この記事では、特色ある教育に取り組む注目の学校として、大阪府高槻市にある共学の私立小学校「関西大学初等部」をご紹介します。
関西大学の附属校として初中高の12年一貫教育を行う同校は、思考力の育成を重視しており、考えるためのスキルを習得する独自の「ミューズ学習」を教育のあらゆる場面に取り入れています。
また、海外の小学生とのオンライン交流や、6年生全員が経験する海外修学旅行など、英語力や国際感覚を養うグローバル教育にも力を入れています。
今回は、そんな関西大学初等部の教育の特色について、校長の長戸先生、研究主任の松本先生、国際理解(総合)主任の石井先生に詳しくお話を伺いました。
この記事の目次
関西大学初等部は「考動」を校訓に、自ら考え行動する人を育てる
▲「実学」を重視する同校。バナナをテーマにした探究学習では、実際に栽培し、自分の手で触って体験した。
はじめに、関西大学初等部の教育理念についてお聞かせください。
本校は、系列大学である関西大学と同じ教育理念「学の実化(じつげ)」を掲げています。
この理念は、学問のための学問ではなく実生活に生きる学問を目指す「学理と実際との調和」、そして「国際的精神の涵養」、「外国語学習の必要」、「体育の奨励」という合わせて4つの柱からなります。
「学の実化」に基づく関西大学初等部の教育には、どのような特色がありますか?
本校では、「知・徳・体」に相当する「確かな学力」、「情感豊かな心」、「健やかな体」に加えて、これからの子どもたちが生きる時代に必要な「国際理解力」の4つをベースに、高い倫理感と品格を有する人材の育成を目指しています。
さらに、自ら考え行動することを意味する「考動 -学びを深め志高く-」を校訓に、「感じ・考え・挑戦する子」へと成長できるようなカリキュラムを展開しています。
関西大学初等部の「ミューズ学習」と、考える力を意識した探究学習
「考動」を掲げる関西大学初等部は、思考力の育成には「考えるための技(思考スキル)」の習得がまず必要だと考え、考え方を鍛える独自の手法「ミューズ学習」を取り入れています。
ここからは、同校のミューズ学習の特色や、具体的な事例について詳しく伺っていきます。
考えるための6つのスキルを身につける「ミューズ学習」
▲考えるスキルのひとつ「比較」では、隣の席の友達と自分を比べて共通点や相違点を見つける。
まず、関西大学初等部が採用する「ミューズ学習」についてご説明いただけますか?
ミューズ学習は「考え方を考える学習」です。考える力が大切だとよく言われますが、ただ「よく考えなさい」と言われても、何をどう考えれば良いのかイメージできない子どももたくさんいます。
そこで、「考える」という曖昧な活動を「比較する・分類する・つなげる・組み立てる・多面的にみる・広げる」という6つの思考スキルに分類し、それぞれに合ったシンキングツールを用いて学んでいます。
▲「比較する」「分類する」などに分けられたシンキングツール。
例えば「比較する」の場合、どのようにそのスキルを学ぶのでしょうか?
シンキングツールとしては、円の一部が重なる「ベン図」を用いて、相違点や共通点の概念を学びます。
例えば、担任の先生と隣のクラスの先生を比べて「男の先生と女の先生」といった性別の違いや、「2人とも眼鏡をかけている」といった共通点を見つけます。ほかにも、自分と友達を比べて手の大きさや背の高さの違いに気づいたり、消しゴムと鉛筆を比べたりします。
このような活動を通じて「比べるというのはこういうことなんだ」と子どもたちに実感してもらいます。
▲2人の先生の同じ点・異なる点を表にして比較したときの様子。
考えるための6つのスキルを身につけることで、子どもたちにはどのような成長が見られますか?
論理的思考力はもちろんですが、比較したり多面的にみたりすることは「本当にこれでいいのかな?」、「もっと良い考え方があるのではないか?」というクリティカルシンキング(批判的思考)につながります。
違いを受け入れ合って協力することが求められるこれからの時代においては、自説にこだわってほかの意見を排除するのではなく、批判的思考で時に自分のアイディアを疑い、より良いアイディアを柔軟に取り入れることが必要です。
ニュージーランドを多面的に調べ、修学旅行先として校長に提案
▲考える力を伸ばす教育についてお話しいただいた松本先生。
実際の授業やプログラムでは、考える力を鍛えるミューズ学習をどのように取り入れていますか?
一例として、コロナ禍で途絶えていた6年生の海外修学旅行の行き先を児童が校長先生に提案した取り組みをご紹介させてください。
2024年の修学旅行の行き先を児童と一生に考えた結果、自然豊かなニュージーランドに行きたいということでまとまりました。
しかし、学校にニュージーランド行きを認めてもらうためには、校長先生を説得する必要があります。そのため、ニュージーランドを多面的に調べて素晴らしさをまとめ、校長先生に提案することにしました。
ニュージーランドのどのようなことについて調べ、素晴らしさを見出していったのでしょうか?
ニュージーランドの歴史やマオリの文化、エシカル先進国であることなどをインターネットで調べ、魅力を見つけていきました。
ミューズ学習で多面的に物事を考えたり発想を広げたりする訓練を日常的に行っているので、教員が思い付かないような視点も生まれ、感心させられました。
教科を横断して「ごんぎつね」の問いにアプローチする
ほかにも「考える力」を意識した取り組みがあればご紹介ください。
探究の質を上げるために、問いをもつこと、そしてその問いに教科横断的にアプローチすることを大切にしています。
例えば、国語の授業で生まれた問いであっても、それが算数的要素をもつ問いであれば算数の授業でも取り上げます。
これは、多面的に学びを深化させることにつながります。さらに、例えば国語が苦手で数学が得意な子の場合、国語で生まれた問いが算数的な面をもつことを知ることで国語への苦手意識が薄れるという効果も期待できます。
教科横断的な学習の具体例もご紹介いただけますか?
小学4年生の国語で学習する「ごんぎつね」を活用した教科横断プロジェクトでは、ごんぎつねの心情を心理学の観点から解釈したり、ホンドギツネの生態について知ったり、作品に描かれた昔の風景から自然との共存を考えたりと、教科を横断してさまざまな角度から生まれた問いに挑みました。
算数的な角度からは、「兵十のかげぼうしをふみふみ」という一文から、ごんぎつねがどのくらいの距離をとって兵十の後を追っていたのかを考えました。
とても難しそうな問いですが、答えは見つかるのでしょうか?
まず、物語の中からヒントになりそうなものを探します。例えば、本には舞台が秋の満月の夜だということが書かれています。すると、満月に照らされた人の影の長さがわかれば兵十とごんぎつねの距離を推測できることに気づきます。
ただ、影の長さは人の身長によるので、インターネットなどで江戸時代の男性の平均身長を調べます。このようにして、少しずつ答えに近づいていきます。
▲国語の教科書の一節をもとに、リサーチと計算で答えを導き出していく興味深い学びを展開している。
学習に取り組む子どもの様子はいかがでしたか?
行き詰まっている子がいたら、周りの子どもが助けてあげながら楽しく学んでいました。1年生の時からミューズ学習に慣れ親しんでいるので、教員が手取り足取りサポートしなくても子ども同士で自律的に考えることができるのだと思います。
6年生が防災活動の成果をまとめた本を出版!
▲防災をテーマにしたイベントの様子。
関西大学初等部では、児童が探究学習の成果を本にまとめ出版したと伺いました。
はい。2018年の大阪府北部地震を1年生の時に経験した6年生が、防災に関する2年間の探究活動「災害被害≒0プロジェクト」の成果をまとめ、2024年2月に出版しました。
防災グッズの準備方法や非常食の調理・実食リポートなど、児童自らが経験した防災活動の報告が小学生の目線でまとめられています。
成果発表にはさまざまな方法がありますが、なぜ出版という形をとったのでしょうか?
彼らが5年生の時、防災をテーマにしたイベントを企画したのですが、イベントでは限られた地域の限られた人数にしか伝わらないという気づきがありました。
ひとりでも多くの人を災害から救うために、より効果的な方法はないだろうかと考えた結果、全国の人に読んでもらえる本にしようということになりました。出版の費用はクラウドファンディングで集めました。
▲『やってみた!いのちを守る64の防災活動:小学生の体験レポート+専門家のアドバイス』(さくら社)
本に対する反応はいかがでしたか?
出版社を探している時は「子どもが書いたレポートを読む人はいない」と言われたこともありましたが、出版してみると子どもの視点で防災を検証するというユニークな取り組みを評価いただくことが多く、多くのメディアにも取り上げていただきました。この本には、日本で暮らす外国籍の方々の防災に関する「災害時要配慮者」の章もあります。
◾️「やってみた! いのちを守る64の防災活動」(さくら社)
https://www.sakura-sha.jp/book/jyugyo/978-4908983726/
国際交流の機会がたくさん!関西大学初等部のグローバル教育
これからの時代に必要な「国際理解力」を教育目標のひとつに掲げる関西大学初等部では、英語教育はもちろん、国際交流や海外への修学旅行など、国際感覚を養うプログラムが充実しています。
ここからは、同校のグローバル教育の特色について詳しくご紹介します。
1年生から英語がスタート。毎朝15分間ネイティブの先生と英会話
▲関西大学初等部のグローバル教育についてお話しいただいた石井先生。
関西大学初等部では、1年生から英語学習がスタートするそうですね。
本校は朝の15分間を使って学習や読書に取り組む「モジュール学習」を取り入れており、1年生と2年生はこの時間を使って毎日ネイティブの先生と英語を学んでいます。
ネイティブの先生とどのようなコミュニケーションを行うのでしょうか?
英語の歌を歌ったり、絵本の読み聞かせをしてもらったりするほか、「Thank you」や「You are welcome」といった簡単な英会話にも挑戦します。
入学したばかりの児童の中には難しいと感じる人もいるのではないでしょうか?
本校にはインターナショナル校出身の児童もおり、彼らがロールモデルとなってほかの児童を引っ張ってくれます。そのため、スタートの英語力に違いがあったとしても着実に伸びていきます。
オンライン国際交流で異文化理解を進め、国際協力について考える
▲東京にあるネパール人学校と交流する子ども。
国際交流の機会としては、どのようなものがありますか?
2年生になると海外の小学生とのオンライン交流が始まります。提携を結ぶ韓国の小学校の児童と年3回ほど交流を行い、英語で伝統衣装を紹介し合ったり、自分の国の遊びを教え合って実際に遊んだりしながらお互いの国への理解を深めています。
最近の交流では、本校の児童がけん玉などの遊びを教え、韓国の子どもからは「トゥホ」という、筒に矢を投げ入れる遊びを教えてもらいました。
3年生以上はどのような国際交流がありますか?
3年生は台湾の小学生とのオンライン交流を行っています。2023年に行った交流では、ミューズ学習を取り入れながらお互いの国の蝶のサイズや色彩を比較して違いに驚いたり、地震が多いという共通点を見つけ出したりしました。
4年生以降もカンボジアの小学校やフィリピンの孤児院やインドの福祉学校など、さまざまな国の児童と交流しています。
学年が上がるにつれてコミュニケーションの内容や交流の狙いは変化していくのでしょうか?
中学年までは相手国の文化を理解し自国の文化を見つめ直すことをテーマにしており、自国と他国の文化の違いや共通点を知ることが主な目的です。
高学年になると、それに加えて国際協力というテーマが加わります。ただの文化交流ではなく、相手とのコミュニケーションを通じて、「日本人である自分は相手の国にどのような貢献ができるか」を考えます。
例えば、カンボジアの子どもとの交流を通じて現地の教育の現状を知った5年生は、その後カンボジアのことを知ってもらうフェスタを企画し、バザーで得た収益金でカンボジアの小学校にiPadを贈り、そのiPadを用いてオンライン会議を実施することができました。
自分にできる国際貢献を考え、実践することを通じて、真の国際人へと成長していくのですね。
6年生は全員が海外修学旅行へ!渡航前からオンラインで関係づくりも
6年生になると海外修学旅行があると伺いました。
海外修学旅行は学んだ英語力を実践に活かす場と位置づけており、2024年度は6年生全員がニュージーランドへ行き、約1週間ホームステイしながら現地の学校に通います。
この修学旅行では、出発の何ヶ月も前から現地の学校の子どもとオンラインでつながり、自己紹介などをしながら親睦を深めています。
渡航前から関係づくりを行う狙いはなんですか?
修学旅行中は日本とニュージーランドの児童がペアになって遊ぶ企画もあるので、オンライン交流を何度か行いあらかじめ友達になっておくことで、実際に会った時にスムーズに打ち解けて楽しく遊ぶことができます。
出発前に現地の子どもに渡すプレゼントづくりを行うのですが、お友達の喜ぶ顔を思い浮かべながら夢中で取り組んでいますよ。
関西大学の学生から海外での経験について聞く機会も
関西大学は初中高大連携を推進していますが、グローバル教育において大学と連携していることはありますか?
本校には関西大学の総合情報学部の学生や国際部が学習のサポートをしてくれる仕組みがあり、その際、学生が自身の国際協力などの経験を話してくれることがとても役立ちます。
先輩から経験談を聞くことは、国際協力をより身近に捉える機会になりそうですね。
その通りです。カンボジアに行ったことがある先輩が来た時は、子どもたちは興味津々でたくさんの質問をしていました。
経験者から現地での活動内容や感想を聞くことで「自分も将来こんな活動をしてみたい」という意欲につながっていると感じます。
関西大学初等部からのメッセージ
▲関西大学初等部の理念についてお話しいただいた長戸校長。
最後に記事をご覧の保護者や子どもさんにメッセージをお願いします。
体験を通して問いを見つけ、それを解決する学習を大切にする本校は、子どもたちが学ぶ楽しさを感じながら過ごせる場所だと思います。
ICTの活用にも力を入れており、Appleの製品を革新的に活用している学校「Apple Distinguished School」の認定校になっています。iPad YouTuberとして知られる平岡雄太さんも本校を訪れ、iPadを使った授業の様子を見て驚かれていました。動画をご覧いただくと、子どもたちがICTを上手に活用しながら楽しく学んでいることをお感じいただけると思います。
◾️【Apple認定】iPadを活用しまくりな、この小学校がスゴい!(平岡雄太さんのYouTube)
https://www.youtube.com/watch?v=2MnrowjGfBE
関西大学初等部でしかできない教育に取り組み、日本一の学校をめざして挑戦し続けたいと考えていますので、ご興味をお持ちいただけましたらお気軽にお問い合わせください。
本日は、ありがとうございました!
関西大学初等部の進学実績
関西大学初等部は中等部・高等部と同じキャンパスにあるため、日常的に“未来の自分”の姿をイメージしながら過ごすことができます。
また、インタビューでも紹介いただいたように、関西大学の学生が初等部の授業に協力するなど、大学の各学部との連携した教育も行われています。
関西大学では初等部から高等部までの12年一貫教育を基本としており、卒業後は条件を満たせば関西大学中等部に進学することができます。
関西大学初等部の保護者の口コミ
最後に、関西大学初等部に通う児童の保護者の声を紹介します。
口コミでは、ミューズ学習をはじめとする同校の考え抜かれた教育や、教員の熱意を高く評価する声が目立ちました。
関西大学初等部へのお問い合わせ
運営 | 学校法人関西大学 |
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住所 | 大阪府高槻市白梅町7-1 |
電話番号 | 072-684-4312 |
公式ページ | https://www.kansai-u.ac.jp/elementary/ |