読者のみなさんに、画期的な取組を実践する学校を紹介する本企画。この記事では、長野県長野市にある公立学校「長野市立長野中学校・長野高等学校」について紹介します。
同校は、2016年に開校した公立の中高一貫校(共学)です。探究学習に力を入れる同校では、自分で課題を探し解決策を考える力を養うべく、「翼プロジェクト」と称した地域の課題解決をメインとする独自のカリキュラムを取り入れています。また英語学習にも力を入れており、「善光寺ウォーク」や「イングリッシュキャンプ」などの授業を目的に、同校を受検する生徒も多いのだとか。
今回は、そんな長野市立長野中学校・長野高等学校で教務主任かつ理科教師を務める成田先生にインタビュー取材し、教育理念や特色ある授業などについて詳しく伺いました。
この記事の目次
「長野市立長野中学校・長野高等学校」の学校教育目標とは
▲インタビューに対応してくださった成田剛真先生
まずは、御校の教育理念をお聞かせいただけますか?
本校の学校教育目標は「高い教養・豊かな心・健やかな身体を持ち、国際的な視野に立って地域の発展に貢献する人材を育成する」です。市立の学校ということもあり、中でも地域で活躍する人材を育てる点を大切にしています。
例えば、「総合的な学習の時間」では全学年が長野市内に出て、地域住民などと関わるんです。学外に出て地域のリアルな課題や魅力を知ることで、「地域に貢献する意識」を養います。
長野市の魅力発信を中心とした探究学習「翼プロジェクト」
▲地元の企業を訪れ、インタビューをしている様子
「地域に貢献する意識」を養うための具体的な取組について教えてください。
長野市立長野中学校・長野高等学校では「翼プロジェクト」という、身近な地域・長野市をテーマに、生徒たちが課題を見つけ、解決していく活動を行っています。これは、本校の特徴的な取組の1つです。
中学1年生では「長野市を知る」をテーマに、市内の農業・観光などから自分の課題(調べたいこと)を決めます。中学3年生になると「地域への貢献」をテーマにして、長野市が抱える課題に目をむけて「自分には何ができるか」を考えるんです。高校でも2年生までは「翼プロジェクト」に取り組んでおり、その内容はFacebookでも公開しています。
生徒たちの成長に合わせて、地域への関心を高めていけるのが特徴です。
御校は開校以来ずっと農業体験を実施されてきたそうですが、これも翼プロジェクトの一環なのでしょうか?
はい、農業体験は中学1年生で行う長野市を知ることを目的とした翼プロジェクトの1つです。2019年の台風19号で被災された「小川醸造場」さんへの支援のため、「キセキのみそ復活プロジェクト」に参加し、本校の生徒たちが大豆を育て、みそを作るお手伝いをしました。その結果、小川醸造場さんも無事に復興されたため、2023年度でプロジェクト終了となりました。これに伴い、農業体験も終了しています。
2024年度からは、以前から行っていた「善光寺を中心とした街作り」に焦点をおいた学習にいっそう力を入れて取り組む予定です。
中学3年生は伝統工芸品を広めたり、子ども食堂のボランティアをしたりするなど、地域に密接した問題を解決するためのさまざまなプロジェクトを立ち上げ、取り組んでいます。
長野市立長野中学校・長野高等学校の特徴的なカリキュラム
長野市立長野中学校・長野高等学校の1番の特色は、さまざまな探究学習があることです。また同校では、英語学習にも力を入れており、「善光寺(※)ウォーク」や「イングリッシュキャンプ」等の取組を行っています。ここからは、同校のそんな特徴的なカリキュラムについてご紹介します。
(※参考:文化庁「善光寺本堂」)。
英語教育の一環「善光寺ウォーク」では、留学生と英語でコミュニケーション
▲善光寺ウォークの様子
長野市立長野中学校・長野高等学校では英語学習にも力を入れているそうですね。具体的な取組についてお聞かせください。
長野中学校では、学年ごとに海外の方と対面でコミュニケーションする英語探究カリキュラムを実施しています。1年生では「善光寺ウォーク」、2年生では「イングリッシュキャンプ」、3年生では台湾から留学生を迎えての交流です。
特に「善光寺ウォーク」は本校ならではの取組で、職業学校に通う留学生に対して善光寺の街を歩きながら話をしたり、街の良いところを紹介したりといった活動となっています。また併せて、善光寺の周辺の街の良さを調べて発信していくことも行っています。
どういった目的で、このような取組をされているのでしょうか?
生徒たちに、「使える英語」を身につけてもらいたいからです。
実は本校は、「善光寺ウォーク」のような英語学習を目的に受検する生徒も多く、英語が好きで学習意欲が高い生徒は少なくありません。それでも、留学生とスムーズにコミュニケーションが取れるわけではないんです。だからこそ、早いうちに外国の方と話し、自分の英語力を知ることが大切だと思います。
「善光寺ウォーク」は年に2回実施しますが、1回目で多くの生徒が「自分の英語が通用しない」という壁に直面します。留学生との関わりを通して「もっと英語力を高めたい」と思うようで、授業に取り組む姿勢も変わりますね。2回目には自分なりの言葉で、国宝に指定されている善光寺周辺の魅力を伝えられるようになっていますよ。
▲グループごとに留学生を案内
ふだんの英語授業に関して、一般的な公立校との違いはあるでしょうか?
ふだんの授業でも対話を重視しているので、「英語を使ってとにかくコミュニケーションをとる」というのが本校ならではの学びのスタイルです。英語で会話している時間がとても長く、生徒たちは本当にずっと喋っています。教員も英語で会話することに抵抗がないので、「対話してみよう」とか「このことについて発表してみよう」といった機会が多いです。
コミュニケーション力を磨く「哲学対話」
その他に特徴的な取組はありますか?
中学1年生を対象に、年に2回長野県立大学の教授を講師にお迎えし、「哲学対話」と「哲学ウォーク」を実施しています。1回目の哲学対話では、自分の考えを伝えて相手の意見を肯定的に受け止める「対話」について学びます。ただ話を聞くだけではなく、小グループになって対話を実践できるのが特徴です。
例えば「なぜ、学校では制服を着なくてはならないのか」のように、生徒たちが意見を出しやすいテーマを設定します。あらかじめ生徒たちに「相手の意見を否定しない」「共感的に聞く」というルールを示すことで、話す力・聞く力を養います。
小グループで話すスタイルだと、大勢の前での発表が苦手でも参加しやすそうですね。2回目の哲学ウォークでは、どのような活動をするのでしょうか?
2回目は校外に出て、自然の景色の中で対話をします。過去には、学校のまわりを歩きながら草花や風景などについて話す、偉人の名言に対しそれに見合った景色を見つける、美術館に足を運んで好きな絵を選び選んだ理由について説明する、などのテーマがありました。
英語学習のところでも伝えましたが、本校の学習スタイルに「生徒同士が対話しながら学習していくこと」があり、これを学びの柱の1つとしています。「哲学対話」は、そのための学習の1つとなっています。
グループでの話し合いが多い分、相手の考えを尊重する「協調性」も身につきそうですね。
学習の基盤となる資質・能力を養う「探究基礎」
▲1人1台のパソコン、電子黒板など、ICT活用も充実
今までご紹介いただいた「翼プロジェクト」も、英語学習におけるさまざまな体験学習も、そして「哲学対話」もすべて探究学習の一環でもありますよね。これらに通じる「探究基礎」という授業では、生徒のどのような力を伸ばすことが狙いなのでしょうか。
本校では、国語、数学、理科、社会の教科を土台にした「探究基礎」という教科を設定しています。この教科の学習を通して、問題発見・解決能力、言語能力、情報活用能力を伸ばすことを目指しています。
探究学習では、課題またはテーマを自らで設定したら、解決までの筋道を立てて進めていきます。アンケートやインターネットで情報を集めたり、実験したりしながら、問いに対する自分なりの答えをまとめる流れです。
「探究基礎」では、教師主導ではなく生徒主体で学びが進むよう、教師はサポートの立場を取っていくよう心掛けています。
▲グループの考えを整理する際には、貼ってはがせる「ふせん」を活用
▲相手に伝わるように、パソコンを見せながらプレゼン。話すスピード・資料を切り替えるタイミングなどを体験で学ぶ
長野市立長野中学校・長野高等学校での学校生活
長野市立長野中学校・長野高等学校の学校の雰囲気はどのような感じでしょうか?
本校は1学年が約70人、3学年を合計しても約210人と少人数なため、生徒たち同士の距離が近い学校です。先輩・後輩の上下関係もほとんどなく、男女仲も良いほうだと思います。友達の考えや努力といった多様性を認め合う文化があるので、年齢・性別にとらわれずに意見を出し合える雰囲気です。
自分のやりたいことや頑張りたいことを目一杯やりたいという生徒が多く集まっていますので、全体的に穏やかな印象を持たれるのではないでしょうか。
先生たちは、どのような方が多いでしょうか?
生徒たちの思いにしっかりと耳を傾ける先生が多いです。近年、時代に合わない「ブラック校則」が話題になっていますが、本校では校則に限らずさまざまなルールを、生徒たちの意見を受け止めながら一緒に作っていこうとする気風があります。
押し付けるような指導をする先生がいないため、生徒たちも抑圧されることもなく、のびのびと素直に育ってくれていると感じます。
中高一貫校ということで、中学生と高校生の関わりはどの程度あるのでしょうか?
文化祭・璃翔祭(りしょうさい)を中学校・高等学校合同で行っています。璃翔祭では、生徒たちの中から実行委員会のメンバーを募ります。また、璃翔祭のスローガンや当日の内容などは、実行委員会を中心に話し合って決定します。
▲新役員に立候補した生徒たちが来年度の文化祭について意見を交換
▲璃翔祭
中学生と高校生で一緒に学校行事を行えるのは、まさに中高一貫校の魅力ですね。学びも多くありそうです。
部活動を廃止し、生徒が有志でやりたいことに取り組む「市立タイム」へ移行予定
長野県の部活動の地域移行施策により、長野中学校でも2024年度で部活動が廃止されるそうですね。生徒さんたちの反応はいかがですか?
中学校に関しては部活の数が少ないことから、生徒たちの抵抗感は少ないようです。ただ、部活動がなくなると、生徒たちが放課後の時間をもてあます可能性も否定できません。そこで本校では、今年度(※)から生徒たちが有志で集まり、やりたいことに打ち込める「市立タイム」という活動を本格的に実施する予定です。※取材時:2024年4月
枠にとらわれず、小説を書いたり、音楽をしたりと生徒の興味を追究できる時間にしようと考えています。大学のサークルと同じように、文化祭で発表する機会も設けていきたいです。部活動よりも活動の幅が広い分、生徒の個性を発揮しやすいと思いますよ。
中学受検を検討しているお子さま・ご家族へのメッセージ
最後に、御校に興味を持っているお子さま・親御さまへのメッセージをお願いいたします。
探究学習が充実している本校は、好奇心旺盛なお子さまに向いている学校です。枠にとらわれず、お子さまの興味・関心のある学びを追究できます。お子さまの個性に寄り添いながら、可能性を引き出していきますよ。
本校の入学試験は、適性検査と作文がメインです。適性検査に国語・算数・理科・社会の問題が入っていますが、知識レベルを問う学力調査ではありません。例えば「答えの導き方を説明する」というような、思考力・表現力を重視します。教職員一同、お子さまのご入学を心よりお待ちしています。
生徒の自主性を尊重している御校では、思う存分に個性を発揮できそうですね。自分で考え、行動する経験は社会人になってからも役立つと思います。
本日は、貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました!
長野市立長野中学校・長野高等学校の進学実績
長野市立高等学校の卒業後は、四年制大学・短期大学・専門学校などに進学する生徒がほとんどです。2023年度の実績では、25人以上が一橋大学・東北大学・金沢大学・信州大学などの国公立大学への合格を果たしました。
私立大学は自治医科大学をはじめ慶応、上智、明治、青山学院といった難関大学への合格者も出ており、毎年100人以上が合格しています。また、探究学習の成果を生かして進学する生徒が多いのも、長野市立長野中学校・長野高等学校の特徴といえるでしょう。
長野市立長野中学校・長野高等学校に寄せられた感想・口コミ
最後に、長野市立長野中学校・長野高等学校の生徒たちの保護者から寄せられた感想・口コミをまとめて紹介します。
他にも「翼プロジェクト」を中心とする探究学習を評価する声がたくさん見られました。高校入試がない分、自分のやりたいことに時間をさける点に満足している保護者が多いようです。
長野市立長野中学校・長野高等学校の基本情報
住所 | 長野県長野市大字徳間1133番地 |
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電話番号 | 026-296-1241(代表) |
公式サイト | 中学校:https://www.nagano-ngn.ed.jp/ichinagajh/index.html 高等学校:https://www.nagano-ngn.ed.jp/ichinagahs/ |