独自の教育を実践する注目の学校を紹介する本企画。今回は兵庫県姫路市にある中高一貫の男子校「淳心学院中学校・高等学校」を紹介します。
同校は、ベルギー発祥のカトリック宣教会「淳心会」を母体とするミッションスクールで、1954年に設立された歴史ある学校です。キリスト教の教えと伝統を大切にしながらも、DXの導入など先端技術を駆使し、生徒のために手厚いサポート体制を敷いています。
今回は、そんな淳心学院中学校・高等学校の教育理念や自由な校風、中高一貫校にありがちな中だるみを解消する独自の取り組みについて、同校広報部長の宮崎先生にお話を伺いました。
この記事の目次
社会に貢献する人材を育成。淳心学院中学校・高等学校の教育理念
▲取材に対応いただいた、広報部長の宮崎先生
最初に、淳心学院中学校・高等学校の教育理念についてお聞かせください。
本校はキリスト教の価値観によって教育を行っている学校であり、キリストと同じ心、同じ意識で、キリストのように過ごそうということで『同心同意』をスクールモットーとして掲げています。教育目標は『知的活動を通じて社会に貢献する人物を育成する』です。
本校に入学してくる生徒一人ひとりは神から与えられた才能を持っています。その才能という原石を磨き、ブラッシュアップして自分がなりたいものになりやりたいことをできるように、自己実現をする力を養うことと、ひいては他者や社会のために役立つ人間を育成することが本校の役割であり目標です。
▲宗教の授業を通してキリスト教の精神や価値観を理解することは、グローバルな視野を身につけることにも役立つ
キリスト教の教えが基礎になっているとのことですが、具体的にはどういった学びの機会がありますか?
本校は2024年度に71回生が入学し、創立から70周年を迎えています。創立当初はキリスト教信者の数を増やすというコンセプトがありましたが、現在はそういった意図はなく、学年の中でも信者は1~2名です。それでも、中学1年から高校2年まで毎週1時間、宗教の授業を行っています。
海外の文化の中には、キリスト教が根っこになっている部分もあるので、今後生徒たちがグローバルに活躍することを考えた場合、キリスト教を知るということは一つの教養として役立つのではないかという背景があります。
中学1年生では、ほとんどの生徒が初めてキリスト教やカトリックの教えに触れるため、聖書を読むなど基礎的な教育から始まります。中学2年生で人権のことを学び、中学3年生は長崎に平和研修に行くといったことも、カリキュラムの一環として行っています。
また、毎日の朝礼・終礼でお祈りをしているほか、各授業は胸の前で十字を切って始まります。キリスト教に関連する学校行事は、11月に学院関係者の亡くなった方を偲ぶ追悼ミサと、中学1年生のクリスマス会の2つです。
淳心学院中学校・高等学校の校風と生徒の特徴
▲姫路城の中堀に面している淳心学院。生徒たちは純白の城の姿を眺めながら勉強や部活に励んでいる
続いて、淳心学院中学校・高等学校にはどんな生徒たちが揃っていて、どのような学校生活を送っているのかをお話しいただきました。
生徒の提案を受け入れる自由な校風が、主体性と行動力を引き出す
御校の生徒の皆さんには、どのような特徴があると感じていますか?
自ら行動し、気になることがあればどんどん提案していくような行動力のある生徒が多いですね。
私たちは、自由な校風の中で生徒の自主性を伸ばすことを大切にしています。カトリック男子校は比較的校則が厳しい学校が多いと思いますが、本校は髪型も自由ですし、決まった学生カバンもありません。もちろん全部実現できるわけではないですが、生徒たちがやりたいことを自分たちで考える機会は多いと思います。
例えば、これまで長期休暇のみ私服登校を許可していたのですが、今年からは6月〜9月も可能となりました。これはSDGsの観点から、暑い時期に必要以上に冷房を使うよりも自分たちが涼しい格好をした方が効率的だというコンセプトのもと、生徒会が提案してきたものです。
そうしたアイデアを生徒が申し出たとき、本校としてはすぐに受け入れるわけではありません。現実的にどういうメリットがあるかを提示してもらい、運用はどうするのか、正当性があるのかなどを生徒会と一緒に検証しました。その結果、問題ないと判断して学校が許可したんです。
▲ランチタイムには大賑わいの食堂。栄養満点の日替りメニューのほか、生徒会の提案でアイスの自販機も設置されている
また、本校の食堂にはアイスクリームの自販機が設置されていますが、これも以前の生徒会が交渉して入れたものです。校則で縛ったり、頭ごなしに否定したりすることはなく、学校が懐深く対応することで、生徒は主体性を持って考えて行動に移すようになると考えています。
生徒同士だけでなく先生とのつながりも深い家庭的な学校
▲校内には1期生からの集合写真が掲示されている。学校見学中に若き日の父親の姿を見つける小学生もいるのだとか
その他に、「淳心学院らしさはこんなところ」だと日ごろ感じていることがあればお聞かせください。
本校は1学年3クラス約140名で他の学校に比べると生徒数が少ないこともあり、友達同士や先輩後輩のつながり、また教員と生徒のつながりも非常に強い、家庭的な学校だと思います。
約10年前から2コース制を敷いており、東大・京大・医学部を目指す「ヴェリタス」と難関国公立を目指す「カリタス」に分かれていますが、授業内容や定期考査の内容は同じで、明確な差はつけていません。学校によってはコースごとにまったく異なるカリキュラムのため壁が生まれるようなこともあると思いますが、我々はそうではないんですね。
コースに関係なく学校行事も部活も一緒で、高校入試もなく6年間ずっと一緒なので生徒たちは非常に気心が知れていますし、教員もその子たちをずっと見守っているんです。ファミリー感が強いというのは、いつも感じています。
そういった絆の深さを感じるのは、どのような場面でしょうか。
単純な事実として、職員室によく生徒が来ますね。職員室の入口にカウンターがあって中に入れない、あるいは職員室の外に設置したマイクで先生を呼ぶという学校もありますが、本校の職員室は生徒も出入りが自由です。
生徒が直接、教員の席まで行けるようになっているので、「ここを教えてください!」と話しかける光景が日常的に見られます。そのまま教員の机で勉強を教えることもあれば、他のスペースに移動することもあります。
また、OBもアポ無しでよく来ますね。私学は教員の異動がないので、いつ来てもお世話になった先生がいるという安心感もあるし、いつ来ても先生たちが迎え入れてくれるウェルカムな雰囲気があるからだと思います。
ちなみに、私が直近で送り出した生徒たちがちょうどこの春に大学を卒業して就職するので、年末から春にかけて次々と報告に来てくれました。ときには「ご飯に連れていってください」なんて誘われることもあります(笑)。成長した姿を見ることができるのは、この仕事の醍醐味です。
メールなどではなく、直接先生に会いに来て報告するんですね。
そうなんですよ。本校の6年間は密度の濃いもので、教員は単に勉強を教えてくれる人ではないですし、学校は大学に入るためのツールではありません。生徒にとって、自分の人格形成における欠かせない要素になっているのだと思います。だからこそ親に報告するのと同じような感覚で、学校に来てくれるんです。
進学実績は大事ですが、本校の教育の真価が問われるのは、単純な合格数ではありません。彼らが卒業して数年後、数十年後に、どんな社会人になるかということです。学力だけではなく、一人の人間を形成していくことを真剣に考え、接している。それこそが本校の特徴だと思っています。
ハード・ソフト両面が充実。淳心学院の学習サポート
淳心学院中学校・高等学校は、古い考えや手法に固執することなく、ICTを活用して生徒のためになるシステムを導入するなど常に進化を続けています。ここからは、ハード面・ソフト面を含めた学習面のサポート体制、取り組みについて伺います。
時代をリードするICT環境。全授業を録画して、PCで復習が可能!
▲電子黒板を使った授業風景。効率的に学習を進められる
学習サポートの点では、淳心学院中学校・高等学校が力を入れて取り組んでいることはあるでしょうか。
ICT環境の整備については、生徒のために役立つことであれば、新しいものに臆せずどんどん導入していますね。
1人1台のPCを使って、授業内容の習熟度や勉強時間の記録など生徒自身が自己管理していますし、ほぼ全教室にワイドサイズの電子黒板を入れています。やはり手書きだと時間がかかるため、電子黒板があると時間短縮になりますし、動画を映し出せるのでより直感的に理解できるわけです。
あと、一番大きな変化としては、教室で実施するほぼすべての授業について、クラス後方のカメラで録画していることが挙げられます。これによって、いつでもどこでも何度でも、生徒は自分のPCから授業を振り返ることができるようになりました(2024年6月開始)。
▲教室後方の十字架とカメラ。伝統と革新が共存しているのが淳心学院の特徴だ
生徒は特定の範囲を復習したいときにピンポイントで見直すことも、授業全体を倍速でおさらいすることもできます。また、インフルエンザ等が流行して数日のあいだ出席できなくなったときも、自宅でいつもの授業を受けられるのも大きなメリットです。
おそらく、これは全国の中学・高校ではどこも実施していないと思います。やはり、教員は自分の授業を記録されるのは嫌なものですから。ひょっとしたら失言するかもしれないし、ミスをしてしまうかもしれないし、教員にしてみればいろんなリスクがあると考えるわけです。
しかし、本校では「何が生徒のためになるか」を第一に考えて、これが効果的な方法だと判断したんです。だから、このシステムの導入に踏み切りました。
探究のコンテストでは全国1位にも。体験を重視した取り組みで中だるみを防ぐ
▲探究のコンテスト「クエストカップ」で当時高校1年生のチーム「コンダクトメンズ」が日本一に輝いた瞬間
ハード面のほかには、御校ではどのような取り組みをされているのでしょうか。
中高一貫校でよくありがちな中3〜高1あたりの「中だるみ」を打破するため、そして自分が行きたい学部に進んだり、やりたい仕事をしている先輩の生の声を聞いて進路選択に活かす目的で、大学生OBや社会人OBを招いて学部や職業ごとのロールモデルを見せる講習会・座談会を行っています。
例えば、ある生徒が農学部に進んだ先輩から話を聞いたら「農業だけじゃなくて酵母の研究もしているのか」などと気付きを得られたんですね。それで、自分もお酒について研究するため京都大学農学部を目指したというように、座談会をきっかけに目標が定まったということがありました。
また、この時期は子どもから大人に変わる境目で多感な時期ということもあり、いろんなことを体験してほしいんです。そのため、海外語学研修や修学旅行もこのタイミングで実施しています。
体験を積む機会は、語学研修や修学旅行以外にもありますか?
もちろんです。その代表例が中学3年〜高校1年でおこなう「探究」の授業です。
この授業の特徴は、静かにならないように伝えていることですね。通常の主要教科の授業は、教員が話してそれを静かに聞く「一斉講義型」ですが、探究では1つのテーマについてグループごとに話し合うので、そもそも性質が異なるんです。
最初は口下手なところもあるのですが、コミュニケーションを取っていく中で、お互いに意見をぶつけ合いながらも自分の意見を伝えることを学び、プレゼン能力を養っていきます。自分のことだけでなく、他者の意見をどう組み込んでいくかを模索しながら1つのものを作り上げていく経験は、確実に彼らの成長の糧になっていると思います。
生徒たちの頑張りは実績にも現れていて、日本最大級の探究学習のコンテストである『QUESTCUP 2023』では、「企業探究部門 コーポレートアクセス」の部門でグランプリを受賞しています。
これは企業から出されたミッションに対して研究結果をプレゼンするという内容なのですが、優勝したチームはコンタクトレンズメーカー「メニコン」のミッションに取り組みました。新しいコンタクトレンズの可能性を考えて優秀なアイデアを出し、他のいろんな企業の代表チームと競い合った結果、1,800チーム中の1位に輝いたんです。
ちなみに、優勝したチームの名前は「コンダクトメンズ」というユニークなものでした(笑)。男の子らしいユーモアも忘れず、その上で本気で取り組んでくれています。
改革を続け「面倒見の良い」学校に。いろんな取り組みで生徒の学習意欲を後押し
宮崎先生が赴任されてから、淳心学院が生徒を支援する姿勢はどのように変化したのでしょうか。
私がこの学校に来てから18年経ちますが、改めて感じるのは「どんどん面倒見の良い学校になっている」ということです。
この方針は約10年前に決まったのですが、それまでもサポート態勢はしっかりしていたんです。積極的に補習をする、進度に合わせて毎授業で小テストをするなどかなり手厚かったのですが、どうしても教員個人に委ねていた部分が大きく、学校全体として統一されたものではありませんでした。その状況を変えるため、コース制を導入するなど、いろいろな改革を実現していったんです。
一例としては、中学入学前の補習授業があります。近畿エリアの入試は時期が早く、受験後から入学までに2ヶ月半もあるので、そこで遊ぶのではなく平均して2週間に1回くらい来校してもらってテストをしたり、先取り授業をしたりと、4月に万全の状態でスタートできるように工夫しています。
また、改革前までは18時の完全下校だったのですが、高校生が希望した場合は図書室や学習室で20時まで残って勉強できるようにしているほか、受験対策として個別添削にも力を入れています。
先ほどのICT環境もそうですが、生徒のためになると思えば変化を恐れず新しい取り組みをしていくのが、本校の特徴だと思います。これらの変化は合格実績にもしっかりと現れていますね。
淳心学院中学校・高等学校からのメッセージ
最後に、淳心学院中学校・高等学校に興味を持ったお子さまや保護者の方に向けてメッセージをお願いします。
淳心学院は、生徒一人ひとりが本当に伸び伸びと過ごすことができる学校だと自負しています。勉強に励むことはもちろんですが、成績で生徒を判断するようなことはしませんし、部活や生徒会、校外での探究活動やボランティア活動など、広い分野で力を発揮し、打ち込みたいことを見つけられる環境です。
ひとつの傾向としては、クラブ活動が充実している生徒が多いですね。音楽部は関西大会で何年も連続で金賞を受賞し全国大会にも出場しているクラブなのですが、入部する生徒のほとんどは未経験です。その中で、先輩が後輩の面倒を見て技術を伝え、大会で優秀な成績を収めるくらいに成長していきます。
本校にご興味をお持ちの方は、学校説明会や文化祭にぜひお越しください。文化祭は生徒の「好き」を発揮する場なので非常に見応えがあります。運動部は模擬店を出したり、化学部は実験をしたり、音楽部はステージで演奏したりと、自分たちの好きなことをお披露目しているので、楽しい学校生活を送っている生徒を垣間見ることができると思います。
私たちは、教育の真価が問われるのは卒業してから5年後、10年後、そして15年後だと考えています。そのために、中高の6年間は非常に大事な時期となります。将来、大輪の花を咲かせるために、ぜひ本校で才能を伸ばしてみてはいかがでしょうか。
生徒の皆さんは、先生方のサポートを受けながら、勉強に部活動にと自由な校風の中でイキイキと学校生活を楽しんでいることがわかりました。本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
淳心学院中学校・高等学校の進学実績
淳心学院中学校・高等学校では、毎年、東京大学や京都大学、大阪大学をはじめとする国立大学や難関私立大学への合格者を多数輩出しています。同校の特色としては、理系や医学部への進学希望者や大学現役合格者が多いことが挙げられます。
2024年の卒業生は129名で、既卒生含む合格実績としては、東京大学1名、京都大学3名、大阪大学3名、神戸大学3名ほか国公立大学には74名が合格、難関私立大学とされる早慶上理24名、GMARCH10名ほか私立大学にはのべ365名が合格しました。
■進路実績(淳心学院中学校・高等学校公式サイト)
https://www.junshin.ed.jp/course/achieve
淳心学院中学校・高等学校の卒業生・保護者の口コミ
ここでは、淳心学院中学校・高等学校の卒業生と保護者の声を紹介します。
▲図書館や学習室で自習する姿が印象的。勉強と部活などをうまく切り替え、充実した6年間を過ごしている
淳心学院中学校・高等学校へのお問い合わせ
運営 | 学校法人淳心学院 淳心学院中学校・高等学校 |
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