名古屋の伝統女子校「金城学院中学校・高等学校」の、未来を見据えた探究・理数教育|中高一貫校

特色ある教育プログラムで注目を集める学校を特集するこの企画。今回は愛知県名古屋市の私立中高一貫女子校「金城学院中学校・高等学校」を紹介します。

金城学院中学校・高等学校は名古屋の三大女子校“SSK”(淑徳・椙山・金城)の1つとして良く知られる、130年超の歴史を持つ伝統校です。

「Dignity(ディグニティ)」と呼ばれる独自の探究学習プログラムを実施しており、金城学院大学など学校の外ともつながりながら多彩な探究学習を体験できるのが特徴です。また、中学校で実施している「理科探究」では高校の範囲も含めた高度な内容を実施しており、生徒の知的好奇心を刺激しながら幅広い理数教育を展開しています。

今回はキリスト教の精神に基づく同校の教育方針や、独自のプログラムを展開する探究学習、理数教育の特徴について、高校研究課課長の柳瀬先生、中学理科担当の堀川先生に詳しくお話を伺いました。

キリスト教に基づき「自分の人生を切り拓いていく」人材を育成

金城学院中学校・高等学校の校舎

編集部

まずは御校の建学の精神を教えてください。

柳瀬先生

金城学院中学校・高等学校では、1899年に本校を創設したアニー・ランドルフ宣教師の志「福音主義キリスト教に基づく、女性への全人教育。」を建学の精神に掲げています。

アニー・ランドルフ宣教師は中国から母国アメリカへの帰国の途中で、明治初期における日本の女性への教育に対する社会的認識の低さを目の当たりにしました。「これからの時代、女性であっても自分の考えを持ち自分の人生を切り拓いていくべきだ」という思いから、アニー・ランドルフ宣教師がキリスト教に基づく全人教育を実施したのが本校のはじまりです。

そんなアニー・ランドルフ宣教師の宗教的な信念、未来への強い意志は現代まで我々に受け継がれています。

建学の精神のもと、本校が現代の教育において重要視しているのが「科学的思考」「表現」「協働」の3つの力です。キリスト教教育を中核に据えながら、すべての教育を通じて「科学的思考」「表現」「協働」の3つの力を育み、社会に参画し主体的に生きる女性を育成していくことを本校の教育方針としています。

新しい時代の教育を見越した、金城学院中学校・高等学校のスクールビジョン

金城学院中学校・高等学校のスクールビジョンを表した図

▲金城学院中学校・高等学校のスクールビジョンを表した図

編集部

金城学院中学校・高等学校では2022年に「社会に開かれた、わたしをつくるアトリエ。」というスクールビジョンを新たに設定されていますが、こちらの設定に至った背景をご説明いただけますか?

柳瀬先生

本校は中部地区最古の女子教育機関としてこの地域の女子教育を牽引してきましたが、時代の変化を受けて、従来の教育の枠組みを超えていかなくてはならないという思いを抱いていました。そこで2022年に、BIOTOPE(ビオトープ)代表の戦略デザイナー・佐宗邦威さんに伴走していただきながら、未来の金城学院のあり方について教員間で検討を行いました。

若手教職員のワークショップなどを経て出た意見を踏まえ、さらにキリスト教の教えも落とし込んでつくったのがこの「社会に開かれた、わたしをつくるアトリエ。」というスクールビジョンです。

編集部

スクールビジョンに込められた意味を教えてください。

柳瀬先生

「わたしをつくるアトリエ」という言葉は、キリスト教では、「"わたし”たち人間は神さまにつくられた存在であり、神さまとの対話の中で新しく生まれる。”つくる”は、わたしがつくられていくことであり、わたしが現状を受け入れて、新しい”わたし”をつくっていくことである。」という考えを前提にしています。生徒たちが、金城学院というアトリエで、自分のあるべき姿、新しい未来の“わたし”を希望を持って描いていこう、という思いをこの言葉に託しています。

またワークショップに参加した若手教職員の多くは、「外に開かれた学校」を未来のあるべき姿として描いていました。学校内で学びが完結することの多かった従来型の教育を変革し、社会とつながる学校をつくり上げていくという方向性を、「社会に開かれた」というキーワードで打ち出しています。

独創的な探究が生まれる、探究学習プログラム「Dignity」

金城学院中学校・高等学校のDignityの発表の様子

▲毎年2月に実施している、講堂でのDignityの発表の様子

編集部

探究学習のテーマについて伺います。金城学院中学校・高等学校ではどのような探究学習プログラムを実施されているのでしょうか。

柳瀬先生

本校では中高の6年間を通じて、主体性や行動力、コミュニケーション、協働など社会で活きる力を培うことを目的とした独自の探究学習プログラム「Dignity(ディグニティ)」を実施しています。探究学習は、まさに生徒一人ひとりが「わたしをつくる」上で重要な教育活動です。

Dignityを本校の教育の中心に据え、生徒が前例のない時代を生き抜いていくために必要な“自分軸”を確立してほしいと思っています。

編集部

Dignityでは、実際に生徒の皆さんからどのような探究が生まれているのでしょうか。

柳瀬先生

Dignityは20年以上の歴史を持つ本校の伝統的な授業ですが、その中でも私の印象に残っているのが「子のつく名前」についての研究です。学校に保存されている卒業アルバムを研究データとし、時代の変遷と「○○子」という名前の変化を調べていくという内容で、着眼点や発想が素晴らしいと感じましたね。

理系の研究も多く、堀川先生の指導のもとで紙飛行機を3,000回以上飛ばし、一番飛ぶ紙飛行機のフォルムを調べた生徒もいます。その生徒は現在、数学の教員として本校に戻ってきているんですよ。その他にも海岸のゴミを活用したアップサイクル商品の開発や、人間の声の高さと首の長さの関係の研究などの取り組みなど、生徒自身の興味・関心に合わせて、毎年独創的な取り組みが生まれています。

自らの価値観を認識し、問いを立てる力を育む「リフレクション」を重視

編集部

2024年度からDignityに『探究スタートアップ』という新しい教材を導入されたとのことですが、こちらはどのような内容なのでしょうか。

柳瀬先生

『探究スタートアップ』は、熊平美香先生が提唱された「リフレクション法」を探究学習に落とし込んだ教材です。リフレクションは経済産業省が示す「人生100年時代の社会人基礎力」の中でも、あらゆるスキルの核となる力と位置付けられています。

編集部

金城学院中学校・高等学校のDignityに『探究スタートアップ』を導入した狙いはどういった点にありますか?

柳瀬先生

探究プロセスはまず課題を発見するところからはじまります。リフレクションによって生徒は、自分の意見、それに紐づく経験、感情、価値観を言語化することができます。リフレクションは、自分事の探究をする一助となります。

大学と連携して行う探究学習で、新たな学びが生まれる

金城学院中学校・高等学校のDignityの授業の様子

▲金城学院大学の学生がファシリテーターに入り授業を進める様子

編集部

金城学院中学校・高等学校のDignityが、スクールビジョンの「わたしをつくる」を体現する教育活動であることが良く分かりました。同じくスクールビジョンの「社会に開かれた」という部分に関して、学校の外と連携した探究学習の機会などもあるのでしょうか。

柳瀬先生

本校では高校2年生から進路別コースに分かれるのですが、その内の金城学院大学への内部推薦コースでは1学期に7回程度、金城学院大学と連携したDignityを行っています。そこでは金城学院大学の学生に授業をファシリテーターとして運営してもらいながら、本校の生徒がテーマに沿ったアイディア出しを行っています。

また金城学院大学とは、Dignityの授業以外でも連携した取り組みを行うことがあります。

例えば2023年度の夏休みには高校生と大学生がチームとなり、名古屋港水族館のミュージアムショップの商品開発を行いました。3日間という短期集中のプログラムではありましたが、チームでアイディアをを出して、プロトタイプをつくるデザイン思考の手法や、値段設定なども含めた商品開発の難しさを学ぶことができる機会になったのではないかと思います。

今年度は高校生だけでなく中学生も含めて金城グッズの商品開発を行うことを予定しています。

金城学院中学校・高等学校の生徒が考えた名古屋港水族館の商品

▲名古屋港ガーデンふ頭に展示されている「南極観測船ふじ」をテーマにしてつくった双六など、さまざまな商品のアイディアが生まれたという

編集部

金城学院大学の学生さんとの交流は、御校の生徒さんにどのような影響を与えていると思われますか?

柳瀬先生

やはり高校生の中にはなかった視点からのアドバイスや、パワーポイントを使った資料づくりなど、大学生だからこその視点、スキルを学べるのは大きいと思います。自分が通う予定の大学の学生と触れ合うことで「大学の学びに興味が湧いた」という感想も多くあがっており、学びのモチベーションにもつながっているようです。

また金城学院大学の生徒にとっても、高校生をリードしてものづくりを行う体験は刺激になっていると思います。異なる校種同士の関わり合いで良い化学反応が生まれる良い機会になっていますね。

WWL事業をはじめ、学校の外での学びの機会も豊富

WWL事業の「高校生国際会議」に参加した金城学院高等学校の生徒の様子

▲WWL事業の「高校生国際会議」に参加した金城学院高等学校の生徒の様子

編集部

金城学院大学以外にも、学校の外とつながる学びの機会はありますか?

柳瀬先生

本校は名古屋大学教育学部附属高等学校が事業拠点校である「ワールド・ワイド・ラーニング(WWL)」コンソーシアムに、事業連携校として参画しています。また2024年度から名古屋大学教育学部附属高等学校がSSH(スーパーサイエンスハイスクール)科学技術人材育成重点枠に採用され、本校もそのコンソーシアム参画校となっています。そういったつながりを活かし、名古屋大学などで行われるさまざまな探究活動への参加機会があるのも特徴となっています。

高度な内容に前向きに挑む、金城学院中学校の「理科探究」

金城学院高等学校の理科探究授業の様子

編集部

続いて理数教育のテーマに移ります。御校の理数教育で特徴的な取り組みをご紹介いただけますでしょうか。

堀川先生

中学3年生を対象に、丸1日かけて行う「理科探究」という特別授業を実施しています。もともと夏休みの特別授業として思考力や表現力など探究に必要な力を伸ばす「思考力ワークショップ」を実施していたのですが、理科や数学の切り口からもそういった内容を実施できないかということで、この理科探究が始まりました。

理科探究は、中学校で学ぶ範囲に限定せず、高校で学ぶような高度な内容の探究を行っているのが特徴です。

テーマの一例として、重力加速度のgやアボガドロ数を求めるというものがあります。例えば、重力加速度は9.8という値が教科書で与えられていますが、ボールを落としたり振り子の周期を使ったりと、自分たちの手で導き出していくというプロセスを大切にしています。実験方法もグループで話し合いながら変えていき、どうしたら誤差が少なくなるのかを議論していました。

編集部

かなり高度な内容だと思いますが、生徒さんたちの反応はいかがでしょうか。

堀川先生

生徒たちには常々「これからの時代は知らない世界に飛び込み、自分で切り開いていく力が必要だ」と伝えています。だからこそ理科探究でも、未知の領域の学びであっても前向きに挑戦してくれているのだと思います。

また理科探究は興味・関心の生徒が集う希望制の特別授業だからこそ、高度な内容を学べることが、かえって生徒らのモチベーションにつながっている面もあるのではないでしょうか。挑戦する=楽しいにつながっています。

ただし、理数系の中でも女子生徒受けの良い宇宙や生物などと違い、自動落下などの物理分野をテーマとしていることで、最初は乗り気でない生徒も少なくありません。

しかし、やっていく内にどんどん理解が深まっていき、結果的に皆がとても楽しみながら実験を進めています。高校数学で習う、三角関数や微分積分の知識を使いこなしている生徒の姿を見て、「中学生だからということに縛られず、いろいろな学びを提供しても理解して楽しんでくれるんだな」と、我々にとっての学びにもなりました。

編集部

理科探究を実施したことで生徒さんに感じる変化などはありますか?

堀川先生

生徒の積極的、主体的な学びの姿勢につながっていると感じます。先ほど柳瀬からも説明があったように、本校は学校外での探究学習の機会も多くなっていますが、中学校で理科探究に参加した生徒の多くは、そういった外部での学びの機会に積極的に参加しています。

また、もともと夏休みの1日のみのプログラムだった理科探究ですが、生徒たちの声を受けて冬にも行うようになり、現在は年2回実施できています。冬は、化学分野の探究を行いました。さらに中学校のときに理科探究を経験した生徒たちが高校の理科教員にかけあって、高校版の理科探究を行う動きも生まれてきています。

生徒たちが学びの機会に向けて自発的に動いていくというのは、まさに本校の教育の目指す姿ですね。

理科や数学の知識を日常と結び付け、前向きな学びにつなげる

編集部

女子校というと理数教育に苦手意識を持つ生徒も多いという印象がありますが、理科探究をはじめ理数教育に前向きに取り組んでもらうために工夫していることはありますか?

堀川先生

ただ知識を教えるだけでなく、それが実生活と結びついたものであることを生徒に伝えるようにしています。

特に理数教育は、実生活と切り離されて考えられがちですよね。「こんなことを学んでも将来役に立たない」と生徒から言われることも少なくありません。しかし「こんな小さな知識も知らない人が、将来いろいろな発想に辿りつくとは思えない」と伝えています。

1つずつ習得した知識がいくつもつながって、将来を切り拓く力につながっていくのだという話をすると、生徒たちも素直に受け入れてくれます。学校に、無駄なことなんて存在しません。

数学や理科がどう日常とつながっているのかという具体例も伝えています。例えば物を落とすというごく単純な現象も、物理や数学と深くつながる学びですよね。ジェットコースターや車、スマートフォンなど、理科や数学の知識を持ってみることで、物の見方も変わってきますし、大げさに言うと、世界の見え方が違ってきます。

そういう身近な日常と結びつけて理科や数学を学ぶ意義を伝えているからこそ、理数教育への興味や前向きな学びの姿勢が生まれているのだと思います。やっぱり、理科は面白いですよ。

金城学院中学校・高等学校からのメッセージ

金城学院高等学校の講堂「榮光館」

▲学院を象徴する施設である金城学院高等学校の講堂「榮光館」は、文化庁有形文化財建造物にも登録されている

編集部

最後に、金城学院中学校・高等学校に興味を持ったお子様や保護者の方に向けてメッセージをお願いします。

柳瀬先生

スクールビジョンのところでもお話したように、金城学院中学校・高等学校では自分の“好き”を見つけ、自分のありたい姿、ビジョンを描けるような教育を目指しています。そしてそのビジョンに対して今自分はどのような状態なのかを振り返るために「リフレクション」も重視しています。

「ビジョンを描きましょう」「リフレクションをしましょう」とただ言われても難しい部分もあると思います。わたしたちはそのためのスキルを身につけられるよう、しっかりサポートしていきます。新しい“わたし”を希望をもって描いていきたい方は、ぜひ本校に入学いただけると嬉しいです。

編集部

柳瀬先生、堀川先生、本日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました!

金城学院中学校・高等学校の進学実績

金城学院中学校・高等学校では高校2年次より、金城学院大学への内部進学を目指すコース、文系コース、理系コースと、進路希望に応じたコースに分かれます。金城学院大学とその他の大学への進学実績は概ね半々となっています。金城学院大学への進学状況をみると、文系学部を中心に、看護学部や薬学部など理系進学も多くなっているのが特徴です。

2024年度の他大学への進学実績をみると、国公立では中部地区の最難関大学である名古屋大学への進学者を輩出しています。また私立大学では愛知県内の難関校「南山大学」に50名近く進学しており、慶應義塾大学や上智大学、東京理科大学といった全国的な難関校にも多くの進学者を輩出しています。

■金城学院中学校・高等学校の進学実績(公式サイト)
https://www.hs.kinjo-u.ac.jp/course/situation/

金城学院中学校・高等学校の卒業生・保護者・在校生の口コミ

金城学院中学校・金城学院高等学校の校門

ここでは、金城学院中学校・高等学校に寄せられた生徒や保護者の方からの口コミを一部抜粋して紹介します。

(在校生)入学するまではお嬢様校のイメージがあったが、生徒も先生も良い意味でユニークな人が多い。女子校ならではの開放的な空気の中で楽しい学校生活を送れる。

(在校生)授業スピードは速いが、先生のサポートが手厚く楽しい授業が多い。

(卒業生)Dignityをはじめ、大切なことを学べる環境。キリスト教教育もしっかりと行われており、毎朝の礼拝を皆大切にしている。

(保護者)駅からは少し遠いが、白壁という名古屋の高級住宅街に立地していることもあり、安心して通学させられる。

(保護者)校舎がとてもきれいで最新式の設備が整っており、学習環境が充実している。

女子校ならではの開放的な空気感や教員の手厚い学習サポートのもと、のびのびと楽しく学校生活を送れるという声が多く聞かれたのが印象的です。Dignityやキリスト教教育など特色ある教育プログラムを評価する声も多く挙がっていました。また特に保護者からは、閑静な住宅街にある立地、図書館をはじめ充実の学習環境が高評価なようです。

金城学院中学校・高等学校へのお問い合わせ

運営 学校法人金城学院
住所 愛知県名古屋市東区白壁3-24-67
電話番号 052-931-0821(中学校)
052-931-6236(高等学校)
問い合わせ・資料請求 https://www.hs.kinjo-u.ac.jp/contact/
公式ページ https://www.hs.kinjo-u.ac.jp/

※詳しくは公式ページでご確認ください