば教えてください。

有馬先生

毎年1・2年生を30名ほどのグループに縦割りにして、奈良を中心とした地域をめぐり、ESD・SDGsにつながる学びを得ることを目的とした「1・2学年合同奈良めぐり」という活動を行っています。

学年を超えた縦割りグループで、地域の方にお話を聞かせていただいたり、フィールドワークを行ったり、地域の課題解決に取り組んだりしています。

この活動は、ユネスコの国際会議において”日本のグッドプラクティス”として発表させていただいた実績もあります。

編集部

具体的には、どのようなテーマで学習を行うのでしょうか?

有馬先生

例えばこれまでには、春日山原始林を回りながら外来種について研究するグループ、金魚が盛んな大和郡山市で水産業をテーマにまちづくりについて検討するグループ、地元野菜の効果的な活用方法やレシピを調査するグループなどがありました。

それぞれ実際に現場を訪れて、現場を案内してもらったり体験させてもらったりしながら、学びを深めていきます。

編集部

最終的に、学びをアウトプットするような機会はあるのでしょうか?

有馬先生

学級内でそれぞれのグループの活動内容を発表し合ったりというような機会を設けています。

また、取り組みの内容をパンフレットやポスターなどにまとめて地域の方に見ていただいたり、実際に社会問題に取り組んでおられる地域の業者さんや団体さんに評価してもらったりしています。

ただ学ぶだけではなくて、学びを与えてくださった方々に対して自分たちの答えを提示して、フィードバックをいただくということを大事にしているんです。

編集部

活動を通して、生徒さんたちのどのような様子が見られますか?

有馬先生

中学生なのですべてを理解しているわけではありませんが、やはり発想力が豊かなので、大人が気が付かないようなポイントに気が付いたり、斬新なアイデアがでてきたりしますね。

1年生のときには聞いていることが多かった生徒も、2年生になると自分で案を出したり下級生に教えたりするなど、大きな成長も感じられますよ。縦割りでグループを作ることによって上位学年の生徒には先輩としての自覚も生まれて、学習に対する意欲も高まるようです。

3年間を通じて段階的に育む「探究する力」

奈良教育大学附属中学校の生徒が探究学習の授業に取り組んでいる様子

▲3年間を通じて、課題を設定する力・深掘りする力・発信する力などを磨いていく

編集部

今ご紹介いただいたような事例も含めて、奈良教育大学附属中学校には探究的な学びの機会がたくさんあるようですが、課題設定や深掘りの仕方、発表の仕方などについて学ぶようなカリキュラムはあるのでしょうか?

有馬先生

本校では、3年間を通して段階的に探究する力を身に付けていくカリキュラムを用意しています。

まず1年生の段階では、マインドマップ、グラフィックレコーディング、課題設定、プレゼンテーションなど、探究学習の方法論をしっかり学んで身に付けます。

2年生になると、フィールドワークを重点的に実施します。先ほどご紹介した1・2学年合同奈良めぐりのほかにも、海岸で海の生物を使った観察実験をする臨海実習なども実施しています。

そして3年生になると、集大成として個人の卒業探究のテーマを設定し、発表します。テーマは自由ですが、最近は、1・2年生のうちに学んだことをきっかけにして奈良の文化財や世界遺産、環境などをテーマにする生徒が増えています。

3年生の発表を見た下級生は、自分が3年生になったときにどういう研究をするかを考えながら過ごすので、年々発表の内容は素晴らしいものになっていっていると感じます。

編集部

3年間で生徒さんの成長を感じますか?

有馬先生

大いに感じますね。高校でも各学校で探究的な総合の学習の取り組みが始まっていると思いますが、本校の卒業生は、中学校3年間でしっかりと力を身に付けていますので、高校でも率先して探究学習に取り組んでいるようです。

高校の先生から、「ほかの生徒を引っ張ってくれて助かっている」というような声をいただくこともあります。

ロボット大会で世界大会常連!開発に没頭する科学部の生徒達

奈良教育大学附属中学校がロボットの世界大会で7位入賞したときの集合写真

▲ロボット大会では日本一のタイトルを何度も獲得。過去には世界一に輝いた実績も

編集部

続いて、奈良教育大学附属中学校の自慢の部活動について伺いたいと思います。御校では、科学部が世界レベルで活躍されていると伺っていますが、活動内容や実績についてご紹介いただけますか?

葉山先生

本校の科学部は、ロボットの大会(※)で日本一をはじめ、数多くのタイトルを獲得しております。2014年にロシアのソチで開催された大会では、日本で初めて、世界一のタイトルもいただきました。
(※)自律型ロボットの競技大会「WRO(World Robot Olympiad)」。国内の予選会を突破すると世界大会に出場できる。

「物体の形をセンサーで認識し、その形を瞬時に再現する」というシステムを開発して世界大会に挑んだのですが、実はこのシステム、世界最高峰の技術レベルを持つMIT(マサチューセッツ工科大学)の日本人教授が、同じ年に公開したロボットと基本原理がほぼ同じシステムだったんです。

当然、事前に情報を得ていたわけではなく偶然のことなのですが、通常は億単位のお金を使って開発するようなものを本校では中学生が何十万円という費用で開発しているわけですから、生徒たちの力には驚きますよね。

後日審査員の方から、「圧倒的な独創性、技術力とプレゼン力で本校の優勝は満場一致ですぐに決まった」というお話もいただきました。

ロボットの世界大会で奈良教育大学附属中学校の生徒が競技を行っている様子、ロボットの世界大会で他国の参加者と交流している様子、ロボットの世界大会において英語でプレゼンしている様子、ロボットの世界大会で7位入賞したときの集合写真

▲世界大会では競技のほかにも英語でプレゼンしたり他国の参加者と交流したりと、いろいろな思い出が生まれた。

編集部

中学生とは思えないレベルの発想力と技術力ですね。ほかにも、最近の事例で面白い開発があれば教えていただけますか?

葉山先生

コロナ禍に世界オンラインの世界大会に出場し世界6位を受賞したのですが、その時には「鹿のフンを回収するロボット」を開発しました。

奈良は鹿が有名ですけど、フンが散らばって靴について困るというのは「地元あるある」な悩みなんですよね。そこから「フンをバイオマス発電に有効活用できないか」という発想に至って、画像認識システムを駆使してフンを回収するというロボットを開発したんです。
このシステムは、地域の資産を生かした創造的なシステムであるということで、参加チームで唯一「LE Creativity Award(レゴエデュケーション創造賞)」という名誉ある賞もいただきました。

「教えるのではなくヒントを与える」指導で考える力を育てる

奈良教育大学附属中学校の科学部の活動の様子

編集部

生徒さんたちが開発を進めるにあたって、先生方はどのような指導やサポートをされているのでしょうか?

葉山先生

私は、教師が教え込むと子どもは伸びないと考えていますので、子どもたちに気づかせて、自分たちで考えて前に進める力を育てるということを大切にしながら指導にあたっています。

科学部の活動でも、何をどうやって開発するかは、基本的には子ども達に考えさせています。もちろんどうしても引き出しが足りないこともありますので、そのような時にはヒントが得られそうなところを一緒に見学しに行ったり書物を紹介してあげたりなど、子ども達が自分で前に進むためのサポートをするようにしています。

開発は「どこが課題で何を改善しなければならないのか」という気の遠くなる実験の繰り返しなので、基本口は出さずに一緒に汗をかいて、その繰り返しの作業に粘り強く付き合ってあげるということが大事だと思っています。

編集部

素晴らしいですね。自分で考える力こそが大きな成果を生むのでしょうね。

世界大会では英語でプレゼンテーションすることになると思いますが、プレゼンの指導や練習はどのようにして行っているのでしょうか?

葉山先生

プレゼンに関しては英語を喋ることがゴールではないと思っていますので、発音などテクニックの部分はあまり重視していません。

卒業生や英語圏で研究職をしている方の協力もいただきながら、結論を先に述べて論理的なロジックを組み立てるというような「相手に伝える力」の育成を意識した指導を行っています。

探究心を活かして東大進学も。大きく羽ばたく卒業生たち

奈良教育大学附属中学校の生徒たちが制服を着て歓談している様子

編集部

奈良教育大学附属中学校の生徒さんたちの卒業後の活躍について教えてください。

葉山先生

本校には高等部はないので生徒たちは別々の進路に進んでいくのですが、皆さん、それぞれの道で大いに活躍してくれています。

科学部の生徒に関しては、進学後もロボットに限らず何か研究を続けている生徒は多いですね。ロボット開発を続けたいけれど高校にはその環境がないということで、本校の環境を使って研究を続けて世界大会に出場し、大きな成果を残した生徒もいます。

編集部

卒業後も中学校での学びが生きているわけですね。

編集部

そうですね。実は科学部からは、東大、京大、東工大、東北大、北大、阪大のような難関大学への合格者も多数輩出されているんです。

正直なところ、中学に入学したときの学力は、いわゆる有名進学校の生徒と比べるとそんなに高いわけではありませんが、好きなことを探究する心が育まれることによってこうした実績につながっているのだと思います。

東大に進学した子は、大学を卒業するときに工学部の名誉ある賞を受賞したと聞いています。今は大学院に進学して研究を続けているようですよ。

「TEDx立ち上げ」「次世代ユネスコ国内委員会メンバー選出」など幅広く活躍

編集部

ほかにも、生徒さんたちの卒業後の活躍のエピソードがあれば教えてください。

葉山先生

科学部の卒業生たちが中心となって中学生・高校生・大学生が連携してTEDx(※)を立ち上げたというエピソードもあります。
(※)非営利団体TEDから公式にラインセンスを受けて行われるプレゼンテーションイベント

コロナ禍でロボットの国際大会が中止となり落ち込む後輩たちを見た卒業生たちが、何か違うことに挑戦してみようと提案してくれたんです。実際に英語を駆使してアメリカの非営利団体「TED」からライセンスを受けて本校でTEDxを開催するに至り、現在もその活動を続けています。

日本では、東京や京都などの自治体や大手の大学などでTEDxの立ち上げの事例がありますが、コロナ禍に中学生・高校生・大学生が連携して立ち上げたというのは日本で初めての事例なのではないかと思います。 
さらに嬉しいことに、それを中学生から経験した子たちが、進学した高校でもその活動を広めるべく奮闘しているんです。実際に大阪の高校に進学した生徒が、学校を巻き込んで新しいライセンスを取得し、TEDxの立ち上げを行っているんですよ。

編集部

自らできることを考えて、行動に移せる力が本当に素晴らしいですね。

有馬先生

ほかにも、本校で学んだESDに影響を受けて活動の幅を広げている生徒もいます。

現在、日本のユネスコ協会が次世代ユネスコ国内委員会(※)のメンバーを募集していて、20名ほど大学生が参画しているのですが、その中に本校の卒業生が2名含まれています。
(※)若者からの声を今後のユネスコ活動に反映させていくことを目的として立ち上げられた組織

SDGsや地球規模の課題に真剣に向き合い、国内のユネスコ活動の活性化に貢献すべく頑張っているようですよ。

奈良教育大学附属中学校からのメッセージ

奈良教育大学附属中学校の校長の八重先生、研究推進部部長の有馬先生、科学部顧問の葉山先生

▲インタビューに答えてくださった葉山先生(左)、八重先生(真ん中)、有馬先生(右)

編集部

最後に、奈良教育大学附属中学校に興味を持たれた方に向けてメッセージをお願いします。

有馬先生

本校の教員は、1人ひとりがそれぞれの研究テーマを持って授業に挑んでいます。学校生活を通してさまざまな課題や取り組みに触れることができる学校だと思っておりますので、新しいことに挑戦したいというお子様にぜひ来ていただきたいですね。

葉山先生

受験に対応する学力が高いということももちろん素晴らしいことではありますが、それだけに縛られてしまうと子ども達の力は伸びません。本校は、探究する力、研究する力、創造する力など、これらの人生に役立つ本質的な部分をしっかりと育んでいきたいと考えております。本校で学ぶと将来、社会で羽ばたくための生きる力が身につくと思いますよ。

八重先生

本校では、学習、部活動、生徒会活動など、さまざまな面で生徒たちが主体性を発揮して頑張ってくれています。自分で将来を切り開く力が育つと思いますし、生徒さんや保護者の皆さんの期待に添える学校だと思っておりますので、ぜひ一度足を運んでいただければと思います。

編集部

ありがとうございます。インタビューを通して、御校では、生徒さんが探究心を発揮して本当にさまざまな活躍をされているということがよくわかりました。本日は、たくさんの貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!

奈良教育大学附属中学校の卒業生の口コミ

ここでは、奈良教育大学附属中学校の卒業生の皆さんの口コミを紹介します。

専門的な分野を研究されている先生方が多く、授業の満足感が非常に高い。(卒業生)

実験、プログラミング、映画を使った授業、グループワークなど、個性的な授業が盛りだくさん。(卒業生)

科学部、裏山部、ユネスコクラブなど、全国的に珍しい部活もって、とても楽しそうに活動している。(卒業生)

生徒の探究心を育むさまざまな活動に満足している卒業生の皆さんの声が多く見られました。

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