この記事では、特徴的な教育に取り組む注目の学校として、東京都品川区の中高一貫校「攻玉社中学校・高等学校」を紹介します。
江戸時代後期の1863年に創立された攻玉社中学校・高等学校は、160年以上の歴史を誇ります。校名の「攻玉」は、中国最古の詩集「詩経」の「他山の石以て玉を攻(みが)くべし」に由来しており、「周りから刺激を受けて自分の長所を伸ばす」という意味があります。
国際教育を重視し、東大合格者を多数輩出する進学校でありながら、1万人以上が訪れる文化祭など学校行事にも力を入れています。また、学業や行事において、生徒が友人や先輩に大きく影響を受けているさまからは、「攻玉」の精神が強く感じられます。
今回は、そんな攻玉社中学校・高等学校の教育理念や授業内容、学校生活について、同校の卒業生でもある教頭兼広報企画部長の髙木基之先生にお話を伺いました!
この記事の目次
攻玉社中学校・高等学校を支える「説明力」「管理力」「失敗力」の三本柱
▲攻玉社中学校・高等学校の教育理念について説明する髙木基之先生
最初に、攻玉社中学校・高等学校の教育理念についてお聞かせいただけますか?
校訓は「誠意・礼譲・質実剛健」です。誠意とは物事に真面目に丁寧に取り組むこと、礼譲とは相手に礼を尽くすこと、質実剛健は飾らず強くたくましくということを意味しています。
さらに、学校が大切にしている「説明力」「管理力」「失敗力」という3つの力があります。
説明力は、物事の内容をしっかり理解して相手に伝える力です。伝える対象が少人数ならコミュニケーション能力、大人数であればプレゼンテーション能力に当たりますね。この力は、生徒たちが将来リーダーシップを発揮していくために必要だと考えています。
管理力は、自分の生活をスケジューリングしていく力のことです。多くの生徒は小学校時代、親や学校の先生、塾講師から言われたことに従う受身の学習をしていたと思うんです。そこから、本校では自発的な学習を促し、時間や体調の管理もできるようにしてもらいます。
最後に失敗力ですが、これはネガティブな言葉ではありません。失敗をした時に得られる学びを最大化して次の行動に活かす力を指しています。この力は教員も特に強く意識していて、生徒たちが挑戦する姿勢を後押ししていこうという雰囲気があります。
「説明力」は、卒論の中間発表や英語スピーチコンテストで鍛える
「説明力」は、どのような場面で培えるのでしょうか?
たとえば、夏休み明けに中学1年では自由研究の発表、中学3年では卒業論文制作の中間発表がありますし、2月には中学の全学年を対象に、英語でスピーチを行う「英語暗誦大会」を開催しています。
卒論の中間発表では、生徒たちの意見交換も行なっているので、そこから得たヒントを論文のブラッシュアップに活かすこともできますね。
ちなみに、卒論ではどのようなテーマが扱われているのでしょうか?
私が印象に残っているテーマであれば、パソコンに詳しい生徒による「ウイルスバスターは本当に全てのウイルスを除去できるのか」、「音楽と作業効率の変化の関係性」などがありました。これらのテーマは学校側が指定することはなく、生徒に自由に決めてもらっています。
生徒の関心が表れた興味深そうなテーマですね。
卒論は12月末に提出してもらい、教員による審査を経て、卒業式で優秀賞・優良賞といった表彰もしていますよ。
試験勉強やケンカを反省する機会を設け、生徒は失敗を糧に
生徒に「失敗力」を身につけてもらうために、学校はどのようなサポートをしているのでしょうか?
本校では定期試験後、成績を返却する際に生徒と担任で面談することで試験勉強の計画を振り返ってもらい、「ここが良くなかったから、次はこう改善していこう」と助言をしています。
また夏休みには、保護者を交えた三者面談も実施しています。ここでは1学期の反省を踏まえて、残りの休み期間や2学期以降をどのように過ごすかを話し合います。これらが、学習面のフォローの例です。
学習面以外にもサポートがあるのですか?
日常生活でいうと、生徒同士のケンカが起きた時に教員が話を聞いて、当事者たちが仲直りの握手をするレベルまで仲裁しています。
また、本校には「行動の記録」という問題が生じた時に記入するシートがあるのですが、仲直りの際にもそのシートに喧嘩の原因や、その時どうすべきだったと思うのか、といったことを記してもらっています。
一つ一つの失敗を反省する機会をしっかりと設け、成長につなげてもらうようにしているのですね。
攻玉社中学校・高等学校のカリキュラム
ここからは、攻玉社中学校・高等学校のクラス編成や授業の特徴についてお話を聞いていきます!
帰国生のみの国際学級と一般学級の生徒が刺激し合うさまに表れる「攻玉」の精神
攻玉社中学校・高等学校は英語教育に力を入れていると伺いましたが、その教育環境にはどのような特徴がございますか?
中学には、帰国生のみで編成されている「国際学級」というクラスがあります。帰国生が日本の学校教育に馴染めるように立ち上げた学級で、創設から今年で33年目となります。
帰国生には、学びやすい環境で力を伸ばしてもらうことはもちろん、英語力や自分の意見を述べる発信力、相手の考えを受け入れる受信力の高さを発揮してもらい、一般学級の生徒に良い影響も与えてほしいという思いがあります。
具体的にどんな場面で影響を与えているのでしょうか?
たとえば、中学の「英語暗誦大会」では、各クラスでの予選を勝ち抜いた一般学級の代表者に、国際学級の生徒がついて、英語でのスピーチを指導します。また国際学級の生徒は大会の司会を務め、モデルスピーチも行います。
国際学級の生徒は英語を流暢に使いこなしますし、プレゼンやジェスチャーの仕方にも秀でています。そこから、一般学級の生徒は大きな刺激を受けています。
逆に、理科や社会など国際学級の生徒が苦手としがちな科目について、一般学級の生徒が教えることもありますよ。
生徒同士が互いを高め合うような雰囲気には、まさに「攻玉」の精神が表れている気がします。国際学級の生徒と一般学級の生徒が交流する機会は多いのですか?
はい。クラス自体は同じフロアにあり、部活も休み時間も学校行事も一緒に過ごすので、垣根は感じません。高校では、国際学級の生徒と一般学級の生徒が完全に合流したクラス編成となります。
教員が料理や筋トレ、写経について教える講座を開講
攻玉社中学校・高等学校ならではの授業がございましたら、お聞かせいただけますか?
中学3年生が水曜日の5、6時間目に、教員一人一人が開く講座から自分で好きなものを選んで受ける「水曜講座」という授業があります。家庭科の教員による「男のための料理教室」、体育の教員による筋トレ講座、国語科の教員による写経講座などがありました。
講座は1年間の前期と後期で分かれていて、生徒は自分の興味のある分野を受講しています。
ちなみに、髙木先生はどんな講座を開講したのですか?
私は数学の教師なので、中3の担任をしていたころは、三角関数などについて詳しく教える数学の講座を開いていました。
多彩な分野の講座がそろっているのですね。先生が楽しく授業をできれば、生徒も面白がって学べるのではないかと感じます。
攻玉社中学校・高等学校のスクールライフ
攻玉社中学校・高等学校は学業だけでなく、学校行事や部活動も盛んです。そんな同校のスクールライフについてもお尋ねしました!
1万人が訪れる文化祭「輝玉祭」を、生徒が主体となって運営
学校行事はどのような雰囲気で開催されているのでしょうか?
毎年1万人以上が来場する「輝玉祭」という文化祭が本校最大のイベントで、1年がかりで準備に取り組む生徒もいるほど熱が入っています。
輝玉祭はどんな出し物が人気なのですか?
本校の三大文化部と呼ばれているレゴ部、鉄道研究部、ガンダム研究部の出し物は、小学生の来場者に特に人気ですね。レゴ部は自前の作品展示などをしていて、鉄道研究部は鉄道模型やジオラマの作り方、ガンダム研究部はガンプラ(※)・ジオラマを製作したりしています。
(※)アニメ「ガンダム」シリーズに登場するロボットなどのプラモデル
▲攻玉社中学校・高等学校のレゴ部が制作した校舎の模型
少年心をくすぐる、男子校ならではの企画だと感じます。
ちなみに、輝玉祭と体育大会は、中高全学年の生徒で実行員会をつくり、生徒が主体となって運営しています。輝玉祭のテーマや展示内容の設定、教室の割り振り、来場者の案内、体育大会の実施種目や配点など、これら全てを生徒が担います。
教員が担うのは、生徒へのアドバイスや体育大会の審判くらいですね。生徒が多くの来場者に対応していくのは、毎年本当に感心します。
運営がうまくいっている要因はどんなところにあると感じますか?
先輩から後輩への継承がうまくなされているからだと感じます。たとえば、輝玉祭には代々受け継がれている運営マニュアルがあります。また、実行委員会には全学年が加わっているので、下級生が上級生の姿を見て学ぶところも大きいと思います。
臨海学校に、耐久歩行大会。男子校らしい古き良き伝統行事も健在
ほかにも、特徴的な学校行事がございましたら教えてください。
海辺の地域で水泳や自然観察に取り組む臨海学校があります。実は、東日本大震災の発生を機に2011年度から休止していたのですが、2023年度に参加者を限定した形で開催することができました。2024年度は正式な学校行事として復活する予定です。
中学生が16kmを、高校生が20kmを歩く「耐久歩行大会」も歴史ある行事の一つです。生徒同士が励まし合うことで友情が芽生えますし、完歩した後の達成感はひとしおのようですね。
男子校らしい「古き良き伝統行事」という感じがします。
ほかにも、本校は宿泊行事が多彩です。入学直後の新入生オリエンテーションでは、泊まりがけで勉強の仕方や学校のルールを学びます。さらに、中1では林間学校、中3ではスキー学校、高1では京都や奈良で歴史・文化に触れる修学旅行がありますよ。
生徒は友人だけでなく、教員とも厚い信頼関係をつくる
ちなみに、髙木先生は攻玉社中学校・高等学校にはどのようなタイプの生徒が多いと感じますか?
特に入学当初はおとなしく控え目で真面目な生徒が多い印象ですが、実際に話してみると自分の考えをしっかりと持っている子どもが多いですね。そして、6年間の学校生活で少しずつ活発になり、自らを表現できるようになっていきます。
また、友人とは6年間を一緒に過ごすので仲が深まりますし、担任の教員は学年を持ち上がっていくので悩みを打ち明けられるような信頼関係も築けます。
髙木先生は在校時代、どんな生徒だったのでしょうか?
私は6年間、同じ先生に数学を教わっていたのですが、その授業が楽しくて数学だけはすごく頑張っていました(笑)。中3、高1で将来の仕事について考えた時には、「数学で生きていくしかない」と思っていましたね。
数学の先生は、どのような先生だったのでしょうか?
いつも私の質問に快く答えてくれましたし、黒板で入試問題の解説もやらせてもらえて、それが楽しかったですね。
先生方の熱心さや生徒との距離の近さは、攻玉社中学校・高等学校に根付いた伝統のように思えます。
攻玉社中学校・高等学校の進路指導・キャリアデザイン
続いて、攻玉社中学校・高等学校の進路指導・キャリアデザインについて伺っていきます!
キャリア教育を通し、生徒は得意科目ではなく将来を見据えて文系理系を選択する
攻玉社中学校・高等学校では、進路指導はどのように行なっているのでしょうか?
中学3年、高校1年の2年間でキャリア教育に力を入れます。本校OBに社会人としての経験談などを語ってもらう「キャリアガイダンス講演会」や、予備校講師の方々らに受験の最新情報を解説してもらう「進路講演会」を開催しています。これらを通して生徒には、科目の得意不得意ではなく、将来就きたい仕事を考えて文系理系の選択をしてもらいます。
高校2年、3年ではそれまでの6クラスから、文系4つ、理系4つの計8クラスにクラス数を増やし、少人数学級にします。かつこの2年間はクラス替えを行わず、同じ教員が担任を担います。
そして、ほとんどの授業を習熟度別に分けて行っているので、生徒一人一人のレベルや志望に沿ったサポートができます。
各生徒に最適な学習環境を整え、将来のキャリア形成を後押ししているのですね。
先輩が記す進学資料と合格体験記は、受験の道しるべに
▲攻玉社中学校・高等学校の卒業生が記した進学資料と合格体験記
受験の対策として実施している独自の取り組みなどはございますか?
本校には、受験を経験した先輩たちが記した進学資料と合格体験記があり、全生徒に配布されます。
進学資料には、先輩が入学してから定期試験でどんな点数を取り、最終的にどの大学を受験して、どこに進学したかが載っています。
冊子では生徒名は伏せているのですが、たとえばクラブ活動に所属していると、誰がどの先輩なのかがなんとなく分かるんです。だから、在校生はその資料を参照することで、自分のリアルな現状が見えてきます。
合格体験記には、先輩の悩みや勉強法、モチベーションの保ち方、使った参考書、通った塾の講座などが綿密に書いてあります。教員があれこれ説明するより説得力のある体験談なので、在校生も必死に読み込んでいますね。
本当に細かなことまで書かれていて、生徒にとって至れり尽くせりですね。
しかも、教員からは「こういったことを書いてくれ」という指示は出していないんですよ。記載の形式も伝える情報も、すべて卒業生が自分で考えて作ってくれているんです。
先輩が後輩を大切に思う気持ちがにじみ出ていますね。
卒業した先輩から直接進路選択のアドバイスを受ける生徒も
卒業生と在校生が直接関わるような機会もあるのでしょうか?
高校2年、3年の生徒が、大学に合格したばかりの先輩から体験談や勉強法を聞く会を4月に開いています。
そこでは、ボランティアで来てくれた何十人もの先輩から直接話が聞けますし、中にはメールアドレスなどを交換して「いつでも質問していいよ」と声をかけている先輩もいます。本当に後輩思いの先輩だなと、毎年感じますね。
直接話を聞くことでモチベーションも高まると同時に、効果的な助言ももらえそうですね。
おっしゃる通り、同じ環境で勉強していた先輩だからこそ、一番良いアドバイスが受けられるんじゃないかと思います。
攻玉社中学校・高等学校からのメッセージ
最後に、攻玉社中学校・高等学校に興味を持った読者に向けてメッセージをいただけますでしょうか?
学校のイメージは、塾の先生から聞いた話や偏差値だけでは分からないことが多いと思います。だから、本校への受験を考えてくださる方は、実際に学校を訪れてみることをお勧めします。
特に、本校の雰囲気が最も伝わるのは、輝玉祭だと思います。そこで生き生きと活動する生徒や教員、学校の雰囲気を感じてもらい、気に入っていただけたのであれば、ぜひ受験を考えてもらえたらと思います。
学校行事に力を入れ、思いやりにあふれた先輩もいるといったお話からは、進学校にとどまらない魅力を感じました。攻玉社中学校・高等学校では、勉強に励むだけでなく、社会で活躍するために活かせる経験が得られるのではないかと思います。本日はありがとうございました!
攻玉社中学校・高等学校の進学実績
攻玉社中学校・高等学校では、2023年度は12人が現役で東京大学に合格し、中には最難関の理科三類に合格した生徒もいました。他にも一橋大学に4人、東京工業大学に7人など、難関国立大学に多くの合格者を輩出しています。
また早稲田大学、慶應大学にそれぞれ80人以上が合格を果たすなど、私立大学への進学実績も豊富です。充実した進路支援体制が、確かな成果につながっているのではないでしょうか。
■近年の大学合格者数(攻玉社中学校・高等学校公式サイト)
https://kogyokusha.ed.jp/education/career/
攻玉社中学校・高等学校卒業生の声
最後に、攻玉社中学校・高等学校の卒業生の声をご紹介します。
友人と切磋琢磨しながら学ぶ雰囲気や、教員の熱心さが感じられたという声がよく見られました。また、個性的で多彩なクラブ活動に魅力を感じていた人が多くいたようでした。
お問い合わせ
問い合わせ先 | 攻玉社中学校・高等学校 |
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電話番号 | 03-3493-0331(代表) |
公式サイト | https://kogyokusha.ed.jp/ |