独自の教育を実践し注目を集める学校を紹介するこの企画。今回は千葉県市川市の私立中高一貫校「国府台(こうのだい)女子学院中学部・高等部」を紹介します。
国府台女子学院中学部・高等部は千葉県内で数少ない中高一貫の女子校として、1926年(大正15年)の創立時から一貫して浄土真宗本願寺派の仏教精神に基づく女子教育を実践しています。中高6年間を通じて行う仏教の授業をはじめ、少人数制の英語教育や、情報との向き合い方を学ぶ情報リテラシーの授業など、特色ある教育プログラムを展開しています。
今回はそんな同校の教育理念や教育プログラムの特徴などについて、中学部副学院長の井上先生に詳しくお話を伺いました。
この記事の目次
仏教の教えに基づく、国府台女子学院中学部・高等部の教育理念
▲インタビューにご対応いただいた井上先生
まずは御校の沿革について簡単にご説明いただけますでしょうか。
本校は1926年、僧侶であり千葉女子師範学校の校長を務めていた平田華蔵氏によって開校されました。女性の地位向上が叫ばれる大正デモクラシーの時代に、平田氏が「高い教養と豊かな情操を兼ね備えた女性の育成、自立した女性の育成」を目指して設立した学校であり、その原点は三代目の平田史郎氏が学院長を務める現代までしっかりと受け継がれています。
国府台女子学院中学部・高等部で掲げる教育理念も教えていただけますか?
本校の教育の根幹にあるのは、浄土真宗本願寺派に基づく仏教の教えです。創立以来、仏教精神を礎とする『敬虔』『勤労』『高雅』の三大目標を掲げ教育を推進しています。
これらの目標を実現するために我々が最も大切にしているのが、「智慧」と「慈悲」の心です。「智慧」は真理を探究する心、「慈悲」は他者を思いやり慈しむ心を意味し、どちらも仏教の教えに基づいています。
真理を探究する「智慧」を身につけていくためには、多くの知識、教養が必要です。そのため本校で行っている仏教の授業でも、浄土真宗だけでなく世界のさまざまな宗教を学びながら、多様な視点で物事を考える力を養っています。
他者を思いやる「慈悲」の心というのは、そういった幅広い学びの中から身についていくものだと考えています。仏教の授業に限らず、本校の学校生活のあらゆる場面に根付く仏教の精神に触れながら、高い教養と深い思いやりを持った女性に育ってほしい、というのが本校の教育の目指すところです。
生徒の幅広い知識・多様な力を培う教育プログラム
ここからは国府台女子学院中学部・高等部の教育の特徴である「宗教教育」「グローバル教育」「情報リテラシー」について、それぞれの取り組み内容や魅力を詳しく紹介します。
仏教の知識や多様な価値観を学ぶ、中高6年間の宗教教育
今お話にあった御校の宗教教育について、具体的な内容を教えていただけますか?
本校では中学1年生から高校3年生までの6年間、僧籍を持つ教員が担当する仏教の授業を週1回実施しています。
先ほども言った通り、仏教の授業の目的は幅広い教養や考え方を身につけることです。そのため単に仏教を知るだけでなく、浄土真宗の教えから人とのコミュニケーションの取り方を学ぶなど、仏教を基に生きるために必要な力を培う授業を行っているのが特徴です。
またキリスト教やイスラム教などのさまざまな宗教、世界の哲学、神話についても学び、多様な価値観、考え方を知ることもこの授業の目的の1つです。あるテーマについて、仏教の考えだけでなく多角的に考察し、生徒同士で議論するという授業も実施しています。
例えばどういったテーマで議論を行うのでしょうか。
一例として「脳死と臓器移植について」というテーマがあります。
心と体の捉え方というのは、宗教によって異なるんですね。キリスト教的には一般的に心と体は分離できると捉えるため、脳死臓器移植をしても問題ないという考え方になりますが、もちろんそれに対して疑問を持つ考え方もあるわけです。仏教的な考え方に基づくと脳死状態の患者から臓器移植をすることは果たして正しいのか、という議論をしていくことになります。
こういった議論には、明確な結論があるわけではありません。答えを導き出すことよりも、世界のさまざまな価値観を知った上で生徒一人ひとりが「自分だったらどう考えるか」を悩みながら意見を伝えることで、“考える力”を養うことを目的としています。
御校の仏教の授業は、生徒さんの成長にとってどのような意味があると思われますか?
本校の宗教教育は中高の6年間、もっというと小学部から進学した生徒の場合は12年間行われます。そのためまず仏教の知識が増えるというのは、教養を身につける点で大きなポイントです。
また、日本の言葉や風習には仏教由来のものが多いため、仏教を知ることで日本文化への理解が深まるのも、本校の宗教教育ならではの効果といえるでしょう。
仏教の授業に関わらず、日々のあらゆる場面で仏教の教えを聞く機会があるため、相手を思いやり、当たり前のことを当たり前にできる豊かな心が自然と育まれていくという情操面での効果があるのも大切なポイントです。そういう生徒が多いために、学校全体に穏やかな雰囲気が醸成されていると感じます。
少人数制の授業や海外研修で、実践的な英語力と異文化理解の心を育む
御校のグローバル教育の一環である、語学教育や異文化理解の取り組みについて教えてください。
本校は小学部から英語教育を重視し英会話中心の授業を行っています。中学校ではさらに一歩進んで、英文法は1クラスを2〜3グループに分けた十数人の少人数・習熟度別クラスで、きめ細やかな授業を行っています。1クラスを3分割している英会話の授業はネイティブ教員が担当しているため、より実践的な英語力を習得できるのが特徴です。
また本校には中学部から参加できる海外の語学研修の機会も複数あります。その中でも夏季休暇中に2週間行う研修は特に人気が高く、高等部では募集するとすぐ定員が埋まってしまう程です。中学部ではオーストラリア、高等部ではイギリスでの研修を行っています。
海外研修を通じて生徒さんはどのように成長されていると感じますか?
中学部・高等部ともに2週間ホームステイを行い、地元の学校に通うことになります。1日中英語のみを使用する環境に身を置くことで、語学力やコミュニケーション能力を向上させることができます。
とはいえ中学生の場合は英語の力も未熟なため、2週間で完全に意思疎通を図れるようになるのは難しいでしょう。この研修では英語力を飛躍的に伸ばすというよりも、現地の生活様式や文化を知ることで刺激を受け、勉強のモチベーションにつなげてもらえたらと考えています。
情報の取り扱いやクリティカルシンキングを学ぶ「情報リテラシー」
御校の中学部では週に1回情報リテラシーの授業を実施されているとのことですが、こちらはいつ頃から実施されている取り組みなのでしょうか。
情報リテラシーは「読書指導」という形で約50年実施してきた、本校の伝統的な教育活動です。もともとは図書館での学習を中心としていましたが、インターネット上の情報の取り扱いを加えるなど内容を刷新し、2017年に「情報リテラシー」の形にリニューアルしました。
情報リテラシーの授業の具体的な内容を教えてください。
中学1年生では、本の選び方やインターネットでの検索の仕方といった基本的なところからはじめます。中学2年生からは実際に調べ学習やプレゼンテーションを行っていくのですが、あわせて「物事を批判的に見る」視点を身につける授業も行います。
例えばあるポスターを提示して「この題材に対しては、この内容や表現方法で良いのか」と批判的に見るような問いかけを行うんですね。自分だったらどう工夫するかを生徒に考えさせることで、自分なりの考えを持って情報に向き合う力を育んでいきます。
そして、中学3年生ではここまでの学びを踏まえ、自身でテーマを決めプレゼンテーションを行います。3年間のアクティブラーニングを通じて情報収集力、表現力、物事を多角的に見る力などを段階的に培っていくというのが情報リテラシーの内容です。近年重要視されている探究型学習にも必要な力を身につけていくことができます。
学校生活の中で、情報リテラシーの授業が役立っていると感じられる場面はありますか?
私は社会科を担当していますが、社会科で調べ学習をする際などに情報リテラシーの学びが活きていると感じる瞬間は多いです。これまでは情報の引用の仕方などを各教科で伝える必要があったのですが、情報リテラシーの授業を通じて、情報の取り扱い方の基礎が生徒に自然と身についていると感じます。
国府台女子学院中学部・高等部でのスクールライフ
ここからは、宗教行事や施設の特徴など、授業以外の部分の国府台女子学院中学部・高等部のスクールライフの魅力に迫っていきます。
花まつりや奉讃会など、仏教精神や日本文化理解の浸透をはかる多様な仏教行事
仏教の教えがベースにある国府台女子学院中学部・高等部では、仏教関係の行事も多く実施されているのですよね。
はい。年間8回の仏教行事を行っています。仏教行事はその精神を伝えることはもちろん、今にも通じる昔の教えを知り日本文化への理解を深める大切な機会となっています。
仏教行事は主に、学院長の法話と代表生徒による話を聞く形で実施しています。例えば日本に仏教を広めた聖徳太子を称える「聖徳太子奉讃会」という行事では、聖徳太子の残した功績が今にどう生きているかという話を生徒の言葉で述べています。聞いている生徒にとっても、身近な生徒の言葉で伝えられることで、教員や僧侶が話すのとはまた違う説得力を感じられるのではないでしょうか。
▲阿弥陀如来の本尊がある寿光殿(講堂)。2週間に1回の仏教朝礼や仏教行事はここで実施される。(スクロールで写真がご覧いただけます→)
他の仏教行事も、学院長による法話と代表生徒によるお話というプログラムが主なのでしょうか。
基本的にはそうですが、毎年4月に実施されるお釈迦様の誕生を祝う「花まつり」は小学部から高等部までが集結して行う、他とは少し趣の異なる行事です。小学部3年生全員がお稚児さんになって稚児行列を行い、仏像に甘茶をかけたり献灯・献華を行ったりと、行事の中でも華やかな内容となっています。
華道、箏曲、茶道など、日本の伝統文化に触れる取り組みも
御校では仏教行事の他にも、日本文化の理解を促す活動をされていると伺ったのですが、具体的な内容を教えていただけますか?
本校には華道、箏曲、茶道をそれぞれ専門の先生から教わる「専門部」という活動があります。専門部は希望する生徒が月謝を払って週に1回学ぶ、部活動とは異なる形の課外活動です。茶道は高等部のみですが、お茶の作法に加えて和菓子教室、着付教室も経験でき、3年間継続すると許状(※)が取得できるということでとても人気があります。
(※)稽古の各段階ごとに与えられる「許し状」のこと
専門部は、毎年の学院祭で箏曲を発表したり華道の作品を展示したり、茶道に関してはお着物を着て茶会をしたりと、それぞれ日頃のお稽古の成果を披露しています。
また希望制の専門部の活動の他、全校生徒を対象とした茶道教室も実施しています。「思永寮」という畳敷きの部屋がある建物で、お抹茶の点て方や茶道の礼儀作法などを体験できる機会となっています。
御校では日本文化を学ぶ意義というのはどういったところにあるとお考えですか?
実はこの日本文化理解の取り組みは、グローバル教育の一環という位置づけで実施しているものなんです。グローバル社会に対応していくためには、言語教育や異文化理解も重要ですが、まずは自身の生活する日本の文化を知ることが重要です。
そのため仏教の教育に加え、日本の伝統文化に触れる機会を用意しています。日本文化を深く知るからこそ、異文化への理解もより深まっていくのではないかと考えています。
図書館を中心に、生徒にさまざまな居場所のある校舎
▲木の温もりがある国府台女子学院中学部・高等部の校舎内
学校生活を送る上で重要な施設についても伺います。御校は2011年に新校舎を竣工されたとのことですが、どういった特徴がありますか?
校舎全体に木を使った温かみのある空間で、穏やかな雰囲気で過ごせる環境となっています。その中でも、学校の中心に図書館があり、行き帰りに必ず図書館前を通る造りになっているのは本校ならではの特徴です。
図書館は「本屋さんみたいな図書館」というコンセプトで、蔵書も約58,000冊と豊富に取り揃えています。フロアを「ブラウジングエリア」「調べ学習エリア」「本の壁の部屋」という3つに分けており、情報リテラシーの授業も図書館内で実施でき、奥に進むほど静かに学習できるレイアウトとなっています。
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放課後に自習をしたい場合などは、皆さん図書館を利用されるのでしょうか。
図書館の隣にある自習室は飲み物を飲むのも禁止というかなり静かなエリアですが、それ以外にも図書館の閲覧室や教室、カフェテリアなど思い思いの場所で過ごしていますよ。自習室は朝7時から開いているので、受験生は授業前に自習室で勉強をして放課後にまたそこで勉強をする、という生徒も少なくありません。
生徒にさまざまな居場所があり、思い思いの場所で過ごすことができるのは、本校の校舎の魅力の1つだと思います。
▲放課後に思い思いに過ごすことができるカフェテリア
国府台女子学院中学部・高等部からのメッセージ
最後に、国府台女子学院中学部・高等部に興味を持ったお子様や保護者の方に向けてメッセージをお願いします。
国府台女子学院中学部・高等部には、相手の気持ちになって考え、困っている子がいれば助けるという姿勢が当たり前に浸透しています。本校に通う生徒は、どちらかというと穏やかなタイプが多いと感じていますし、生徒の慈悲の心を大切にする本校だからこそ、控えめな性質を持つお子様にも安心して通っていただける環境があると思っています。
もちろん、元気な生徒もたくさんいますよ(笑)。女子校という環境だからこそ、遠慮することなくリーダーシップを発揮できる場でもあります。いろいろな性格のお子様が安心して学校生活を謳歌できる環境があると思っているため、興味を持った方はぜひ国府台女子学院中学部・高等部にお越しいただければと思います。
井上先生、本日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました!
国府台女子学院中学部・高等部の進学実績
国府台女子学院中学部・高等部の2023年度の進学実績をみると、4年制大学への進学率が91.3%と千葉県下でトップクラスの進学率となっており、直近の合格実績には東京大学をはじめとする難関大学が名を連ねています。医療系進学率も11.0%あるなど、一人ひとりの希望に応じた多彩な進路が実現しています。
また高等部にある美術・デザインコースの生徒は多摩美術大学や武蔵野美術大学といった私立有名美術大学の他、東京藝術大学や筑波大学の芸術専門学群といった国立大学にも現役合格を果たしています。高等部の美術・デザインコースへの進学を見越して中学部に入学する生徒も多いそうです。
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■国府台女子学院中学部・高等部進学実績(公式サイト)
https://www.konodai-gs.ac.jp/senior/shingaku/
国府台女子学院中学部・高等部の卒業生からのメッセージ
ここでは、国府台女子学院中学部・高等部の学校案内パンフレットに掲載されている卒業生のメッセージの一部を紹介します。
■国府台女子学院中学部・高等部の学校案内パンフレット
https://www.konodai-gs.ac.jp/junior/jh_pamphlet/
国府台女子学院中学部・高等部全体に穏やかな空気感があることが、卒業生のメッセージからも伝わってきました。宗教教育が進路選択に影響を与えたというメッセージもあり、仏教の教えが学校の雰囲気や生徒の進路に影響を与えていることがうかがえます。
また、同校に寄せられたその他の口コミからは、女子校ならではののびのびとした環境や、図書館をはじめとする施設面の充実を評価する声が多く聞かれました。
国府台女子学院中学部・高等部へのお問い合わせ
運営 | 学校法人平田学園 |
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