この記事では、特色ある教育に取り組む“注目の学校”として、千葉県柏市にある「芝浦工業大学柏中学高等学校」をご紹介します。
芝浦工業大学柏中学高等学校は、東武アーバンパークラインの新柏駅からスクールバスで約5分のところにある男女共学の私立中高一貫校です。
同校は文部科学省の「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」(※)に指定されているほか、芝浦工業大学の併設校でもあるため、研究によっては大学の設備も利用でき、第一線で活躍する研究者からもサポートを受けられるなど、最先端のサイエンス教育が整備されています。
(※)文部省が指定する、科学技術、理科・数学教育に関する研究開発等を行う高等学校等。指定期間は原則5年
さらに人文・社会学系の教育にも力を入れており、探究型授業によって多角的に自己と向き合いながら、豊かな人間性を育んでいけることも大きな魅力です。
今回、ぽてんでは芝浦工業大学柏中学高等学校の広報部長および化学ご担当の辻奈美恵先生と、SSH統括部長および物理ご担当の須田博貴先生にインタビュー取材を行い、同校の教育目標や学習カリキュラムの特色などを詳しく教えていただきました!
この記事の目次
創造性と個性を重視する芝浦工業大学柏中学高等学校の教育方針
まずは、芝浦工業大学柏中学高等学校の教育方針について教えてください。
本校は2024年度に45年目を迎えるのですが、「創造性の開発と個性の発揮」という建学の精神のもと個性を最大限に活かし、この世界に新しい文化を創造して社会に貢献できる人材の育成に向けて、探究活動やグローバル教育を主とした学習プログラムを展開しています。
近年はそのような“探究的な学び”が重要視されていますが、本校が設立された当時は自ら課題を設定して主体的に情報収集を行い、分析するといった総合的な学習を取り入れている学校はそう多くはありませんでした。
そんな中、本校は周囲に先駆ける形で探究型の学習を取り入れているので、長年の経験・知見を活かした取り組みを行っています。その点は、他の学校とは異なる大きな魅力だと思っています。
実は本校が開校した2年後に学習指導要領が変わり、他の学校でも特別活動を取り入れるようになっていきました。
本校では他の学校よりも2年先駆けして、自ら考える力と創造的な知性と技能の育成を目指して総合学習の授業を設けました。一人ひとりの生徒に教員がついて個々の活動をサポートし、その集大成として高校3年次に卒業論文のようなものを制作させる取り組みを始めたのですが、当時は非常に珍しい教育スタイルだったと思います。
「創造性の開発と個性の発揮」に向けて、先生方が生徒の皆さんと接するうえで心がけていらっしゃることはありますか?
私は16年前にこの学校へ赴任してきたのですが、その当時は物理の学習指導要領に示された内容を講義や実験を通じて一方的に提供する指導スタイルが主流でした。
しかし、現在は受け身の暗記型の学習ではなく「主体的で探究的な学び」が求められています。私自身も“生徒に考えさせる場面”を多く設定できるよう心がけています。
確かに、本校の教員は“教えすぎないマインド”を共通して持っていると感じます。
私の専門は化学なのですが、かつては実験を行う際に手順等が書かれたプリントを配り、生徒たちはそれに倣って実験を行うスタイルが主流でした。しかし、数年前から今まで勉強した知識を使って生徒自身が実験のやり方を計画し、実践するようなやり方も導入しています。
生徒たちは非常に主体的に動いており、見ている限りそちらのスタイルのほうがより学びもあり実験を楽しんでいる印象です。生徒たちが選ぶ手法によっては、まだ授業で扱っていない範囲の知識を必要とする場合もありますが、実験を通して学び、それが知識として強く記憶に残っていく様子を見ていると、大変有意義な経験なのではと感じています。
今後も、自主的に学びを得られる場面を多く作れるよう尽力していきたいと思います。
最先端のサイエンス教育:芝浦工業大学柏中学高等学校の取り組み
続いては、芝浦工業大学柏中学高等学校における教育指導の特色についてお話を伺っていきます。
大学併設校の強み:充実した設備と先進的キャリア教育
御校は芝浦工業大学の併設校であることが大きな特徴ですが、学習指導において大学併設校ならではの魅力があればご紹介ください。
中高のみ、あるいは高校のみの学校では使える設備が限られていることも多く、「この実験をやらせてあげたいけれど設備がないからできない」といったケースもあるのではと思います。しかし、本校では大学との連携によってその点を補えるメリットがあるほか、大学の先生方にアドバイスをいただきながら研究活動を行うことも可能であるなど、多彩な経験を積めることが大きな魅力だと思います。
なお、本校自体の設備もSSHのⅠ期・Ⅱ期を通じてだいぶ整えました。本格的な実験設備も充実しており、入学を希望される方が学校見学等にいらっしゃったときに「こういったところで学ばせたい」などと感激されているのを目にすることもあります。
▲生徒たちは白衣とゴーグルを身につけ、本格的な実験にチャレンジできます
施設面のほかに、入学者の方がどのようなところに魅力を感じて御校を選んでいると感じていらっしゃいますか?
ICT教育を先進的に行っている点を魅力だと感じていただけている印象です。本校の中学は1999年に開校したのですが、その時から生徒1人につき1台ノートパソコンを文房具として授業で活用してきました。プレゼンテーションだけでなくオンライン英会話などさまざまな場面で活用し、生徒一人ひとりが自分の個性を伸ばし輝かせる道具として、ICTをいかに使い、それぞれの創造性をどう発揮するかを大切にしています。
また、自分たちが学んだことを表現する場・発信する場の創出にもかなり前から力を入れてきたため、“キャリア教育に強い学校”という意味でもご注目いただいています。
▲留学・進学プログラムが充実しているなど、グローバル教育に尽力している点も評判です
“SSコンピテンシーの育成”をベースに社会を生き抜くスキルを磨く
御校は2004年よりSSHに認定され、2024年度には第3期の指定を受けていらっしゃいますね。理系人材の育成という観点で、変化はあったでしょうか?
本校では高校2年次に文系と理系に分かれるのですが、かつては理系のほうが少し多い程度だったのが、ここ数年は理系、特に理工系への進学を志す生徒が文系の3倍程度に増えてきました。
そういった状況を踏まえつつ、また、世の中の傾向として理工系人材のニーズがますます高まっている時代背景も考慮しながら、サイエンス教育の充実に尽力しています。
時代の変化にあわせて活躍できる理工系人材とは、いったいどのような人物像なのでしょうか。
「高等教育への接続を踏まえて、中等教育修了段階でどのような資質・能力を備えた人材を送り出したいのか」ということについて、昨年度校内で議論を重ねたのですが、その結果として生まれたのがSSコンピテンシーです。昨年度末の研修会において校長から学校の教育活動全体を通して育成すべき資質・能力として教職員にこのSSコンピテンシーが示されました。
SSコンピテンシーは、主に研究基礎力・問題発見力・問題解決力・自律的活動力の4因子から構成されていて、これらの能力を中高6年間の正課内外のカリキュラム・プログラムの中で育成できると将来的に理工系人材として世界で活躍できるのではないかと考えています。
SSコンピテンシーは理系だけでなく文系の生徒にとっても大切な資質・能力であり、その育成を図ることによってまさに本校の教育目標である「創造性の開発と個性の発揮」を具現化できるのではと考えています。
そのため、授業内だけでなく放課後や長期休み中の外部連携講座プログラムはもちろんのこと、SSH事業に直接関わらない教育活動においても、SSコンピテンシーをベースとした実践的な教育を行っていく方針です。
近年の中等教育は、「何を成し遂げた」「どの大学に合格した」「テストで何点取った」といったコンテンツ重視の教育から、「どのようなことができるようになったのか」「どういう姿勢が身についたのか」といったコンピテンシーベースの教育になりつつあると感じています。
そういった意味でも本校独自のコンピテンシーを定義しながら、芝浦工業大学の併設校として大学の理念である「社会に学び、社会に貢献する技術者の育成」にもリンクする教育を目指していきます。
外部連携の学習プログラムで将来への「志」を育成
先ほどお話に出た外部連携の講座プログラムについて、具体的な内容や生徒さんの反応をご紹介いただけますか?
昨年度、中学1年生から高校3年生までの希望者を対象に「建築で未来を拓く:清水建設×芝浦工業大学」といったプログラムを実施し、私も同行しました。午前中には清水建設技術研究所、午後には芝浦工業大学豊洲キャンパスの建築学部と土木工学科を訪問し、建築や土木に関する最新の研究や今後の可能性について学びました。
本校は芝浦工業大学の併設校ということもあって建築学や土木工学を志す生徒が毎年一定数おり、早いケースですと中学3年生くらいの段階で強い興味を抱く生徒もいます。そのため、「生徒の興味・関心をさらに高められたら」との狙いでこのプログラムを開発したところ、すぐに定員が埋まってしまうほど大人気でした。
やはり自分で手を挙げて参加していることもあり、生徒たちは清水建設技術研究所の技術者・研究者の方々や大学教員や大学院生の説明を食い入るように聞いていましたね。
初めは「建築をやりたい」「土木工学がすごくおもしろそう」と何となく考えていた生徒も多かったと思いますが、この講座を通して建築や土木について理解と興味を広げ、“自分はどのような関わり方をしたいのか”という具合に考えを深められる貴重な機会になったのではと思います。
そういった外部連携のプログラムを充実させることで生徒の学習意欲が高まり、普段中高で実施している正課のカリキュラムも充実すると考えています。それらが互いに作用し合って効果を高められるようなSSH事業を目指し、今後も各種プログラムの開発を進めていきたいですね。
個別対応の進路指導:生徒一人ひとりの自己実現をサポート
芝浦工業大学柏中学高等学校では進路指導にも力を入れているそうですね。芝浦工業大学以外の大学へ進学する生徒さんも多いようですが、先生方はどのように進路サポートをされていますか?
教員たちは本校の建学の精神である「創造性の開発と個性の発揮」を非常に大切にしており、生徒一人ひとりのキャリアの方向性にしっかりと向き合って進路をサポートしております。担任や学年に所属している教員が面談等を重ねながら、自己実現を果たすために最適な進学先を一緒に考えていく形です。
もちろん芝浦工業大学の併設校ですし、同大学の教育カリキュラムがどんどん魅力的になっておりますので、今後も進学を志す生徒は増えていくと思います。ただ、その一方で、学部が「工学部」「システム理工学部」「デザイン工学部」「建築学部」と比較的工学寄りとなっているため、それら以外の進路を目指す生徒には他の大学への進学についてきめ細かくサポートしております。
実際に国公立大学へ進学する生徒もいれば、早稲田大学や慶應義塾大学、東京理科大学といった難関私立大学に進学する生徒もいます。さらに近年は海外大学へ進学する生徒も少しずつ増えてきており、進路が多様化している印象です。
芝浦工業大学柏中学高等学校の校風と生徒の特徴
御校の生徒さんは、どのようなタイプの方が多いでしょうか?
本校には、素朴で穏やかな生徒が多いですね。
校風としては、運動部だけでなく文化部も非常に活発な学校だと思います。私が顧問をしているコンピューター部もそうなのですが、科学部や鉄道研究部なども積極的に活動しており、それぞれの居場所でそれぞれの好きなことをどんどん突き詰めている生徒が多い印象です。
▲芝浦工業大学柏中学校サッカー部の練習風景
▲敷地内にある人工芝グラウンド(ミスト・照明設備完備)で練習や試合が行われています
授業中の雰囲気はいかがですか?
学年によっても異なるのですが、高学年になっていくと教員に頼らずになるべく自分たちで問題を解決しようとする姿勢がたくさんみられます。
また、本校はノーチャイム制を導入しているのですが、生徒たちは時計を見て自主的に行動せざるを得ないため、時間をきちんと管理する習慣が根付いていると感じています。
芝浦工業大学柏中学高等学校からのメッセージ
最後に、御校へ興味をお持ちの方に向けてメッセージをお願いします。
本校のカリキュラムの特徴は、課題研究と通常教科のどちらも充実させることによって相乗的な教育効果が得られることです。課題研究に取り組むことによって基礎学力への意識も高まりますし、通常教科の授業で基礎学力がしっかりと身に付いていくとさらに深い課題研究につながっていきます。
そういった教育環境で学習するうちに、生徒たちは自然と自分の将来を見つめるようになるんですよね。「〇〇大学に行きたいから勉強する」といった考え方ももちろん動機付けとしてはいいのですが、本校としてはそこから脱却し、「自分が将来どうなりたいか」を課題研究と通常教科の授業で見極められるようにサポートしております。
教育目標として掲げているのは、“何事にも主体的に取り組み、周りの人と協働しながら問題を解決しようとする生徒の育成”です。その点を魅力だと感じていただける方、共感していただける方に受験していただけたら嬉しいです。
本校は受け身姿勢ではなく、「なんで?」と疑問に感じることに対して自分で答えを探しに行ったり、周りと協力し合って考えたりできるような生徒を育てたいと考えています。解決へと導いてくれるリソースやプログラムは非常に充実しておりますので、主体的に行動するマインドが定着したらとても楽しい6年間を過ごせる学校だと思いますよ。
探究的な学びをふんだんに取り入れた御校の教育プログラムについて、大変理解を深めることができました。特に理工系への興味関心が強いお子様にぴったりな学校ですね。
本日はありがとうございました!
芝浦工業大学柏中学高等学校の進学実績
芝浦工業大学柏中学高等学校は、東京大学や東京工業大学、一橋大学をはじめとする難関国公立大学をはじめ、早稲田大学や慶応義塾大学などの難関私立大学にも例年多数の合格者を輩出しています。もちろん芝浦工業大学への合格者もたくさんみられ、推薦枠での進学も多いです。
なお、東京理科大の野田キャンパスが非常に近い立地にあることから、同大学への進学者数は芝浦工業大学への進学者数に匹敵するほど多くみられます。東京理科大には理学部の物理学科や化学科、薬学部など芝浦工業大学にはない学部・学科もあるため、そういった点も志願者の多さに繋がっている印象です。
芝浦工業大学柏中学高等学校の在校生・卒業生の声
芝浦工業大学柏中学高等学校の在校生・卒業生からは、授業や課外活動の充実度に対して満足の声がたくさんみられました。また、先生方の人柄や手厚い指導も評判が高く、保護者からも「安心して任せられる」といった意見が多く挙がっています。
芝浦工業大学柏中学高等学校へのお問い合わせ
問い合わせ先 | 芝浦工業大学柏中学高等学校 |
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住所 | 千葉県柏市増尾700 |
電話番号 | 04-7174-3100 |
公式サイト | https://www.ka.shibaura-it.ac.jp/ |
※詳しくは公式ページでご確認ください