画期的なカリキュラムを実践する学校を取り上げる本企画。今回は、東京都世田谷区にある私立校・国士舘中学校を紹介します。
国士舘中学校は、中学校・高等学校の6年間でカリキュラムが組まれた共学の中高一貫校です。中学校の3年間では基礎学力の定着と、知識を活用する力を養います。柔道・剣道・書道といった日本の伝統を尊重しつつ、タブレットの活用や英語研修など時代の流れに沿ったプログラムも導入しています。
2024年4月から校長に就任された渡邊先生と、教頭の神山先生、入試広報担当の河野先生にインタビュー取材し、国士舘中学校が実践するカリキュラムや生徒さんたちの学校生活について伺いました。
この記事の目次
国士舘中学校の教育理念 - 思いやりと礼儀を重視した人材育成
▲インタビューに対応してくださった校長の渡邊隆先生(右)と、教頭の神山優子先生(左)
国士舘中学校の原点は、1917年(大正6年)に柴田徳次郎氏をはじめとする青年有志が創立した、私塾の「国士舘」です。私塾からスタートした国士舘は、100年以上のときを経て中学校から高等学校・総合大学までを備える教育機関に発展しています。
早速、国士舘中学校の教育理念や、生徒たちの雰囲気などを教えていただきましょう。
「心学」と「活学」を柱とした教育方針
まずは、御校の教育理念についてお聞かせください。
本校の教育理念は、「心学」と「活学」が柱になっています。心学は道徳心や正義感、思いやりなど、心を育む教育を表す言葉です。一方の活学は物事をあらゆる角度から考え、社会人として活躍するスキルを指しています。心学・活学の中でも特に重視しているのは、相手への思いやりと礼儀です。
▲校長に就任した渡邊先生は、理科を専門に20年以上、国士舘の教育に携わってきた
カリキュラムでは柔道・剣道の武道教育を必修とし、苦労して乗り越える体験を通して相手を敬う気持ちを育てています。1年生の春より柔道と剣道を行い、2年生の春にいずれかを選択し、中学校の3年間をかけて取り組んでいます。
1年生から2年生、3年生と学年が進むにつれ、少しずつ生徒たちの心が鍛えられていきます。「礼に始まり、礼に終わる」を基本とする武道に取り組み、相手を尊敬する気持ちを学んでほしいと思っています。
今回取材に伺って、生徒の皆さんにしっかりと挨拶をしてもらったことが印象的でした。言葉づかいなども指導されているのでしょうか?
▲男子トイレ。身だしなみを整えられるように鏡を大きくしている
言葉づかいはもちろん、服装・整理整頓などについてもきちんと指導しています。ただ、先生が口うるさく指導するというよりも、先輩の姿を見て正しい言葉づかいや服装、環境などを学んでいますね。
学力が高くても、言葉づかい・服装などが乱れていては人からの信頼は得られないでしょう。生徒たちが社会に出たときに苦労しないように、「自分からあいさつをする」「目上の人には敬語を使う」などの生活面も指導しています。
本校では生徒が職員室に入る際、「ノックをして要件と名前を述べる」といった型を決めているんです。その上で、例えば先生が食事中なら「お食事中失礼します」と言い、相手の状況を確認してから話を始めるように指導しています。
▲教頭の神山先生は、地理・歴史・公民を含めた社会が専門。30年近く国士舘の生徒たちを見守っている
声が小さかったり、伝わらなかったりする場合には、「もう一度言ってみてください」とやり直しをさせます。少し厳しいように感じるかもしれませんが、先生から指摘されることで生徒たちは「相手に伝わるように話す」というコミュニケーションの基本を学んでいくんです。
まずは職員室に入る際の型を身に付け、大学や就職試験の面接といった場面にも応用していってほしいと思っています。
思いやりと仲間意識を育む学校環境
▲生徒たちから人気の「中央円形スペース」では、座って談話を楽しめる
どのような雰囲気の生徒さんが多いでしょうか?
全体的に、思いやりのある生徒が多いと感じています。もちろん入学したばかりのころは友達と少し険悪になったりすることもありますが、学年が進むにつれて自然と仲間意識が芽生えてくるようです。
仲間を大切にする心から、「自分には何ができるか」「相手は何を望んでいるのか」といった思いやりにつながっていくのだと思います。
以前、本校の生徒が通学中、電車で気分が悪くなった人を介抱したことがあります。当然ながらその生徒は学校に遅刻したのですが、居合わせた方が学校に電話し、職員に事情を説明してくださったんです。「困っている人をほうっておけない」という生徒の思いが伝わってきて、頼もしく感じました。
文武両道を実践する国士舘中学校の特色ある教育
国士舘中学校では、授業や行事、クラブ活動などさまざまな場面で文武両道の精神を体現しています。代表的なものについて、引き続きお二方に詳しく教えていただきました!
必修の書道教育と高野山競書大会への参加
▲書道教室
国士舘中学校では文化や礼儀を学んでいく機会が多いと思います。その中でも代表的な取り組みを教えていただけますか?
本校では書道の授業を必修にしていて、生徒たちが日本文化に触れられるようにしています。書道教室の上部にカメラが設置されており、先生の手の動きをモニターに映し出す仕組みです。
▲書道教室の上部にはカメラを設置。先生の手元を写しながら、授業を進める
生徒たちはモニターで筆の動きや書き順などを確認し、書を完成させていきます。もちろん個別で先生が書き方などをアドバイスしますが、手本を見せる場面ではデジタルツールを活用していますよ。
さらに年に2回のペースで、全生徒の授業中に書いた書を「高野山競書大会」に出展しています。高野山競書大会は高野山金剛峯寺が主催、毎日新聞社が後援する展覧会で、2023年度には一般・学生を含めて10万点以上の作品が集まったそうです。
3年生になると、高野山競書大会で賞をもらうケースも少なくありません。受賞者には賞状なども授与されるので、生徒たちの自信や意欲につながっているようです。
伝統行事「寒稽古」とスピーチコンテスト「言道大会」
▲柔道場と剣道場
国士舘中学校の行事についても、お聞かせください。
創立以来の伝統行事である寒稽古(かんげいこ)は特徴的ですね。毎年1月に1週間行っていて、柔道場・剣道場・体育館などを舞台に、7時半から50分ほど武道に取り組んでいます。柔道を選択している場合は、授業と同じように技を掛け合います。剣道なら、素振りや足さばきなどを練習するイメージです。
寒い時期に全校生徒が集まって汗を流すというのは一見厳しくも感じますが、0時間目という感じで気持ちが引き締まりますし、集中力も養えると考えています。
文化系の行事だと、「言道大会(スピーチコンテスト)」を長く続けています。
これは、「自分が周りに伝えたいこと」をテーマに全員が発表内容を考え、5分ほど壇上で話して順位を競うというものです。クラス予選で代表を2人選出し、選ばれた生徒たちは、全校生徒と保護者の前で順番にスピーチをします。
テーマに幅があるので、地元愛や推し活、戦争の恐ろしさ、命の尊さなど、発表内容もさまざまです。プレゼンの要素を含んでいるため、話し方や見せ方などにも自然と目が向いていきます。言道大会でクラスメイトの発表を聞き、「あの子にこんな一面があったんだ」と、生徒同士の理解にもつながっているようです。
柔道・剣道はもちろん、文化系クラブも活躍
▲生徒たちの努力の証・トロフィーやたてが並ぶ
国士舘中学校は柔道部・剣道部などの活躍が注目されていますよね。やはり体育系の部活動が活発なのでしょうか?
もちろん柔道部・剣道部の活躍は目ざましく、数多くの賞を受賞しています。
▲剣道部の賞状
柔道部からは、パリ五輪に内定した斉藤立(たつる)さんやオリンピック金メダリストの鈴木桂治(けいじ)さんを輩出しています。
一方で本校は、吹奏楽部・書道部・理科実験クラブのような文化系の部活動も好成績を残しているんです。部活動においても「文武両道」を実践しているので、スポーツが苦手なお子さまにも活躍の場があります。例えば吹奏楽部だと、中学生で初めて楽器に触れ、数年後には主力メンバーとして活躍している生徒もいます。
御校では、その部活のメンバーでなくても大会などの応援に参加できるそうですね。強豪の部活の活躍が学校全体に伝わり、生徒さんたちの意欲につながっているのではないでしょうか。
国士舘中学校のスクールライフ - 仲間と共に成長する環境
国士舘中学校に入学すると、どのような学校生活が期待できるのでしょうか。校舎内を案内してもらいながら、生徒たちのスクールライフに迫っていきます。
朝学習・放課後学習による基礎学力の定着
▲「K-Improve」は、高等学校東校舎(24館)の1階にある。中学生も16:10から18:30まで利用できる
学習面において、国士舘中学校が力を入れている取り組みを教えていただけますか?
朝学習・放課後学習を活用し、基礎学力を定着させることを重視しています。
本校では毎日、授業が始まる前に小テストを実施します。担当の先生が採点して返却するのですが、満点以外は放課後までに解き直して再提出する決まりです。学校生活の中で、分からない問題をその日のうちに解決する習慣が身に付いていきます。
放課後学習はショートホームルームが終了した後の時間を活用し、予習・復習やその日の宿題など、自分で決めた学習を進めるイメージです。分からないところは先生に個別で質問できるので、家庭学習が苦手な生徒でも勉強に取り組みやすいと思います。本校では30分〜40分の放課後学習を終えてから、部活などに向かう決まりになっています。
▲ブース型の学習スペース。集中できる環境ながら、周りに仲間がいるので孤独感は少ない
放課後学習を終えて「もっと勉強したい」という場合には、「K-Improve」と呼ばれる施設を利用することも可能です。K-Improveには専門のスタッフと相談役のチューターが常駐し、生徒たちの自主学習をサポートします。
入退室の際にIDカードをかざすと、登録いただいた保護者のメールアドレスに通知が届くシステムになっています。放課後のお子さまの行動を把握できるので、保護者からも「帰りが遅いと心配しなくて済む」と好評です。
定期テストの結果がかんばしくなかった場合、補習などをしてもらえるのでしょうか?
もちろんです。本校は「全員に授業内容の半分は理解してほしい」との思いで、定期テストの赤点の基準を50点以下にしています。
赤点の基準は学校ごとに異なり、平均点が60点の場合は30点を赤点とするケースが一般的です。一方、本校では平均点に関係なく50点以下は追試の対象となり、先生がつまずきを確認した後で補習を実施します。「〇日に追試をするから勉強しなさい」と指示するのではなく、補習を通して生徒たちの理解が深まった段階で追試をしています。
1人1台タブレット配布によるICT教育の推進
▲黒板の左側に「電子黒板」を設置。資料などを投影して授業を展開する
御校では1人に1台ずつタブレットが配布されているそうですね。タブレットには、どのようなアプリが入っているのでしょうか?
全生徒に配布するタブレットには、「ロイロノート」「スタディサプリ」などの学習アプリが入っています。ロイロノートは教材の配布から意見の共有、プレゼンまで、授業場面で多く活躍するツールです。スタディサプリはWeb配信の講義で、学校はもちろん、自宅でも好きな講義を選んで視聴できます。
そのほか「情報」の授業では、パソコンを触りながらマウスの扱い方やキーボードタッチを練習するなど、タブレットにはない操作を身に付けていきます。
▲「情報」の授業はパソコン教室で行う
体験重視の理科実験と調理実習
▲理科教室。空気を循環する機械を設置して安全性に配慮
国士舘中学校では「生徒たちの体験」も重視しているそうですね。授業での実践例をお聞かせいただけますか?
特に理科・家庭科で、生徒たちの体験を重視しています。本校の理科は実験の回数が多いのが特徴で、1年生の生徒から「国士舘中学校は実験が多いから楽しい」という声が上がっているほどです。
ただ「楽しかった!」で終わるのではなく、考察の時間を設けて実験を通しての気付き・感想などをノートや資料にまとめます。
▲写真やグラフなどを活用し、実験の過程や気付きを整理する
家庭科の授業ではアイロンかけや調理実習などの体験を通し、生徒たちの生活力を養います。
▲家庭科の授業をする「被服・調理教室」。IHなどできる限り新しい設備をそろえている
調理実習ではただ料理を作るだけではなく、材料の下ごしらえから後片付けまでの作業を全て体験してもらうんです。今まで生徒がやったことのなかった、排水溝の掃除やゴミ捨てといった目立たない家事の存在に気付くケースもあります。
大学の施設「メイプルセンチュリーホール(MCH)」が利用可能
▲国際大会にも使える基準の「温水プール」は飛び込み台付き
同じ敷地内に大学も併設されていますが、共有の施設はありますか?
グラウンドを挟んで反対側にある「メイプルセンチュリーホール(MCH)」は、中学生も使える施設です。地下2階・地上5階建てで、温水プールやフィットネス、アリーナなどが入っています。
1階にはコンビニエンスストアもあり、あんとホイップクリームがおいしい「国士あんぱん」も購入できますよ。
▲さまざまな器具が置かれた「フィットネスジム」
国士舘高等学校・大学への進学状況と進路選択
▲清潔感のある校舎
国士舘中学校を卒業した後は、ほとんどの生徒さんが国士舘高等学校に進みますよね。高等学校の卒業後はいかがでしょうか?
約半分の生徒が国士舘大学に進み、それ以外の生徒は他大学に進学したり、公務員として就職したりとさまざまです。国士舘大学には医療系の学部がないので、看護師になりたい生徒は他大学を選ぶこともあります。また、本校には公務員講座があるので、警察官をはじめとする公務員試験の合格率も高いです。
中学校は2年生から、上智大学・明治大学などの難関私立大学を目指す「選抜クラス」と私立大学に進学する「進学クラス」に分かれます。だからといってそこで進路を決定する必要はないので、担任にも相談しながら大学までの長いスパンでその子に合った道を見つけてほしいと思っています。
以前、中学校3年生時点で進路が決まらず、相談してくれた生徒がいました。私は、「今すぐに進路を決める必要はないから、ひとまず高等学校の選抜クラスに進んでみたら?」とアドバイスしたんです。結果的にその生徒は高等学校3年生の夏休みに将来の道が決まり、笑顔で報告してくれました。
国士舘中学校から受験生へのメッセージ
最後に、ぽてんを読んでくれている保護者さまやお子さまに向けて、メッセージをお願いします。
学校は、社会に出るための土台を築く場所です。楽しいのは大切ですが、楽しいだけでは心は育ちません。さまざまなことにチャレンジし、仲間と一緒に試行錯誤して乗り越える経験を積んでいってほしいと思います。
1人も置いていくことなく、全員で学力を高めていけるのが本校の特徴です。基礎的な学力をしっかりと身に付け、卒業後の進路を選べるようにサポートします。
生徒たちの心を育てるのは、家族以外のコミュニティにおける体験です。勉強と併せて、中学校の3年間では友達との関わりや行事、宿泊学習の中で感じたことを大切にしてほしいと思っています。私たちは、12歳でお預かりしたお子さまの10年後を見据え、社会で活躍できるように指導していきます。お子さまのご入学を教職員一同、楽しみにしています。
お話からも、生徒さんの学力・体力・心を育てる国士舘中学校の教育が伝わってきました。「1人も置いていかない」という御校なら、学力面に不安があるお子さまも孤独感を感じずに済みそうですね。
本日は学校選びに役立つお話を聞かせていただき、ありがとうございました!
生徒の保護者からの感想・口コミ
最後に、国士舘中学校に通う生徒の保護者からの感想をまとめて紹介します。
小テストがあり、学力に不安があったら先生にしっかりと見てもらえます。
ノートの書き方をアドバイスしてくれたり、夏休みの宿題を学校でやらせてくれたりと、面倒見のいい学校です。
駅から徒歩10分ほどで、通学しやすい学校だと思います。国士舘大学が併設されており、大きな図書館や大学の武道場、コンビニなども使えます。
保護者の感想からも、先生たちのきめ細やかな指導がうかがえます。自主学習のサポートが手厚いので、「基礎学力をしっかり身に付けてほしい」という保護者も満足しているようです。
国士舘中学校への問い合わせ先
問い合わせ先 | 国士舘中学校 |
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住所 | 東京都世田谷区若林4-32-1 |
電話番号 | 03-5481-3114(中学校代表) |
公式サイト | https://jhs.kokushikan.ed.jp/ |