独自の教育を実践する注目の学校を紹介する本企画。今回は、茨城県水戸市にある共学校「国立茨城大学教育学部附属中学校」を紹介します。
同校では「自主の名門」を合言葉に、生徒の主体性を尊重した教育活動を行っています。探究学習の発表会では茨城大学の大学生や大学の教授にも見ていただくなど、附属校ならでは連携があります。また、教育実習生のほかにも、心理学を専攻している院生やインターンシップ制度で大学生が毎日のように学校に来て生徒たちをサポートしてくれます。
今回は、そんな国立茨城大学教育学部附属中学校の教育目標や特徴的な取り組みについて、副校長を務める田中先生にお話を伺いました。
この記事の目次
「自主の名門」を掲げる国立茨城大学教育学部附属中学校の教育目標
最初に、国立茨城大学教育学部附属中学校の教育理念や教育目標についてお聞かせください。
本校では「自主・自律・協調」の3つを教育目標に掲げています。目指す生徒像としては「より高い価値をめざし、たくましく実践し、ともに向上する生徒」です。行事などではできるだけ生徒主体で自主的に活動できるように、教職員一同で取り組んでいるところです。
本校において、生徒たちに浸透している言葉として「自主の名門」があります。学習や授業、部活動、行事などを自らが主体となって作り上げていくこと、先生に言われたことだけを行うのではなく自分たちでいろいろなことを切り開いていこうという意味で、学校の合言葉のようになっています。
行事も生徒さん主体で行っているのでしょうか?
はい。ただ、生徒主体と言っても、生徒に丸投げという意味ではありません。行事にも教育の意図がありますので、それに向けて生徒が伸びのびと活動できるように、導いていくのは教職員の役割です。その中で生徒が主体的に活動できるようにしているということです。
御校の先生と生徒さんの関係はいかがでしょうか?
先生と生徒がやり取りできる連絡帳があり、毎日目を通して適宜コメントを入れます。授業や行事では、先生が一方的に話すのではなく、生徒との対話を交えながら進めています。また、必要に応じて随時、二者面談を行っていますので、先生と生徒のコミュニケーションは取れていると思っています。
▲年4回開催されるスポーツフェスティバルも生徒主体で運営
国立茨城大学教育学部附属中学校の探究学習
国立茨城大学教育学部附属中学校の探究学習についてお聞かせください。
本校では、総合的な学習の時間を「グローバル市民科」と称して、探究学習を行っています。地球的な規模で思慮深く考え、生徒の主体的な探究を目指し、学年ごとにテーマを設けています。さらに、生徒はそのテーマから個人テーマを設定し、自分の課題に向けた学習を進めていきます。
本校にはスクールボランティア制度というものがあり、本校保護者OBが、そのコーディネーターになってくださっています。そのコーディネーターの方に「こういった講師はいないですか」と依頼をかけます。そして講師を探していただいて、探究活動のお手伝いをしてもらっています。
具体的にどのようなテーマで、どのような講師の方が携わってこられましたか?
先日は2年生が「これからの未来の社会」のテーマで、外部から講師を招きました。1回目は、本校の前校長で現在は茨城大学教授の毛利先生にお越しいただき「Society(ソサエティ)5.0の未来の社会」について講義をしてもらいました。
また、つい先日は茨城トヨタ自動車社長の幡谷様に、これからの未来の車や未来の社会におけるモノづくりについてのお話をしていただきましたね。
ちなみに1年生は防災をテーマに進めており、今日(取材当日)はちょうど引き渡し訓練と避難訓練、備蓄倉庫にある非常食の試食の活動を行う予定です。
各学年のテーマはどのように決まるのでしょうか?
1年生は、地域など自分に近いところがテーマになっています。2年生になると茨城県になり、これからの茨城県がどのようになっていくのかだったり、茨城県の歴史だったりとテーマの範囲が広がります。
3年生になると、ある程度個人の探究課題になっていきまして、1、2年生の経験を踏まえて、自分で設定した課題を探究していく活動になっています。
講師を探してこられるコーディネーターの方は広い人脈があるということでしょうか?
コーディネーターは5名おり、本校の保護者や本校のOB、保護者の勤務先などいろいろなツテを頼り、ネットワークを繋げていきながら、お願いしてくれています。本当にありがたい存在です。
本校へはボランティアの方にも来ていただいています。本校のプール学習は大学まで歩いて行くのですが、その送迎に付き添ってもらったり、プールサイドで見守りをしていただいたり、お手伝いをしていただいています。
普段から保護者の方と学校が連携されているのですね。
そうです。自由に参加していただく日も設けていますので、特にボランティアの仕事がなくても普段の授業も見てもらっています。子どもたちの普段の姿を見ることができて新鮮だという感想もいただいております。
プレゼン力が向上!大学生や大学教授を相手に発表することも
探究学習について、何か印象に残っているエピソード等はありますか?
7月に中間発表があり、本番の発表が秋にあるのですが、校内だけではなく、保護者や茨城大学の大学生、教授にも見てもらいます。本当に大人顔負けの発表をする生徒も多くおり、みんな一様に、中学生でここまでやるのかと驚かれます。
中学生の視点ですので、なかなか大人だと気づかないようなところも気づきます。そういったところも面白いとの反響をいただいています。
探究学習を通して生徒さんの成長はいかがでしょうか?
プレゼン力が目覚ましく上がっていると感じます。まとめ方やプレゼンの仕方が、学年が上がるにしたがって上手になっていきます。タブレットでプレゼンテーションソフトを使って発表しますが、みんな使いこなしていますし、上達が早いです。
その背景には、アウトプットの場をかなり多く設けていることがあると思います。グループでお互いに発表し合ったり、先ほどお話したスクールボランティアの方に来ていただいて発表したりもします。
最終発表だけではなく、途中でアウトプットしていく場面を作っているので、自分で調べたことをどうすれば人に伝えられるか、わかりやすく伝える方法を模索しながら徐々に改善していっていると思います。
アウトプットの場面を作られているということですね。その他に何か先生方が工夫されていることはありますか?
学校の中やクラスの中だけで完結させるのではなく、いろいろな情報を得る、あるいはこちらの方から発信して、外部と繋がっていくことを意識しています。自分は社会と繋がっていて、社会の一員だということを感じさせたいと考えています。
グローバル市民科の授業を始めてから10年近く経ちますが、その間アップデートしながら進めています。当然、私たち教師もアップデートしていかなければならないので、研修を続けながらがんばっています。
国立茨城大学教育学部附属中学校の絆を深める取り組み
国立茨城大学教育学部附属中学校は、行事やイベントを通して生徒同士、生徒と教員間の絆を深めているほか、協働力も身につけていきます。そのような取り組みについて伺っていきます。
ゲームを通して繋がる「グループワーク」など、他人を知る機会が豊富
▲楽しみながら人間関係を築く「グループワーク」の様子
御校では、精神面・道徳面で成長していくための取り組みなども実施されているでしょうか?
はい。本校では道徳の時間を核として、子供たちの道徳性の育成に力を入れています。また、茨城大学の心理学を専攻している大学院生が週に2回ほど来て、カウンセラー的な役割をしてくれます。
院生なので、教職員よりも生徒たちと年齢が近く、本音を言いやすいようで、先生には言えないことを話してくれるそうです。生徒たちの心の支えになっていると思います。
附属校ということで、その点はとてもいいですね。教育実習で学生さんと関わる機会も多いのではないでしょうか?
そうですね。茨城大学教育学部の3年生が本校に教育実習に来ます。それ以外にスクールインターンシップ制度というものがあり、大学生が学校業務のお手伝いをしてくれます。教員志望の学生なのでかなり意識が高く、本校の教育実習で体験する以外のことを体験する目的で、毎日のように来ています。
ミニテストの採点や掲示板の作成、花壇の草取り、部活の見守りなど多岐にわたり先生の仕事を手伝ってくれます。学生にとっても先生の仕事を知る機会として好評ですし、生徒たちにとっても情操面で良い影響を与えていると思っています。
それと、人間関係を築く「グループワーク」を2023年度から導入しています。茨城大学の教授に監修をしていただいて、全クラスで一斉に月1回ほど行っています。コロナ禍で人と人との繋がりが薄れていった側面がありましたので、心と心を繋ぐ良い人間関係を築こうということで始めました。
「グループワーク」とは、どういった内容でしょうか?
グループで楽しみながら課題を解決していったり、仲間探しやジェスチャーゲームを行ったりしています。コロナの規制が緩和され、もう話してもいいよとなったときに、どう話せばいいかわからないという状況があったのです。
それが、このグループワークを始めて解消されました。誰とでも話ができるようになったという声があります。クラスメイトの意外な一面を知る場面もあるので、そういったところで他者理解にも繋がっていると思っています。
伝統の学校行事「宿泊共同学習」の登山を通して思い出をつくる
そのほかには、どんな取り組みをされているでしょうか。
本校では修学旅行はやっておらず、50年以上続いている学校行事として、3学年全員が登山の宿泊共同学習を行います。みんなで山を登るのは大変なのですが、登った生徒たちからは概ね「良かった」との感想があります。
かなりお年を召された卒業生も、何歳になっても宿泊共同学習が一番の思い出だと語られると聞きました。
どんなところが印象に残っているのでしょうか?
自主的な活動ということで、宿泊共同学習も係活動をかなり重視しています。班編成も係を中心に作っていきます。行くまでに、生徒たちが宿泊共同学習を成功させるために「自分たちの係ではこうやる」という計画を立て、行ってからもその係の活動をしっかり行うところも印象的です。
天候で頂上まで行けないことも結構あります。ただ、それも良い思い出になるようです。みんなで一緒に苦楽をともにして何かを達成した経験は、それぞれの心に刻まれ、後々まで活きていくのだと思います。
学校行事や英語研修なども開催している
▲英語宿泊研修ほか、グローバル教育にも力を入れている
そのほかどのような学校行事がありますか?
宿泊共同学習が一番大きな行事で、秋には文化祭「いばら祭」があります。いばら祭では各クラスでブースを作って、テーマに沿った催しをします。これはクラスの個性が出て、見に来てくれた方も十分楽しめるし、生徒たちの満足度は高く、達成感が味わえる行事となっています。
そのほか合唱コンクールはかなり力を入れています。練習時間が短い中でも、クラスが一丸となって取り組む姿は、見ていて素晴らしいと思いますし、当日の発表もかなり感動します。
2年生は冬に福島県の英語研修施設「ブリティッシュヒルズ」に2泊の英語研修に行きます。雰囲気もいい施設ですし、生徒は満足して帰って来ます。
国立茨城大学教育学部附属中学校からのメッセージ
最後に、国立茨城大学教育学部附属中学校に興味をもったお子さまや保護者の方に向けてメッセージをお願いします。
本校には、何事にも一生懸命にがんばる生徒が多いです。そのがんばりを教職員は全力でサポートします。いつでも学校に来ていただいて構いませんので、もし本校に興味をもっていただけたのであれば、ぜひ一度足を運び、学校の雰囲気を感じてみてください。
本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
国立茨城大学教育学部附属中学校の卒業生・保護者の口コミ
▲部活動の風景
ここからは、国立茨城大学教育学部附属中学校の口コミを紹介します。実際に通学していた卒業生や保護者の声をまとめました。
▲校内のラーニングコモンズ
国立茨城大学教育学部附属中学校へのお問い合わせ
運営 | 国立大学法人 茨城大学教育学部附属中学校 |
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住所 | 茨城県水戸市文京1-3-32 |
電話番号 | 029-221-5802/3623 |
公式ページ | https://www.jsch.ibaraki.ac.jp/ |
※詳しくは公式ページでご確認ください