オリジナリティ溢れるカリキュラムや特色ある施設で生徒を迎える「注目の学校」を紹介する本企画。今回は、愛知県蒲郡市にある私立男子校「学校法人海陽学園 海陽中等教育学校」を紹介します。
同校は、トヨタ自動車・JR東海・中部電力を中心とした80社以上の企業のサポートを得て2006年4月に開校した、“全寮制”の中高一貫校です。次世代のリーダーの育成を合言葉に、前期課程3年間・後期課程3年間の合計6年間で、社会での活躍を想定して基礎学力とともに必要な能力を養います。
6学年に及ぶ全生徒が仲間と24時間をともにし、昼も夜も余すことなく学べる環境は海陽学園ならではです。本記事では、カリキュラムや気になる寮生活について西村校長にインタビューし、教育において力を注いでいるポイントや特色を教えていただきました。
この記事の目次
全寮制の「海陽学園」が目指す教育とは
▲インタビューに応じてくださった西村校長
まずは海陽学園の教育方針について教えてください。貴校は全国でも珍しい全寮制の中高一貫校ですが、その背景にはどのような教育方針があるのでしょうか。
当学園は、日本を牽引できるような人材の不足を解決すべく、多くの企業の賛同を得て立ち上げた中等教育学校です。次世代のリーダーの育成を目指し、「全人教育」を実践しています。
全人教育では、学力や教養とともに『社会で活躍するための能力』を育み、生徒が自身の将来に向け“志”を醸成することを目指しています。そのために、協調性や社会性、道徳心や価値観の違いについて学べる“全寮制”は欠かせない要素です。
日本では全寮制の学校は希少ですが、イギリスのパブリックスクールやアメリカのプレップスクールのように海外のリーダー養成校は全寮制を採用しており、何百年という伝統のある確立された教育スタイルです。全寮制だからこそ、我々が目指す全人教育を成し得ると考えています。
社会で活躍するための能力とは、どのようなスキルを想定しているのでしょうか。
学力が高いから、難関大学を卒業したから、有名企業に就職したからと言って社会で成功するとはかぎりません。社会で活躍するには、学力とは別に「対人能力」「自己管理能力」「問題解決能力」といった非認知能力を伸ばすことが必要です。また、自ら変わり続け、学び続けられることも必要な要素だと考えています。
このような非認知能力は、中学・高校での経験や身につけたことがベースとなります。ですから、この時期にどのような生活を送り、どんな体験をし、それによって何をどれだけ身につけられたかは非常に重要です。
学校に通っている時間だけでは、生徒に与えられる体験には限界があります。ですが全寮制であれば、年間365日のうち2/3は学校や寮生活で行動をともにしますから、学力に限らない必要な教育が可能なのです。
海陽学園の生徒がおくる寮生活
▲学年問わず生徒同士が交流できる食堂棟
ここからは気になる寮生活について詳しく教えてください。
海陽学園では、寮のことを「ハウス」と呼んでいます。ハウスは一般的に想像される寮のような、ただ生徒が寝起きをする施設ではありません。多様な価値観にふれ、社会性を磨く場として位置付けています。
当学園は2024年度で開校して19年目という新しい学校ですが、ハウスは500年以上の歴史を有するイギリス名門パブリックスクール「イートン校」の寮を中心とした学校作りの本質を参考に、日本に合わせた独自の在り方を模索し、実現しています。
ハウスの存在により、中高6年間のすべてが学びの時間です。集団で生活することで自然発生的にリーダーが生まれ、リーダーシップとともに規律・自律・絆が育まれ全人教育につながると考えております。
寮生活の良さは、なにより「楽しいこと!」
▲食堂で楽しそうに食事をする生徒たち
全寮制の最大のメリットはどのような点にあるとお考えでしょうか。
ハウスは我々が目指す教育になくてはならない存在ですが、なによりのメリットは「楽しいこと」だと思っています。ハウスは生徒同士で一緒に暮らす「家」のようなものです。勉強の場であると同時に、みんなで高め合う楽しい場所でもあります。学生時代の泊りがけの修学旅行や体験教室ってとても楽しいですよね。それが毎日続くものだとイメージしてもらえれば分かりやすいのではないでしょうか。
特に中学・高校生の男子は、年齢的にも家族との距離感やコミュニケーションがうまく取りにくくなります。当学園では年間100日は自宅で過ごしてもらうのですが、親御さんからも「時々家に帰ってくるぐらいのほうがコミュニケーションがスムーズで良い」や「いろんな意味で本音を語り合える」「普段離れているからこそ、子どもの成長を感じ取れる」といった声があり、子どもと離れて寂しいという感情は一時的なもののようです。
入学するまで家事をやった経験のない生徒にとって、寮での生活は大変ではないでしょうか?
もちろん入学してすぐの頃は大変でしょう。何もかもが初めてのことばかりですから。家事だけでなく、実は「時間通りの行動」「自分の身の回りの準備」でさえも、できない生徒が多いんです。このような基礎的な部分から身につけていきます。
早い生徒では1年生の夏休み頃までにほとんどのことが出来るようになりますし、遅くとも1年生のうちには身についていきます。
寮生活では、気の合わない生徒とも共同生活することになると思いますが、このあたりはいかがでしょうか。
実は、社会人になった卒業生に「寮生活で一番良かったこと」を聞くと、その答えでもっとも多いのが『気の合わない子や、考え方がまったく違う子たちと一緒にいろんなことに取り組んで失敗したこと』なんです。
当時は嫌な思いをし悩みもしたと思いますが、その経験が糧となり社会人になって活きる機会があります。そんな時に実感するのでしょう。我々は、このような種まきを6年間継続的に行っていきたいと考えています。
寮生活のサポートは、ともに寮で過ごす大手企業の若手社員が務める
海陽学園の寮生活について、他とは違う特徴はあるでしょうか?
当学園のオリジナルにして世界で唯一の、ハウスマスター・フロアマスター制度の存在です。ハウスでは、生徒は社会人として活躍する大人から指導・助言を受けながら生活を送っており、その中核を担うのがハウスマスターとフロアマスターです。
特にフロアマスターは、生徒一人ひとりに寄り添い、生活をともにしながら、自身の学生経験や社会経験を伝え、成長をサポートする重要な存在です。生徒とあまり変わらない年代の男性ばかりなので、頼れる身近なお兄さんでもあります。
通常の暮らしでは接点が少ない年代のフロアマスターとの出会いや暮らしは、教師や保護者とは異なる目線や価値観を持っているため、広い世界へ目を向けるキッカケを増やし、自然な流れで社会人としての心得の習得を促しています。
フロアマスターを務めるのはどのような方々なのでしょうか?
トヨタ自動車、JR東海、中部電力、東京海上日動、アイシン、日立製作所、伊藤園など、各業界において第一線で名を馳せる企業から派遣された、豊富な経歴を持つ若手社員が務めており、6年間でのべ約120人がその役割を担っています。
職種は企業の採用担当やシステムエンジニア、保険の営業マンや建設会社の現場マネジメントなど多岐に渡り、社会人野球の選手に務めていただいたこともありますよ。
寮は完全個室!管理栄養士がつくる食事で栄養バランスもよし
▲海陽学園の「海のラウンジ」からは、三河湾を望む美しい景観が見られる
ハウスでの生活や、設備についても教えてください。
当学園内には12棟のハウスがあり、各棟で生徒約60名、ハウスマスター1名、フロアマスター3名が生活しています。ハウスから校舎までは遠くても5分ほどです。
ハウスは1人1部屋の完全個室で、各フロアに洗面やシャワー、夜間学習に最適なプライベートラウンジを完備しています。1階の共有スペースには大浴場や洗濯室、仲間と雑談やテレビ鑑賞ができるパブリックラウンジもあります。
生徒たちが食事をとるのは、各ハウスとは別の場所にある食堂棟です。三河湾を一望できる開放的な空間が自慢で、管理栄養士による栄養バランスのとれた食事が日替わりで提供されます。ちなみに寮や学園内の自動販売機・売店での支払いは、すべて顔認証であらかじめ設定されたクレジットカードでの決済となっています。生徒の不必要なお金の所有を減らし、トラブルを予防する目的です。
また、日々の暮らしを見守り支えるケアサポーターを配備しており、シーツ交換や洋服の繕い、郵便物の受け渡しや、アイロンのかけ方など細かな家事を教えるといった手助けを行っています。
▲ハウスのイベント「流しそうめん」。そうめんを見逃すまいと見つめる生徒たちの様子が微笑ましい
生徒は、授業が休みの日はどのように過ごしているのでしょうか。
土曜日の午後や日曜日といった授業がない日は、部活動の公式戦やコンテストといった課外活動や、特別講義などに参加しています。行事がない日はハウスイベントを開催することもあります。
ハウスイベントは、フロアマスターから社会人目線の助言を得ながら、生徒自らが企画・運営する行事です。バーベキューや流しそうめん、餅つきといったレクリエーションをはじめ、同じハウスで過ごすメンバー全員での旅行を企画することもあり、会計や手配も生徒が担います。ハウスイベントは、楽しみながら企画力や応用力を養い、生徒同士で高め合える絶好の機会です。
海陽学園ならではの独自カリキュラム
海陽学園の特徴的なカリキュラムについて教えてください。
当学園では、段階的に能力を伸ばせるよう、1・2年生、3・4年生、5・6年生に分けてカリキュラムを組んでいるのが特徴です。
1・2年生は基礎学力の習得と学習習慣の確立を目標に、平日は7時間、土曜日は4時間授業で各教科の基礎を学びます。特色あるカリキュラムとしては、作文やプレゼンの能力を身につける「国語表現」や、毎日2時間の英語と数学を中心とした「夜間学習」などが挙げられるでしょう。
3・4年生では、演習時間を重視し応用力を鍛え、得意分野を伸ばすことを目標としています。3年生の途中から一部教科は高等学校の教育課程へシフトし、社会科の授業では長期休暇を利用した調査・探究活動が組み込まれるなど、学習内容が高度になり、計画性が問われる課題も登場するのが特徴です。
5・6年生では文系・理系、発展・標準と文理別学力別にクラスを分け、進路を考えたきめ細かい指導を行います。高等学校の教育課程を終え次第、大学入試を見越した演習中心の授業となり、教科によっては演習授業や夏期講習、冬期講習への参加でより発展的な学習も可能です。
▲海陽学園には本格的な天体望遠鏡の設備も!生徒たちの興味・関心が広がる
第一線で活躍する専門家による特別講義やキャリア講座
海陽学園ならではという独自のプログラムがあれば教えてください。
当学園は、多くの企業から賛同を得て設立しました。その強みを活かしてキャリア教育に力を入れています。その一つが、第一線で活躍する専門家を招いた「特別講義」です。これまでに、トヨタ自動車株式会社代表取締役会長の豊田章男先生や、2001年にノーベル化学賞を受賞された名古屋大学特別教授の野依良治先生といった名立たるリーダーに教壇に上っていただきました。
生徒たちが知らない世界への興味を深く掘り下げ、向上心を刺激する素晴らしい機会となっております。
世界のトップからの講演のほかに、社会で活躍するさまざまな専門家のお話を聞く機会もあるのでしょうか?
多岐に渡る職業の専門家に自身のキャリアについて語っていただく「キャリア講座」も開講しています。たとえばこれまでに、弁護士、エコノミスト、ゲームクリエイターといった方々にお越しいただきました。生徒の進路選択に大きなヒントを与えてくれる講座です。
より身近なプログラムとして、教員や各ハウスのフロアマスターが開講する「ソサイエティ」という教養講座もあります。「フォトグラファーソサイエティ」「マンガの登場人物から学ぶリーダー論サイエティ」「筋トレソサイエティ」といったオリジナリティ溢れるコンテンツが魅力です。
講義や講座のほかにも、特徴的なプログラムがあればお聞かせください。
フロアマスターの派遣元企業をはじめとした、賛同企業の協力による工場見学や企業訪問も当学園ならではです。中学生に当たる前期生は工場見学、高校生にあたる後期生は企業訪問に参加します。
ビジネスの最前線で活躍する方とのふれあいや教室で学べない実体験を通して、社会に出ること、働くことの意義について理解を深め、具体的な進路を描くために役立てます。
「イートン校」との交流も!国際交流や英語教育にも力をいれている
キャリア教育以外にも、特色ある授業があれば教えてください。
当学園では、世界で活躍できる人材を育てることを目標に、国際交流を活発に行っています。希望する生徒は、全寮制のモデルとした名門パブリックスクール「イートン校」との交流、イギリスのサマースクールへの参加、海外留学体験など、海外プログラムへの参加も可能です。
国内でも数々の国際交流の場を設けており、全寮制を活用してイングリッシュサマーキャンプを開催したり、ギャップイヤー生(※)を受け入れたりしております。
(※)ギャップイヤー生とは:見分を広げるため、大学入学や就職前にインターバル期間として留学やインターンシップに参加する学生のこと
また、「Advanced English Class」も特色ある授業です。選抜制のクラスで、英語をネイティブと同レベルで扱えることを目指しています。
通学時間ゼロの全寮制だからこそ、学校行事や部活動にも打ち込める
▲海陽学園は、部活や同好会といった課外活動にしっかりと打ち込める環境が整っている
学校行事や部活動についても教えてください。
海陽学園は、全寮制であることで通学時間のロスがありません。これにより、なにごとにも納得いくまでとことん仲間や挑戦に向き合える環境です。そのため、学校行事や部活動での生徒たちの活躍にも目を見張るものがあります。
学校行事の中でも特にスポーツフェスタ(体育祭)は、男子校ならではの盛り上がりがあります。実行委員会を中心に、生徒一人ひとりが主体となって創り上げたイベントは圧巻の迫力です。
▲スポーツフェスタと海陽祭の様子。生徒たちの熱が入った様子がうかがえる
また部活動では、2023年度にロボット部が韓国・平昌(ピョンチャン)で開催されたロボットサッカーの国際大会「ロボカップアジアパシフィックサッカー」セカンダリー部門にて優勝という好成績をおさめました。ほかにも、科学の甲子園全国大会総合第3位、日本フラッグフットボール選手権中学生部門第3位など、数々の部活動・同好会が華々しい成果を上げております。
スポーツフェスタは一般のお客様にもご来場いただけるため、当学園に興味がある学生さん、保護者の方々にはぜひ足を運んでいただけたらと思います。
全寮制だからこそ、行事や課外活動にもとことんこだわることができ、生徒同士の絆も強いのでしょう。
次世代のリーダーの育成を目指し、企業の賛同によって設立された海陽学園には、ハウスのフロアマスター制度や、充実したキャリア教育など、社会を経験した大人との関わりが多く、ここにしかない魅力が詰まっていることがよく分かりました。
本日は貴重なお話をありがとうございました。
海陽学園の進学実績
海陽学園からは毎年、難関大学へ進学する生徒を輩出しており、2023年度大学入試合格実績(2024年3月23日現在)では77名の卒業生のうち、東京大学の合格者は6名、京都大学の合格者は3名、慶応義塾大学の合格者は11名、早稲田大学の合格者は18名でした。
1期~13期生の卒業生合計1,267名の大学入試合格実績では、東京大学107名、京都大学39名、慶応義塾大学231名、早稲田大学282名にのぼります。また、国公立大学の医学部合格者は累計100名以上、私立大学医学部合格者は累計200名以上です。Brown UniversityやStanford Universityなど、海外の大学へ進学した生徒も多数います。
海陽学園の卒業生は、大学や大学院卒業後の企業への就職率が約75%と高く、うち20%が賛同企業への就職です。医師となった卒業生は約10%おり、そのほか弁護士、官僚、研究者、起業家などさまざまな分野で活躍しています。
※進路実績(公式HP):https://www.kaiyo.ac.jp/course/career-record/
※卒業生の活躍(公式HP):https://www.kaiyo.ac.jp/course/graduates/
海陽学園の在学生や卒業生の声
海陽学園で学ぶ生徒や卒業した生徒の声を紹介します。
ハウスでの集団生活を通して、仲間とともに多くの大人と接し、他社との関わり方が学べた、という声が印象的でした。社会で活躍するために役立つ、企画力や実行力を養えるのも、海陽学園の強みでしょう。
お問い合わせ
問い合わせ先 | 学校法人海陽学園海陽中等教育学校 |
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住所 | 愛知県蒲郡市海陽町三丁目12番地1 |
電話番号 | 0533-58-2406 |
公式サイト | https://www.kaiyo.ac.jp/ |