和歌山県立向陽中学校・高等学校の正門

和歌山県立向陽中学校・高等学校の「楽しみながら結果を出す」理数教育|中高一貫校

特色ある教育や校風で注目を浴びる学校を紹介する本企画。今回は、和歌山県和歌山市にある共学の中高一貫校の「和歌山県立向陽中学校・高等学校」を紹介します。

同校は文部科学省から「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」に指定されており、理科・数学分野の教育に力を入れている学校です。

また、生徒の主体性や論理的・科学的なコミュニケーション能力を高めるための工夫が取り入れられた独自の探究学習も注目されています。

今回は、そんな同校の教育理念や探究学習、理数教育について、SSH推進部長の谷地先生と進路指導部長の山中先生にお話を伺いました。

全職員で考え抜いた和歌山向陽のスクールポリシーとグランドデザイン

和歌山県立向陽高等学校の実験風景

編集部

まず初めに、和歌山県立向陽中学校・高等学校の教育理念についてお教えいただけますか?

谷地先生

本校では、『自彊不息』『質実剛健』『文武両道』という校訓のもと、「豊かな知力」「たくましい気力」「強い体力」を兼ね備えた、創造的、主体的かつ自由闊達な生徒を育成することを教育目標に掲げています。

具体的には、令和5年度に全職員で考え抜いて刷新した「スクールポリシー」や「グランドデザイン」をご覧いただければと思います。教育活動全体を通じて生徒にどのような資質・能力を身につけさせたいのか、徹底的に議論を積み重ね出来上がりました。

その中の「グラデュエーション・ポリシー」では、以下の4つを掲げています。

  • 自己の進路目標を実現できる確かな学力を身に付けている。
  • 豊かな人間性と感性を育み、社会に貢献するための意欲と能力を身に付けている。
  • 探究活動を中心に課題発見力と課題解決力を身に付け、生涯にわたって学び続ける力を身に付けている。
  • 多様性を認め、グローバル化する社会において積極的に行動できる力を身に付けている。

また、「向陽」のアルファベット表記「KOYO」に一文字ずつ意味をもたせ、「K」が気づく力、「O」が起こす力、「Y」が読む力、そしてもう一つの「O」が教え合う力という4つの力を、授業や探究学習、学校行事、部活動などを通じて育成するようにしています。

そして本校は、校名の「向陽」にちなみ、スクールフラワーに「ひまわり」を掲げています。さまざまなSSHの取組名には、ひまわりに関連した名前をつけており、生徒が愛着を感じ、主体的に取り組めるように工夫しています。

和歌山県立向陽中学校・高等学校の探究学習

課題研究に取り組む和歌山県立向陽高等学校の生徒たち

ここでは、和歌山県立向陽中学校・高等学校が力を入れる探究学習について伺いました。

課題研究を中心に主体性と科学コミュニケーション力を育む「KOYOプロジェクト」

課題研究の成果を年度末に発表する和歌山県立向陽中学校・高等学校の生徒たち

▲課題研究を突き詰めた成果はポスターにまとめて発表する

編集部

続いて、御校の探究学習における独自の取り組みについてお教えいただけますか?

谷地先生

本校における探究学習は「KOYOプロジェクト」と名付けています。

本校は、平成18年から文部科学省の定める、将来の国際的な科学技術人材の育成を目指し、科学技術や理科・数学教育に関する研究開発等を活発に行う「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」にも指定されていることから、この「KOYOプロジェクト」にもSSHのエッセンスを取り入れています。

編集部

「KOYOプロジェクト」について、詳しくお教えいただけますか?

谷地先生

「KOYOプロジェクト」は5つの柱で構成されており、「課題研究の深化」という柱を中心に据えています。その他、和歌山県に位置する本校は、南海トラフ地震の発生が想定されることから、防災科学教育に力を入れた「防災:いのちを守る科学」や、学校機関や研究機関、企業との連携を深めていく「向陽つながるサイエンスの開発」などの柱があります。

課題研究では、以前は数学ゼミや化学ゼミなど教科・科目ごとに分けていましたが、令和5年度より「ものづくりゼミ」「応用科学ゼミ」「数理データサイエンスゼミ」「環境防災ゼミ」(※)などの、教科を横断するようなゼミを新設しています。
(※)高校2年生環境科学科・普通科(理系)での取り組み

そのため、近年注目されている探究型授業や教科等横断型授業(クロスカリキュラム)といった授業方法も積極的に取り入れています。

編集部

課題研究では、生徒のみなさんがテーマを決めるというより、テーマに沿って学んでいく方針なのでしょうか?

谷地先生

生徒たちの意思を尊重し、所属するゼミ内で取り組みたいテーマを設定するようにしています。ただ、これまでは生徒たちの主体性に任せきりにしていた部分もあったため、令和6年度からは指導のノウハウを見直し、各ゼミで生徒と教員が対話を重ねながら、テーマ設定を行っています。

編集部

生徒のみなさんが取り組んだ課題研究の中で印象に残ったものはありますか?

谷地先生

応用科学ゼミのあるグループが、菌の一種である粘菌を防災に活用できないかという点に着目したユニークな研究がありました。粘菌は、ネットワークを使って自ら伸びていくのが特徴で、その伸び方は必ず最短経路になるそうです。そのため、最短経路で伸びていく粘菌の仕組みを防災地図に落とし込めば、災害時に最短経路で逃げられるのではないかと。

この研究では、3Dプリンターで作った実験用の立体地図が必要になったことから、近隣の工業高校に制作を依頼するなど、他校と連携しながら研究を進めていました。この生徒たちが研究を終えた後も、後輩の生徒たちが引き継いでこの研究に取り組んでいます。

編集部

課題研究では、どのような工夫をされているのでしょうか?

谷地先生

「問いを立てる」ということを課題研究の時間だけ指導してもなかなかうまくいくものではありません。本校では、通常授業においても生徒が問いを立てられるよう、各教科で工夫をしています。

また、授業や研究をより一層深めるために、「KOYOの力を育む授業研究会」という公開授業も実施し、教育関係者の方に参加していただいております。この公開授業は、年に2回実施しており、1回目は県内の学校の先生方、2回目は全国のSSH指定校の先生方にもご参加いただき、意見交換や協議を行うことにより授業や研究の改善につなげています。

年度末には、校内で課題研究の成果を発表する機会があり、一部のグループにはなりますが、外部のコンテスト等へ出展することもあります。

「KOYOの力を育む授業研究会」で他校の先生方とも交流する和歌山県立向陽高等学校の教員

▲「KOYOの力を育む授業研究会」は他校の先生方から授業や研究のフィードバックがもらえる貴重な機会となっている

探究学習で得られた生徒の成長と生徒からの反響

授業に集中する和歌山県立向陽高等学校の生徒たち

編集部

課題研究を通して、生徒のみなさんにはどのような成長が見られましたか?

谷地先生

自分自身で計画を練って進めていく課題研究では、各々が主体性を育んでいるように感じられます。

山中先生

課題研究では、当然ディスカッションが必要となりますし、また本校では教え合う力を重要視しているため、こちらが何かあえて助言しなくても、小さなつぶやきから始まって、さまざまなところで小規模なディスカッションが自然と生まれてくるようになりました。

また、「向陽つながるサイエンスの開発」では、生徒たちが何かわからないことがあれば、全く面識のない大学教授の方にメールを送って質問したり、県内の企業にプレゼンテーションをしに行って協力を求めたりと、本当に活発にアクションを起こしてくれていますね。

編集部

教科等横断型授業に関しては、生徒のみなさんからはどのような声が上がっていますか?

谷地先生

教科等横断型授業では、今学んでいることが何の役に立っているのかを実感しやすいようで、生徒からも好評です。

例えば、化学を担当している私が家庭科の教員と一緒に行った授業では、生徒の振り返りシートに「生活に直結した実学的な家庭科の内容を科学的視点で捉えることにより、それぞれの教科・科目の重要性に気づけた」という感想がありました。嬉しいことに、生徒たちはこういった授業をもっと増やしてほしいと言ってくれます。

和歌山県立向陽中学校・高等学校の理数教育

ここでは、和歌山県立向陽中学校・高等学校の理数教育の特色について伺いました。

異文化交流と科学を組み合わせた取り組み

英国の姉妹校の生徒たちと一緒に実験講座に取り組む和歌山県立向陽高等学校の生徒たち

▲英語で一緒に科学の実験に挑戦

編集部

御校で力をいれている理数教育についてもお教えいただけますか?

谷地先生

本校は英国と台湾にそれぞれ姉妹校があり、来校してくれた際に、自己紹介やレクリエーションを行い、親睦を深めています。その際、科学を取り入れたおもてなしも行っています。

例えば、生徒たちの作った人工イクラを使ってお寿司を作り、それをもとに日本の食文化について英語で紹介するという試みを行ったり、大学の先生によるハイレベルな実験講座を姉妹校の生徒と共に受けるという機会を設けたりしました。

台湾姉妹校の生徒が来校した際も、取り組んできた課題研究の内容を英語で紹介したり、台湾姉妹校の生徒がSDGsに関する内容を発表したりするなど、英語を実践的に使用する場面となっています。

研究施設や大学など、トップレベルの理数教育の現場に訪問

編集部

姉妹校との交流以外で、力をいれている理数教育の取り組みについてもお教えいただけますか?

谷地先生

施設や大学の研究室訪問も充実させています。一例として、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出すことができる大型放射光施設「SPring-8(スプリングエイト)」、京都大学、大阪大学、近畿大学生物理工学部などを訪れ、実際に研究所の様子を見学しています。

また、2年生の普通科理系と環境科学科の希望者を対象に「サイエンスツアー」を実施し、つくば市の研究施設やJAXA、理化学研究所、東京大学などを巡り、最先端の科学に触れる機会を設けています。

さらに「向陽 STEAM教育講座」や「SSH先端科学講座」では、外部の方をお招きして、各種講座を設けています。「向陽 STEAM教育講座」では、座学だけではない実験等の活動を取り入れた講座を実施し、「SSH先端科学講座」では、大学の先生の方による専門的な内容に踏み込んだ数学や化学の講座を実施しています。

科学の甲子園全国大会出場を叶えた和歌山県立向陽高等学校の生徒たち

▲科学の甲子園全国大会に出場した生徒たち

編集部

受賞歴のある理科系クラブについてもお教えいただけますか?

谷地先生

物理部は、ロボカップ(※)の世界大会に2年連続で出場しました。また、環境科学科の有志チームは2023年度、科学の甲子園全国大会に出場しました。これまで県予選で悔しい思いをしてきましたが、2023年度は勝ち上がることができました。
(※)自律移動型ロボットの競技会で、同校は2022年・2023年の大会に出場した

科学の甲子園全国大会のために、3泊4日でつくば市に行った際は、生徒たちもとても喜んでいました。

全国のレベルの高さを実感できる良い機会になったのだと思います。そしてなにより生徒たちにとって、全国の生徒たちと交流する時間が一番嬉しかったようです。

編集部

理数教育において目覚ましい活躍をされていますが、生徒のみなさんの理系に対する関心も高まっているのでしょうか?

谷地先生

私は本校に来て2024年で8年になるのですが、この学校に来たばかりのころ、特に普通科に関しては文系のほうが多い印象でした。それから年々、理系を選ぶ生徒が増えてきたと感じています。これもまた理数教育の推進の成果だと感じています。

SSH指定校であることが本校進学の理由になっているかどうか、普通科の新入生にアンケート調査を行っています。2024年度の調査では、ほぼ半数の生徒が「大いにあった」「少しはあった」と回答していました。2023年度の調査では20%ほどでしたから広報活動にも力を入れてきた成果であると思っています。

理数分野を楽しみながら突き詰め、進路決定につなげていく生徒たち

編集部

理系の学習に励む生徒のみなさんの中には、明確な将来像を持っている生徒さんもいるのでしょうか?

山中先生

世界大会に出場した物理部の生徒の一人は、はっきりとエンジニアになると言っていました。また、すでに大学院生になっている生徒の一人は、宇宙飛行士になると言っていました。本校での経験が生徒に良い影響を与えられていたら嬉しいです。

編集部

理数系の授業では、生徒のみなさんはどのような様子で取り組んでいますか?

谷地先生

遊んでいるかのように楽しそうに取り組んでいますね。もしかしたら勉強とは思っていないのかもしれません。興味を突き詰めていける一つの遊びみたいに、授業ではとにかく楽しんでいます。化学でいうと、1年生は年に15回くらい実験をしますが、それでも少ないと言われています。

編集部

自主的に学習に取り組む、好奇心の高い生徒さんが多いのですね。御校の生徒のみなさんの全体的な雰囲気はいかがですか?

谷地先生

自分の言葉でしっかりと話せる生徒が多いと感じています。本校の生徒の様子をご覧になった他校の先生から、「よく話しますね」という感想を伺うことも多いです。プレゼンテーションをする機会がある探究学習のみならず、通常の授業でも対話を重視した授業づくりを心がけているため、自然と生徒たちも話すことに慣れているのでしょう。

和歌山県立向陽中学校・高等学校からのメッセージ

インタビューに答えてくださった和歌山県立向陽中学校・高等学校のSSH推進部長の谷地先生

▲インタビューに答えてくださった和歌山県立向陽中学校・高等学校のSSH推進部長の谷地先生

編集部

最後に、和歌山県立向陽中学校・高等学校に興味をお持ちのお子さま・親御さまに向け、メッセージをお願いします。

谷地先生

本校の生徒は、学習面だけでなく、さまざまな活動に一生懸命に取り組み、素晴らしい成果や成績を収めています。私たち教員の指導方針は、大学進学をゴールにするのではなく、VUCAと呼ばれる時代をたくましく生き抜くための力を身に付けさせることを重視しています。教員自身が「探究」しながら、授業や探究学習、学校行事、部活動等のあらゆる教育活動を互いに連携・協力してチームワークよく生徒を支えており、素晴らしい学習環境が整っていると思います。

実際、令和5年度の進学実績において、生徒たちはみんなよく頑張っています。本校のさまざまな特色ある取組が生徒たちの成長の一助になることができたのかなと思っています。

インタビューに答えてくださった和歌山県立向陽中学校・高等学校の進路指導部長の山中先生

▲インタビューに答えてくださった和歌山県立向陽中学校・高等学校の進路指導部長の山中先生(画像中央)

山中先生

本校は言わば、何でも楽しみながら取り組める生徒と教員の集団です。ですから、「やらされている」「やらなければならない」よりも先に、「楽しい」「面白い」という感情をたくさん味わえるんです。

そういう土壌がすでにある本校で、楽しみながらいろいろなことにチャレンジできる経験を持てるのが一番の魅力だと思っています。

編集部

生徒のみなさんがSSH校ならではのこだわり抜かれたカリキュラムに楽しく向き合われている様子から、まさに大学進学だけには収まらない一生ものの学びが得られるのだなと思いました。貴重なお話をありがとうございました!

和歌山県立向陽中学校・高等学校の進学実績

和歌山県立向陽中学校・高等学校の図書館

和歌山県立向陽中学校・高等学校の2024年度の合格実績としては、東京大学に1名、京都大学に4名、大阪大学に5名、神戸大学に7名を含めた国公立大学に176名、また、早稲田大学に1名、慶応義塾大学に5名、立命館大学に35名、同志社大学に31名を含む私立大学に613名の合格者を輩出しています。

■進路実績(和歌山県立向陽中学校・高等学校の公式サイト)
https://www.koyo-h.wakayama-c.ed.jp/course.html#spb-page-title-5

和歌山県立向陽中学校・高等学校の卒業生の口コミ

和歌山県立向陽中学校・高等学校の文化祭で書道パフォーマンスを披露する生徒たち

▲勉強のみならず文化祭などの行事ごともみんなが夢中に

和歌山県立向陽中学校・高等学校の卒業生から寄せられた口コミを紹介します。

進学校なので、勉強への意識がみんな高いです。明るく、華やかな雰囲気の子も多いですが、根は真面目な子ばかりだったので、メリハリのある学校生活が送れました。

勉強に集中できるすばらしい環境が整っています。さまざまな科目で、小テストが毎週のようにあるので、自主的に勉強をする習慣が身に付きました。

進学校ならではの充実した学習環境だけでなく、全国大会や近畿大会に出場する実績のある部活動も多いので、夢中になれることを見つけられる学校だと思います。また、和歌山駅から徒歩約20分、自転車で約10分という立地も良かったです。

和歌山県立向陽中学校・高等学校の卒業生は、学習習慣が身に付く充実した学習環境を高く評価していました。また、成果を出している部活動も多数あることから、文武両道であり、有意義な学校生活が送れることが見受けられます。

和歌山県立向陽中学校・高等学校へのお問い合わせ

和歌山県立向陽中学校・高等学校の外観

運営 和歌山県立向陽中学校・高等学校
住所 和歌山県和歌山市太田127
電話番号 073-471-0621
公式ページ https://www.koyo-h.wakayama-c.ed.jp/

※詳しくは公式ページでご確認ください