横浜国立大学教育学部 附属鎌倉中学校の“たくましさ”を育成する探究学習とは

中学受験を検討中の方に向け、学校選びに役立つ情報をお届けする本企画。この記事では、横浜国立大学教育学部附属鎌倉中学校の取り組みについてご紹介します。

1947年に創立された同校は小学校と中学校が同じ敷地内にあり、9年間を見通した一貫教育を実践しています。小学校・中学校で共通して実施される探究学習「LIFE(ライフ)」では、地域住民や自治体関係者、横浜国立大学の教授など、「第一線で活躍する人」との交流を通して生徒たちの探究心・問題解決能力を養います

今回は、青木校長先生と押味副校長先生、渡邊教頭先生から、同校の教育目標や探究学習「LIFE(ライフ)」の実践例、横浜国立大学との連携などについて詳しくお話を伺いました。

鎌倉中学校の教育目標は「たくましく生きる子どもの育成」

「横浜国立大学教育学部 附属鎌倉中学校」の3年生の探究学習LIFEの授業風景

▲自分で解決する“たくましさ”を養うため探究学習に注力する同校

編集部

最初に、「横浜国立大学教育学部 附属鎌倉中学校」が掲げる教育目標についてお聞かせください。

青木校長

本校の教育目標は「自立に向けてたくましく生きる」で、同じ敷地内にある小学校と共通した目標です。小学1年生から中学3年生の9年間を通し、子どもたちの「困難に立ち向かう力」を養います。

横浜国立大学の附属校である本校は、大学教員と神奈川県教育委員会の指導主事、本校職員が連携して研究を実践しているのが特徴です。「未来を生きる子どもたちには何が必要か」という共同研究の結果を全ての教科に取り入れ、時代を見据えた学校教育にアップデートし続けています。

編集部

教育目標の実現に向けて、どのような取り組みに力を入れていますか?

青木校長

特に力を入れているのは、「先生から教わって覚える授業」から「自ら学び、活かしていく授業」への転換です。AIが発展する現代、私たち大人が学校で得てきたような知識は、1人1台のICT端末が教えてくれるでしょう。これからは、答えのない中で自分の知恵を振り絞ったり、友人と議論しながら学びを深めていく力が求められます。

だからこそ私たちは、生徒たちが自ら課題を見つけ、試行錯誤しながら解決策を見出す力を育てるため、探究学習に力を入れています。

地域・企業・大学と連携!鎌倉中学校の探究学習「LIFE」

「横浜国立大学教育学部 附属鎌倉中学校」の1年生たちの市役所訪問風景

▲1年生の市役所訪問

編集部

先ほどのお話にもありましたが、鎌倉中学校は小学校と共通で探究学習「LIFE(ライフ)」を実践されていますよね。中学校におけるLIFEについて、詳しく教えていただけますか?

青木校長

総合的な学習の時間「LIFE」は各教科の中心的な役割で、1年生は週に1時間ほど、2年生以上は週に2時間ほどのペースで実施しています。基本的にグループ活動となっており、3〜6人ずつの生徒たちで調べたい内容を設定し、探究を進めていくのが特徴です。

本やインターネットの情報だけでなく、地域の方々と話をして学びを深めてほしいという思いがあり、「LIFE」では特に、「実際に現場で活動している方々」との交流を大切にしています。

私たち教員はサポート役に回るので、活動内容や調査方法もグループのメンバーで相談して決めます。校内で探究を進めるのはもちろん、校外に出てインタビューや実地調査をするグループもありますね。

地域の課題に目を向けて「自分たちにできること」を考える

「LIFE」の作業工程を示した掲示物

編集部

学年ごとの探究内容について、教えていただけますか?

押味副校長

探究内容は年度によって異なりますが、3年間を通して鎌倉を中心とした地域に目を向け、自分たちなりの提案を考えていく流れです。

1年生は、クラスで「やりたいことに取り組み、仲間との共生を通して達成感を感じよう」をテーマに、鎌倉市役所等に協力していただいて鎌倉市の魅力と課題を学びます。2023年度の1年生は、鎌倉市を住みやすくする工夫を話し合ったそうです。

2年生は「やりたいことに取り組み、自己実現を目指そう」というテーマで、1年生で培った学びを活かして興味のある内容を掘り下げました。3年生では「自己実現を目指す探究活動」をテーマに、自ら叶えたいやってみたいことをみつけ、目的の達成に向けて実践をつみ重ねます。

編集部

3年生たちからは、どのような提案があったのでしょうか?

押味副校長

2023年度は、「鎌倉市のオーバーツーリズム(※)」に目を向けたあるグループから、ゴミ箱を設置する提案が見られました。そのグループは、オーバーツーリズムの現状を知るために観光客が多い「小町通り」で街頭インタビューをしたそうです。
(※)オーバーツーリズム:人気観光地であるが故のマイナス影響のこと。具体的には、ゴミのポイ捨て、混雑、渋滞など。

地域の方々から直接話を伺う中で「ゴミの多さ」に課題があることに気付き、観光客の興味を引く「鎌倉彫(※)」のゴミ箱を置くアイデアを思いついたと聞いています。
(※)鎌倉彫:カツラ・イチョウなどの木材を成形し、文様を彫って漆を塗った工芸品。鎌倉市やその周辺地域で作られている

生徒たちの提案は鎌倉市長に伝わり、地域住民と観光客が快適に過ごせるまちづくりを考える機会になりました。

編集部

校外へ出ることもあるのですね。他には校外でどのような活動をするのでしょうか?

押味副校長

例えばスポーツに関心を持つグループは、東京都の渋谷区にある「オリンピック記念青少年総合センター」を訪れ、トレーニングをしている方々から話を聞いていました。生徒たちの興味・関心を尊重しているので、鎌倉市以外の地域に出向くことも可能です。

なお、校外での活動については安全面を考慮し、保護者の方々にも見守りで協力してもらっています。

横浜国立大学の研究室を訪問し、専門家からより深いアドバイスをもらうことも

「横浜国立大学教育学部 附属鎌倉中学校」の生徒たちが大学の研究室を訪問している様子

▲大学の先生の前で、探究したい内容をプレゼンして助言をもらう

編集部

現在(2024年度)は、どのような内容を探究しているのでしょうか?

押味副校長

ゴミ問題やフードロス、犬・猫の殺処分、ジェンダーなどさまざまな内容を探究しています。本校はユネスコスクール(※)に指定されていることもあり、このような環境・平和に関する内容を選ぶグループが多いですね。
(※)ユネスコの平和理念を実現するためのネットワーク「ASPnet(Associated Schools Network)」に加盟した学校

テーマが幅広い上に専門性が求められるため、附属校である強みを活かして横浜国立大学の先生に協力していただいています。2024年度は中学2年生のグループが「研究室訪問」と称して大学に出向き、担当の先生から探究内容に関するアドバイスをもらっているところです。35〜36のグループに分かれ、各グループに1人の先生が担当してくれています。

編集部

どのような先生が担当してくださっているのですか?

押味副校長

例えば、地震について調べているグループには、地学を研究している先生というように、探究内容に詳しい先生に担当を依頼します。第一線で研究を続ける先生方の話は、書籍にはない内容も多く、生徒たちの意欲につながっているようです。

「横浜国立大学教育学部 附属鎌倉中学校」の生徒たちが大学の研究室を訪問している様子

▲大学の研究室を訪問する2年生たち

県外からも教育関係者が来校。規模が大きく度胸が鍛えられる発表会

横浜国立大学教育学部 附属鎌倉中学校の「LIFE」で議論する生徒たち

編集部

探究活動の成果を発表する機会はありますか?

渡邊教頭

もちろんです。本校は毎年12月の上旬ごろに、「LIFE」の発表会を実施します。グループごとに発表形態は異なりますが、パソコンなどを活用して発表用のスライドを作成し、全校生徒や保護者、教員の前でプレゼンを披露するのが主流です。

本校は研究校として注目されていて、2023年度には神奈川県外からも多くの教育関係者が来校しました。規模が大きい分、人前で発表する度胸も鍛えられると思いますよ。

編集部

探究学習「LIFE」を実施してみて、生徒のみなさんの反応はいかがでしょうか?

押味副校長

探究心の強い生徒が多いため、意欲的に活動していますね。興味・関心からスタートした探究が仲間との話し合いを通して広がり、発表会でひとつの成果となるのは自信につながるようです。

LIFEはこれからの時代に必要な「自分で課題を決め、探究しながら解決策を見出す」サイクルを体験できる活動です。今すぐに結果が現れなくても、10年後、20年後に本校で培った力が花開いてくると信じています。

横浜国立大学教育学部 附属鎌倉中学校の生徒が探究学習「LIFE」で議論する様子

▲「LIFE」の発表会の様子を教室で視聴する生徒たち

横浜国立大学教育学部附属鎌倉中学校からのメッセージ

「横浜国立大学教育学部 附属鎌倉中学校」の校長先生・副校長先生・教頭先生

▲インタビューに対応してくださった青木 弘校長先生・押味 亨副校長先生・渡邊 憲一教頭先生(左から)

編集部

中学校受験を検討しているお子さん・保護者に向け、メッセージをお願いします。

青木校長

鎌倉中学校は、附属の横浜国立大学や神奈川県と連携し、生徒たちの未来を見据えた教育を真摯に研究しています。小学校と中学校が連携をとり、一貫した教育目標のもとで子どもたちの資質・能力を育んでいます。そのため、附属鎌倉小学校からの内部進学の生徒が多いのですが、生徒同士がコミュニケーションを取り合う授業なども意図的に工夫していますので、中学校からの入学でも、きっとすぐに打ち解けられると思いますよ。

本校が力を入れている探究学習「LIFE」では、できる限り専門家の方々との出会いを通して様々な考え方を学び、困難を生き抜くたくましさを育てます。2014年ごろには、修学旅行先の京都で、歌舞伎の隈取(くまどり)(※)の画家さんから話を聞く機会を設けたこともあるんです。
(※)歌舞伎の世界で、人物の性格や表情を強調するために施す化粧法

隈取の画家として一流と呼ばれる方で、最初に生徒たちが「ぜひ歌舞伎について話していただきたい」とお願いしたときには丁重に断られました。ただ、どうしても諦めきれなかった生徒たちは、歌舞伎について一生懸命研究した資料を添えて気持ちを伝えたんです。

最終的には「そんなに歌舞伎のことを調べてくれたんですね。ぜひ会いましょう」と言っていただき、生徒たちと一流の画家さんの出会いが実現しました。今後も、できるだけ専門的な知見や技をお持ちの方々に出会う機会を増やしていきたいと思っています。

学力にプラスして、課題を見つける力や、試行錯誤しながら解決策を導く力を身に付けたい方は、ぜひ本校にお越しください。教職員一同、お子さんのご入学を楽しみにしています。

編集部

隈取の画家さんのエピソードからも、先生方の生徒さんへの愛情が伝わってきました。中学生のうちに一流の方々の考えに触れると、人生観が変わりそうですね。

本日は、学校選びに役立つお話を聞かせていただき、ありがとうございました!

横浜国立大学教育学部附属鎌倉中学校の保護者からの口コミ

「横浜国立大学教育学部 附属鎌倉中学校」の校名を刻んだ石碑

最後に、横浜国立大学教育学部附属鎌倉中学校の保護者から寄せられた口コミを紹介します。

アットホームな学校で、小学校からの内部進学者と中学校からの入学者の分け隔てが少ない。

研究熱心な先生方が多く、偏差値70以上の高校に進学する生徒もいる。

生徒会で校則の見直しをするなど、学校を改善しようとする姿が見られる。

保護者の口コミからも、先生方の指導力の高さや、生徒たちの良好な人間関係がうかがえます。中学校から進学したお子さんの保護者からは、「外部進学で心配していたが、すぐに慣れて楽しく通っている」という口コミもいくつか見られました。

横浜国立大学教育学部附属鎌倉中学校へのお問い合わせ

「横浜国立大学教育学部 附属鎌倉中学校」の外観

運営 横浜国立大学 教育学部
住所 神奈川県鎌倉市雪ノ下3丁目5-10
電話番号 0467-22-2033
問い合わせ先 問い合わせフォーム:https://kamachu.ynu.ac.jp/contact
公式サイト https://kamachu.ynu.ac.jp/

※詳しくは公式ページでご確認ください