熊本大学教育学部附属中学校の授業の様子

「課活動」「個人探究」で学びを深める。熊本大学教育学部附属中学校の探究学習とは

ぽてん読者の皆さまに注目の学校を紹介するこの企画。今回は熊本県熊本市にある国立の中学校「熊本大学教育学部附属中学校」をご紹介します。

熊本大学教育学部附属中学校は、国立大学法人熊本大学の教育学部に附属して設置された中学校です。教育に関して常に研究を続けている学校であり、独自の教育活動を行っていることが特徴です。

今回は主幹教諭の河本先生、教諭・研究主任の甲斐先生、教諭・教務主任・前年度研究主任の冨永先生に、同校独自の委員会活動で実践される探究学習や、地域のOBをコーチに迎えた部活動などについてお話を伺いました。

熊本大学教育学部附属中学校の「響きあい」を大事にする教育方針

熊本大学教育学部附属中学校の校舎

編集部

初めに、熊本大学教育学部附属中学校の教育方針について伺えますでしょうか。

河本先生

本校の教育方針は、昭和41年に成文化された「綱領」がもとになっています。この綱領は、「真実を求めて 響きあえ たくましいからだで 響きあえ 厳しい知性で 響きあえ 豊かな心で」であり、生徒一人ひとりが「より真なる・より善なる・より美なる」真実を求めることに目標を置いています。

綱領の中の「響きあえ」とは、互いに交流し、愛情、尊敬、そして秩序を持った集団として共鳴することを意味します。

「たくましいからだで」は、まず健康を最優先に考えるべきであるということを示しています。単に強く健康な身体を持つだけでなく、困難や試練に耐え、自己克服の力を養うことが求められています。

「厳しい知性で」は、表面的な理解にとどまらず、さらに深く探究する姿勢を強調しています。「豊かな心で」は、真実を尊び、倫理を重んじ、美を愛する豊かな心を指しています。

また、2024年度の学校教育目標は「豊かな人生と社会を作るために、自ら考え主体的に行動する生徒の育成」と定めており、「響きあい」の精神のもとで、生徒・保護者・教職員が誇りを持てる、次世代を築く学校を目指しています。

熊本大学教育学部附属中学校の体育大会の各団の団画

▲体育大会の各チーム(団)のイメージイラスト。生徒の個性が光る

熊本大学教育学部附属中学校の独自の「課活動」とは

熊本大学教育学部附属中学校の響き合い学習会

▲課活動のひとつである「響き合い学習会」の様子

編集部

次に、熊本大学教育学部附属中学校の探究学習の特徴について教えてください。

甲斐先生

熊本大学教育学部附属中学校では、探究学習を「課活動」として行っています。これは他の学校でいう委員会活動に総合的な学習の要素を加えたものです。生活向上課、統計調査課、保健衛生課など17の課があり、各課が探究テーマを設定し、そのテーマに基づいて活動を進めています。

その中の「学習リーダー会」という課では「授業の質向上」を軸に活動しており、「響きあい学習会」を行っています。これは学習リーダー会の生徒が他クラスの授業を見学し、課題などを学習リーダー全員で話し合い探究を深めるものです。教員からすると生徒が授業をどのように受けとめるのかと、とてもドキドキする会ですね(笑)。

課活動では生徒たちが主体的に探究し、教員がそのサポートをする独自の教育スタイルとなっています。

編集部

学習リーダー会の様子はいかがですか。

甲斐先生

生徒たちは探究したい意欲を強く持っていますが、実際のアクションに繋がってクラスや学校が変わるというところまでいくのが難しいようです。机上の空論にならないよう、実践に結びつけるための工夫をアドバイスしています。

冨永先生

確かにどちらかといえば探究が中心のため、行動実践についてはより取り組んでいく必要があると感じています。学校外の大人との対話を通じて質の高い学びを追究することに加え、実際に学校を変えるアクションをもっと起こしていきたいと考えています。

河本先生

また、学習リーダー会が探究的な活動をメインにしている一方で、私が担当する「情報発信課」では、学校の活動を外部に伝えることに重点を置いています。具体的には、ホームページや掲示板を使って、学校のイベントや活動を紹介しています。

情報発信に関するテーマで探究活動も行ってきましたが、日々の活動に追われて十分な探究が難しいと感じています。そのため、今後は「課活動」を続けながら、探究の機会を広げる取り組みが必要だと考えています。

2024年度からは総合的な学習の時間にも探究学習を取り入れる

熊本大学教育学部附属中学校の授業の様子

編集部

課活動のほかに、取り組んでいる探究学習はありますか。

甲斐先生

これまで取り組んできた課活動を踏まえ、2024年度からは自分の幸せや地域貢献、個人探究に焦点を当てた新しい形の探究学習を進めています。

特に3年生は個人探究を進め、各自が興味や関心に基づいてテーマを設定し、夏休みから本格的に探究を開始しています。

また、2年生では自他の幸せや地域貢献に焦点を当て、自分が地域に対して何ができるかを探究し、最終的には地域に恩返しする行動に繋げることを目指しています。

本校では探究学習の中で、行動の影響を予測する「見通し」の段階を特に重視することで、探究を深めようと試みています。

編集部

課活動で行っていた探究活動を、新たに総合的な学習の時間に取り入れることになった経緯について教えていただけますか。

甲斐先生

探究学習では、生徒たちが自ら探究するとともに行動することが必要ですが、課活動の中でこれを両立させるのは難しいと感じています。探究を重視する生徒もいれば、行動ベースの委員会活動を重視する生徒もいるため、すべての生徒に両方の機会を提供することが課題でした。

そのため、総合的な学習の時間で個人での探究を進める一方、委員会活動では実際の行動を通じて学校に貢献するという2つの活動を区別して進める方針としました。個人探究の時間を確保することで、生徒が将来に繋がる探究活動を行えるようにし、その探究プロセスを委員会活動でも活かしていくことを目指しています。

ラグビー部は全国大会に出場。熊本大学教育学部附属中学校の部活動

熊本大学教育学部附属中学校のラグビー部の集合写真

▲ラグビー部の現在の部員は20名ほど

編集部

続いて、熊本大学教育学部附属中学校のクラブ活動について教えてください。ラグビー部が近年、活躍していると伺いました。

冨永先生

そうなんです。熊本大学教育学部附属中学校のラグビー部は、2023年は九州大会でベスト4となりました。数年前には全国大会にも出場しています。

本校のOBでもある地域の住職さんに、28年間ラグビー部の指導に携わっていただいています。長年にわたり指導を続けている固定のコーチがいることで、卒業生が後輩と一緒に練習し、交流する機会が多いのが特徴です。

編集部

ラグビー部に入部した部員の成長や変化についてはどのように感じますか。

冨永先生

特にスキル面での成長が著しいです。皆初心者から始めるため、2年間での進歩には毎年驚かされています。

それから、ラグビーの特性上、試合中に指示を出すのが難しいため、生徒たちは自分たちで状況を判断し、対応する力が自然に身につきます。また、個人競技ではなく、中学校のスポーツ競技では一番人数が多くなるスポーツですので、チーム戦術やプレーも学びながら実践し、チームプレーのスキルが育っていきますね。

熊本大学教育学部附属中学校のグラウンド

熊本大学教育学部附属中学校では学校行事も生徒主体で行う

熊本大学教育学部附属中学校の体育大会開会式

編集部

学校の雰囲気や先生と生徒との関係性についてはいかがでしょうか。

甲斐先生

生徒たちは教員に対してしっかり意見を言い、主体的に行動する姿勢を持っています。教員は生徒たちのアイデアを受け入れ、イベントや取り組みに反映させるよう努めており、これにより生徒の意見が実際に行動に移しやすい環境が整っています。

冨永先生

例を挙げると、体育大会の運営を、通常の教員主導から生徒主体のものにシフトしました。生徒たちが「どんな体育大会にしたいか」を話し合い、その目的を達成するためにどんな競技が良いかを決めたんです。

生徒たちは「全学年の繋がりを意識することができるような体育大会にしたいから、縦割り競技をしたい」ということで綱引きを提案し、ルールやチーム分け、時間配分なども自分たちで決めました。教員はアドバイスを行いながらサポートし、生徒たち自身が大会を作り上げる新しい形の体育大会となりました。

編集部

御校はアットホームな雰囲気で、先生方のチームワークも良い環境なのですね。

熊本大学教育学部附属中学校の体育大会の全校演舞のフィナーレ

熊本大学教育学部附属中学校からのメッセージ

取材に対応いただいた熊本大学教育学部附属中学校の教員3名

▲取材に対応いただいた河本先生(左)、甲斐先生(中)、冨永先生(右)

編集部

最後にぽてん読者にメッセージをお願いします。

甲斐先生

熊本大学教育学部附属中学校は生徒たちの主体性を大切にしており、自ら探究し行動する力を育むことを重視しています。学力だけでなく、自分で何かを作り上げたい生徒たちが活躍できる場ですので、チャレンジ精神のあるお子さんにぜひ入学してほしいと思います。

河本先生

私はこの学校に赴任して8年目になりますが、生徒たちが悩んだり苦しんだりしながらも、卒業時には「この学校に来てよかった」という声をもらうことがとても多いです。先ほど教員のチームワークが良いと言われましたが、教員だけでなく、一緒に過ごしていく生徒たちが本当に素晴らしいなと感じています。

冨永先生

先ほど甲斐先生からもあった通り、本校で大切にしているテーマは「主体性」です。教員が指示を出せば本校の生徒はそれを完璧にこなすこともできますが、それだけでは主体性が育ちません。ですから、生徒の「やりたいこと」を引き出し、それに応える場を提供しながら、共に学び成長することを目指しています。本校では積極的に挑戦する生徒を歓迎しています。

編集部

本日はありがとうございました!

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熊本大学教育学部附属中学校の校門

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