ぽてん読者の皆さまに、特色ある教育を行う学校を紹介するこの企画。今回は兵庫県赤穂郡の播磨科学公園都市内にある「兵庫県立大学附属中学校」を紹介します。
兵庫県立大学附属中学校では、兵庫県立大学との緊密な連携のもと、科学技術を中心とした幅広い学びを提供しています。特に総合的な学習の一環である「プロジェクト学習」では、兵庫県立大学の専門的な知見を得ながら生徒が主体的・創造的な探究活動を行っているのが特徴です。
今回はプロジェクト学習担当・自然科学部顧問の柴原先生に、同校の「プロジェクト学習」における探究活動の特徴や、生徒の約4分の1が所属してそれぞれの個性を活かした活動を行う自然科学部の魅力について詳しくお話を伺いました。
この記事の目次
「創造と進歩の人たれ」の校訓のもと、未来を切り拓くパイオニアを育成
はじめに、御校の教育方針を教えてください。
兵庫県立大学附属中学校では「豊かな人間性を備えた創造的な人材の育成」という兵庫県立大学の基本目標のもと、「科学技術における学術研究の後継者」「国際感覚豊かな創造性あふれる人材」の育成に資する教育活動を展開しています。
その核となるのが、「創造と進歩の人たれ」を意味する本校の校訓「創進」です。附属中学校は併設型中高一貫校であり、高校の校歌にも「目指せ世界のパイオニア」という一節が出てくるように、本校では“自ら学んで未来を切り拓くパイオニア”の輩出を目指しています。
そのために、兵庫県立大学の幅広い分野のリソースや学園都市の恵まれた教育研究環境を活かし、自然科学を中心に幅広い学びの機会を提供しています。
兵庫県立大学と二人三脚で進める探究活動「プロジェクト学習」
そんな御校の教育活動の中心である探究活動「プロジェクト学習」について伺います。まずはプロジェクト学習がどのようなものなのか、概要をご説明いただけますか?
プロジェクト学習は中学2・3年生をメインとし、総合的な学習の時間に行っている教育活動です。10個のテーマの中から生徒自身が興味・関心のある分野を選んで班に分かれて活動を行っています。
探究テーマは自然科学分野を中心にアントレプレナーシップ、データサイエンス、プログラミングなど多岐にわたります。プロジェクト学習の最大の特徴は、1班につき1名、その分野の研究者である大学関係の先生等に付いていただけることです。兵庫県立大学の各学部及び附置研究所の先生方の協力のもとで大学の専門的な知見を得ながら探究を深めていけるのが魅力です。
大学や附置研究所の先生方は、具体的にどういった形でプロジェクト学習に協力されているのでしょうか。
関わり方は班の活動内容によってさまざまですが、例えば山に入って動植物を採取する活動の場合は生徒と一緒に山に行くなど、本当に探究活動のメンバーとして寄り添っていただいています。どの先生も子どもたちに近い目線で関わってくださるため、生徒にとって大学での学びをより身近に感じられるとても貴重な機会になっています。
大学と連携して探究学習を行うこと自体はそこまで珍しくないかもしれません。しかし多くの場合高大連携という形で高校の探究学習で行われることが多く、また複数のグループを大学教授がアドバイザーのように見守るという関わり方が一般的です。中学校の探究学習で大学の先生と深く関わりながら活動を行うというのは、本校だからこそできることだと思います。
なるほど。御校の教員の皆さまもプロジェクト学習の指導を行っているのですか?
もちろんです。プロジェクト学習のテーマは理数分野に特化したものが多いのですが、理科・数学の担当教員だけでなく、すべての教職員が1班につき1人か2人付いて指導を行っています。
例えば『はらぺこあおむし』の絵本をリアルに再現して幼稚園生に披露するという班に国語科の教員が付いたことがあったのですが、そのときには国語科ならではの視点から紙芝居づくりや発表方法についてアドバイスを行っていました。
理科・数学以外の教職員が関わることで新たな視点が加わり、より学びが広がっていくのもプロジェクト学習の魅力の1つです。
稀少種の発見や企業との連携など、独創的な活動が数多く生まれる
これまでのプロジェクト学習の中で印象的な取り組みをいくつかご紹介いただけますか?
私自身は天文班に深く関わり活動を行っているため、まず天文班の活動例をお話しさせていただきます。
天文班の活動は大きく昼間の活動と、星の観察などを行う夜の活動に分かれます。活動内容は年度によって異なりますが、昼間の活動で印象的と感じたのが、地球の自転を証明する探究です。歴史上初めて地球の自転を証明した「フーコーの振り子」を試行錯誤しながら生徒が自作し、どうしたら地球の自転を証明できるのかを検証していきました。
▲山の上で星がきれいに見える強みを活かし、星の観察を行う班も
また本校は自然豊かな地域に立地しているため、プロジェクトテーマには生物系分野が多くを占めています。山や川など自然を探索する活動が多く、これまでもコケやクモの調査などにおいて兵庫県や西播磨地域で初めての種を発見するなどの成果をあげてきました。稀少な種を発見した際にはご指導いただいた先生が学術論文などで記者発表を行っているのですが、そこに本校生徒の名前も掲載いただいています。
生物系の活動で今年度注目しているのが、カメムシを使った芳香剤の制作です。こちらは大学の附置施設「人と自然の博物館」の先生とともに、アース製薬株式会社様にもご協力いただいて行っている活動です。
一般的に臭いが強いとされているカメムシですが、マツヘリカメムシという種は青リンゴのような匂いを出すということで、それを採取してニオイ成分を取り出して芳香剤にするという活動を行っています。
マツヘリカメムシの採取にはかなり苦労したのですが、生態の特徴を踏まえた採取方法を考えるなど工夫しながら集めていきました。ニオイの抽出には兵庫県立大学附属高等学校の教員にも協力してもらい、実験機を使った抽出に成功しました。まだ探究活動の途中ではありますが、今後の展開が楽しみな班の1つです。
▲アース製薬株式会社の研究員による指導を受け、カメムシのニオイを抽出
どの探究活動もかなり本格的ですね!自然科学分野以外の活動で特徴的なものもあれば教えてください。
最近ではプログラミングの探究活動も盛んです。例えば2023年度は、自分たちでプログラミングをして犬や人型のロボットをつくるというテーマで活動を行った班がありました。
難しいプログラミング技術を学ぶというより、簡単なパーツでつくるロボットであってもどういう仕草をすれば人の感情を動かせるのかという切り口から入って、ロボットと人との共生のテーマにもつながる探究活動を進めていたのが印象的でしたね。
プロジェクト学習を通じて、学びの主体性が生まれる。大学の学部選択に影響を与えた例も
▲プロジェクト学習の成果は、文化祭での発表(写真はポスターセッション)の他、学会で発表を行うこともあるそう
プロジェクト学習での探究活動を通じて、生徒の皆さんにはどのような変化や成長が見られますか?
これまでに特に印象的だったのが、理科に苦手意識を持っていた生徒たちで構成された班の活動です。ある年に、約半数が理科嫌いの生徒で構成された班ができたことがありました。
スタート時点では後ろ向きな雰囲気だったのですが、大学の先生の助言も受けながら「まずは遊びからやってみよう」ということで川遊びを行ったんです。その中で感じた疑問や興味をお互いに出し合って探究活動を進めていきました。自分たちで試行錯誤しながら進めることで主体的に学び、理解を深めていくことができ、最後には皆本当にいきいきと発表してくれました。
もともと理科が嫌いだと言っていたその班の生徒たちは、今では附属高等学校の方で理科の成績上位に入っているそうです。どんな進路を歩むことになるかはまだ分かりませんが、プロジェクト学習を通じて学びの幅が広がった象徴的な例といえるでしょう。
一方で、基本的に本校は科学に興味を持つ生徒が入学する場合が多いため、班にはもともとその分野が好きな生徒が集まることが多くなっています。しかし最初はただ好きなだけだったのが、科学的な調査方法を学んだり、何回も失敗をしながら成功に向けて工夫を重ねたりする中で、学術的な研究を深める手法を学び、よりその分野への興味・関心が深まっていると感じます。
そしてその経験は、生徒の進路にも影響を与えています。例えば天文班に所属していたメンバーがそのまま大学でも天文学を専攻するケースがここ数年で増えているんですよ。先ほどお話したクモの発見をした生徒は、附属高等学校への進学後にクモの調査から転じて冬虫夏草という生き物の探究をしています。今後は中高の探究の成果を持って大学入試に活かす例も増えてくるのではないかと考えています。
全校生徒の約4分の1が所属する「自然科学部」の魅力
続いて御校のクラブ活動について伺います。先ほどお話いただいた探究学習とも関連しますが、柴原先生が顧問を務める自然科学部はとても活発に活動されているのですよね。
はい。兵庫県立大学附属中学校の全校生徒210名の内、約4分の1となる50名近くが自然科学部に所属しています。大所帯でやりたい方向性もさまざまなため、生物・化学・天文・ペットボトルロケット・ピタゴラスイッチの6つのチームに分けて活動を行っています。
自然科学部では、生徒それぞれが主体的に自分たちのやりたいことを形にしているのが特徴です。私は基本的には活動を見守りながらも、それぞれのやりたいことを実現できるよう適宜活動をサポートしています。
▲自然科学部員の生物班が昆虫採集を行う様子。それぞれの興味に応じた活動が積極的に行われている
6つのチームの中でも、特に面白い活動をしているチームはありますか?
ピタゴラスイッチのチームは、毎年の文化祭で自分たちがつくった装置の動画を披露しています。例年夏にチームで協力しながら制作していくのですが、その過程での人間模様もとても面白いんです。皆「これをやりたい」という気持ちを強く持っているからこそ衝突することもありますが、話し合いながら協力して装置をつくり上げており、毎年熱い夏を過ごしていますよ。
ピタゴラスイッチチームの1人にものづくりに興味を持っていた生徒がいたのですが、その生徒はピタゴラスイッチをつくって終わりではなく、研究にまとめて発表を行っていました。高校進学後もものづくりの探究を進め、その後中学校のときからの希望であった建築系大学に進学したんです。自然科学部での経験がその生徒の進路につながっていったことを実感できて、顧問としてもとても嬉しく感じましたね。
▲毎年8月には理科室がピタゴラスイッチの装置でいっぱいに!
他にも、科学館や研究者の方などからの要請を受けて、自然科学部の生徒が小学生向け講座の講師を行うこともあります。今年度は「こどもサイエンスひろば」の小学生向け科学教室の先生となり、小学生に対して宇宙や探査機についての講座を行いました。
▲「天文こどもサイエンス教室」での説明の様子
中学生が講座の先生になるというのはかなりの大役だと思いますが、それによってどのような力が培われていると感じますか?
自然科学部にはやりたいことがあって入部する生徒が大半なので、最初の内は「自分にはこれができる」と自信を持っている子が多いんですね。しかし実際に人前に出てしゃべると、知識はあってもうまく表現できず伝わらないという経験をすることが少なくありません。
自分より年下の子に話すからこそ、どう話したら伝わるのかという意識が高まっています。ただ知識を身につけるだけでなく、表現力や想像力が培われるという点で、とても良い経験になっていると感じます。
兵庫県立大学附属中学校からのメッセージ
▲インタビューにご対応いただいた柴原先生
最後に、兵庫県立大学附属中学校に興味を持った読者の方に向けてメッセージをお願いします。
「創進」の校訓の通り、本校では主体的に学び、未来を切り拓く生徒を育成しています。自然科学を中心としていますが、他にやりたいことや興味がある生徒も大歓迎です。
やりたいことを持って挑戦したいという生徒を、我々は全力でサポートしますので、ぜひ本校の学びに興味がある方に来ていただけると嬉しいです。
柴原先生、本日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました!
兵庫県立大学附属中学校の卒業生・保護者・在校生の口コミ
ここでは、兵庫県立大学附属中学校の生徒や保護者から寄せられた口コミの一部を紹介します。
充実した学びの環境や、個性を尊重し合う生徒同士の雰囲気に対する口コミが多く見られました。自由な校風、山の中の環境、プロジェクト学習など、さまざまな面で他にはなかなかない学校環境があることが実際の生徒や保護者の声から伝わってきます。
兵庫県立大学附属中学校へのお問い合わせ
運営 | 兵庫県公立大学法人 |
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住所 | 兵庫県赤穂郡上郡町光都3丁目11番2号 |
電話番号 | 0791-58-0735 |
公式ページ | https://dmzcms.hyogo-c.ed.jp/kendai-hs/NC3/ |
※詳しくは公式ページでご確認ください