ぽてん読者の皆さまに、今注目の学校を紹介するこの企画。今回は京都府京都市の国立中学校「京都教育大学附属桃山中学校」を紹介します。
京都教育大学附属桃山中学校は1947年に「京都師範学校女子部附属中学校」として開校された、80年近い歴史を持つ学校です。2024年から京都教育大学附属高等学校との併設型中高一貫校となり、今後は6年間を見据えた一貫教育が実践されていくことになります。
京都教育大学附属桃山中学校では「課題探究」「生き方探究」という2つのプログラムを中心に、独自の探究プログラムを実践しています。探究の時間だけでなく学校生活のあらゆる場面で「探究」の考えを取り入れているのが特徴です。
今回は京都教育大学附属桃山中学校の教育方針や、特色ある探究プログラム、またクラブ活動の魅力について副校長の秋山先生、事務長の岡田先生にお話を伺いました。
この記事の目次
“生徒の個性の発揮”を大切にする京都教育大学附属桃山中学校の教育方針
まずは京都教育大学附属桃山中学校とはどのような学校なのか、御校の概要を教えてください。
京都教育大学附属桃山中学校は1947年に、京都教育大学の附属校として開校しました。附属校として「公教育の推進」「教育実習」「教育研究」の3つの使命を負っています。中でも教育研究校として、京都教育大学と連携しながら先進的な教育研究を行い、地域の教育に貢献していく役割を担っているのが特徴です。
御校の教育方針についてもお聞かせいただけますか?
本校では「豊かな感性、輝く個性、拡がる共生」の校訓のもと、「豊かな感性を持ち周りと関わりながら自己を伸ばす生徒の育成」を教育目標に掲げています。子どもたちの持つさまざまな個性を見出し、仲間と支え合いながら発揮できるような環境をつくっていくことを目指しています。
良好な人間関係の中で、安心して個性を発揮できるのが京都教育大学附属桃山中学校の魅力
御校の教育方針が、実際の学校生活で活きていると感じる瞬間はありますか?
本校では、学校行事などにおいて生徒が主体性を発揮する場面が多くなっています。生徒が中心になって行事をつくり上げていく姿に、生徒の感性や個性を伸ばす本校の教育方針が活きていることを実感しますね。
その一例がオープンスクールです。本校ではオープンスクールのポスターを生徒がデザインしたり、運営を生徒が行ったりしています。オープンスクールで見学者に向けて教職員が言葉を尽くして説明をするより、主体的に運営する生徒の姿こそが、この学校で得られる成長を何よりも物語ってくれているのではないでしょうか。
他にも、つい先日リニューアルした学校の公式サイトを生徒たちが自主的にチェックし、修正点や改善案を書類にして持ってきてくれました。今はその意見をもとにサイトをさらに改良しているところです。
いくら感性や個性を磨いても、周囲と認め合えない環境ではそれを発揮するのは難しいですよね。その点、本校では先輩後輩も含めた生徒同士の仲が非常に良く、教員も生徒のことを非常に真摯にサポートしています。周りと尊重し合うこの穏やかな校風が、安心していろいろなことに挑戦できる土台になっていると考えています。
京都教育大学附属桃山中学校の独自の探究プログラム「課題探究」と「生き方探究」
▲探究学習では、起業家やNHKのアナウンサーなど多くの専門家・プロフェッショナルから講演を受ける機会も
続いて、御校でどのような探究学習を進められているのかを教えてください。
本校は令和6年度から京都教育大学附属高等学校との併設型中高一貫校として新たなスタートを切りました。今後は6年間一貫教育の中で探究を軸にした教育活動を進めていくことになりますが、ここではこれまで実践してきた中学校3年間の探究の取り組みについてご説明します。
中学校の探究プログラムは大きく「課題探究」と「生き方探究」の2つに分けられます。まず「課題探究」の方ですが、こちらは3学年縦割りの小グループで行う探究活動です。「日本文化」「スポーツ科学」などさまざまな分野の全20コースの中から希望するコースを生徒自身が選び、コースに応じた体験活動を行います。その上で生徒が個別に探究課題を設定し、似た探究課題の者同士で小グループを形成して探究活動を行う、という内容です。
課題探究を3学年縦割りの小グループで行う意図はどういった点にあるのでしょうか。
本校はそこまで大規模な学校ではありませんが、それでも学年ごとに異なるカラー、特色を持っています。また、当然年齢が異なることで考え方や視点も大きく違ってきます。自分とは違う考えやカルチャーを持った者同士でグループ活動を行うからこそ、相互に刺激を与えられるのがポイントです。
なるほど。「課題探究」での探究活動は、具体的にどのように進んでいくのですか?
本校の探究活動は「リアルな社会から感じた疑問に対して問いを立て、解決策を考える」という探究の過程を大切にしているため、基本的に学校の外に出てさまざまな人と関わり合いながら、「実体験」をもとに探究活動を進めていきます。理科に関連したコースなら科学館、日本文化のコースなら座禅の体験などコースに応じてさまざまな場所に出向いており、時には生徒だけで施設を訪問することもあります。
そしてその結果をレポートにまとめ、最終的にプレゼンテーションを行います。コースごとにプレゼンテーションを行った上で各コースから代表グループを選出し、全校でのプレゼンテーションを実施します。約20コースからそれぞれのグループが出てくるということで、1グループあたりの発表時間は限られているのですが、伝え方なども工夫しながら発表していますよ。
「課題探究」は探究のやり方を学ぶことが第一の目的であるため、明確な解決策を見出すなど“ゴール”に重点を置いているわけではありません。それでもかなり深くまで探究するグループも多く、発表を聞いていて感心してしまうこともよくあります。中高一貫の体制となったことで、今後は6年間を見越したプログラムでさらに探究を深めていくことができると考えています。
もう1つの「生き方探究」についても、詳しくご説明いただけますか?
「生き方探究」は、「課題探究」で学んだ探究スキルをベースにしながら、将来の自分のなりたい姿やそこに至る道のりを摸索していくというものです。
一般的に、小学校の頃には自分の将来の夢を口にする子どもが多いにもかかわらず、中学校になると途端に表に出さなくなる傾向がありますよね。しかし将来的に夢を実現できる人というのは、自分の夢を口に出して行動に移すことができる人だと思います。自分の夢を見つけてそこに向かって歩んでいくきっかけにしてほしい、という思いから2023年度に「生き方探究」を立ち上げました。
「生き方探究」では、まず自分を知るために自己分析から始め、その後で大きな夢を掴んだ方や、夢の途上で頑張っている方との交流を行います。夢を叶えた方のこれまでの歩みを聞くと、自分たちと同じように中学校時代を過ごしてきたことが改めて認識できるんですね。「自分たちも頑張れば夢を実現できるんだ」という自信を持って自身の将来の夢や生き方を具体的に描いってほしい、というのが「生き方探究」の狙いです。
探究活動での学校外の人との交流を通じて、広い視野を身につける
▲国会議員の泉健太氏と「論戦」を行う生徒の様子
「課題探究」や「生き方探究」の学びを通じて、生徒の皆さんにはどのような変化が感じられますか?
課題探究や生き方探究で身につけた「答えのないものを追求する」「何もないところに新しいものを作り出す」という探究のスキルが、行事や部活動など普段の学校生活のあらゆる場面で発揮されていると感じます。先ほど岡田先生から「主体性を持って学校行事をつくり上げていく生徒が多い」というお話がありましたが、まさに探究学習がその土台を培っているといえるでしょう。
また、学校外の方との交流を通じて生徒の視野が広がっていくのもポイントです。特に「生き方探究」の方ではテレビ出演をしている方など、著名な方と直接お話することができるため、生徒にとって大いに刺激になっているようです。
生き方探究で国会議員の泉健太さんにお越しいただいた際には、ある政治課題について代表生徒2人とディベートを行うという「論戦体験」を実施しました。そこでは見事にやっつけられてしまったのですが、のちにその生徒は全国のディベート大会で優勝を果たしました。夢を叶えて活躍していらっしゃる方との交流が、さらに成長していこうというモチベーションにつながっているのではないかと思います。
普段の授業でも“探究”を取り入れる、特色ある授業スタイル
▲4人班の「学びの共同体」で授業を進める
京都教育大学附属桃山中学校では今お話しいただいた探究学習以外にも、日々の生活の中に探究活動を取り入れていらっしゃると伺ったのですが、具体的にはどのようなことをされているのでしょうか。
本校では探究の時間だけでなく、普段の授業の中にも探究の要素を取り入れて展開しているのが特徴です。英語や数学、理科、社会といった教科の授業でも、教員から一方的に指導をするのではなく、課題を設定して生徒が主体的に学び取れるよう工夫しています。
授業内容もさることながら、さらに特徴的なのが授業スタイルです。普通は教員が前に立って生徒は全員前を向いているというスタイルですが、本校の場合は生徒同士が向かい合って座っている、というのが基本の授業スタイルなんです。私自身、この学校に来てすぐのときは驚きました。
確かに初めて来た先生は、生徒の視線が集まっていないことに驚かれることが多いですね(笑)。これは教育学者の佐藤学先生が提唱した「学びの共同体」の考えを取り入れた授業スタイルと同じです。
「学びの共同体」の考えを取り入れ、本校では4人班を形成し、基本的にはすべての教育プログラムを4人班での協働学習で行っています。つまり探究活動で行うグループワークを、普段の授業から実践していることになります。生徒同士の仲が良いのも本校の魅力の1つですが、その背景には「学びの共同体」型の4人班の授業スタイルが生徒同士のコミュニケーションを促進していることもあるでしょう。
府大会3位!サッカー部をはじめとするクラブ活動の魅力
▲数々の大会で好成績を残す京都教育大学附属桃山中学校のサッカー部
続いて自慢のクラブ活動のテーマについて伺います。御校で特に活発に活動しているクラブはありますか?
本校のクラブ活動は公立中学校よりも練習時間が短いこともあり、部活動を目的に入学してくる生徒は正直あまり多くはありません。実際に、どのクラブも半分程度は初心者が占めています。しかしその中でもサッカー部は、ここ3年京都市の大会でずっと3位以上、京都府大会でもベスト8と好成績を残しています。令和6年度中体連夏季大会では、京都市大会準優勝、京都府大会3位入賞を果たしました。
素晴らしい結果ですね!サッカー部の強さの秘訣はどのようなところにあると思われますか?
サッカー部も決して経験者が多いわけではないのですが、「京都で他のチームがやっていないことをやろう」を合言葉に、ボールコントロールとヘディングを徹底して行ったり、夏の大会前には暑さに勝つためにジャージを着て練習をしたり、少人数でのミニゲームを2時間行ったりと、独自の練習を行っています。
決して派手ではない練習に黙々と取り組むというのは、中学校の生徒にとって簡単なことではありません。それこそが、本校のサッカー部の他にない強みになっています。それが結果としてテクニックや体力の底上げ、試合での勝利につながっていることから、さらに練習にも身が入るという好循環が生まれているのではないでしょうか。
▲暑さに打ち勝つため、健康に配慮しながらも試合のとき以外はジャージを着て練習を行う
もう1つ、サッカー部の勝負強さにつながっているのが、先ほどの話にもつながる“探究”です。探究的な考え方が本校の生徒の中に浸透していることで、試合の中でも相手を分析しながら、課題や克服方策を生徒が主体的に考える、ということが自然に行われています。
地力では勝てないような相手にも勝利を重ねているのは、地道な練習で培ったテクニックや体力を土台に、探究学習で育んだ“考える”力が加わっているのではないかと考えています。
そういったサッカー部の皆さんの頑張りは、他のクラブにも影響を与えているのでしょうか。
そうですね。経験者が多くないにもかかわらず、頑張って練習して結果を出しているサッカー部を見て、周りのクラブの士気も上がってきているように感じます。中体連の秋季新人大会で女子バスケットボール部がシード権を獲得したり、男子バレー部が3位に入ったりと好成績を残していますよ。
京都教育大学附属桃山中学校からのメッセージ
▲昼食は校庭など好きな場所でとることができる
最後に、記事を読んで京都教育大学附属桃山中学校での学校生活に興味を持った読者の方に向けてメッセージをお願いします。
今までの試験の学力で判断されていた時代から、今後は一人ひとりの個性を活かしていく時代に変わっていくと考えています。本校の探究学習を通じて、自身が持つ個性を認識し、それを伸ばしていけたらと思います。
最初に言った通り、個性を発揮してさまざまなことに挑戦していく上で、良好な人間関係に基づく安心感というのは不可欠です。本校の穏やかな雰囲気の中で個性を発揮し活躍していきたいという方は、ぜひ本校に集まっていただけると嬉しいです。
秋山先生、岡田先生、本日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました!
京都教育大学附属桃山中学校の生徒・保護者の口コミ
ここでは、京都教育大学附属桃山中学校に寄せられた生徒、保護者からの口コミを一部抜粋して紹介します。
探究学習が非常に楽しいという声が在校生から多くあがっていました。また生徒同士や教員との関係の良さ、自由な校風に魅力を感じる声も多くなっています。
京都教育大学附属桃山中学校へのお問い合わせ
運営 | 国立大学法人 京都教育大学 |
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住所 | 京都府京都市伏見区桃山井伊掃部東町16 |
電話番号 | 075-611-0264 |
公式ページ | https://momochu.kyokyo-u.ac.jp/ |
※詳しくは公式ページでご確認ください