京華女子中学・高等学校の「傾聴力」「共感力」を育む教育|中高一貫校

ぽてんをご覧の皆様に、今注目を集める学校を紹介するこの企画。今回取材したのは、東京都文京区にある女子校の私立中高一貫校「京華女子中学・高等学校」です。

創立者の磯江潤氏が設けた校訓を軸として取り組む「傾聴力」「共感力」を育む独自の教育や、小規模校のメリットを生かした手厚いグローバル教育などを実施。また、2024年度に系列校である京華中学・高等学校(男子校)、京華商業高等学校(共学校)と同じ敷地内へと移転したことで、3校がワンキャンパスに集うことによる学びの相乗効果が期待されています。

今回はそんな同校で広報主任を務める山岡先生に、主に中学校にスポットを当ててお話を伺いました。

傾聴力・共感力を育む「京華女子中学・高等学校」の教育目標

京華女子中学・高等学校の校舎外観

編集部

まずは、京華女子中学・高等学校の校訓についてお聞かせください。

山岡先生

本校の校訓「清・慎・勤」には、自分らしく生きること、思いやりを持つこと、最後までやり遂げることを大切にしてほしいという思いが込められています。この校訓を実践できる女性の育成こそが本校の教育目標です。

校訓の真意をより理解しやすいよう、生徒たちには「傾聴力」「共感力」という言葉に置き換えて伝えています。

相手の話を聴き共感し合う雰囲気があることで、発信する側も間違いや失敗を恐れずに、安心して挑戦ができます。そうした「安心できる環境」があるからこそ、自分らしく振る舞うことや失敗しても再挑戦することを恐れなくなる。このサイクルを繰り返すことで、結果的に、校訓で挙げられている3つの心「清・慎・勤」を体得することにつながると考えています。

本校には、校訓を軸にした教育を実践し続けてきたことで育まれた、温かい雰囲気が漂っていますが、この取り組みを校内の雰囲気やそれに助けられたものだけで終わらせるつもりはありません。生徒たちが社会に出てからも実践できるよう、しっかりと身につけられるように指導しています。

さまざまな教科で“学び合い”を取り入れ「傾聴力」「共感力」の成長を促す

京華女子中学・高等学校のグループワークの授業風景

▲グループワークを通して、より深い学びにつなげます

編集部

御校の校訓は、授業にどのように反映されているのでしょうか?具体的な取り組みについて教えてください。

山岡先生

「傾聴力」「共感力」を養う取り組みの一つとして、“学び合い”(※)形式の授業をさまざまな教科で行っています。また、単なるグループワークではなく、傾聴力の基本となる「聴く姿勢」を育てることに重きを置いて取り組んでいます。
(※)集団の中でお互いの考えや疑問を聴き合い、認め合いながら、その考えを深化・発展させていく学習活動のこと

「きく」という行為には『相手の意見を聴く』『不明な点を質問する(訊く)』の2種類があることを生徒に理解してもらうことから始め、これらを実践しながら授業中に出された課題をグループで協力して考える。そして最終的に、クラス全体で“学び合い”を実践する流れです。

編集部

聴く姿勢を重視した“学び合い”を行うことで、どのような変化が見られるでしょうか。

山岡先生

生徒たちに「聴く姿勢」が生まれることで、クラス全体が安心して発言できる場になります。自分の考えをすぐに発信できる、分からなければすぐに質問できる環境は、結果として自分らしく行動することや相手の気持ちを思いやることを容易にし、難しい課題にもお互いに質問し合って解決していこうとするチャレンジ精神や諦めない心を養えるんです。

編集部

まさに校訓を授業で実践されているのですね。

山岡先生

教員への質問ひとつ取っても、本校ではまずクラスメイトに相談するように促します。次第に「先生に訊く前に、まずはみんなで解決しよう!」と、自分たちで考える姿勢が育まれていきます。

結果として、大学入試で出題されるような課題に対して、中1の生徒たちがハイレベルな回答を導き出した事例も多々あるので、傾聴力や共感力を育むことは学力の向上にも非常に有効だと感じています。

編集部

このような取り組みを行うために、先生方も工夫をされている点があるのでしょうか。

山岡先生

本校では、校訓である「清・慎・勤」を生徒たちに体得してもらうために、カリキュラム・マネジメント(※)を作成しています。
(※)学習効果を最大化させる目的のもと、授業や学校行事を改善するための取り組み。

まずは目標達成のために、各教科の授業内容や単元を生かしてどのような取り組みを行い、どのような能力を育てるのかを、各学年・教科ごとに具体的に定めます。そして、教員同士で内容を共有し、共通認識を持って各教科の授業や活動に取り組みます。

編集部

「傾聴力」や「共感力」は習熟度を把握しづらい能力だと思うのですが、これに対してもなにか工夫をされているのでしょうか。

山岡先生

生徒向けに、各教科で学習到達度を具体的に測るためのルーブリックを作成し、生徒自身が自己評価できるようにしています。例えば国語ならば「傾聴力」「共感力」を「読解力」に置き換え、どのような内容をどの程度達成すれば良いか、具体的に提示しています。これを各教科ごとに準備しているんです。

生徒たちはこのルーブリック集を活用して自己評価を行いながら、身に付けるべき能力への認識を深めています。

「共感力」を育み人間力を高める課題型体験学習“EHD”

京華女子中学・高等学校の新校舎の屋上広場

▲自由に利用できるフリースペースは生徒たちの憩いの場。奥に見える校舎は京華中学・高等学校

編集部

「共感力」を養う取り組みとしては、どのようなものがあるのでしょうか?

山岡先生

EHD(Education for Human Development)という課題型体験学習を行っています。毎週土曜日の1、2限目を使って中学の3年間でさまざまな体験学習を実施しています。人や社会との関わりを通して「共感力」を育み、生徒の人間力を高めることを目指す取り組みです。

また体験学習で難易度の高い取り組みに挑戦することで、できるようになったときの達成感や自信を得ることもできます。時には、自分の無知を自覚したり、逆に「得意」を見つけたりと、「新しい自分」を発見する貴重な機会にもなるのではないでしょうか。

編集部

具体的にはどのような体験学習を行うのでしょうか。

山岡先生

高齢者疑似体験や点訳、手話などのボランティアプログラムや、10講座ほどある講座のなかから自分で選択して参加する「総合ゼミ」などがあります。

総合ゼミには、茶道や華道、箏曲、日本舞踊など日本の伝統文化に触れるものがあり、これらはプロの外部講師を招いて行っています。また他にも、ハンドベルや理科実験、東京大学のLEGO部と協働して行うプログラミングなど、さまざまなジャンルの講座があります。全講座のうち毎年2〜3講座は教員が自分の得意分野を受け持つので、写真、動画制作など、毎年少しずつ内容の異なるものも加わります。

編集部

総合ゼミでは、成果を発表する場はありますか。

山岡先生

9〜10月のEHDで総合ゼミを行い、10月下旬に行われる文化祭でその成果を発表します。

箏曲や日本舞踊、ダンス、ハンドベルは舞台で発表します。他の講座は教室での展示となりますが、模造紙に成果をまとめたポスター発表にとどまらず、「動画製作」の講座では制作した学校紹介のYou Tubeを流したり、プログラミングの講座なら実際にレゴで作った成果物を体験できるようにしたりと、生徒たちは来場者が楽しめるようにそれぞれ発表の仕方を工夫しています。

編集部

ボランティアプログラムは人や社会との関わりが生じる機会もあると思いますが、総合ゼミではどのような関わりがあるのでしょうか?

山岡先生

総合ゼミは学年ごとではなく、中学1〜3年生の縦割りで行っています。3年生が1〜2年生を引っ張る形でリーダーシップを発揮してくれるので、後輩は先輩からさまざまなことを学ぶ機会にもなっています。2年生までは幼さが残る印象だった生徒たちも、3年生になると見違えるようにしっかりと後輩にアドバイスをする姿が見られ、リーダーとしての自覚が育っているのを実感します。

余談ですが、本校の校歌には「学ぶ我等、姉妹(はらから)」と歌うパートがあります。その歌詞の通り、縦割りでの活動では生徒たちの間に姉妹のような関係が築かれるんです。これは、本校のアットホームな雰囲気があってこそ。部活動とはまた違った関わりを通して、生徒たちの共感力を育む取り組みになっていると感じています。

ネイティブ講師による京華女子中学・高等学校のグローバル教育

教育目標でもある「共感力」を高めることで、より深い国際理解を実現する京華女子中学・高等学校のグローバル教育。国内外で実施される全員参加の語学研修をはじめ、実践的な英会話レッスン、英検取得のための講座や多言語学習にも取り組んでいます。

ここからは、京華女子中学・高等学校のグローバル教育について紹介します。

小規模校のメリットを生かした手厚い英語教育

編集部

京華女子中学・高等学校では「グローバル力の育成」にも力を入れているそうですね。内容を詳しく教えてください。

山岡先生

本校では、コミュニケーションツールとしての英語習得を目指しています。そのための主な取り組みは4つで、「習熟度別クラスでの授業実施」「常駐するネイティブ講師3名による実践的な英会話クラス」「中3で行われる全員参加のマレーシア・シンガポールへの語学研修」「英検の取得」です。

英検に関しては、中学卒業時に準2級を取得することを目標にしています。小規模校である強みを生かし、希望する生徒にはネイティブ講師や英語教員によるマンツーマンでの面接対策にも柔軟に対応しています。その甲斐あって、2023年度は半数以上が合格しました。

編集部

一人ひとりに目が行き届くという点でも、小規模校であることは語学習得において大きな利点ですね。

山岡先生

そうですね、生徒の希望にきめ細かに個別対応できるのは本校の規模感だからこそだと思います。英検対策においても、生徒が質問に来た流れで「面接対策もしておこう!」と、自然にマンツーマンレッスンがはじまるような気軽な雰囲気なので、生徒も利用しやすいと思います。

編集部

その他にも、英語学習における独自の取り組みはあるでしょうか?

山岡先生

高校では、ネイティブ講師によるマンツーマン英会話レッスンを週に1度行っています。各自が所有しているタブレットで行うオンラインレッスンのため、生徒たちにとっては会話せざるを得ない状況です。この取り組みを通して英語を話すことへの抵抗がなくなるようで、生徒たちからもとても好評です。

国際理解を目的として、選択必修科目に中国語とフランス語

編集部

京華女子中学・高等学校では英語以外の外国語も必修としているそうですが、その理由を教えてください。

山岡先生

国際理解を目的としたグローバル教育の一環として、英語以外の言語や文化にも触れてもらいたいという目的からです。中学の3年間は、中国語とフランス語のどちらかを選択して学びます。

週に1度行われる授業は各言語のネイティブ講師が担当しており、授業のある日は常駐しているので、生徒たちは校内にいながらにしてグローバルな環境に身を置いていることになります。

編集部

生徒たちの変化として、感じられることはありますか?

山岡先生

最近はインバウンド需要が高まり、街中で中国語などを聞く機会が増えていますが、自分が学んでいる言語が日常生活のなかでふと聞こえてくることは、生徒たちにとって良い刺激にもなっているようです。

英語以外の言語に触れることが国際的な視野を広げることにつながっているようで、本校の生徒は諸外国に対して偏見がないように感じますね。

共学校の雰囲気も味わえる「京華女子中学・高等学校」のスクールライフ

京華女子中学・高等学校の新校舎の掲示物

▲キャンパス内の新校舎でスタートした2024年度

2024年度から京華女子中学・高等学校が新校舎に移転したことで、同じ京華学園の系列校である京華中学・高等学校(男子中高一貫校)と京華商業高等学校(共学校)の3校がワンキャンパスに集約されました。

ここでは、創立125周年の節目を迎えた京華学園の「三校ワンキャンパス構想」の実現によって、京華女子中学・高等学校では今後どのようなことが期待できるのか、お話を伺いました。

女子校ながら「性別による違い」を考えるきっかけも

京華女子中学・高等学校の3校合同で行った部活動紹介

▲新入生に向けて行われる部活動紹介。写真は演劇部で、同部は3校合同クラブとして長い歴史を持つ。

編集部

まずは、3校がワンキャンパスになったことによる「変化」について教えてください。

山岡先生

これまで3校合同で行ってきた行事やクラブ活動については、物理的な距離が近くなったことで、できることが増えたり、よりスケールの大きなことを実現できる可能性が高まったと感じています。

キャンパス内で日常的に男子生徒とすれ違うような環境なので、共学校では自然と認識するであろう「性別による違い」についても考えるきっかけになれば良いと思っています。

編集部

以前から3校合同で行われていた取り組みとは、具体的にどのような内容でしょうか?

山岡先生

吹奏楽部や演劇部、剣道部、柔道部など一部の部活動やクラブ活動は、これまでも3校合同で活動を行ってきました。また、京華祭(文化祭)についても、京華祭を運営する生徒会は3校で会議を重ね、協力しながら取り組んできました。

また、英検2級以上を受検する生徒に向けた「英検上級合格講座」も3校合同です。参加人数が増えることで講座の内容を充実させることができますし、同じ目標に向かう仲間が増えることで生徒たちにも良い刺激になるためです。

同性だけで過ごす安心感など「女子校の良さ」はそのままに

編集部

逆に、今後も変わらないのはどのような点でしょうか。

山岡先生

当然のことながら、授業や課外活動はこれまで通り別々に行います。異性の目を気にせず物事に取り組める環境は変わらないため、同性だけで過ごす安心感といった「女子校の良さ」はしっかりと残していきます。

特に体育祭は、男子生徒がいないことでリーダーシップが取りやすく、女子特有の連帯感も手伝って非常に盛り上がります。より良い体育祭を開催できるように自主的に朝練習を行ったり、クラスTシャツを制作したり。ときにはぶつかり合うこともあるのですが、同性同士だからこそ忌憚ない意見を交わしあえる雰囲気があります。

編集部

女子校と共学校のいいところを取り入れた教育を実現できそうですね。

山岡先生

女子校の良さと同時に、大学進学や社会に出てからの環境の変化にお子さんが戸惑わないかを心配される保護者の方もいらっしゃるので、そういった不安を解消する一助にもなると思っています。

京華女子中学・高等学校からのメッセージ

京華女子中学・高等学校の広報担当の山岡先生

▲インタビューに応じてくださった山岡先生は社会科を担当

編集部

最後にこの記事を読んでいらっしゃる読者のみなさんにメッセージをお願いします。

山岡先生

本校には、相手の話に耳を傾け、ともに考える姿勢を大切にし、挑戦することや失敗することに対して温かく見守る風土があります。実際に、生徒たちに学校のいいところを聞くと、必ず「クラスの雰囲気がいい」という意見が上位に入ってくることからも、居心地の良さを感じてくれていることが分かります。

そういった点からも、「自分に自信が持てないけれど、成長したい」と感じているお子さんにはとてもいい環境だと思います。

失敗を恐れたり、人前で間違えることを恥ずかしく感じるなど、特に女の子には多い性質なのではないかと思いますが、チャレンジすることを怖がっていては成長の機会を逃してしまいます。ぜひ本校で、たくさんの挑戦と失敗を繰り返しながら、それらを糧に大きく成長する好循環のなかに身を置いてください。

編集部

学力はもちろん、「共感力」や「グローバル力」といった、これからの社会に必要不可欠な力を系統立てて確実に身に付けることができる授業や体験学習などの取り組みが充実していると感じました。女子校ならではの良さを存分に生かしながら、男子校・共学校と同じキャンパスで過ごすことで、また違った学びを得ることができそうです。

本日はありがとうございました。

京華女子中学・高等学校の進学実績

2023年度は9割近い生徒が大学へ進学。GMARCHをはじめとする有名私立大学への進学が目立ちます。また、指定校推薦枠も充実しており、国内の4年生大学への枠は800名以上。海外大学進学協定校推薦制度を利用することで、アメリカやオーストラリアなどに約70校ある協定校への進学も選択できます。

◾️近年の大学合格者数(京華女子中学・高等学校公式サイト)
https://www.keika-g.ed.jp/career/result/

京華女子中学・高等学校の保護者・在校生の声

ここでは、京華女子中学・高等学校に通うお子様をもつ保護者や卒業生、在校生の声をお届けします。

(在校生)職員室は入室しやすい雰囲気で、気軽に質問できるのでありがたいです。週に1度行われる放課後のフォローアップ講習は指名制ですが、勉強したいときに利用することもできるので助かっています。

(在校生)制服が可愛くてお気に入り。いろいろなパターンで着回せるので毎日迷うくらいです。2021年度からはスラックスも選択できるようになったのでスカートが苦手な生徒にも好評です。

(保護者)新校舎への移転を機に、冷暖房完備の体育館や明るいラウンジ、屋上運動場ができるなど施設が一新されました。

(保護者)1学年2クラス、1クラス20人ほどの小規模校なこともあってか、先生と生徒の仲が良いです。担任以外の先生も娘の名前と顔を把握してくださっていて安心です。

これらの意見からは、小規模校ならではの手厚さやアットホームさが伺えます。また新校舎へと移転したことでの施設の充実を歓迎する声も聞かれました。

京華女子中学・高等学校へのお問い合わせ

運営 京華女子中学・高等学校
住所 東京都文京区白山5-6-6
電話番号 03-3946-4434
問い合わせ先 https://www.keika-g.ed.jp/contact/
公式ページ https://www.keika-g.ed.jp/

※詳しくは公式ページでご確認ください