神戸大学附属中等教育学校の校門

神戸大学附属中等教育学校で、学会にも評価されるハイレベルな探究力が育つ理由|中高一貫校

ぽてん読者の皆さまに、特色ある教育プログラムで注目を集める学校を紹介するこの企画。今回紹介するのは兵庫県神戸市にある共学・国立の中高一貫校「神戸大学附属中等教育学校」です。

SSH(スーパーサイエンススクール)(※)指定校でもある同校は、「サイエンス」を一つの教育の軸として高度な理数教育を行っています。
(※)将来の国際的な科学技術人材を育成することを目的として、文部科学省が科学技術や理科・数学教育を重点的に行う高校を指定する制度のこと。

また、6年一貫の探究学習では、生徒一人ひとりが興味に応じたテーマを設定して課題研究に挑戦。その高いレベルの研究成果は校外でも高く評価され、生徒たちはさまざまな外部表彰も受けています。

今回は、そんな同校の特色ある教育プログラムについて、副校長の髙木先生、数学担当の大木谷(おおきたに)先生、理科担当の樋口先生にお話を伺いました。

「自治・協同・創造」を大切にする神戸大学附属中等教育学校

神戸大学附属中等教育学校の英語の授業風景

編集部

最初に、神戸大学附属中等教育学校の教育方針について教えてください。

髙木先生

本校は、「自治・協同・創造」を校訓に掲げています。

まず、「自治」という言葉のとおり、本校では生徒に委ねられるところは委ねるということを大事にしています。例えば、本校には文化祭、体育祭、音楽祭という三大祭があるのですが、その運営は多くを生徒に委ねて実施しています。

また最近では、感染症対策や気候的な背景、多様性を尊重することも踏まえて制服着用を義務とせず、各自が教育活動にふさわしい服装を判断して着用することにしました。最初はコロナ禍で洗い替えが大変なので特別措置として実施していたのですが、生徒会が中心となって継続実施を検討して、実現に至ったんです。制服の生徒が多い印象ですが、皆さん教育活動にふさわしい身なりを選択して登校しています。

三大祭にしても服装にしても、自治や選択が認められていることとそこに責任が伴っていることは表裏一体です。このことも学びの一つにしてもらいたいです。

編集部

「協同」「創造」という校訓についても象徴する事例があれば教えてください。

髙木先生

特徴的なものとしては、「ASTA」という自治学習コミュニティがあります。これは授業や部活動の枠を超えて、生徒が自主的に集まって仲間と協力して学びを深めるという活動です。

本校はSSH指定校であり理数教育に力を入れているので、当初は科学の甲子園や数学オリンピックを目指すような活動を想定していたのですが、最近では数学班や化學班のほかにも、鉄道班やLGBTQ班など、さまざまな分野の班が立ち上がって活動に取り組んでいます。

それぞれ放課後を中心に自主的に活動を行っていますが、鉄道班なんかは、休日にいろいろなところを訪れるなどの活動も行っているようですよ。

6年一貫の「KP(Kobeプロジェクト)」で探究力を磨く

神戸大学附属中等教育学校の協同ゼミで生徒がディスカッションしている様子

▲協同ゼミは4学年合同で実施。ひとり1台のパソコンを持参し、データの分析、レポートや論文の執筆、スライドやポスターの作成などさまざまな場面で活用する

編集部

神戸大学附属中等教育学校では、探究学習に積極的に取り組んでいらっしゃるとお聞きしています。具体的な取り組み内容についてご紹介いただけますか?

樋口先生

本校では6年間一貫で実施する総合的な学習(探究)の授業を「Kobeポート・インテリジェンス・プロジェクト」と名付けていて、略して「Kobeプロジェクト」あるいは「KP」と呼んでいます。

1・2年生の段階では、課題研究入門として議論の仕方やテーマの見つけ方、結果のまとめ方などの基礎を学びます。具体的には、神戸や兵庫などの身近な地域や学校のことをテーマにして、フィールドワークやグループ研究を実践しています。

3年生以降は、生徒一人ひとりが興味のある研究テーマを個々に設定したうえで、テーマが近い生徒を集めた「協同ゼミ」の授業を通して探究を深めていきます。最終的には、全員が卒業論文を完成させます。目安としては、文字数にして18,000字相当の内容を含むものとされています。

「協同ゼミ」は、3年生から6年生(高校3年生に相当)までの4学年を縦割りで講座を編成しています。6年生をはじめとする上級生たちがこれまで苦労してきた経験をもとに後輩たちにアドバイスするというふうに、授業を引っ張ってくれています。

表彰実績も多数!神戸大学や学会の研究発表会で研究成果を発表

神戸大学附属中等教育学校の生徒が卒業研究の発表を行っている様子

編集部

18,000字ともなると、かなり本格的な論文ですよね。生徒さん達からはどのような声が聞こえてきますか?

樋口先生

やはり「大変だ」という声も聞こえてきますが、大学に進学してからその経験が活きて、「レポートを書くのが得意になった」という生徒は多いですね。

受験への影響を心配される方もいらっしゃるかもしれませんが、卒論は5年生の終わりにかけて、計画的に執筆できるよう段階を追って指導していますので、そのあたりはご安心ください。

編集部

これまで先生方が見てきた生徒の中で、印象的だった研究の事例があればご紹介いただけますか?

樋口先生

最近だと、スズメを愛してやまない生徒が行った「スズメの鳴き声」の研究が面白かったですね。その生徒は「スズメが夜明けに鳴くのにはどのような効果があるのだろう」という、生活体験に基づく素朴な疑問をきっかけにして、実際に鳴き声を録音してソフトを使って解析を行い、統計学を使いつつ鳴き声の意味を探究していました。

編集部

かなり本格的な研究で驚きました。研究成果を発表するような機会はあるのでしょうか?

樋口先生

はい。最近はさまざまな学会が高校生向けのセッションやポスター発表の場を設けているので、それらを積極的に紹介して参加するように促しています。スズメを研究した生徒は鳥類学会で最優秀賞を取りましたし、他にも生態学会で受賞した生徒もいます。

本校としても課題研究の発表会を実施しており、全員が研究の成果をポスターとスライドを用いて発表します。さらに、代表に選出された生徒には神戸大学の講堂に登壇する機会も設けています。

編集部

専門家の前で自分の研究成果を発表する場があるということは、生徒さんたちの将来にも大きな影響を与えそうですね。

樋口先生

学会のような場に出ていくことを怖がる生徒も多いのですが、実際に行った生徒に感想を聞くと、みんな「専門家の先生と有意義な話ができた」と言います。生徒が本気で探究すると私たち教員のレベルをいとも簡単に超えていくので、私たちと論議するよりも専門家と論議する方が話が盛り上がるんですよね。本当に素晴らしいと感じます。

探究活動が大学進学や職業選択に結びつく事例も多数

編集部

学校での探究活動が卒業後の進路につながるようなケースもあるのでしょうか?

大木谷先生

そうですね。過去に受け持った生徒で言えば、蟻に興味を持って夏休みに毎日公園に通って蟻の生態について観察を続けていた生徒は、その興味を活かして理学部の生物学科に進学していきました。他にも、外国の観光客をどうすれば呼び込めるか、ということに興味を持って探究していた生徒は、国際系の大学に進んで、今はANAでCAとして活躍しています。

もちろん、KPが面白そうで探究心の高い生徒ばかりが入学してきているいうわけでもなく、KPをきっかけにしてやりたいことが見つかり、その道に進んでいった生徒もいます。

例えば、当初テーマ設定にとても悩んでいた合唱部の子がいたのですが、「おばあちゃんの介護に直面している」という話を聞いて、私が介護の音楽療法に関する研究を提案したことをきっかけに、KPでその探究を深めていく中でその分野に興味を持ち、卒業後は社会福祉士の資格を取れる学部に進み、今は福祉関係の職に就いています。

編集部

素晴らしいですね。KPでの活動が生徒さん達の将来の可能性を広げているのですね。

大木谷先生

近年は、総合型選抜や学校推薦型選抜などの大学入試の方式が流行ってきています。先ほど述べた生徒はすべて、一般入試ではなく特色選抜で進学しています。特色選抜においては、大学側が「この学部学科で研究してくれる人を募集します」という形で、求める人材を明確に打ち出しているので、それにマッチして進学していく生徒はたくさんいます。

生物に触れる西表研修や地学に触れる九州研修など、校外での学びの機会も充実

神戸大学附属中等教育学校で行われた西表研修の様子

▲地元とは異なる生態系に触れる沖縄・西表島でのフィールドワーク

編集部

神戸大学附属中等教育学校では、KP以外にもさまざまな探究の機会があり、学校を飛び出して学ぶイベントも多くあると伺っています。例えばどのようなイベントがあるのかご紹介いただけますか?

樋口先生

例えば、今年(2024年)は夏季休業中に3年生から5年生の希望者の生徒を対象とした「西表研修」があります。

沖縄の西表島という普段私たちが生活しているところとは全く異なる場所を訪れて、現地の生態系を学ぶことが主な目的です。琉球大学の施設に全面的にお世話になりながらフィールドワークを実施しました。

神戸大学附属中等教育学校の樋口先生が西表研修を引率したときの様子

▲西表研修での樋口先生

樋口先生

それと同時期に、同じく3年生から5年生の希望者を対象として、九州の島原・阿蘇・別府を訪れる「ジオパーク・エコパーク研修」も実施しています。こちらは地球科学に触れることを主目的としていて、火山やその地域に成立する文化についても学びます。

神戸大学附属中等教育学校で行われた島原・阿蘇・別府へのジオパーク・エコパーク研修の様子

▲長崎では雲仙普賢岳を訪れ、その周りの人々の暮らしや災害について学んだ

編集部

生徒さんの興味を深掘りできるような研修の機会が用意されているのですね。実際に目で見て体験することでKPでの探究活動に活かせるような学びも得られそうですね。

神戸大学との連携も強み!大学の設備を使って探究する生徒も

編集部

御校は神戸大学の附属校なので、その点でもメリットはあるのでしょうか。

髙木先生

ありますね。やはり、神戸大学と密に連携して教育活動を行えることは大きいと思います。

例えばKPの活動においても、神戸大学教員に講義をしてもらったり、大学院生に協同ゼミに参加してもらったりなど、多くの協力をいただいています。また、探究の分野によってはより充実した実験設備を使いたいといったケースも出てきますので、そのようなときには大学の施設をお借りすることがあります。

本校はSSHに指定されていて文部科学省から相応の予算をいただいているので校内でも十分に実験や研究はできるのですが、より高度なことに挑戦しようと思ったら大学の方が本格的な設備が整っていますからね。直近では、大学の電子顕微鏡を使って研究を進めている生徒もいましたよ。

編集部

中学生・高校生のうちから大学の学びや設備に触れる機会があるというのはとても素晴らしいですね。神戸に残って神戸大学に進学する生徒も多いのでしょうか?

髙木先生

そうですね。私たちは優秀な学生を育ててたくさん神戸大学に進学させたいと考えておりますし、実際に2023年度には18人が神戸大学に合格したという実績があります。

神戸大学には附属の幼稚園・小学校もございますので、長い生徒は3歳から18歳まで附属校で過ごすことになります。神戸大学への進学というのは、生徒にとって非常に身近な選択肢となっています。

ハイレベルな理数教育での学びが探究活動に活きる

神戸大学附属中等教育学校の授業の風景

▲SSH(スーパーサイエンスハイスクール)指定校でもある神戸大学附属中等教育学校は、低学年のうちからハイレベルな理数教育を実践している

編集部

ほかにも、神戸大学附属中等教育学校のカリキュラムの特徴について教えていただけますか?

髙木先生

これまで探究学習についてお話をしてきましたが、何かを探究するためには、教科科目の内容をきちんと修得するという従来型の学びも不可欠なんですよね。例えば探究学習で実験や観察をするにも知識や素養が必要ですし、それによって得られたデータを深掘りするためにはデータサイエンスの知識が必要です。

私たちはこれらを両輪で回していくことを目指していて、理科の分野では低学年のうちからサイエンスリテラシーという科目設定をして素養を身につけていきますし、数学の分野ではデータサイエンスに力を入れて学習を進めています。

神戸大学附属中等教育学校におけるサイエンスリテラシーの授業風景

▲サイエンスリテラシーの授業では、実験器具を使う練習も行っている

編集部

なるほど。大木谷先生はデータサイエンスの授業を担当されていると伺っていますが、授業ではどのようなことを教えているのでしょうか?

大木谷先生

データサイエンスの授業では、数学Ⅰのデータの分析と数学Bの統計的な推測の単元を合わせた内容を教えています。

基本的には教科書や問題集を使いながら基礎力をつけていくのですが、実際に分析するとなるとそれだけでは補えない部分がでてきます。例えばアンケート調査をして、平均がどれぐらいかを見る、程度であれば中学生でもできます。ですが、そこから一歩踏み込んで考えるために、仮説検定、単回帰分析、重回帰分析などの分析手法を使って、その差に有意差があるかを導き出す、という力も身につけていきます。実際に差があるかどうかの作業は、実際のデータで分析してみることでより実感がわくので、実感に取り組んでみる授業を用意しています。

例えば、一緒にパソコンを操作しながらGoogleスプレッドシートを用いてできる分析に挑戦する時間を作るなど、ICTを利用して工夫しながら授業を行っています。

編集部

髙木先生がおっしゃっていたように、ベースとなるデータサイエンスの知識やスキルがあると、探究学習の深みや説得力も増しそうですね。

樋口先生

そうですね。データサイエンスはまさに直結しますし、理科や国語など、さまざまなことが探究学習に結びついていると考えています。

生徒と話していると、生徒自身がそれに気が付いてくれていると感じることが多いですし、教員としてとても嬉しく思いますね。

神戸大学附属中等教育学校からのメッセージ

神戸大学附属中等教育学校の髙木先生と大木谷先生

▲インタビューに答えてくださった副校長の髙木先生と数学担当の大木谷先生

編集部

最後に、神戸大学附属中等教育学校に興味を持たれた方に向けてメッセージをお願いします。

髙木先生

本校には、生徒一人ひとりが何か興味あることを見つけて真剣に取り組んでいて、それをお互いに認め合うという学校文化があります。つまりそれは、自分のやっていることが認められている感覚と、他人がやっていることを認めることができる素養が生徒たちにあるということです。

冒頭で、服装の選択には各自の自由と責任が伴っているというお話をしましたが、それもこうした学校文化によって成り立っているものだと思っています。そういう環境を求められている方にとっては、本校はとてもマッチすると思いますよ。

本校では教室を飛び出してあちこちを訪れることも多いですし、行事も活発ですし、勉強も大変なので忙しいです。その点はご理解をいただきたいと思いますが、前向きに自分の興味を見つけて頑張れる生徒さんと、6年間を一緒に学んでいけたら嬉しいですね。

大木谷先生

本校に興味を持っていただいた方は、ぜひ例年5月に行われる文化祭にも足を運んでみてください。

生徒が主体となって創りあげるとても大規模な文化祭で、毎年ご好評をいただいています。入学してくれた生徒に本校を選んだ理由を聞いてみると、「文化祭!」と答えてくれる生徒が多いんですよ。

編集部

ありがとうございます。インタビューを通して、御校では生徒一人ひとりがやりたいことを見つけて真剣に取り組んでいるということが伝わってきましたし、お互いを認め合いながら成長していくという文化が素晴らしいと思いました。

文化祭の詳細は例年4月頃に公式サイトに掲載されるそうですので、興味を持たれた方はぜひチェックしてみてくださいね。

本日は、たくさんの貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!

神戸大学附属中等教育学校の進学実績

神戸大学附属中等教育学校の校舎

神戸大学附属中等教育学校では国公立大学へ進学する生徒が年々増えており、2024年の合格実績を見ると6割近い生徒が国立大学に進学しています。東京大学4名(現役2名)、京都大学7名(現役5名)、大阪大学15名(現役14名)など、難関国立大学が名を連ねています。

また、毎年一定数の生徒が神戸大学に進学しているのも特徴です。2024年の実績では18名(現役11名)の生徒が神戸大学に合格しています。

私立大学では、関関同立を中心とした難関大学の合格者を多数輩出。2024年の実績では、関西学院大学41名(現役27名)、関西大学16名(現役8名)、同志社大学18名(現役8名)、立命館大学27名(現役8名)でした。

6年一貫型の探究学習の成果を発揮して、総合型選抜や学校推薦型選抜などを選択して合格する生徒も多いようです。

■神戸大学附属中等教育学校の進学実績(公式サイト)
https://www.edu.kobe-u.ac.jp/kuss-top/curriculum/course/

神戸大学附属中等教育学校の保護者の口コミ

神戸大学附属中等教育学校の生徒が地域の方に校内避難施設を案内している様子

▲FIT(体験的プログラム)の一環で、生徒が地域の方に校内避難施設を案内している様子

ここでは、神戸大学附属中等教育学校に通う生徒の保護者の口コミをご紹介します。

知識の深い先生方がたくさんいて授業の質が高い。

仲間と協力する行事がたくさんある。視野が広げられる経験もたくさんできる。

学業だけでなくスポーツや音楽、クイズなど、他の分野で才能を発揮している生徒もたくさんいる。個性が発揮できる環境があると思う。

自由な校風で、大学のような雰囲気がある。

学校を訪れると男女分け隔てなく仲の良い様子が見られる。とても楽しそうに通っている。

自由な校風の中、生徒たちがのびのびと好きなことに取り組んでいる様子が伝わってきました。

神戸大学附属中等教育学校へのお問い合わせ

運営 兵庫県神戸大学附属中等教育学校
住所 神戸市東灘区住吉山手5丁目11番1号
電話番号 078-811-0232
問い合わせ先 https://www.edu.kobe-u.ac.jp/kuss-top/contact/
公式ページ https://www.edu.kobe-u.ac.jp/kuss-top/

※詳しくは公式ページでご確認ください