名古屋経済大学市邨中学校・高等学校の校舎

名古屋経済大学市邨中学校・高等学校の「楽力」で伸びる個性と人間力|中高一貫校

独自の教育を実践する注目の学校を紹介する本企画。今回は、愛知県名古屋市にある中高一貫の共学校「名古屋経済大学市邨中学校・高等学校」を紹介します。

同校は、「女子商業教育の父」と称えられた市邨芳樹により、1907年、全国初の女子商業学校として創立されました。以来、歴史と伝統に基づく教育を実践しながらも、時代が求める人材の育成に応えるために、2002年には男女共学化し、現在の校名に変更しました。現在では、大学院、大学、短大、高校、中学、幼稚園を有する総合学園となっています。

今回は、そんな名古屋経済大学市邨中学校・高等学校の建学の精神や特徴的な取り組みについて、中学部主任を務める田中先生にお話を伺いました。

「人間性」と「個性」を大切にする市邨中学校・高等学校の理念

名古屋経済大学市邨中学校・高等学校の授業風景

編集部

最初に、名古屋経済大学市邨中学校・高等学校の建学の精神や教育理念についてお聞かせください。

田中先生

本校は1907年、女子商業学校教育に生涯を捧げた創立者・市邨芳樹先生によって創立されました。創立するに当たり、市邨先生が念頭においたのは「商業教育はつまり人物教育である」という理念です。

それは、市邨先生による「一に人物、二に伎倆」という言葉に表れています。まず大切なことは「人」を作ることであり、知識や技術を身につけること以上に、人間性を高め、品格の備わった「人物」 を目指すという意味です。

また、建学の精神は、市邨先生の「桜は桜、松は松」の言葉にも込められています。桜にも松にもそれぞれの魅力があります。それぞれの個性を尊重すること、そしてその個性を育む教育を実践しようという想いです。

市邨先生がさまざまな場面で残した言葉や理念は、今でも受け継がれ、教育活動の指針として活用されています。市邨先生が100年以上も前に語った言葉の中には、驚くほど現在に通じる内容が数多く含まれています。本校は、創立当初と変わらない精神に基づき、一貫した教育を行っています。

その一方で時代の変化も取り入れながら、より多様な教育活動を行っています。創立当初からの精神を守りつつ、現代に適した形で生徒の成長をサポートしています。

「好き!」を突き詰める市邨中学校・高等学校の楽しい探究学習

名古屋経済大学市邨中学校・高等学校の授業風景

学力ならぬ、「楽しむ力=楽力(がくりょく)」をコンセプトに、独自の探究プログラムを展開している名古屋経済大学市邨中学校・高等学校。ここからは、名古屋経済大学市邨中学校の探究学習における特徴的な取り組みについて伺いました。

探究のプロセスを学ぶ、学年をまたいだ選択制の「Miraiゼミ」

編集部

御校の探究学習における特徴的な取り組みについて教えてください。

田中先生

探究学習における全体を通しての考え方として、楽しむ力と書いて「楽力(がくりょく)」を念頭においています。楽しみながら学ぶことで、生徒たちの興味関心を刺激します。興味関心を見つけられない生徒には、見つけるチャンスとなるカリキュラムとなっています。

そのカリキュラムとは、本校のオリジナル教科「未来」です。この中で、中学1年から3年まで全学年を通した活動として、学年をまたいだ少人数制の選択ゼミ「Miraiゼミ」を行っています。

開講は1学期に1回、学期ごとに15~16のゼミが用意されており、自分でゼミを選んで、課題を発見して、それをとことん追究していきます。やりたいことがあれば、生徒自らがゼミを開講することも可能です。

探究内容は自由で、生徒にとっては楽しい時間となっており、人気の授業です。ここでは、探究していくプロセスを自然に学ぶことができます。

名古屋経済大学市邨中学校の「Miraiゼミ」折り紙ゼミ(左)、「Miraiゼミ」推しのアルバムゼミ(右)

▲「折り紙ゼミ」と「推しのアルバムゼミ」の実施風景

テーマは自由。自分が好きなことを探究して語る弁論大会

名古屋経済大学市邨中学校の「Miraiゼミ」の炊飯器ゼミ

▲「Miraiゼミ」の炊飯器ゼミ

編集部

そのほかの取り組みはいかがでしょうか?

田中先生

探究学習プログラムとしては、毎年1学期には弁論大会を行います。テーマに縛りはなく、自分の好きなことを探究して語る場となっています。

編集部

テーマが社会問題などではなく、自分の好きなことを探究して語る弁論大会なのですね。その中で何か印象的なテーマがあれば教えてください。

田中先生

中学1年生のある男子生徒は、授業はあまり前向きではなく、時々居眠りをしたり、どちらかというとネガティブな発言をしたりしていました。人前で話す弁論大会は好きじゃないだろうと勝手に思っていたのですが、全然そうではなかったんです。

彼は、クワガタムシがすごく好きで、堂々と前に出てきて、iPadの原稿はほとんど見ずに自分の言葉でイキイキと、いかにクワガタムシが好きでどんな魅力があるのかを制限時間の3倍ぐらいかけて熱く語ってくれました。

制限時間は過ぎていましたが、そこには触れず、ほかの生徒たちは楽しそうに聞いていました。市邨中学校らしい光景であり、やって良かったと思いましたね。

好きなことを追究すること、お互いに認め合うことはとても大切だと思っています。制限時間を過ぎていたので文句が出てもおかしくない場面なのですが、みんながお互いを尊重して認め合っている証拠です。

4日間丸々通しで探究学習を行う「探究トライアル」

名古屋経済大学市邨中学校の「Miraiゼミ」のMinecraftゼミ

▲「Miraiゼミ」のMinecraftゼミ

編集部

2学期からはどういった取り組みをされるのでしょうか?

田中先生

毎年変動がありますが、各学年とも2学期からはしっかりと探究学習を行います。2023年までは、外部の企業に依頼していましたが、2024年は本校オリジナルのプログラムを作ることが決まっています。

生徒の興味関心と進路と絡めながら、自分が気になる大学や企業、NPOなどにアポを取り、リサーチへ行く予定です。そこからは現在企画中ですが、2学期のプログラムのメインは、探究のプロセスをしっかりと学ぶことです。

また、1年生は11月に4日間通して全て探究学習を行う「探究トライアル」があります。2024年は、近くの東山動物園に行き、自分でテーマ見つけてきて、学校に戻って探究を進めて発表します。

発表が終わると、もう1度動物園に行って新たな探究のテーマを設定し、探究して情報を整理して発表して、さらにまた新たな探究に挑みます。探究学習では各ステップでの反復が重要であり、文科省も推奨しているプロセスを行います。これにより、探究を使いこなす力や自ら考えて行動する力を養います。

編集部

ほかの授業なしで4日間通して探究学習を実施するというのは、とても特徴的ですね。

田中先生

生徒たちはもともと、好きなことを調べるのはできるのですが、「深める」となると、ある程度ベースが必要であり、サポートも要ります。1からすべてを教えるのではなく、生徒一人ひとりに合わせたアドバイスをするためには、どうしてもゆったりとした時間が必要になってきます。

しっかりと時間を取って、生徒一人ひとりを見ながら探究学習を後押しできればとの思いで探究トライアルを行っています。

保護者や外部の方も来校。「市邨Open Day」で成長を発表

名古屋経済大学市邨中学校の「市邨Open Day」

▲市邨Open Day

編集部

3学期には、何か発表する機会があるのでしょうか?

田中先生

自分自身の成長を感じることが大切だと思っていますので、3学期に入ると、この1年間でどんな経験をして、どんな成長したかをみんなの前で発表する「市邨Open Day」があります。

発表内容は、成長したことであれば、探究学習に限らず自由です。部活のことを発表する生徒もいますし、授業中に寝なくなったことを発表する生徒もいます。

どんな成長であるにせよ、生徒同士はお互いの成長に耳を傾けます。生徒たちが自分の成長を、胸を張って語ってくれる「市邨Open Day」は、個人的に1年の中で一番好きな時間です。

生徒や保護者はもちろん、教育関係者など外部の方も来られます。そうした発表の場で堂々と自分の成長を語り、次の学年に繋げていく年間スケジュールとなっています。このほかにも高校生の前で発表する機会があります。

こうした1年間の流れを経て、2年生・3年生になると、普段の授業の中でも発表する機会が増え、各自が持っているiPadや生成AIも活用し、加速度的にいろんなことができるようになっていきます。

名古屋経済大学市邨中学校・高等学校のiPadの活用風景

売れるガチャガチャを考える探究プログラムで高評価

名古屋経済大学市邨中学校のガチャガチャプロジェクト

▲リアルに売れるガチャガチャを考えるプロジェクトでは、企業に評価されるアイデアも誕生した

編集部

さまざまな探究プログラムを通して、印象的なエピソードがあればお聞かせください。

田中先生

2023年の3年生は、プロの方にお願いしてガチャガチャをテーマに探究学習を行いました。これは、ガチャガチャでどんな物が売られているかを見に行って調べ、リアルに売れる商品を考えようというプロジェクトでした。

その中で、少し手直しすれば製品化できるというすばらしいアイデアを出した生徒がいました。ピザを切り分けたピースをキーホルダーにしたもので、いろんなメニューを用意してコレクションする喜びを味わってもらうというものです。集めるとクワトロのバラエティに富んだピザが完成するイメージですね。

プロの目線で見ても「売れるかも」とのことで、もう一度回してもらうような工夫をさらに考えてほしいとのアドバイスがありました。大人でも思いつかないようなアイデアを出し、そういった評価をいただけたことから、中学生の発想と探究心に大きな可能性を感じました。

創設者の教えを現代に活かす市邨中学校・高等学校の「市邨学」

名古屋経済大学市邨中学校の市邨学の授業

▲「市邨学」の授業風景

編集部

御校では2023年度から「市邨学」をスタートしたと聞きました。これはどういったものでしょうか?

田中先生

本校の創立者である市邨先生が、生徒たちに語った言葉や教えの数々は、卒業生らによって「やぶつばき」という本にまとめられています。本校の教育理念や建学の精神は、その教えの中から現在まで受け継がれてきたものです。

本校にはこうした長い歴史があり、創立者が残してくれた多くの教えがあるので、これらを道徳心やキャリア教育に繋げようということで、改めて市邨先生の言葉をしっかりと見返しながら、学ぶプログラムが「市邨学」です。

編集部

「やぶつばき」の内容をベースに、伝えていくのでしょうか?

田中先生

そうなりますが、生徒たちが「やぶつばき」をじっくりと読むわけではありません。現代の中学生の心に響く言葉だったり、現代に通じる教訓を考えるもので、3年間のプログラムを組んでいます。2024年度第1回の市邨学が1学期に実施され、学年ごとに異なる内容を学びました。

100年前の言葉を通して現代の課題を学び、成長する生徒たち

名古屋経済大学市邨中学校・高等学校の授業風景

編集部

市邨学の具体的な授業内容についてお教えいただけますか。

田中先生

例えば、中学1年生では社会的・文化的な性差を考える「ジェンダー」について取り上げました。

市邨先生は毎日を生きていく上での指針として「今日六則」という戒めを残しています。その中には、「異性を尊重する心をもつ」というものもあります。本校はもともと女子校ですが、異性という言葉を使っているので、現在でももちろん通じる話です。

100年以上も前の教えに、現代のジェンダー教育に繋がる言葉があることに驚く生徒もいましたが、その言葉を生徒に伝えた上で、例えば日本の女性の国会議員が少ないなど各国のジェンダーギャップを考えました。

女性議員が何%なら多いのか少ないのかなど、それぞれの意見が出た後、SDGsでも掲げられているジェンダー平等を絡めながらまとめに入り、最後には生徒に感想を書いてもらいました。

そこでは「お互い良いところも悪いところもあるから、それを認め合っていくことが必要」や「どんな人もお互いを認め合い受け入れ、受け入れなくても心に留めておく」などといった感想がありました。中学1年生の1学期の段階で、こうした感想がでたことには感心しましたね。

ジェンダーと題して話をしましたが、生徒たちの中ではそれだけではなく「お互いを認め合う、尊重し合う」という捉え方が当たり前だったようです。こちらが意図した以上のことを、これまでの身の回りのことや暮らしの中で、すでに受けとめて学んでいたんです。

編集部

2023年の1年間で、市邨学を通して生徒の成長を感じたエピソード等があればお聞かせください。

田中先生

市邨先生の言葉は、パンフレットやホームページにはたくさん載っているのですが、市邨学を始める前は、あまり話に出ることはありませんでした。しかし、今は、生徒の口から建学の精神が発せられることがあります。また、学校への所属感を持たせることにも繋がったと感じています。

市邨先生の教えは、100年以上も経った今も褪せることなく受け継がれている普遍の精神です。個性を尊重した人物本位の教育こそが本校教育活動の基軸であり、私たち教員はこの教育理念に自信と誇りを持って指導しています。

その想いを生徒に伝える機会として「市邨学」を導入したことは想像以上の成果をもたらせていると思っています。今すぐに成果を言葉にすることはできませんが、生徒たちはきっと、本校で学んだこと、卒業したことを誇れるようになるはずです。

名古屋経済大学市邨中学校・高等学校からのメッセージ

名古屋経済大学市邨中学校・高等学校の田中先生

▲取材に対応いただいた田中先生

編集部

最後に御校に興味を持ったお子さまや保護者の方に向けてメッセージをお願いします。

田中先生

学びといってもその形は人それぞれです。何かに挑戦して、うまくいかなくても、その経験から考えたり、学んだりすることがとても大切だと考えています。

本校では、自分自身がまだ知らなかった興味を見つけたり、その興味に挑戦できる場が用意されています。本校での経験は、この先の未来を生きていく子どもたちにとって大切な力になるという信念を持って日々教育活動に励んでおります。

ぜひ本校でさまざまな経験をしてほしいと思っています。もし本校に興味をもっていただけたのであれば、ぜひ一度足を運び、学校の雰囲気を感じてみてください。

編集部

本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

名古屋経済大学市邨中学校・高等学校の進学実績

名古屋経済大学市邨中学校・高等学校では、ほとんどの生徒が進学しています。2024年度の進学実績としては、卒業生の67%が大学に、24%が短大・専門学校に進学しました。

2024年度の合格実績としては、岐阜大学に1名、公立諏訪東京理科大学に2名、叡啓大学に1名、北見工業大学に1名の合計5名が国立大学に合格しています。また、海外大学Sunway University Malaysiaに1名、そのほか県内外の私立大学に多数合格しています。

■進学実績(名古屋経済大学市邨中学校・高等学校公式サイト)
https://ichimura.ed.jp/careers/

名古屋経済大学市邨中学校・高等学校の卒業生・保護者の口コミ

ここからは、名古屋経済大学市邨中学校・高等学校の口コミを紹介します。実際に通学していた卒業生や保護者の声をまとめました。

(卒業生)高校の3年間は軽音楽部の活動に打ち込み、先生や先輩、後輩、同級生など多くの人に支えてもらいました。学業との両立が大変でしたが、最後には仲間たちと一緒に文化祭のステージに立つことができ、ここでしかできない経験をたくさんすることができました。受験勉強も限られた時間の中でしたが、同じ目標を持つクラスメイトたちと、切磋琢磨しながら共に頑張ることができました。

(卒業生)英語を学ぶのが好きで、進学先は外国語学部を選択しました。試験では英語での面接があったので、授業後にたくさん練習したことを覚えています。将来はグランドスタッフになりたいと考えており、大学では世界のさまざまな文化や多様性について学び、コミュニケーションスキルを身につけたいと思っています。

(保護者)自ら考える力を養いながら、得意な分野を伸ばす教育をしていると思います。先生方はみな熱心で、しっかりとサポートしてくれます。勉強のこと以外でも、困ったときはいつでも気軽に相談できる環境です。部活動は中高合同なので楽しいと言っていました。クラスは仲が良く、勉強や部活動を楽しみながら充実した学校生活を過ごすことができたようです。

(保護者)少人数制で、先生の目が生徒一人ひとりに行き届いています。テスト前や長期休みには補習があり、先生方は熱心に指導してくださいました。文化祭や体育祭などみんなで盛り上がる学校行事もあり、勉強だけでなくさまざまな経験ができる学校だと思います。ほとんどの生徒は内部進学で附属の高校に進学します。

さまざまな体験を通して自分の得意分野を伸ばすことができたといった声が多くありました。勉強だけでなく、部活動や学校行事などを楽しみながら成長していく生徒たちの様子がうかがえました。

名古屋経済大学市邨中学校・高等学校へのお問い合わせ

運営 学校法人市邨学園 名古屋経済大学市邨中学校・高等学校
住所 愛知県名古屋市千種区北千種3-1-37
電話番号 052-721-0161
問い合わせ先 https://ichimura.ed.jp/contact/
公式ページ https://ichimura.ed.jp/

※詳しくは公式ページでご確認ください