読者のみなさんに、画期的な取り組みを実施する学校を紹介する本企画。この記事では、神奈川県藤沢市にある私立の「聖園(みその)女学院中学校・高等学校」について紹介します。
同校は、学校法人「南山学園」の単位校です。中高一貫校(女子校)で、校内留学や海外研修、オンライン英会話や礼法講座など、充実したプログラムで生徒の国際性を育んでいます。また、南山大学の留学生との交流や、東京都教育委員会などが運営する英語体験施設「Tokyo Global Gateway」での研修など、時代の変化を見据えたプログラムも豊富です。
今回は、教頭の鹿野先生と国際交流室長の江藤先生にインタビュー取材し、聖園女学院中学校・高等学校の国際教育や教育理念、生徒たちの雰囲気などを詳しく伺いました。
この記事の目次
聖園女学院中学校・高等学校の教育目標は「Find Your Mission」
▲インタビューに対応してくださった教頭の鹿野直美先生(右)と、江藤幸代先生(左)
まずは、御校の教育理念をお聞かせいただけますか?
南山学園の教育モットーである「人間の尊厳のために」をすべての教育の基盤として、校訓の信念・精励(せいれい※1)・温順(おんじゅん※2)の実践・体現を目指して教育活動プログラムを展開しています。
(※1)何事にも労を惜しまず一生懸命に励むこと (※2)優しく、謙虚であること
そして、「Find Your Mission(見つけなさい、あなたの使命を)」を教育目標に、それぞれの生徒が自分なりのミッション(使命)を見つけることを応援するのが私たち教員の役割です。「気づき」は、特別な出来事だけでなく日常の取り組みのなかからも得ることができます。毎日さまざまな出会いがあり、その出会いひとつひとつが、生徒たちにとって学びのきっかけとなるのです。それをどのように受け止め関わっていくかは人によってさまざまですが、私たちはカトリック学校として『ひとりの人間としてどうあるべきか』ということを大切にしながら、生徒を育て導いていきたいと考えています。
御校は国際教育に力を入れられているそうですが、これは「Find Your Mission」という教育目標を反映されてのことなのでしょうか。
そのとおりです。本校の国際教育は、語学力の向上や志望大学への合格だけを目指しているわけではありません。国内外の仲間とのコミュニケーションを通し、さまざまな価値観に触れながら自分を磨いていく。そんな6年間のなかで、自分のミッションを見つけてほしいのです。
自分とは異なる価値観や考えに触れる経験は、向上心にもつながります。自分を磨き続けながら、人の役に立てるような国際人の育成を目指してカリキュラムを組んでいます。
聖園女学院中学校・高等学校の国際教育(日常的な英語学習)
聖園女学院中学校・高等学校は、さまざまな独自の取り組みで生徒たちの国際性を育んでいます。最初に紹介するのは、日常的な英語授業についてです。ICTもフルに活用した、同校の英語力育成カリキュラムについて見ていきましょう。
英会話の授業は少人数で実施!ネイティブに近い英語力の育成に注力
▲ネイティブ教諭との学習風景
まずは国際教育の柱となる聖園女学院中学校・高等学校の英語学習について教えてください。
英語の授業は大きく、リーディング(読解)・グラマー(文法)・英会話の3つに分かれます。例えば中学校だと週に6時間のうち、リーディング(読解)を3時間、グラマー(文法)を2時間、英会話を1時間学びます。リーディングとグラマーは日本人の教員、英会話はネイティブの教員が指導します。英会話では、出席番号を元にクラスを半分の人数に分けて少人数で授業を展開するのが特徴です。
ネイティブの教員は、カナダとアメリカにルーツを持つ3名が在籍しています。3名とも語学だけでなく生徒指導にも長けており、グループワークの輪に入れていない生徒がいれば「あのグループに入ろう」と声をかけるなど細やかにサポートを行っています。みんな気さくな性格なので、生徒たちも安心して英会話にチャレンジしているようです。
英会話の授業で特徴的な内容を、いくつか紹介していただけますか?
リーディング授業での教科書の対話文を使った会話の練習や、詩の暗唱、プレゼンテーションなども行っています。特に特徴的なのはプレゼンテーションで、本校では「ペチャクチャ」と呼ばれる発表形式を取り入れています。
ペチャクチャは、20秒ほどで切り替わるスライドに対して、英語で説明する形式のプレゼンテーションです。例えば「好きな和食」をテーマにした場合、1枚目に表示された「天ぷら」について説明し、20秒ほど経つと切り替わった2枚目の「マグロ丼」について説明します。どんどんスライドが変わっていくので、頭の中で文法を組み立てる余裕はありません。
日本語を話すときに、文法を意識している人は少ないでしょう。文法を意識せずに話すトレーニングを通して、ネイティブに近い英語力を育成することを目指しています。
ペチャクチャは、イギリス人の建築家とビジネスパーソンが「おしゃべりを楽しんでほしい」という思いで考えた方法だと聞きました。140か国以上に広がっている事実からも、国際的に評価されている方法であることが分かりますね。
自宅でもたっぷり英会話学習ができる「オンライン英会話」
御校は、オンライン英会話も実施されているそうですね。
中1から高3まで、生徒ひとりひとりに貸与されているタブレットでオンライン英会話を行っています。1回あたり約25分間、英語ネイティブの外国人とマンツーマンで話します。
オンライン英会話は校内の英会話とは違い、ある程度の英語力が求められます。自分から英語を話さないと会話が成立しないため、始めたばかりの頃はなかなかスタートボタンを押せない生徒もいます。そんな生徒も、秋になる頃には楽しそうに取り組んでいます。半年ほど経つと、だんだんと話す力が身についてくることが実感できます。
オンライン英会話は、自宅学習としても利用できるのでしょうか?
生徒1人あたり年間で最大100回の利用ができるのですが、授業で取り入れるのは年間約10回のため、残りの約90回は自宅で利用できます。そのため、生徒のペースに合わせて英会話学習を進められます。
もちろん年間90回となると自主的に取り組むのは難しいので、「夏休みには15回挑戦しよう」と宿題にすることもあります。また、本校は年に1回のペースで全生徒が英検を受験するのですが、試験前の面接対策としても活用されていますよ。
英語の本が読み放題の「多読の森」を活用!ブックレポートで日本語力も鍛える
他にも、英語学習における特徴的な取り組みはあるでしょうか?
貸与したタブレットを活用し、中学生を対象に「多読の森」で英語の本に触れられるようにしています。「多読の森」には、絵本から物語、伝記、SF小説まで、1,000冊を超える本が収録されており、難易度もさまざまです。生徒たちは、好みや自らの読解力などに合わせてオンライン読書を楽しんでいます。
また、音声機能があるため、ネイティブの音声で本の内容を読み上げてもらうことも可能です。これによってリスニングのトレーニングもできます。
▲MEAのお部屋には英語の絵本もたくさん!英語のゲームで親睦を深めることもできる
放課後に開かれる校内留学の部屋では、英語でコミュニケーションがとれる
聖園女学院中学校・高等学校では、英語学習に関連する課外活動もさかんだそうですね?
校内には「Misono English Academy」という部屋があり、放課後の「校内留学」というスタンスで多くの生徒が活用しています。中学校・高等学校の全生徒が利用可能で自由に活動できますが、教室内は英語のみを使う決まりになっています。
活動内容はさまざまで、ネイティブ教員と英会話の練習をしたり、英検の面接トレーニングをしたりする生徒も多いです。学習だけではなく、英語の歌やゲーム、プレゼンテーションの練習、英語圏の文化なども体験できますよ。
実際に、どのぐらいの生徒が利用しているのでしょうか。
日によって異なりますが、中学校・高等学校でそれぞれ10人ずつぐらいは利用していますね。人数が多いときには中学校と高等学校に分かれて、アクティビティをするケースもあります。それぞれのグループにネイティブの先生がつき、生徒同士のコミュニケーションをサポートします。
季節に合わせてハロウィンやクリスマスパーティーなども開催し、楽しい英会話教室のような雰囲気でプログラムが行われています。
参考:(公式)「MEA Late Halloween Party」
聖園女学院中学校・高等学校の国際教育(国際交流)
聖園女学院中学校・高等学校では、国際教育の一環としてさまざまな国際交流の場を設けています。海外研修のほか、2023年度からは大学や学習施設などの外部機関と連携したプログラムも導入しています。ここからは同校の校外学習を中心とした国際交流プログラムについて紹介します。
独自の奨学金あり!短期・中長期の留学が可能な3つの「海外プログラム」
御校には、海外で語学力を鍛えられるプログラムもあるそうですね。
希望制ですが、合計3種類の海外プログラムを実施しています。
1つ目は高校1年生を対象にした「カナダ研修」です。夏休みの約2週間を使い、カナダ・オンタリオ州にあるウィンザー市にホームステイします。ウィンザー市は藤沢市の姉妹都市で、研修をきっかけに交流を深めています。現地の学校は夏休み期間なので、現地校をお借りして、午前中はESL授業(※)を受講します。
(※)「English as Second Language」の略称。英語が第二言語の生徒を対象にした授業
午後には、現地の高校生との交流を含めた体験学習を実施します。本校の教員が2名引率するため、海外経験がなく英語力に自信がない生徒も参加しやすいプログラムです。
ある程度の英語力を必要とするような、参加条件が定められた海外研修もあるのでしょうか?
中学3年生の「ニュージーランド中期留学」と、高校1年生の「ニュージーランド1年留学」は、学業成績の基準を設けています。
ニュージーランド中期留学は、1月中旬から3月下旬にかけ、ニュージーランドの最大都市・オークランド市内のカトリック女子校に通学します。現地の生徒たちと一緒に学ぶため、英語・社会・数学といった学習や日常会話なども全て英語です。最初は難しくても、毎日のようにネイティブの英語に触れることで、すぐに慣れていくようです。
ニュージーランド1年留学は、高校1年生の1月から高校2年生の11月まで、ホームステイをしながら現地の学校に通います。帰国後は高校2年生の授業に戻れるので、同級生と一緒に卒業できますよ。
いずれのプログラムも、本校独自の奨学金を利用することが可能です。留学中の授業料相当額(1か月・約4万円)を返済不要の奨学金として支給しています。
留学生と英語のみで会話する「Global Friends」で国際意識を高める
▲1回目のGlobal Friends on zoom
聖園女学院中学校・高等学校では、留学しない生徒にも国際交流の機会はあるでしょうか?
中学1年生から高校2年生までの生徒たちを対象に、「Global Friends(グローバルフレンズ)」という南山大学の留学生たちと交流するプログラムを実施しています。2023年度からスタートした新しい取り組みなのですが、1回目はオンラインで本校の生徒が英語で投げかけた質問に対し、留学生が英語で答えるスタイルで行いました。ここで生徒たちは「直接対面してコミュニケーションを取りたい!」という気持ちを高めていきました。
2回目は愛知県名古屋市の「南山大学」に出向き、留学生たちと交流しました。対面での会話に生徒たちは少し緊張した様子でしたが、キャンパスを案内してもらったり、一緒に昼食を食べたりするうちに打ち解けたようです。
留学生との交流プログラムは、グループ分けから自己紹介、ゲームまで、全ての活動を英語で行います。留学生と会話をしないとゲームが進まない仕組みだったので、生徒たちも知っている単語を組み合わせてコミュニケーションをとっていました。「話してみる」経験が生徒たちの自信になったようで、ゲーム後のフリートークでも積極的に会話を膨らませる姿が多く見られました。
交流した留学生たちは、英語圏出身なのでしょうか?
英語圏だけではなく、インドネシア・香港・ハンガリーなどさまざまな国から来た留学生がいます。留学生との交流を通し、生徒たちは「英語を使うと、たくさんの国の人々とコミュニケーションができる」と気づいたようです。このような英語圏以外の方々と英語でコミュニケーションを取る経験は、国際意識を高めることにもつながると考えています。
国内にいながら留学の雰囲気を味わえる「Tokyo Global Gateway」
生徒全員を対象にした海外研修または国際交流の場もあるのでしょうか?
本校では中学1年生の生徒全員を対象にした1日研修を実施しています。東京都江東区の「Tokyo Global Gateway(TGG)(※)」に足を運び、英語を使ったコミュニケーションを体験します。海外と似た環境で英語を使えるため国内にいながら留学の雰囲気を味わうことが可能です。
(※)東京都教育委員会と民間企業が運営する「体験型英語学習施設」
2023年度は2月に実施し、施設では7人〜8人ほどのグループで行動しました。各グループにはネイティブの先生が1人ずつ付き、生徒たちを励まし最初の一歩を後押ししてくださいました。
ネイティブの先生が近くにいると、緊張も和らぎそうですね。研修の内容もお聞かせいただけますか?
午前中は劇のセリフを覚えたり、ダンスで体を動かしたりしながら、英語で伝える力を鍛えます。午後には海外をイメージした「ホテルゾーン」「トラベルゾーン」といった区域をめぐり、英語でミッションをクリアしていく内容です。例えば「ファーマシー(薬局)で〇〇を買う」というミッションなら、ファーマシーゾーンで外国人から該当の商品を購入します。
英語でコミュニケーションする体験を通し、自分の語学力を知ると同時に「もっと英語に触れたい」という興味や意欲にもつながっているように感じます。
日本ならではの礼儀作法の指導にも力を入れる
御校は、日本ならではの礼儀作法にも力を入れているそうですね。具体的に、どのような実践をされているのでしょうか?
本校は以前から礼儀を大切に教えてきましたので、卒業生の多くが「社会に出てから、礼儀の重要性を実感する」と感謝の気持ちを伝えてくれます。
2022年度から中学1年生と高校1年生を対象に、「小笠原流礼法」の礼法講座を実施しています。宗家本部より講師をお招きし、挨拶やお辞儀の所作、物の受け渡しについてレクチャーしていただきます。オンラインが普及してきたとはいえ、対面のコミュニケーションは基本です。
例えば挨拶は、つま先を相手の心へ向けて「ごきげんよう」と呼びかけるところから指導します。挨拶は心と心のコミュニケーションなので、相手に思いやりをもって呼びかけることが大切です。生徒たちには「ごきげんよう」の挨拶の後、数秒待つように指導しています。間を取ることで「残心(ざんしん※)」を共有でき、相手にこちらの思いが伝わりやすくなるんです。
(※)心を後に残すこと。日本の武道・芸道で使われる言葉
美しい所作を身につけておくと、就職試験の面接などにも役立ちそうですね。生徒さんたちの反応はいかがですか?
私は中学1年生の授業を担当しているのですが、日常生活ではなかなか取り上げられない内容なので、帰宅してから「学校でこんなことを学んだよ」と家族に披露した生徒もいました。プリントを渡すときには「どうぞ」と言い、受け取る側は「ありがとうございます」と返すなどのやりとりはマナーのひとつとしてこれまでも行われてきましたが、さらに所作を意識するようになったように感じます。
また、中学校の礼法講座を終えると「修了書」がもらえるので、生徒たちの自信につながっているようです。生徒たちには洗練された一流の所作を身につけ、国際社会で活躍してほしいと思っています。
礼儀作法とは少し離れますが「日本らしさ」という意味でいうと、御校では弓道部が人気だそうですね。
はい、敷地内に九人立ちの規模の弓道場がある学校は全国的にも少なく、弓道部に興味を持って本校に入学してくる生徒もいるほどです。弓道でも美しい所作が必要なので、この礼法講座が役立っていることと思います。
聖園女学院中学校・高等学校からのメッセージ
最後に、御校の教育に興味を持っているお子さま・ご家族に向けたメッセージをお願いします。
「心の教育」にも力を入れている本校は、穏やかでやさしいタイプの生徒が多いです。読書や手芸、パソコンなど、お子さまの「好き」をサポートする環境が整っています。大学進学へ向けた勉強だけではなく、ネイティブの方々との交流や人のために行動する喜びなど、将来につながる経験がたくさんできますよ。
ちなみに2023年度の秋から「WARM HEARTS COFFEE Club」に加盟して、コーヒーを文化祭やクリスマスで販売する取り組みをスタートしました。「WARM HEARTS COFFEE Club」の売上は、その100%がアフリカのマラウイに住む子どもたちの給食支援として寄付されるんです。こうした取り組みも、生徒が自分のミッションを見つける1つのきっかけになるのではないかと思っています。今後も、生徒たちがワクワクするような取り組みを進めたいですね。
大学との距離が近い本校は、中高一貫校の枠を超えた英語プログラムを実践しています。教科書の内容にとどまらない、「使える英語力」を鍛えることが可能です。ぜひ本校の英語プログラムを活用し、世界に羽ばたく国際人に成長してもらいたいです。教職員一同、お子さまのご入学を楽しみにしています。
日本の礼儀・作法をきちんと教えていらっしゃることからも、「真の国際人を育てたい」という御校の思いが伝わってきました。外国からも注目される日本の「おもてなしの心」を身につけておくと、社会人になってからもスムーズに人間関係を構築できそうですね。
本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました!
聖園女学院中学校・高等学校の進学実績
聖園女学院高等学校の卒業生は、その大半が4年制大学へ進学。2023年度には東京大学・横浜国立大学などの国公立大学や、上智・慶應義塾・明治・青山学院など関東の有名大学にも合格者を輩出しています。
中学校・高等学校で海外の人たちと触れ合い、国際系や医学、看護系の道を志す生徒さんも少なくありません。卒業生の進学実績からも、生徒が聖園女学院の様々なプログラムをとおして「Find Your Mission」を実現させていったことがうかがえます。
聖園女学院中学校・高等学校に寄せられた感想・口コミ
▲2024年度から制服をモデルチェンジ。自分らしさを表現できる
最後に、聖園女学院中学校・高等学校の生徒の保護者から寄せられた感想を一部紹介します。
保護者の感想からも、生徒たちとじっくり向き合い、将来を見越した教育をしている先生たちの様子が伝わってきますね。そのほか、「文化祭は自由な雰囲気で、生徒たちが盛り上がる」という声も見られました。特に軽音楽部・ダンス部は学園祭の発表が大人気で、長蛇の列ができるほどなのだとか。生徒に寄り添うメリハリある指導に満足している保護者も多いようです。
聖園女学院中学校・高等学校の基本情報
問い合わせ先 | https://www.misono.jp/contact/ |
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電話番号 | 0466-81-3333 ※対応時間は月曜日〜金曜日の9:00〜17:00 ※夏季・冬季休業期間中などは対応できない場合も |
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