特色ある教育プログラムを実践する学校を紹介するこの企画。今回は神奈川県横浜市にある私立中高一貫校(共学校)「森村学園中等部高等部」を紹介します。
創立100年超の伝統を誇る学校法人森村学園は、8万平方メートルを超える広大な敷地の中で、幼稚園から高等部までの15年一貫教育を実践しています。特に中等部・高等部では「イノベーションマインド」をキーワードに、グローバル社会で活躍できる人材を育むための生徒の主体的・体験的な学びを促進しているのが特徴です。
今回は入試広報部長の浅沼先生に、同校の志す「イノベーションマインド」の意義や、特徴的な教育プログラムについて詳しくお話を伺いました。
この記事の目次
「独立自営」の精神が根付く森村学園中等部高等部
まずは御校の建学の精神、及び教育理念について教えてください。
森村学園では創立者である森村市左衛門の説いた「独立自営」を、幼稚園から高等部まで学園全体に共通する建学の精神として掲げています。一方で、建学の精神の実現に向けて何をすべきかは成長段階に応じて異なるため、それぞれの教育課程で学びの方針を打ち出しています。
中等部高等部におけるキーワードが“イノベーションマインド”です。日米貿易の先駆者として活躍した森村翁のように、これから社会に巣立つ生徒たちにも自分の人生を自分で切り開いていけるような人に育ってほしいという思いがこの“イノベーションマインド”の言葉に込められています。
独自の教育プログラム「イノベーションマインドプロジェクト」で表現力を養う
イノベーションマインドの理念に基づき、実際にどのような教育活動を進められているのでしょうか。
イノベーションマインドの考えは、本校独自の教育プログラム「イノベーションマインドプロジェクト」に落とし込まれています。もともとは「未来志向型教育」の名称で進められてきたのですが、2022年のマックスウェル校長の就任を機に、これまでの教育内容を踏まえた上で「イノベーションマインドプロジェクト」の形に再編しました。現在も試行錯誤しながら内容のブラッシュアップを進めています。
イノベーションマインドプロジェクトは「アカデミックマインド」「テクノロジーマインド」「グローバルマインド」の大きく3つに分かれます。ICTや科学分野に関する「テクノロジーマインド」、外国語や多文化理解に関する「グローバルマインド」は後の特集テーマのところで詳しく説明させていただきますが、もう1つの「アカデミックマインド」で特徴的なのが「ランゲージ・アーツ(言語技術)」の取り組みです。
ランゲージ・アーツは森村学園全体で昔から力を入れて推し進めてきた言語教育です。ランゲージ・アーツ自体は欧米の母語教育ですが、この学びを日本語によって実践することで、「読む・書く・聞く・話す」の言葉の4技能を鍛えながら、グローバル社会で通用する言語力と思考力を育成することを目標としています。現在はこの学びに「他者への思いやり」を基調とする日本人ならではのメンタリティも加味した「日本版ランゲージ・アーツ」の確立を目指しています。
ランゲージ・アーツに力を入れている理由はどういった点にあるのでしょうか。
まず、日本的な表現文化と、ランゲージ・アーツを学ぶ欧米を始めとした国々の表現文化には大きな違いがある、ということがポイントです。その違いを自覚し、時と場合に応じて両者を使い分けていく力が、これからの生徒たちには必要だと考えています。
学びを切り拓く“イノベーション”を発揮!生徒発案の取り組みが多数生まれる
森村学園中等部高等部の学校生活において、生徒の皆さんに「イノベーションマインド」を感じる瞬間はありますか?
この後ご紹介するように本校ではさまざまなユニークな取り組みを行っているのですが、学校側が用意したプログラムだけでなく、生徒発案で始まる取り組みもあります。
例えばコロナ禍で多くのイベントが縮小していた時期に、少しでも学校生活に活気を取り戻したいという理由で「学校でイルミネーションがやりたい」と生徒から提案があり実現したことがありました。その年は校内にある竹を使ってイルミネーションを実施したのですが、それが今ではタケノコを掘ってタケノコご飯をつくるという、また新しい形に発展しています。
また私が顧問を務める美術部でも、学校の吹き抜け空間を使った「公開デッサン」を生徒発案で実施したことがあります。これは突然生徒が企画書をつくって持ってきたところからスタートした取り組みなんですよ。取り組み自体の面白さもそうですが、日程の調整や使用場所への配慮など実現性のある企画書となっており、すごいなと感心しました。
他にも、有志の生徒が集まる社会科ゼミで、生徒が「模擬国連に参加したい」といって実現した例もあります。生徒側が主体的にやりたいことを発信して新しい経験がどんどん生まれているところに、まさに「イノベーションマインド」を実感しています。
日常の中で多様性を学ぶ森村学園中等部高等部のグローバル教育
▲JICA海外協力隊(キルギス共和国)とオンライン交流会を行った際の様子
続いて特集テーマである「グローバル教育」について伺います。イノベーションマインドプロジェクトの柱の1つとしてさまざまな取り組みが行われていると思いますが、その中でも特徴的なものをご紹介いただけますか?
本校において特徴的なのが、「国際交流・多言語教育センター」という、本校の国際関連プログラムを一括して企画・運営する組織が学内にあることです。センターでは特に、生徒が日常的に多文化に触れられる機会の創出に力を入れています。
例えば今年度には、中等部と高等部が一緒に学べる週1回のスペイン語講座を実施しています。言語講座以外にも、韓国やドーハなど海外の学生とのオンラインでの交流機会や、外務省の職員のオンラインのトークイベントなどを随時企画し、生徒の参加を呼び掛けています。オンラインの交流だけでなく海外からの留学生も積極的に受け入れており、日常の学校生活の中で多様性・多文化を感じられる環境をさまざまな形で実現しています。
国際交流・多言語教育センターの実施する講座やイベントは、基本的に自由参加になるのでしょうか。
はい。参加理由も生徒によって多様で、サッカー好きの生徒が現地の実況を聞くためにスペイン語講座を受講している例もあります。さまざまな生徒の興味やモチベーションを探りながら、より多くの生徒の参加が得られるよう趣向を凝らしてプログラムを充実させています。
海外大学への進学も!DDPをはじめ日頃の英語教育を通じ、実践的な英語力を育む
御校の英語教育の取り組みについても教えていただけますか?
本校が導入しているDDP(US Dual Diploma Program)は、希望制の英語プログラムとしては英語の学び深め、生徒の可能性を大きく広げる取り組みとなっています。英検2級以上の取得を条件に、希望者は中等部2年の1月からDDPに参加することができ、本校の学びに加えてオンラインでアメリカの高校の授業を2年間受講することで本校卒業時にアメリカの高校の卒業資格を得ることができます。
修了生は全米トップの18大学に加えてカナダやイギリスなど30大学への推薦入学が可能で、2020年からスタートしたDDPの修了生は海外大学や国内ハイレベル大学などさまざまな進路を叶えています。
▲DDP修了式の様子
DDP以外に、普段の英語の授業で工夫していることはありますか?
英語学習のスタートを丁寧に指導していくために、中等部1年・2年次には1クラスを2つに分けた少人数制授業でしっかりと基礎知識の定着を図っています。また講義式の授業だけでなくグループワークやペアワークを多く取り入れ、学んだことをどんどんアウトプットすることで実践的な英語力を育んでいます。
アウトプットは日々の授業だけでなく、海外で試せる機会もあるのでしょうか。
中等部3年次には全員参加のオーストラリアへの5泊7日の修学旅行を行っています。その他にも希望制の台湾研修、シンガポール・マレーシア研修、選抜制のオーストラリア留学など、年度に応じて多様な海外経験の機会を提供しています。
3年生のオーストラリア修学旅行の前段階として中等部2年生では「イングリッシュキャンプ」という2泊3日の英語キャンプを実施しているのも特徴です。そこではネイティブ教員と一緒に、可能な限り英語のみで過ごす体験を通じて英語で話す実践練習をします。
▲英語を使ったグループワーク、作劇にも挑戦するイングリッシュキャンプ
イングリッシュキャンプでも積極的に英語を話しますが、実際に3年生の修学旅行でオーストラリアに行くと、否が応でも英語を話さざるを得ない状況に直面します。そこで刺激を受けて英語学習へのモチベーションが高まる生徒も多くみられます。
▲オーストラリアへの修学旅行を経て、英語の学習意欲が高まる生徒も多数!
実体験を重視する森村学園中等部高等部の理科教育
イノベーションマインドプロジェクトの柱「テクノロジーマインド」に通じる理数教育のテーマについて伺います。特に理科の授業が特徴的であるとのことですが、具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか。
理科の授業では、「もっと知りたい」という生徒の知的好奇心を喚起できるよう、実体験を通した学びを重視しています。特に中等部で授業の3回に1回は何かしらの実験や実習を行い、実践を通して科学的好奇心や科学的思考力の芽を育んでいます。
敷地内の自然環境を活かし、教科書に載っている実験に限らず幅広い実験を行っています。中でも毎年中等部1年生が行っているのが、校内での植物観察で、観察後には種子散布の学習をします。
生徒たちはさまざまな形の種子の模型を作ってそれを校舎内の吹き抜けから落とし、飛び方の違いを観察します。もちろん知識としては教科書にも書いてあることなのですが、実際に自分たちで試すことで、より実のある知識を得られる体験となっています。
▲中等部の1年生が校内を歩いて植物観察を行う様子
▲中等部の理科では「化石の発掘」などユニークな体験も!
授業以外の課外活動などに実施している特徴的な理科のプログラムはありますか?
今年度の夏休みには、東京理科大学の学生を講師に招いてモデルロケットを制作する「宇宙工学プロジェクト」を実施しました。2日にわたるこのプロジェクトのテーマは「“キミ”を無事に帰還させよ!」でした。うずらの卵を宇宙飛行士に見立て、ロケットに搭載した卵をパラシュートを使って安全に帰還させるというユニークなプロジェクトに取り組みました。
この宇宙工学プロジェクトには高校1・2年生の希望者が参加し、グループで話し合ったり学校の吹き抜けを使ってパラシュートの降下実験をしたりしながらロケットをつくり上げていきました。最終的に校庭でロケットの打ち上げを行ったのですが、それで終わりではなく、その後に達成状況や改善点の話し合いまでしたんですよ。
▲2日間にわたる「宇宙工学プロジェクト」では、無事にすべての“キミ”が帰還に成功!
とても面白い体験ですね!生徒の皆さんからはどのような感想が聞かれましたか?
ロケットの制作・打ち上げという普段なかなかできない体験で、かつグループで協力して取り組むことで、楽しく参加できたとの感想が多くあがっていました。中でも、「もともとロケットに興味を持っていた理系の生徒だけでなく、文系寄りの自分でも、”何かを創り出す力”の大切さを味わうことができた」という感想が印象に残っています。
本校では文系志望の生徒の方がやや多い傾向があったのですが、近年では理系を希望する生徒が増え始めています。普段の授業に加えてさまざまな体験機会が科学的興味につながり、生徒の進路選択の一助にもなっているのではないでしょうか。
森村学園中等部高等部からのメッセージ
最後に、森村学園中等部高等部での学校生活に興味を持った読者の皆さまにメッセージをお願いします。
森村学園中等部高等部は素直で明るい生徒が多く、大らかな雰囲気のある学校です。初等部から進学した生徒、一般入学と帰国生入学で中等部から入学した生徒と、1つの学校の中に多様な生徒が在籍しているのも特徴です。いろいろな生徒がいる中でも自分の居場所を見つけ、前向きに挑戦できる学校だと思います。ぜひ森村学園中等部高等部に入学いただけると嬉しいです。
浅沼先生、本日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました!
森村学園高等部の進学実績
森村学園高等部の2023年度の進学実績をみると、現役進学者のうち半数以上の52.9%が一橋大学や東京外国語大学をはじめとする国公立大学、早慶上理(※1)GMARCH(※2)、医学部への進学を果たしています。また過去5年でアメリカやカナダ、オーストラリア、マレーシア、ロシアなどさまざまな海外大学への合格実績が生まれているのも特徴です。
※1:早慶上理…関東圏の最難関私立大学「早稲田大学」「慶應義塾大学」「上智大学」「東京理科大学」の略称
※2:GMARCH…関東圏の難関私立大学「学習院大学」「明治大学」「青山学院大学」「立教大学」「中央大学」「法政大学」の略称
■森村学園中等部高等部の合格実績(公式サイト)
https://www.morimura.ac.jp/jsh/future/result/
森村学園中等部高等部の卒業生・保護者・在校生の口コミ
▲特に多かったのは校舎に対する高評価の口コミ。きれいで快適に勉強できる環境が整っていることが伺える
ここでは、森村学園中等部高等部に寄せられた生徒や保護者からの口コミを一部抜粋して紹介します。
生徒や保護者の声から、森村学園中等部高等部の穏やかな校風が伝わってきました。特徴的な教育プログラムや、先生からの学習サポートに対する評価の声が在校生からあがっているのも印象的です。
森村学園中等部高等部へのお問い合わせ
運営 | 学校法人森村学園 |
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住所 | 神奈川県横浜市緑区長津田町2695 |
電話番号 | 045-984-2505 |
問い合わせ先 | https://www.morimura.ac.jp/jsh/contact/ |
公式ページ | https://www.morimura.ac.jp/jsh/ |
※詳しくは公式ページでご確認ください